chap4-1
出会うときは出会う、出会わない時は出会わない。
言葉にすれば至極普通のことではあるが、あまりにも偏りが出てしまうと、そこに何かの介入や思惑があるのではないかと考えてしまう。偶然に意志を感じることは酷く夢見がちであると思うが、或いは、それも至極普通のことであるのだろうとも思う。
ありきたり、と言えばありきたりではあるが、異世界に来て怒涛の展開を見せていた僕の周囲も随分と平和なものになっている。
カミーユは気にせず宿泊してくれて良いと言ってくれた。
「なんたって、僕は君に秘密を握られているからね。公爵家の長男たる人物の趣味と隠れ家の情報。建前としては君に対して最大の譲歩と誠意を見せるし、本音としては、そんな危険人物は殺せないのであれば、自分の籠の中で大事に飼い殺したほうがいいという所かな」
貴族らしい嫌味さを見せない嫌味でそう言ってはいたが、実際には両方とも建前で、本当の本音は僕と友人になりたいし、一緒にいたいだけなのだろうと思う。照れ隠しのつもりだろうが、僕には全てお見通しなのである。このツンデレさんめ。
何はともあれ、僕としては随分魅力的な話だ。食事は勝手に出てくるし、服も勝手に着せてくれるし、お風呂だって勝手に身体を洗ってくれるのである。そして綺麗なお姉さん―――ミームは僕を初孫か何かの様に可愛がってくれるし、なんなら夜だって可愛がられちゃうのだ。ここは天国だ。
そういう訳で、気が付けば一週間が簡単に過ぎている。
今も僕はミームの膝の上で、昼食を取っている最中である。至れり尽くせりとはこのことか、僕が口を開ければ自動的に丁寧に切り分けられた食事が入ってくる。BGMは「はい、あーん」である。
モギュモギュと咀嚼すれば、後ろから幸せオーラが流れてくる。
僕はショタやロリの言動については完全な養殖モノである。ぶりっ子なのだ。それはもうぶりぶりしていているのだが、ミームはそれに気付いているだろう。しかし、そんなことは気にしないとばかりである。まぁ、僕もぶりぶりするのは嫌いではないし、相手もそれで喜んでいるのならwin-winなので良いだろう。
「―――はぁ」
食事も一段落し、やはりミームに抱きしめられたまま、食後の日向ぼっこである。ついでとばかりに股間と胸を弄られている気がするが、きっと気のせいだ。
そういったちょっとおかしなことを除けば、今日も良い天気の、良い一日である。風も太陽も大地も全てが現状を祝福しているかのようである。
さて、こんな日々を過ごしていていいのだろうか、というのが一つの疑問である。
考えられる今後の状況予測が必要だろう。
一つ目は、平和→強襲の展開。突然、空から何かが降ってくるといった類である。
二つ目は、カミーユの危機。学院、あるいは貴族間のトラブルによる現状の変異。
三つ目は、小さな綻びから忍び寄るもの。僕が何か大事なことを忘れているとか、メイドの一人の意識が変異するとか、護衛や爺さんの僕に対する不満が爆発するなど。
四つ目。このまま何事もなく過ぎる。
四つ目の派生として、平和に過ごした後、もう一度転生や転移することになるとか、大人になってから、僕以外の転生、転移者と関わる脇役になるといったもの。
物語を考える上で、自分が主人公ではない可能性。場面や展開の主眼がどこに置かれているのか考えるべきだろう。
ついで、自分が何をしたいか、したくないか。どうなりたいか、どうなりたくないか。これを明確にしておく必要がある。勇者に巻き込まれて、勇者を生かすために力を振り絞って敵と相打ち、なんていう美談などクソくらいである。僕は僕の為に生きているのだ。まぁ、もちろん、そういった死に様をしたい、と思う可能性だってあるのではあるが――――。
「いや、まてよ」
「くんかくんか、さわさわ、もみもみ」
十万歳も生きて頭がおかしくなった人間は、さておき。
そもそも、地球の日本在住の時も、読書が好きだった弊害といえるが、僕はこういった『物語』を主軸とした考え方をしていた。
例えば『見るなの禁忌』はわかりやすい例であろう。カミーユも使っていたが、「鶴の恩返し」「浦島太郎」「琴座、オルフェウスの物語」は全て見てはいけないといっていたにも関わらず、失敗している。
つまり、物語的に考える場合。「見てはいけない」といわれた時点で「見る」ことは確定してしまっているのかもしれない。何かの介入や思惑があるとしか思えないが、これはつまり、「そういったもの」と考えざるを得ない。
まぁ、ただの想像ではある。逆に言えば、どこかの誰かが、ユーリ達と別れたとき、「―――あの時、一緒についていればよかった、とシズキは考えることになる」なんていうフレーズをくっつければ、それだけである種の強制力が働くのだ、物語的に考えれば、であるが。
ここまで考え、考えるのを止めよう。と僕は思考を停止させる。
これはあくまで物語ではない、人生なのだ。
何がどうなろうが、なるようにしかならない。
ミームの一族にあやかれば、『果てしなき流れ』の一部でしかないのだ。
物語として考え、僕は何かをしなくてはいけない、と自身を縛っている。
「いいじゃないか、何もしなくても、ねぇ、ミーム」
「ええ、ずっと私のそばにいればいいんです」
謎技術で勝手に思考を読んでのか、それともメイド技術として何かを察したのか、僕の身体を弄んでいた手は、ソッと頭におかれ、撫でてくる。
心地よい刺激と木漏れ日の中、まどろみが僕を少しずつ這い上がってくる。
神様にも、珠達にも申し訳ないが、折角の能力をまともに使わず過ごしてしまいそうである。
「―――ねむねむ」
そういうのもいいかもしれない。
そう思いながら、僕はひと時の睡眠を楽しもう。
「そうは、いかないみたいですね」
ピタッ、とミームの手がとまる。
顔を覗くと、空の一点をジッと見つめている。
僕もおもわずそちらに顔を向けると、そこには果てしない蒼穹。しかし、決して鳥や魔物ではない一つの点が、こちらに近づいてくる。
「――――ぉぉぉぉぉぉっぉぉぉおおお!!!」
それも、叫び声を上げながら。
「まじだぁ」
「まじですねぇ」
「どうするの、あれ。カミーユは今お仕事中でしょ? テキトーに排除しちゃう?」
「上空とはいえ、この屋敷にはカミーユ様の結界が張られています。それを突破したということは、それなりに何かあるのでしょう。排除は、早急です」
「まぁ、いいよ。僕はもうさっき思ったんだ。なるようにしかならないって」
「それはつまり、空から落ちてくる人間を、助けもせず、そのまま放置ということですか?」
「なるようにしか、ならないよ」
「人はそれを、面倒くさがり、といったりします」
「まじだぁ」
「まじです」
落ちてくる人影を目で追っていると、口が開いていたのか、ミームが果物を口に入れてくる。
果物は、どんな世界であろうが、おいしいね。
変なオチである




