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chap3-5

 柔らかな花の香がした。


 その印象とは裏腹に、ミームの身体は温かく、僕より身長が高いこともあって、姉がいれば、こういった温もりを感じさせてくれるのだろ、と僕は思った。


 耳元で、ミームが僕に囁く。


「まずは、前提から。私が今後、貴方を殺す確立は、かなり低いでしょう」


「ゼロではないんだね」


「もちろん、この世界に住む生物からすれば、相対的に貴方は高い位置にいますから」


「そうだとしても?」


「ええ、そうだとしても、私が貴方を殺すことは、稀です。理由を伺いたいですか?」


「そうだね、サラッとでいいよ」


「わかりました」


 自然と、ミームが僕の服を脱がしにかかる。結構複雑な手順が必要な僕のゴスロリ服は、ミームの手によってスルスルと剥ぎ取られていく。さすがメイド、あるいは年の功といえるのかもしれないが、なんだかんだで僕にも羞恥心はある。高校時代の体育の着替えの時、男子生徒の欲望に染まった視線を意識してからは、照れを自覚すると同時に、むしろ自分の裸体に価値があると気付き、積極的に隠す様にさえしている。


 声を上げて抗議しようとすると、ミームのその無表情さに、ただメイドらしく無機質に手伝っているだけで、恥ずかしがったり照れたりするのは間違っていることだ、と考えて勢いを失ってしまう。


 見事に物の数秒でパンツ(パンツについて描写が必要だろうか? いや必要ない)一枚になった僕は、それでもやはり恥ずかしく毛布に素早く隠れる。毛布からソッと顔をだし確認すると、ミームはいつのまにやら薄紫の素敵な下着姿となって、怒涛の展開に呆然となっている僕を尻目に、いとも容易くベッドにもぐりこんでくる。


 その肢体は艶かしくも、女性特有の柔らかい感触を僕に伝えてくる。足を絡め、胸に僕の顔を抱え、髪の匂いをクンクンと嗅いでいる。


 男の娘、そしてバイというかなり特殊な立ち居地の僕ではあるが、それでもこの展開には少なからず動揺してしまう。


「あ、あの、ミームさん?」


「長い年月を―――」


「え?」


「長い年月を生きてきた女性が、ショタ好きでないわけがあるだろうか? ―――いや、無い」


 僕が殺られる確立はかなり低いでしょう。しかし、僕はヤられる確立はほぼ確定でしょう。


 なんたって反語使われちゃったからね、しょうがないね。


「さて、それでは、簡単に説明しましょう。クンカクンカ」



 

 ミームは実際のところ、僕が『カゲビト』ではないことは初めからわかっていたらしい。


 『カゲビト』はその名の通り、全身が真っ黒だからだ。


 そう聞いたとき、僕は命の覚悟をしたというのに、と頬を膨らませると、むしろその様子にミームさんは喜んでさらにクンカクンカしてきた。匂いフェチなのだろうか。


 とはいえ、実際返答次第、態度次第では殺しまではいかなくても、確保監禁までは行ったかもしれない。


 確かに『カゲビト』は脅威ではあるが、純粋に強大な力をもった人間が破壊活動を行う可能性があれば、『カゲビト』など関係なく排除する予定であったらしい。


 ソシオパス、サイコパスという二つの言葉をミームは使った。


 前者、ソシオパスは社会環境など後天的要素に因る人格。


 後者、サイコパスは元来の気質、性格など先天的要素に因る人格。


 『カゲビト』は後者のサイコパスに近いものだと考えてくれればよい、とミームさんは言った。そして、僕自身はソシオパスに近い、とも。


 そもそも、簡単に行使できる強大な力を持ち、その強大さを自覚した時点で、その人物はソシオパス予備軍と呼べる要素は十分らしく、それでも危険性が少なければ問題ないが、契機さえあればどう転ぶかはわからないとかなんとか。


 サラッと、と言ったはずなのに面倒な話をされて困ってしまう。


 一段落ついたときに、そういえば、何故カミーユの家でメイドなんてしているのか? と疑問を投げかけると、やはり面倒な返答である。


 要約すれば、一個人が世界を生み出せるのは、新たな可能性が云々。


 実はカミーユは自身の固有魔法を結界の一種と考えているようだが、実際にはそんな生易しいものではなく、世界の創造に近似の能力であるらしい。その監視と経過を見守っているのだとか。


「あなたはあの時、『僕が先ほどまでいた世界に戻るために必要なものを全て攻撃し』とおっしゃいましたが、あの世界は貴方をも構成要素として世界を保っていました。ですから、その赤い珠は、貴方を殺し、カミーユと世界を崩壊させ、その後こちらで蘇生しようとしたのでしょう。可能かどうかはわかりませんが」


 調子に乗った大言壮語は今後自重しようと心に誓う。


 さらに聞きたいことはあったが、今度こそ本当に睡魔が襲ってくる。


「寝ているときに殺すとか、なしね」


 僕が小さく、呟くように言うと、ミームは悲しそうな声で言う。


「違います。寝るときに言う言葉は、おやすみなさい、でしょう」


「おやすみ、なさい」


 そうして、僕はミームに抱かれながら眠りにつく。


 悲しい子、と聞こえた気がした。

 ソシオパス、サイコパスの流れはうろ覚えが過ぎるので、本気にしないでください。一応wikiで簡単に確認とってますが。


 たしか、ソシオパスは自覚もないまま、普通に社会に溶け込める。とかどっかで読んだ気がする。あんまり覚えていないけど。



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