chap5-3
「なぁ、あの三人組なんだ、いったい?」
「先頭の女性は教授だろ、見たこと無いけど。指輪はしてるぜ?」
「なら後ろの二人は誰なんだよ」
「知らないよ、知らないけど、とてつもなく綺麗なことだけはわかる」
「んなの俺だってわかるよ、―――あ、ゲーリッヒ教授っ!!」
「わっ、高等部の統括教授じゃん。お前知り合いなのか?」
「貧乏貴族にもコネはあるのさ、すみません、教授にお尋ねしたいことが」
「……聞きたいことは、あの三人組のことか?」
「あー、やっぱりわかります?」
「後ろを歩く二人については私はわからないが、先頭を歩く女性であれば、エメロード・ヴェール統括教授だ」
「でも、見たことありませんよ? 初等部や中等部の教授が新しく変わったんですか?」
「いや、彼女は全ての教授の統括、私より上の人間だ」
「ゲ、ゲーリッヒ教授より上なんているんですか?」
「国立総合学院『ミネルヴァ』には三人の最強がいる。『超現実』のイイル・リイル教授。『象徴』のウル教授。そして、『翠の魔女』のエメロード・ヴェール教授。それにしても、前の二人の教授は別として、エメロード教授は見たことがあるだろう?」
「い、いえ。そもそも、その二つ名も聞いたことがありませんが……?」
「ムッ、そうか。彼女らが有名だったのは私が初等部の時か。今の若い人達は彼女達のことを知らないのか……。時代を感じるな……」
「あ、ちょっと、ゲーリッヒ教授?」
「……いっちゃったな」
「ゲーリッヒ教授って竜人だよな? 今何歳か忘れたけど、一体何年前の話だったんだ?」
「……さぁ?」
例によって聴覚強化による情報収集である。
ミームの情報が古かったことや、『ミネルヴァ』の三人の最強のこと。ゲーリッヒ教授が竜人であることなど、とりとめもなく考えてしまう。その間、僕とミームを先導するエメロードは、幾度かの魔術的干渉を通路の先々で行い、最終的にまったく人気の無い研究室へと辿りついた。
とはいえ、僕にはそこが研究室だとは思えない。重厚な木製の机であったり、壁際にならぶ書籍であったり、品の良いソファーであったり。ちょっと広い執務室であるとか、そういった印象を受ける。僕が研究室と考えた理由は、エメロードが「ここが、私の研究室です」と紹介したことによるのだ。
エメロードに促され、部屋の中央に位置した応接用のソファーに腰掛ける。「お茶やお菓子は必要かしら?」と僕だけを見て、優しく微笑んでくる。あからさまなミームに対する当て付けなのだろうが、純粋に僕みたいな存在が好きなのだろう。面白半分で、「お茶はお菓子はいらないですけど、今度一緒のベッドで寝たいですっ」と元気に言ってみる。
エメロードは特に取り乱した様子もなく、「別に今でもいいのよ?」と簡単に返答してくる。
「今はお仕事があるので、今度でお願いします」
「うふふ、わかったわ」
「その頃にはあなたの存在は塵以下になっていますが」
―――ピリッ、と空間が揺れる。
ミームに視線を向けようとすると、強い力で僕の体を引き込んでくる。ミームの豊満な胸に顔を埋める形になり、非常に幸せである。
「ナンなんですか、あなたは?」
「私はシズキきゅんのものであり、シズキきゅんは私のもの。そういった関係にあたる存在ですね」
「誰かは誰かのものであることなんて、ないですヨ?」
「いいえ、誰かは誰かのものであり続けます。自覚はしていなくとも」
「彼は私のことを自発的に求めたように思えますけど?」
「だから、何の問題が?」
「随分と狭量ですネ? 嫌われますヨ?」
「狭量でない長命種など存在しません。そうでしょう、ハイエルフ?」
「調子に乗るな、人間」
「調子になど乗っていません。そんなことをするのは、あなた達のような子供の特権なのですから」
「……どうしてこうなったのだろう。僕にはまったく理解することができない」
無責任なことを言いつつ、二人のお姉さんの言い合いを見つめるのであった。




