chap4-3
ミームの声だけが聞こえる。僕も、クロードと呼ばれた青年も、おそらくヒルデという名の龍も、そこにある風も、大地も、木々も、あらゆる存在が音を消していた。
白龍の威圧感による精神圧迫など比にはならない。己の精神が作り変えられたかのような、一方的な支配力。
「昔から力とプライドだけは高くて、自身より上の存在を認めらない、くだらない存在」
誰もが、何もかもが停止した空間。
白龍は霧散した魔力と、激昂から一瞬で転換した平静な精神に戸惑うことも出来ず、ただ静まった表情で呆然としている。
クロードにいたっては即身仏もかくやというほど存在感すら静ませてしまっている。いまにも合掌しそうなほど冷静な表情。
デルタも強制的にその暗闇の輝きを失っている。一瞬、意志としてもう一度結界の展開を開始するかと訪ねられたが、必要はない、と意志を伝える。
僕にはミームの力が及ばなかった。正確には及んでいるのだが、デルタとベータによってそもそも平静を保つ状態になっているので、効果が明確に発揮されていないだけである。
「そこの男は魔力の融和性で結界が効かなかったのは良いとしても、そこの白龍は自身が招かれたことにも気付けない。やはり龍種は愚かとしかいいようがない」
「に、人間風情が……」
普段なら大地を二回は吹き飛ばす激しい感情を抱くはずなのに、白龍は自身の言葉の弱弱しさにもどかしそうである。
「ねぇ、ミーム、どうするの?」
「そうですね、少なからず私のシズキきゅんにしょぼいとはいえ攻撃したのですから、死刑ですね」
「うーん、精神構造の弱い僕としては死ってやっぱり忌避しちゃうんだけど」
「私としては、私にお任せする場合の手段として死刑ですので、シズキきゅんが手段を講じるのでしたら、如何様でもかまいません」
「うむうむ、わかったよ。ねぇ、そこな白龍さん。とりあえず、現状の説明と、今後の予定を教えてもらってもいい?」
「な、なぜ私がそんなことを喋らなければならない―――」
〔話せ〕
指の音が鳴ると同時に、今までピクリとも動かなかったクロードが元気よく手を上げて「はいっ!!」と言う。
「俺達は森から出て一緒にウォルデンバーグに向かう最中だったが、ヒルデの背に乗って見る景色が凄くて辺りを見ていたら、何か変な結界が見えて身を乗り出したところを落下し、今に至りますっ!! ついで、今後はウォルデンバーグの冒険者ギルドに登録し、そこを拠点にヒルデと人間社会を経験し、落ち着いたらヒルデと結婚しようと思っています」
「えっ、何よそれっ!! お父様からは人間と関わりを持つ訓練としか聞いてないけどっ!! いや、べ、別にあんたと結婚するのが嫌だとかいうわけじゃないけど、っていうかなんでそんなことまで言うのよっ!! 恥ずかしいじゃないっ!!」
「面白い人たちだ」
「面白い人たちですね」
元気よく随分と先の今後まで喋ったクロードに、ヒルデがその巨大な尻尾で背中を叩く。ギャグ補正が無ければ即死であろうその一撃も、どうやらクロードにはギャグ補正があるらしく、地面に頭をつきたて、ピクピクと痙攣している。その横でヒルデは顔を真っ赤にしてモジモジしている。
「よし、いい契機である。是非着いていこう」
「あら、平和で爛れた生活は止めるのですか?」
「それはやろうと思わなくてもできるでしょ。やろうと思わないと出来ないことを、やろうと思う」
「私も一緒でよろしいですか?」
「もちろん、是非お願いします」
ミームの柔らかな胸に顔をうずめて言うと、頭を撫でてくれる。
さて、冒険者ギルド。そして街。楽しみである。




