chap4-6
「あれ、ミームがなんか格好良いこと言っていた人、追ってこないね」
随分と呆然とした表情をしていたので、すぐに我に返って僕達を追ってくるのかと思えば、そんな気配は一切しない。
「警戒されたのかもしれません。なにせ、人種ではありませんし」
「え?」
「あの白龍のような人化の術を仕様しているわけではなく、進化の結果として人型が選択された、元魔物。遍く人種に危害を齎す存在。ですが、何らかの作用でかなりの進化を遂げた結果、人間社会に溶け込んでいますね」
「とても特殊な存在みたいだね」
「まぁ、それなりに」
さすがファンタジーである。そして、さすがミームである。魔物から人型になりギルドで高位についている。それが「それなりに」程度であるとは。今度、ミームに人生の中で一番驚いたことを訪ねてみよう。
威圧感が半端ない酒場から出て、すぐ隣にあるギルドにまた入る。先ほどまでは殺気の溢れていた空間も、いまはいつも通り、少し粗野な雰囲気のあるぐらいで済んでいる。ギルド長らしき人物がテーブルで伸びていることだけが、先ほどまで酷い状態であったことを物語っている。
本来ならヒルデ達と一緒に依頼を受けようとおもっていたのだが、英雄と呼ばれそうな人たちに囲まれて依頼を受けるほど、僕は馬鹿でも豪胆でもない。何がどうなるかはわからないが、面倒くさい状況になるのは目に見えている。そのため、一度酒場に移動したのだが、何が気に食わないのかヒルデ達は去ってしまった。まぁ、しょうがない。
少しだけ、ヒルデ達がいないか探したが、いなかった。あんな形で別れたのにすぐ再開する、という気まずい空気を味わいたかったというのに。そういえば、先に宿泊施設を探す、と言ってたのを思い出す。依頼の前に、そちらを優先させたのだろう。
「ねぇミーム。どんな依頼を受けようか」
ギルドの奥には左端から右端まで依頼書が張ってある。左にいくほど数が多く、右にいくほど数が少ない。ぱっと見た限りでは、左から低ランク、右にいくほど高ランクの依頼が張ってあるのだろう。
「一般的に、低ランクの依頼をこなしていくものだと思います。もし腕に覚えがあるのなら、その中でも低位の魔物討伐という選択肢もあります」
「なんか面白いのないかな」
「面白い、ですか」
右手で顔にかかっている髪をかきあげそのまま押さえて、ミームは依頼書に目を走らせる。とても色っぽい仕草。依頼書を見ていた他の冒険者らしき男達の視線を集め、喉を鳴らしている。若干前かがみになっている者もいる。僕としても、ラーメンを食べる時に同じことをするか、カチューシャで押さえなければいけない長さである。「男なんだから、髪をかきあげてラーメンを食べるのはやめてくれ」と友達に忠告されたことを思い出した。
左から右まで、視線を集めながらのミームの手には三枚の依頼書。低ランクから一枚、中ランクから一枚、高ランクから一枚。
「選択肢は三つです」、そういうと、ミームは紙を僕に見せ付ける。
「一つは、先ほど言っていたゴブリンの討伐。東の森に生息するゴブリンを五体討伐することが条件。低ランクで腕に覚えのある冒険者向けですね。ゴブリンの高繁殖力に対しての、常時存在する依頼です」
「二つ目は、高山ガーゴイルの討伐、及びそこに生息するリーブルの花の採取。中位らしく、遠出に対する用意を含め、高山を登り、ガーゴイルを討伐する体力配分。さらにリーブルの花の発見、そして採取と、経験が必要になる依頼ですね」
「三つ目は、総合学院内にある学院保有迷宮の調査。詳細は依頼を受けてから説明とありますが、実際かなり怪しいでしょう。学院内の問題ならば、学院のみで片付けるはずです。それだけの能力を教師陣ならば持っているはずです。しかし、高ランクの冒険者に依頼する必要がある、というのは、何があっても知らないぞ、という類のものだと推測されます。報酬も破格なのに、依頼を発注したのもかなり前ですから、誰しも危険とキナ臭さを感じて、選ばなかったのでしょう」
「もう完全に最後のヤツしかないじゃん」
「これは、私個人としても気になりますから」
「どういうこと?」
「カミーユ様にも関わることですから」
そういえば、と思い出す。学院はカミーユの管轄だ。
「しかし、低ランクの僕達がそもそも受けられるの?」
「任せてください」
若干ドヤ顔のミームは、依頼書片手に受付に向かう。メイド服姿の美人に戸惑いながらも、きちんと対応するギルド職員。少々顔が引き攣っているのはしょうがないのだが、依頼書を確認してさらに顔がピクピクと痙攣する。今日は厄日なのだろうか、そんな気配が伝わるため息と共に、「申し訳ございません。こちらの依頼は特殊でして、低ランクの方はお断り――――え?」、ミームがプレートを見せ付ける。「Sランク? え、さっき登録したばっかりなのに、不正? というかウォルデンバーグ家の所縁!? あ、た、大変失礼致しました、大変申し訳ございません。あ、声が大きいですね。失礼いたしました。こちらの依頼ですか? 他言無用? は、はい、畏まりました。失礼致しました」
見ていてこちらが萎縮してしまいそうなほど畏まっている受付職員を尻目に、小さくVサインをしてくるミーム。やりたい放題である。
「それでは、向かいましょうか」
「いやはや、なんとも酷い話で。そういえば、その依頼って、ランクはどれくらいなの?」
「Sランクは、Sランクでしか受けられません」
「そ、そうッスか……」
きた時もそうであるが、帰りも視線を一身に背負いながらであった。




