chap5-2
注目されているのがよくわかる。
一方は銀髪の麗人。丈の短いメイド服と怜悧な瞳。真っ直ぐ前だけを見て歩く姿は本来人に仕える格好であるはずなのに、人の上に立つ存在に思えてしまう。
もう一方は僕。装飾過多なゴスロリ服を纏い、ミームに手を引かれる姿は、まるで手の中にクマさんのヌイグルミを幻視してしまいそうな、儚くも美しき存在感を周囲に撒き散らしている。
生徒達は遠巻きにこちらに視線を向けてくる。どうやら生徒には制服が支給されているようで、その制服を着用せず、まして食堂のおばちゃんにも用務員にも教員にも当てはまりそうのない僕達は、あまりにも非日常が過ぎるのだろう。
「見られるのは慣れてるけどね」
「あら、シズキ様はそういった趣味をお持ちですか?」
「……どちらかと言えば被虐趣味だから、もしかしたら開花するかもしれないね」
「是非今度試しましょうそうしましょう」
古代人に愛されすぎてて、性生活がヤバイ。
「ところで今はどこへ向かってるの?」
「ミネルヴァ統括教授、エメロード・ヴェール。今回の依頼の管理を任されている方の元ですね」
「どんな人か知ってる?」
「エメロード・ヴェールはハイエルフの一人です。エルフ族の皇族に連なる血を持ちながらも、魔法の研究開発に身を捧げている変態ですね。エルフ族らしく精霊魔法に適正を持ち、且つ膨大な魔力とその知識で、約百年前にエルフ族の聖域に侵入した帝国一師団を塵一つ残さず壊滅させながら、ここミネルヴァでは頭のおかしい教授陣の中で唯一、聖女の様に優しげな態度とあわせ、『翠の魔女』と呼ばれる存在です。好みの男性は長寿の種族らしく幼く可愛い男の子。幼等部や中等部に行っては影からコソコソと視姦し、たまに摘み食いをしている。年齢は619歳。身長は172ンチメートル。体重は60キログラム。スリーサイズは上から―――」
「『―――口を噤みなさい』」 / ―――パチン
その瞬間はとても凝縮していた。
僕とミーム。遠巻きに視線を向けてくる生徒。少しざわつく廊下。視認できるほどの空間の歪み。柔らかなグリーンの髪と、同じ色のフレームの眼鏡。母性を含んだ柔らかい表情から吐き出される強制力のある言葉と、それを伝播するようにこちらに向かってくる光、おそらくは精霊。
「87/59/85です」
そして伝家の宝刀である、ミームの純魔力波。
精霊はその存在を掻き消される。
ところで空気は非常に張り詰めてはいるが、なんだこのくだらないやり取り、と僕は心の隅っこで思う。
口には出さない。そいつは野暮ってものだ。
「精霊の力を借りなければならないとは、ハイエルフもまだまだですね」
安定のドヤ顔ミームである。
対する女性、肩まであるグリーンの髪は柔らかくウェーブし、髪と同じ色のフレームの眼鏡と、その奥にある大きな瞳。今は驚きに大きく見開かれ、すぐに細く険しくなる。研究職らしい白衣と、透き通るような白い肌はあまり合ってはいず、正直コスプレしているようにも見える。しかし、その指には教師の証である七色に光る指輪が嵌めてある。
「何者ですか?」
「依頼を受けました。Sランク、学院保有迷宮の探索です」
「冒険者、ですか?」
「ええ、ただの冒険者です」
「そうだね、僕達ただの冒険者だね」
ミームと顔を合わせて、「ねー」と仲良く首を傾ける。
「……僕……だと?」
おそらく今日一番の驚愕を顔に張り付かせたエメロード・ヴェールであった。




