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chap4-4

「いやー、これで晴れて冒険者だよミームっ!!」


 ギルドの受付のお姉さんからもらった銅のプレートに向かって「オープン!!」と言うと、ホログラフで僕の情報が映し出される。実に近未来的である。どうやら超古代人の技術が転用されているらしい。その説明を受けているときにミームを見ると、フフン、って顔をされた。


・『姓名 シズキ・アオキ』

・『性別 男性』

・『年齢 21』

・『活動拠点 ウォルデンバーグ』

・『人種/アーティファクト使い』

・『Fランク』


 ここまでが、人に見せても大丈夫な情報である。


「うおっ、シズキは男で俺よりも年上でアーティファクト使いって、もう何がなんだか」


 ここはギルドの隣にあるギルド直営の酒場である。もちろん昼間である現在でも、見るからに堅気ではない方々が酒を飲み、あるいは作戦会議をし、あるいは仕事仲間を品定めしたりしている。


 淡い紫のゴスロリ服を来て紅茶を飲む美少女の僕。銀髪をポニーテールにし、美しきうなじを見せ付ける麗人ミーム。そして人化の術により、艶やかな白髪をツインテールにし、勝気な眦、シャープな輪郭、とツンデレを体言してくれているやはり美少女、ヒルデ。彼女は現在、というよりもずっと不機嫌そうなまま、手を出せば噛まれてしまいそうな雰囲気でいる。


 とはいえ、声をかけなければ男が廃るような女性が三人もいるのである。


 なので―――。


「よぉよぉ姉ちゃんたッ―――」


「消エロッ!!!」


 デルタとベータが淡く光を放ち、僕の精神を平静に保ってくれる。横目で悲しき生贄が腰を抜かし、這い蹲って外へと逃れるのを見送る。

 

 ちなみに何故生贄なのかといえば、現在このギルド直営の酒場『黄金麦』の空気はとてつもないほどギスギスしている。さきほどの人物くらい空気が読めなければ動けないほど、全員が牽制し合っている。なにも、ヒルデの苛々による殺気だけが原因ではない。


 そもそも、ギルドに到着した時点で、どこか普通ではない空気が感じられた。身体能力やその他もろもろが一般人な僕にはよくわかる。そこにいるだけで人を惹きつけるような人物が妙にたくさんいた。僕と同じく凡人な人物達はひそひそと会話を交わし、受付の女性はオロオロし、いわゆる英雄気質な方々が様々な感情をぶつけ合い、その間でヤクザの親分みたいなごつい男性が仲介していた。酷く大変そうである。何度か「なんで今日に限ってこんなトップランカーが居合わせるんだっ!! お前らもお前らも俺に気を使えっ!! お互い思うことはあるかもしれんがその殺気を収めろB級以下の人間がここに

入れんっ!!」と叫んでいた。


 そして、僕達の登場である。あからさまなほど視線が僕らに集中する。視線の割合はヒルデが五割、クロードが二割、ミームが二割、僕が一割である。しかし、その一割ですら、息苦しさを感じる。英雄の視線、容姿、息遣いはそれだけで、一般人にはつらい。その人物に一瞬で惚れ込んでしまいそうになる。


 だがしかし、すでにヒルデの時に経験済みのため、ベータとデルタが起動。オートで僕の状態を改善。ふぅ、と一息つく。他の三人に関しては、まるで気にしていないようである。


「おもしろそうな所だな、ギルドというのは」


 とはいえ、ヒルデは好戦的に周囲を睥睨し―――。


「あんまり目立つのは困るんだけどな」


 クロードは頭を掻き苦笑しながらも、油断無く、その手を腰のナイフへと添えて―――。


「馬鹿な子が多すぎますね。まぁ、だからこそ可愛いと思えるのですが」


 僕以外には結構辛辣な口調のミームさんは、赤ん坊を見るような穏やかな表情で―――。


 先ほどからギルドにいた人物達と、入り口にいる僕らの間で緊張が走る。


「どうでも良いから登録しちゃおうよー?」


 視線と視線の間の危険な地帯を、僕は当たり前の様に通り過ぎ、受付へと向かう。誰もが息を呑んだ。少女? 魔力の気配が小さい? 触れれば折れそうな手足? 武術を身につけているとは思えない気配? 少女の周りを漂う赤、黒、緑の珠は何か? 中位であれば魔人すら逃げ出してもおかしくない空間に平然と?


 気勢が削がれ、ギルドの注目は装飾の多い、ふわふわとした薄紫色をしたドレスを纏う少女―――僕へと向かうことになる。


 ふふふ、実はちょっと緊張してしまった。しかし、これは気持ちが良い。実際、珠達がなければ何も出来ない、虎の威を借る狐のようなものではあるのだが。


 と、いうわけですぐに小さな不安が芽生える。ミームの存在だってある、僕を簡単に上回る力をもつ存在がいてもおかしくはないはず。ましてや、魔法の存在する世界だ。不用意な行為は即、死に繋がることもあるだろう。カミーユの時の対抗手段としての攻撃のリスクの経験、あまり調子に乗らない、が全然生きていない。僕は刹那的であり、正に執着せず、死を恐れないが、自殺願望があるわけではないのだ。今日は死ぬには良い日だと、そう思えず死ぬのは少し嫌だ。


「シズキきゅんは本当に可愛いですね」


 いつの間にやら僕はミームに抱きしめられている。守るように、安心させるように。


「ふん」


「まぁ、俺達の目的はギルド登録なんだから、とりあえず、な?」


 ヒルデが鼻を鳴らし、クロードがそれを宥める。


 そうして、口を開けて目を点にして気絶している受付の人を正気に戻し、背中に威圧感を感じながら、ギルド受付をすませ、隣の酒場で小休止である。




・『特殊技能 言語適応』

・『保有加護 異世界の神の加護』

・『保有称号 異世界からの漂流者/『果てしなき流れ』より寵愛を受けし者/『世界』より逃れし者/死せる生者/観測者/運命に囚われし者/運命を捉えし者/運命を破壊する者/変質精神/変質身体/孤独な者』

 

 見せられない箇所は、そう念じると、他の人にはモザイクがかかって見えるらしい。


「ヒルデちゃんは本当におっかないねぇ。ちゃんとミームは謝ったじゃんか。まだ苛々してるの?」


「そっちじゃないわよ、それはもういいのよ」


「ねぇ、ヒルデちゃんのも見せてよ」


「………ちょっと、待って、ほら」


 おそらくモザイクを書けたのだろう。特殊や加護や称号は見ることができない。


・『姓名 ヒルデガルド・エーベルヴァイン』

・『性別 女性』

・『年齢 312歳』

・『活動拠点 ウォルデンバーグ』

・『龍種/ホワイト・ドラゴン』

・『Fランク』


「『Fランク』に違和感しか感じないよねぇ」


「すぐにSランクになってやるわよ。こいつら全員殺せばなれるかしら?」


 苛々の元である周囲の英雄達に殺気を放つヒルデ。しかし、何も起こらない。あくまで、いつも通り酒場で飲んでいるだけ。というのを通そうとしているらしい。


「クロードは?」


「ん、これで……はい」


・『姓名 クロード・ランベール』

・『性別 男性』

・『年齢 18歳』

・『活動拠点 ウォルデンバーグ』

・『人種/ナイフ使い』

・『Fランク』


「称号とか見せてくれないのー?」


「ほら、そこは、一応、ね?」


「クロードは結構特殊なのよ。軽々しく人に見せられないわ。……まぁ、あなた達が見せてくれるなら、こちらも見せても良いとは思うけど」


「無理だねー。うん。ミーム見せてもらえる?」


「こちらです、シズキきゅん」


・『ミーム様だって、悪いんですよ? こっちだって仕事でギルドカードの作成に協力してるんですから、ミーム様の情報読み取ろうとするのだって、不可抗力ですよ? それを、ちょっと情報に侵入したからって攻勢防御でボッコボコって、ギルドのお姉さんだって、あ、キャリーちゃんて言うんですけどね、キャリーちゃんもギルド登録用の水晶に罅がっ、ってびっくりしてましたよ。まぁ、その後なおしてくれたのは良いですけど、直せばいいってもんじゃないでしょ? あ、やめて、言い過ぎました、やめてマジで僕の情報が消えてく、自己同一性が保てなくなるまずいまずいごめんなさいだから本当にあやまりますから―――』


「……なにこれ?」


「そうですね、ちょっと言葉にするのは難しい、こちら側の事情ですね」


「ん、なによ、私にも見せなさいよ」


「あっ」


 ヒルデが僕の手からギルドカードを奪い取る。ヒルデ達は僕達のことを謎の人物としか把握していない。少し慌ててミームの顔を見ると、ニコッと笑顔。


「……なにこれ、全部読み取れないんですけど」


「……受付で姓名・性別・年齢は隠せないって言ってなかったっけ?」


 ヒルデとクロードがミームさんを見ると、僕に向けた笑顔は消え、いつもの平静な顔。


「そういうこともあります」


 周りに対する警戒も忘れて、はぁ、と一つため息をつくヒルデとクロードであった。

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