chap5-8
ふと、僕に天啓が舞い降りる。
茫然自失の一歩手前くらいの様子の僕に、ミームが「いかがしましたか?」と訪ねてくる。「ね、ねぇ。突然だけれど、変な話なんだけれども、ちょっと今からおかしなことをやってもいいかな?」と恐る恐る、逸る気持ちを抑えて聞くと、「特に、構いませんが」と、どうぞ、という様に手の平を出して促してくる。
「ゴホン」といっそあからさまに咳払いをして、僕は、両手を広げ、くるりとその場で回り、踊り始める。
そして、歌う、歌う、歌う。
「アア、これは予感。予感。予感。
物語を進める少年と少女は一体如何なる道へと歩みを進めるのでしょうか?
道化/私は見ました。
そこには葛藤と勇気を持った少年がいました。
そこには勇猛と忠義を持った少女がいました。
そこには爛漫と純粋を持った少女がいました。
されど、黒い影。それは何を顕すのでしょう? 古き偉人は言葉を残す。影はその身より出で、その身に従い、その身を恨む、と。
勇気は葛藤の末、悲しくも蛮勇となるのか?
勇猛は忠義の末、浅ましくも盲目となるのか?
爛漫は純粋の末、恐ろしくも非道となるのか?
アア、これは予感。予感。予感。
そして、黒い影。それは何を映し出すのでしょうか? 貴き智者は歴史を残す。影はその身より出で、その身に従い、その身を愛する、と。
葛藤は勇気の末、新しき道へと導く力となろう。
忠義は勇猛の末、全てを守る力となろう。
純粋は爛漫の末、影すらも包み込む力となろう。
私/道化はきっと見ることができるでしょう。
そこにある輝かしい未来をっ!!」
タンッ!! と足を鳴らし、軽やかなステップの終わりを告げる。
無意味に両手を広げ、なんら変哲も無い天井を見上げ、額に小さな汗を伝わせ、ドヤッと、やりきったぞと、ミームに視線を向けると、規則的な拍手を戴けた。
「いまいちよく意味は理解できませんでしたが、なかなか面白かったと言わざるを得ませんね」
「ちょっとやっちまった感が強い事は否めない。具体的には説明する余地を僕にください」
「どうぞ」
「いや、なんか、正直ここで後ろからユーリ達に合流するのも不自然だし、正直あまり検討がつかないから、遠い異界の地から運命を手繰り寄せて歌う謎の予言キャラ的ポジション、ちなみに物語の中盤から終盤近くで主人公と邂逅してキーワードやら何やらを授けつつ、次回作も登場するっぽい人物をやってみたんです」
「悪くはないと思いますが」
「良くもないですね、はい」
こんなことをやっている間にも、既にユーリ達は何やら上手いこと結界を通り抜け、迷宮最奥へと到達、すでに何らかの展開が動いているはずである。デルタが今まで解除していた精神身体に及ぶ防御結界を強め、同時にベータが身体機能の強化、アルファが攻撃態勢を取っている。どうやら珠達はなんらかの脅威を感知したのだろう。
「どうやら、敵とかそういった類っぽいね」
「敵、ですか?」
ミームがキョトン、とらしくない表情を取る。
「ん、うん。たぶんだけど」
「私にはいまいちピンときませんが……」
一体、どういうことだろうか。
「一応、珠達は警戒しているけど」
「これは、なんでしょうか。推測として、あの三方に連なる物事なのでしょうが、判断がつきません」
「ね、ねぇ、ミーム。フラグ、って言葉知ってる?」
「ええ、そうですね、知識系キャラの判断がつかない、という言葉は非常に危険な状態に陥ることが多いのは認めましょう」
ミームのサブカル系の知識形態はやはり十万年の歴史の中に存在しているのだろうか。是非聞かせてもらいたいものだが、今はそういった状況ではないだろう。
「アア、これは予感。予感。予感。少年少女は知らないのです。これは物語の導入部、彼らは大いなる物語の犠牲なのだと」
「それは?」
「主人公だと思ってた輩が死んで、数年経って違う主人公が出てくるパターンだけど……ああ!! もう、面倒臭い!! もうどうでもいいから強行突破だっ!!」
今までわざわざ介入しなかったのはなんだったのか。
軽はずみな行動が良くないことを生むのもわかってはいるが、それがどうしたと言うのだろうか。
今の状況は面白くない。高みの見物で面白い時期はもう過ぎている。
何が起ころうと、僕にとっては一切問題はない。
ベータの強化もあり、僕は簡単に迷宮内を駆け抜けることが出来る。ミームも特に現状に異論はないのか、僕と一緒に併走してくる。僕自身かなりの速度が出ているのだが、なんらかの魔法を使っているのだろう。僕もミームも瞬時に結界の奥へと侵入する。
「うわ」
それは、一言の感想。
わかりやすいダンジョンであった。むき出しの岩、湿っぽい空気、暗い洞窟。ゴブリンがうなり声を上げ現れてきてもおかしくない雰囲気。
手前の迷宮の明かりによって、辛うじてその中を見ることができる。
一番奥、アンジェは黒い影と寄り添っている。その表情はあくまで穏やか。
それを守るようにセリカ。冷静な表情のまま、その大剣をこちらに向けてきている。
対するはユーリ。
表現を詩的にしてみよう。
異貌と寄り添う姫と、その従者。従者は勇者/魔王と対峙し、剣を向ける。
おそらくは、関わってはいけなさそうな、物語がそこにあった。
もう迷宮の奥なのかなんなのかわからなくなってきてしまった。
そろそろ推敲する推敲する詐欺になってしまう・・・・




