chap3-2
「とりあえず、ベッドに横になっても良い?」
「かまいません」
ミームと呼称する女性の横を過ぎる一瞬、緊張したが、突然ナイフを腹に刺されるなんてことは無く、無事ベッドに辿りつく。ただでさえ疲れているのに、さらに気持ちが重くなる。
「話を進めても良いですか?」
「ごめん、少し待って」
大人二人が余裕をもって横になれる大きさのベッド。実にふかふかである。そういえば、この世界の文明レベルはありきたりな中世っぽさがあるが、ベッド事情はどうなっているのであろうか。過去の日本であれば、綿、麻、羽毛があれば簡単に布団なんて出来そうだが、ヨーロッパ方面はどうしていたのだろう。木の台を作り、その上に布団的存在をのせていたりしたのだろうか。もしかすると、木の台に簡単な布を敷き、その上に寝ていたのかもしれない。今、僕が寝ているベッドはかなり上等な部類であるはず。むしろ、庶民はそういった硬い寝床が一般的なのではないだろうか。そもそも、木の台だってわざわざ作るものだろうか? 実際には中世のヨーロピアンだって布団的なもので寝ていたのではないだろうか。ともかく、僕はこうやってふかふかベッドに横になれている。とても幸せなことだろう。
ああ、やはりこうやって取りとめもないことをボヤッと考える時間は最高だ。そういえばこの世界には学校もテストもない。夜は墓場でスヤスヤ寝れる。なんて素晴らしいのだろう。明日のことを考えなくて良いって素敵。そしてそんな考えなくてもすむ能力を与えてくれた神様ありがとう。理不尽にもトラックに突っ込まれた自分に乾杯。
「よろしいですか?」
「もうちょっと待って、もうちょっと」
やはりふかふかな枕に顔を埋める。
よく考えれば、この世界に来てまだ二日くらいしか経っていない。初日にユーリ達。そして今日はカミーユ。そして謎の超古代人。ババアだ。そう、ババアである。決して口には出せないが、気付いてしまった。この銀髪の女性はババアである。変態の男の娘が二人、監禁厨の変態貴族が一人、となるとこのババアも変態のはずだ。超高齢美人変態ババアが一人だ。なんというより取り見取りの異世界。漢気が溢れ出して世界がやばい。
ムッ、そういえば超古代文明とかいっている。珠を見たときのユーリ達もアーティファクトについて言っていた。おそらく超古代文明の遺産。失伝技術。そう繋げれば、あるいは人の思考を読むことの出来る技術が存在していても良いのではないだろう。
恐る恐る、枕から顔を上げ、ミームを見る。
「……よろしいですか?」
最初と変わらない表情のミーム。
「はいはい!! 質問があります。今何歳ですか!?」
女性に年齢を聞くのは禁忌? そんな文化は存在しませんっ!! 自分の年齢を誇ることのできない人間なんてクソ虫以下だっ!!
「……あなたの世界の一日の定義は?」
「あ、失礼しました。一日は日が昇ってもう一度昇るまで。年齢はそれが365日ごとに一つ上がります」
「であれば、私の今の年齢は十二万と二十二歳になりますね」
超古代文明すげぇ。
僕はなんだかよくわからないため息を突きつつ、もそもそと毛布の中にもぐる。顔と手を少しだけだしてミームを見上げる。修学旅行の男子部屋で発動した最終戦略の一つ。多数の男子を奈落に落とした技であるが、ミームの表情はいたって冷静なままである。
ギャグパートには移行しないらしい。テンションで誤魔化せる状況ではないようだ。
「……はぁ、なんか妙にリラックスできた気がします。話は聞きますが、このままベッドに横になった状態でお話させてもらってもいいですか?」
「構いません」
「先に聞きますが、あなたにはこの珠の力に勝てますか?」
「結論から言えば、珠の力には対抗できます。さらに結論を急げば、あなたを無効力化することも可能です」
「わぁお」
「もちろん、あなたが『カゲビト』であればの話です」
「それはどのようにして判断するの?」
「あなたは、何のために生きていますか?」
「え?」
「これが、『カゲビト』の判定基準です。―――あなたは、何のために生きていますか?」
干草を箱につめてシーツをかける。基本家族は一つのデカいベッドで寝る、とかなんとか。中世、ベッドでググった一番最初のサイトを勝手に参考。
ところで一日って日が昇ってもう一度昇るまで、だよな。一瞬不安になる。




