chap3-3
風呂敷広げすぎ注意
―――生きる、とは一体なんでしょう。
部屋は夕日によって、茜色に染まっている。ベッドから見上げるミームの姿は、その光を受け、輝く銀髪と洗練された容姿も相俟って見惚れてしまう。女神、というよりは、儚く、脆い、幽玄な印象。超寿命を誇る存在とは思えない。
幽霊の様である。しかし、息が出来なくなるほどの美しさ。
聞き流す程度で良いです。貴方は貴方で、何故生きているのか考えてください。我々が、我々として存在しているように。
夕日が沈むのと同じくして、部屋は青く染まる。壁に掛かっているランプが独りでに灯る。
やっと人に戻った。そんな雰囲気の、輪郭のハッキリしたミームが、滔々と語る。
―――生きる、とはそもそもかなり曖昧な言葉です。いえ、言葉そのものがかなり曖昧ないものと言えるでしょう。我々『果てしなき流れ』は既にそれを克服しています。純魔力による会話が、それに当たります。念話によるものではありません。そもそも、言語によるものではないのです。火という存在に、猛々しさ、力強さ、活力、発展。あるいは水に、生命、優しさ、安らぎ、癒し、というようなイメージ、あるいはクオリアと呼ばれるものがあります。生物に与える魔力の影響にもそれが包括されています。魔力に内包されているイメージ、あるいはクオリアは『全て』です。我々はそれを一定のリズムと波長によって使い分け、相手に伝える技術を確立しました。
―――それは、一切の誤解や認識の相違を排除した理想的な意志の疎通です。仮に赤い林檎、というものを伝えようとしたとき、「赤い」と「林檎」というおおよそかなり曖昧な状態しか表せない会話ではなく、「アカイリンゴ」という百パーセントを相手に伝えることが出来ます。仮に相手が「赤」を「青」と捉えていたとしても問題はありません。こちらは全て伝えているのですから。
―――その時、既にかなりの文明を我々は築いていました。この惑星を一瞬で豊かにすることも、一瞬で崩壊させることもできる技術がありました。超古代文明として栄えた我々に、現代の人々は高度な文明の力を制御することができず、古代文明は滅びたとしていますが、純魔力会話による意志のやりとりは、より高度な××××を―――失礼、近似の言葉にすれば哲学を発展させました。むしろ、意識の高度化に、文明や技術が追いつかなかったほどです。さらに、相互の理解は争いを生まず、理解と協調の果てに、当時存在していた破壊兵器を解体し、解体できないものには封印を、当時の我々が脅威とせず、さして問題ないと判断したものは放置されました。それが所謂アーティファクトです。
―――我々は地上の覇権に興味はありませんでした。文明、技術、意識の洗練の先には、一個体の超寿命化、それに伴うのは、個体数の減少です。そもそも争いなどしている場合ではないのです。個人的名誉を求める存在はいましたが、そのために種族の個体数を減らすほど、我々は愚かではなく、あるいは熱情的でも無くなっていたのです。勝ち負けなどではなく、極端に言えば、種族的に幼年期にあたる者達との相手など馬鹿らしいほどです。存在そのものに幼年期や老年期が存在するかわかりませんが、仮に存在するとすれば、惑星レベルでは少年期にはいっていたところ、我々はすでに青年期、壮年期を過ぎていました。幸いにも、現在の我々はまだ諦観をおぼえてはいません。妙な安寧は感じています。とはいえ、それは私が生まれた以前からもです。
―――現在の我々『果てしなき流れ』の個体数は、私も含めて二十人にも満たない。しかし、これまでの先人達の知識は共有され、より洗練し、次代に継承するでしょう。現存する最高齢は、三十万歳を超えています。それでも寿命が訪れる様子は一向にこないのですから、これからも知識の吸収と確立をしていき続けます。
―――しかし、我々が生きる目的、意味、××××は知識の吸収ではありません。
―――私が生まれる前から、つまり十万年以上も前からですが、我々に敵対しているものが存在します。
―――それが『カゲビト』です。
―――『影人』『カゲビト』『最も昏き者』『光に群がる者』『光より生まれたる魔物』『深遠に近く、深遠を知らぬ深遠』様々な呼び名がありますが、彼らを言葉で表すのなら『理不尽』です。
―――魔物の様に、攻撃によって消滅する。そう思えば、彼らは再び蘇り、我々を殺す。捕らえて捕まえることができる。しかし、彼らはそこを出でて我々を殺す。光があれば大丈夫と思えば、そんなことは関係ないと我々を殺す。我々『果てしなき流れ』全個体が警戒しれば、我々種族以外の、この惑星に住む全生命体を抹殺しようとする。
―――唯一判明しているのが、完全に外界と遮断した暗闇では襲われることは無い、ということのみです。しかし、人はそれでは生きていけない。
―――『カゲビト』はすでにこの惑星に住む知的存在を脅かそうとしています。我々にとってこの惑星に存在する者達は我々の赤子も同様と感じています。我々が失った様々な感情を強く放つ彼らを、我々は失いたくは無い。強く煌く感情を、あんな『理不尽』によって暗い感情を覚えさせたくは無い。
―――蒼樹紫月。貴方は『理不尽』によってこの世界に迷い込んだ。強大な力と共に。
―――その力を持って、貴方はどのように生きるのですか?




