chap3-6
目が覚めると何故か腰が妙にダルく、さらにミームの肌が艶やかになっていた。まぁ、そういうこともあるだろうと僕は考えるのを止める。
すでに衣服が整って僕の枕元に控えているミームさんが、カミーユから朝食の誘いがありますと告げる。特に断る理由もないので、「是非ご一緒したい」とミームさんに返答すると、「畏まりました。お着替えを終えた後、ご案内いたします」と、朝日に向かって体を伸ばしている僕を器用に操り、気が付けばいつも僕が着ていたゴスロリ服の白バージョンに着せ替えられていた。
「何着か色違いを用意いたしましたので、入用でしたら気にせずお申し付けください」と簡単に言う。メイドとして凄いのか、古代人として凄いのかどちらかはわからない。
ミームの後について部屋を出て、無駄に長い通路を歩く。このカミーユの屋敷に着いたとき、外観からかなりでかいとは思っていたが、中を歩いてみると尚更良くわかる。部屋とか一体何個あるのだろうか。
「純粋な使用人と数名の側近と警備、さらにカミーユ様の玩具を合わせた人数が現在屋敷にいます。部屋数もそれとほぼ同等ですので、公爵の居住空間を考えれば、むしろ小さい方です」
「わぁ、心読まれちゃった」
「さらに発展する疑問ですが、本来カミーユ様が暮すのはここではなく、その姓名であるウォルデンバーグを冠する城がございます。先日貴方と出会った三人が入学する王立総合学院『ミネルヴァ』のすぐ隣ですね」
「なんか突っ込みどころが二つ三つあるんだけど」
「森に囲まれたこの屋敷は何なのか? この屋敷は一種の隠れ家ですね。何故、学院と城が隣接しているのか? それは公爵家の領内に王立の学院が存在し、管理を任されていることに理由がございます」
「朝から頭が痛くなりそうでござる」
「疑問は疑問のまま見ない振りをするのが最良で候」
ノリの良い女性である。
ファンタジーの例に漏れず、無駄に広い食堂に案内されるのかと思いきや、昨日お茶をした庭でカミーユが同じく待っていた。
白いテーブルに白いテーブルクロスに白い椅子。育ちの良さそうな坊ちゃんに良い仕立ての服。傍には先日の爺さんが直立不動で控えている。朝日に照らされ、爽やかにカップを傾ける仕草は見る人によって洗練されていると取るか、嫌味と取るか。
現代日本でも可能であるが、ファンタジーといえばファンタジーな光景である。主に金銭面と余裕具合による。
「でっかい食堂で銀の食器を使って冷めた食事を取ると思ったよ」
「ここはあくまで私的な場だからね。今度、城の方で食事を誘うよ。期待にこたえられると思う」
「城の食事でこういう軽食がでるなら、是非ね」
テーブルにはサンドウィッチとサラダとフルーツ。さり気無く高そうな器を使っている。サンドウィッチの切り口だってもちろん綺麗だし、サラダもただ盛るのではなく、色合いの配置が考えられている。フルーツだって傷一つ無く、形も整っている。こういうさり気無さを当たり前に取ることが出来るのが真のセレブリティ、ブルジョワジーだと僕は思う。
「ところで、食べられないものはあるかな? フルーツが食べられないとか、サラダの存在に興味が湧かないとか、サンドウィッチに挟まれる食材の気持ちを考えると、酷く辟易とさせられるとか」
「大丈夫、僕はなんでも食べられるよ。フルーツは大好きだし、サラダの存在感にはいつも圧倒されるし、サンドウィッチには挟まれたいよ、なんなら」
「そうか、なら良かった」
ミームが椅子を引き、僕が座ると、ソッと膝の位置まで押してくれる。爺さんも今の状況に対して思うことはあるだろうが、表情には出さず、カップに紅茶を注いでくれる。
「でっかい食堂で、銀の食器で冷えた食事も悪くないね。こういう扱いを受けられるなら」
「だから、皆しがみつくのさ。テーブルの上に載るのではなく、テーブルの外にいるためにね」
お互い軽口を叩きながら、朝の優雅な食事は進む。
大食、集中、早食い、という三拍子揃った食事習慣を持つ僕は、少しだけ窮屈なものであった。友人をして「秋のリス」という可愛らしい称号を貰った僕としては、一心不乱にバクバク口に運ぶことが出来ないのが悲しい。先日のユーリとの野営の時も押さえていたのだ。どうしても外面を気にしてしまう、小心者なのである。
ミームによる、空中果物カッティングというマンガでしか見たことの無い余興を得て、今はそのカットされた桃のような味の果物を口に運んでいる。
「ねぇ、ミームさん僕に頂戴よ」
「いや、彼女は他の子達とは違って、昔からウォルデンバーグに仕えてくれている一族なんだ。あげる、あげないの範囲には入らないんだよ」
「街の中心でウォルデンバーグの長男はマグロ大好きな変態だっって叫んでやる」
「マグロが何なのかわからないが、やめてくれ」
「ねぇ、ミームさんは僕と一緒がいいよね」
「はい。私はショ―――シズキさんと一緒にいたいと思います」
ショタ万歳。
カミーユと爺さんがあからさまに動揺している。
「い、いや、ミーム。あ、案外忠誠なんてなかった?」
「いえ、カミーユ様もおわかりでしょうが、シズキさんはかなり異質な存在です。ウォルデンバーグ家が学院を収めている理由を考えれば、『抑止力』として、私がシズキさんの近くにいるというのは、自然なことだと思います」
「ま、まぁ確かに」
難しい顔であるが、納得してしまったカミーユである。
「さらに具体的に言えば、私がシズキさんを貰います。余すところ無く」
爺さんが眩暈を起こす。カミーユが頭を抱える。ミームが獲物を狙う目で僕を見る。
疑問は疑問のまま見ない振りをするのが最良で候。
ベータに頼む仕事が、腰の治療が多くなりそうで、少しだけ申し訳ない。そんな長閑な朝食の風景である。




