chap3-1
カミーユの結界魔法を抜け出すと、直ぐにカミーユ専属の爺さんがフルアーマーな騎士を三人ほど引き連れて走ってきた。僕の足元で項垂れるカミーユとそれを面白そうに見下す僕の構図は、「今回は女の子が壊れていないっ」という事実よりも、「カミーユ様を足元に傅かせているとは何事だっ!!」という誤解を爺さんに与えてしまった。
先の会話もあり、すぐにカミーユが誤解を解く。爺さんはなんだか不服そうではあったが、別段、場の主役ではないので黙っていてもらう。
僕が「とりあえず、カミュちゃんの家でお茶でもご馳走してよ」と軽く言うと、「まぁ、しょうがないね」とカミーユも同じく簡単に承諾する。置いてけぼりの爺さんはずっと目を丸くしたままで、フルアーマーな騎士はもはやただの置物といっても過言ではない存在感の薄さである。
そんなことがカミーユとの出会いの顛末である。現在は、ありがたくお茶を戴いた後、ありがたく寝室へと案内して戴いている。「ご飯を奢る約束だしね」と、夕食に誘われたのだが、失礼ではあるが断らせてもらった。正直、かなり疲れていたのである。もちろん、身体的なものはベータが回復してくれているので、精神的な面での疲労である。
異世界へと着てから目まぐるしくコトが進みすぎているのだ。ゆっくり物事を考える暇も無い。もとより、友人と時間を共にするのも好きだが、それ以上に一人で時間を消費するのが好きなのである。ボーッと時間を浪費することに幸せを感じるのだ。
「僕をお人形さんにして住まわせるぐらいの部屋はあるんでしょ? ちょっと泊まらせてよ」と言うと、カミーユは何ともいえない表情をしていた。思い返しても笑える表情であった。
小さく肩を揺らす僕に、前を歩く爺さんから視線が数度送られている。無遠慮な視線ではない、当たり前の確認のような視線。体付きもよく、背筋も真っ直ぐ通っていて、足取りも力強い。執事らしく、嫌味さを一切感じさせない存在感とその姿勢である。けれど、少しだけテンポがずれている。ワシは少し話がしたいぞ、という意志を感じる。
しかし、話しかけてはこない。僕の意識がすでに一人モードになっているのをなんとなく感じているんだろう。ある友達は、「シズキは眠くなったり疲れてきたら、足取りがふわふわしてきて、ただでさえ焦点のあっていない目がさらにボヤッとしてきて、存在感がどんどん薄くなっていく」とよくわからない評価をされたことがある。なんだかとても話しかけにくいらしいのだ。
そんなわけで、当たり前ではあるが、何事も無く部屋へとたどり着くのである。
「では、何はともあれ、引き篭もらせてもらいます。気が向いたら自発的に出て行きます。出て行く際、一応カミュちゃんには断りを入れておきます。後はよしなに」
予防線を適当にはりつつ、やはり渋い顔をする爺さんの視線を遮るように、扉を閉める。
ふぅ、と一息付く間もなく、瞬間、呼吸が止まる。
銀色の腰まである長い髪。切れ長の冷たい瞳。カミーユの好みが反映された丈の短いメイド服。
客室らしい、清潔で落ち着きのある空間の真ん中に、彼女は立っている。
「あなたの行動は、この世界に現れてから監視させてもらっていました」
聞き取りやすく、そしてハスキーな声で女性は言う。
「まずは自己紹介を。私の名前はミーム。『果てしなき流れ』と我々は我々を呼称しております。現代のモノ達が超古代文明と呼ぶ時代を生きた存在です」
さて―――、と流れるように女性は言う。
「あなたは我々にとって、排除すべきか、否か。あなたが『カゲビト』であるか、確かめなければなりません」
僕はまだ、休むことが出来ない。




