chap5-7
地下四十階までの道のりは有体に言えば退屈なものだった。
ユーリの精霊の知覚とセリカの戦士としての気配を感じる能力を回避するために、ミームは古代人的超技術で、対して僕は珠達の力を抑制していたので、いきなり何らかの攻撃を加えられたら怪我するのではないか、と戦々恐々であったのだが、それは杞憂に過ぎなかった。
中級ダンジョンには一応とはいえ魔物が出現するはずなのに、それも一切現れず、静まり返った迷宮内をただ下に向けて歩くだけの単調作業となった。
退屈さを紛らわすため、ミームと今回のことに関する問答を行う。
「そもそも、ミームぐらいになるともう結末まで把握できちゃってるの? あ、いや、教えられちゃうとこれからの楽しみがなくなるから、言わないでいてほしいけれど」
歩く異世界ウィキペディアさんにかかれば、何もわからないことはなさそうである。
「いえ、現在は推測することができる、といったレベルでしかありません」
「それは、ほぼ未知の状態でしかないってこと? 十万年レベルの範囲から逸脱してるレベルってことになるよね?」
「はい。もちろん、私とて全知全能ではありませんから、わからないことは多々あります」
「―――そいういえば、ミームは僕が異世界、この世界に転移してから把握してるよね。もちろん、ユーリ達とアンジェを襲った黒い影のような何かも知ってるよね……ん?」
一つ、考える。黒い影、そういえばあの黒い影はミームの、『果てしなき流れ』の仇敵とも言える『カゲビト』ではないだろうか? 僕の魔法攻撃は何故か効かなかったし、その姿かたちも、ミームの言っていた影である。
そんな考えを口にだそうとすると、ミームは「いえ、『カゲビト』ではありませんよ。仮に『カゲビト』であれば、既にあの三人とシズキ様も死んでいたでしょうし」とすぐに否定する。
「怖いこと言わないでよ。まぁ、とりあえず、推測を聞いてもいい?」
「はい。まず、アンジェという没落貴族の娘は、優秀な魔法使いでありますが、それは彼女自身の特殊な体質からきています。一般的に人間のその身体的許容範囲として、魔法の属性は二種類が限界です。もちろん超越者といわれる方々は別ではありますが、彼女はほぼ全ての属性が使えるのではないか、と学院の報告に上がっています」
「学院の注目になるくらいには、特殊なんだ」
「はい、その通りです。次いで、ユーリという謎の少年についても、やはり特殊な存在です。根本的に精霊に好かれやすい体質でありながら、さらに随分と特殊な精霊と契約しているようです」
「『ルール』ってのが、その精霊かな?」
「おそらくは。そして、セリカという騎士。彼女に関しては、特筆したことはありません。強いて言えば、特殊な人間を支える家系、という状態こそが特殊であると言えるでしょう」
「そっか。ていうか、そこまで情報があるなら、何かしら出来たことがあるんじゃない?」
僕は何気なく、簡単に聞く。
「子供に手取り足取り、全て補助することは可能です。ですが、その先の未来は白痴を飼いならすことと同義になってしまいます。死ぬ者は死ぬ。生きる者は生きる。あまりにも理不尽が過ぎる、と私が感情で判断した場合のみ、私は手を出します」
僕を手を、ミームはギュッと強く握り返してくる。
「シズキ様、私とて、ただの人間でしかないのです」
「……謝ったほうがいいかな?」
「いえ、大丈夫です。何千年も前のことですが、まだ割り切れてないのかもしれません」
見てわかるほど、ミームは暗い顔をしている。
何気ない会話ではあったが、何かしら心にどこかに触れることがあったのだろう。
少し、考えを改めなければならないのかもしれない。
未だ、僕はこの世界を物語としてしか考えることができていない。年万年も生きるキャラクターに悩みなどない、そんな風に思ってしまう。
「さて、もうそろそろ到着ですかね」
気付けば、ユーリ達が扉の前にいるのが見えた。




