chap4-5
「何から何まで、おかしなことだらけ。結局のところ、私達は何も知らないんだけど?」
テーブルに肘を乗せ頬に手を当て、疑いの目でヒルデは僕とミームを睨んでくる。クロードはヒルデのそんな様子に苦笑こそすれ、説明を求めるように視線をこちらに向けてくる
カミーユ邸襲撃事件の決着は未だついてはいない。やったことは酷く強引なものだ。まずミームが〔落ち着け〕と〔話を聞け〕という情報をヒルデとクロードに叩きつけ、僕が状況の説明を行う。「僕達に君達を害する意志はない。僕達と君達の関係性は、街で偶然すれ違った、の百倍くらいの状況でしかない。状況は違うが、状態はそれとほぼ同じだと考えていいはずだよ。その上で、さきほど君達の言ったギルドへの登録に一緒に行きたいと提案する。理由は、面白そうだから。それ以上でも、それ以下でもない。断ることはできる。でも、断った場合、理不尽にも君達の敵となる。今度街で擦れ違ったら、突然殺意を向ける。さて、どうだろう」と。我ながら酷い話である。
もちろん、ヒルデはミームの強制力に抗うかのように、身を捩り、顔を歪ませ、手足に力を込めようとするが、落ち着かせられている状態では不可。「龍族を舐めるな……ッ」と龍族の圧倒的な精神力を持って格好良いことを言う隣、クロードが「ギルドに一緒に行くだけで、君達は味方になる、ということにはならないかな?」と実に冷静に交渉を行う。
「いいよ。味方、あるいは友達になろう」
クロードに対して非難の目を向けるヒルデは、僕のその言葉にフッ、と表情を少なくする。
ミームによって落ち着かされている状況だ。その状態で今の提案を考えれば、答えはすぐに出てくる。
「得体は知れないにせよ、俺とヒルデがこれほど手も足も出ない状況を作る相手が味方になるのは、とても心強いことだ、そうだよね?」
「……ええ、悔しいけど、そうなるわ。確証も確実性もないけれど、そもそもその不確かなものに縋る以外の選択肢は、他にはない」
「交渉成立~!!」
いえーい、と僕が手を上げると、いえーい、と無表情のままミームとハイタッチ。パチン、と鳴る軽い音に、クロードは苦笑し、ヒルデはため息をついた。
その後、四人でお茶をするのもそこそこに、ギルドへと向かったのである。本当はヒルデの背中に乗りたかったのだが、さすがに龍種がその本来の形態のまま街へと近づくのはいらぬ警戒を強いてしまう。仮に乗るとすれば、カミーユ邸のある森を出るぐらいの、僅かな瞬間だけになるようなので、諦めた。ちなみに、今まで興味もなかったが、カミーユ邸はウォルデンバーグから南にある、通称『迷いの森』の中だということが判明した。ユーリ達と共にした道と真逆の位置関係になる。
ミームによる簡単な地理の説明と、『迷いの森』の案内のを受け、すぐに街道が現れ、妙な関係のままギルド、そして現在に至るわけである。
既にミームによる強制力は働いていない。やろうと思えばヒルデは僕とミームに攻撃することが出来るのだが、そもそも龍種はプライドが高いと同時に、知能も同じだけ高度に発達している。何が現在における最良か、それぐらい判断し、実行するだけの知性はもちろん有している。ならば何故、あそこまで荒れ狂っていたのかといえば、おそらくは、ミームという超高々度の知性とその能力に、少なからず生物種最強である龍としての警戒心が刺激された結果ではないだろうか。まぁ、生来の性格もあるのかもしれないが、というのは、ミームにこっそり教えてもらった。
というわけで、現在、僕達は先ほど見せたギルドカードの情報以外はまったく知らない、いうなればほぼ他人同士である。
そこであえて、ヒルデの言葉、つまり「何から何まで、おかしなことだらけ。結局のところ、私達は何も知らないんだけど?」を曲解すれば、「もう友達になるのだから、色々教えてほしいな?」という考え方もできる。
カミーユ邸における決着の付け方、それはお互いの情報をある程度開示し、友人になるという姿勢を見せ合う、ということになるのだろうか。
正直、ちょっと面倒である。何が面倒なのか、と問われると、上手く答えることができないのだが。
「うーん、そうだねぇ、僕達ねぇ、僕達が何なのか知った人間がどこかにいなくなるような者達かなぁ」
どういうことだ? とヒルデとクロードが同じように困惑を顔に浮かべる。
もちろん、口からでまかせである。強ち完全に嘘とは言い難い嘘ではあるが。
「まぁ、お互い話せないことはたくさんあるんだし、あんまり気にしなくていいと思うんだけど?」
「……そうか」
呟くように言ったヒルデは、席を立つとすぐに背を後ろに向けた。
「行っちゃうの? できれば一緒に依頼とかやりたかったんだけど?」
「味方であることと、行動を共にすることは別の問題よ」
「……まぁ、そうなっちゃうね。それじゃ、ありがとう、そしてごめんね。そして、またいつか」
さっさと出て行くヒルデの後、片目を瞑りすまなさそうにしてクロードが追う。僕の口から「あらら~」と無味乾燥な言葉が出てくる。酒場内の幾人かが、ヒルデとクロードの後を追うために外に出る。
酒場内の緊張感が一瞬薄れ、間が空く。その機先を制し、一人の男が話しかけてくる。
「仲間割れか、何かかい? 雰囲気が穏やかではなかったけど?」
「誰?」
「『未知なる終着点』の、リキッドという」
「用件は?」
「ありていにいえば、知己を得たかった。さらに言えば、僕のクランに所属への勧誘もある」
「ざ~んね~んんしょ~」
抑えることのできない感情。抑える気にならない感情。気まぐれな猫のような僕。
困惑気なリキッドの視線を無視して、酒場を出る。ヒルデとクロードはいなくなった。僕達は僕達で、夢と冒険の依頼を受けよう。
後ろで、ミームがリキッドに話しかけている。
「リキッドさん。あらゆる物事は一点から一点に伸びる直線ではなく、××××的円環として存在しています。つまり、終着点など存在はしないのです。もし、あなたが終着点と呼べるものに到達するとすれば、あなたはあなたではいなくってしまいます。それを、お忘れなきよう」
呆然とするリキッドを残し、僕らは酒場を後にしたのである。
まじミーム無双。そして困ったときの××××。本来は並列的円環、という言葉を使ったのですが、自分でもいまいちイメージできなかったので、逃げ。




