chap2-5
ふははは、何を得意げになっているのだ。君のその考えは間違っている。この世界は破壊されない。よしんば破壊されたとしても、君は何も無い空間にただ取り残されるだけなのだ、はっはっはー。
「とかないの?」
「ないね、微塵も」
よく見れば、高貴な雰囲気を漂わせながらも、目つきとかは謀略を好みそうな、良い死に方をしない顔つきであるカミーユ。しかし、今は見る影も無く、途方も無く疲れた表情をしている。
戦術や戦略を、戦闘で覆せる能力を持っている僕は、カミーユのような人種からしてみれば天敵もいいところなのだろう。それはもちろん性格面でもいえる。
会話の一例である。
「ところで、僕は高貴な身分であるわけだけど、いまこうやって君に跪いている僕を見たら、家臣達はどう思うだろうね?」
「なに会心の笑み浮かべてんだクソ野郎。ここら一体灰燼に化してその後遠い果てでゆっくり暮らしてもいいんだぞ」
「やってみればいい」
「アルファ、このクソ野郎がごめんなさいというまで力を集中して。一分以内に言わない場合、力を解放して全てを焼き尽くせ」
「―――君のそれはずるいよ。君の意志から切り離されたら、こちらも打つ手がなくなってしまう」
「まぁ、そういうのも含めた能力だからね。ほら、立って。そしてごめんなさいは?」
「ごめんなさい」
という感じである。
カミーユとしてはどうにかして搦め手を駆使したいみたいだが、そもそも守るべきものがなく、倫理観を場合によって排除することのできる僕に搦め手は通用しないのである。
とはいえ、僕はちょっと嘘をついている。先ほど気付いた価値観ではあるが、僕にとって大切になるかもしれないこの世界を、そう易々と破壊なんて出来ないのだ。
現在の所在は公爵家の庭にあるテラスでカッフェを嗜んでいる。なんとカミーユは公爵家の長男様であるらしい。『ウォルデンバーグ』、というのがその家名である。ユーリ達の入った学院の管轄とそこから広がる経済圏を掌握しているらしい。よく考えればユーリ達がウォルデンバーグに行く、とか言っていた気もする。公爵の癖に、領地はあまり広くは無い。学院を管轄しているのがかなり大きなアドバンテージだとか。若干目が虚ろな美人さんがスカート丈の短いメイド服姿で給仕をしてくれてるコーヒーを飲みながら、そんな話を聞く。
「お仲間さん?」
「君は仲間に成り損ねただろう」
「あ、そっか」
心が壊れているのか、随分と無表情である。しかしそれが人形のような美しさを醸し出している。機会があれば是非貸し出してもらいたい。
「爺も驚いていたよ、僕が抜け出した後にはいつも壊れた女性がいるのに、今回は普通の女の子がいるなんてね」
「まぁ、男の子ですけどね」
「それも、酷い話だよ……」
はぁ、と頭を抱えてため息をつくカミーユ。
「まぁ、そんなもんだよカミュちゃん」
「そんな簡単に片付けないでくれ、シズちゃん」
僕としては、カミーユは格好いいし身分もいいのだから、まるでアリなのだが、カミーユは性癖こそ変態ではあるが、性別までその変態の範囲は広くないみたいである。
「君が本当に女の子であればどんなに救われたことか」
「自分に対抗できる力があって、自分の心の闇に理解があって、かつ変態である。そんな女性いないよ」
「だからシズちゃんが女の子であればいいんだよ」
「だから僕は女性でも男性でも問題ないっていってるじゃないか」
「僕は女性じゃないとダメなんだよっ!!」
「もう、しょうがないからさ、友達から始めてみようよ。そして友達で終わろう」
「はぁ、世の中間々ならなすぎる。『平和な街』に閉じこもろうか」
「それはそれで……」
『平和な街』というのはカミーユの魔法による空間である。公爵家らしく、血に連なる凄惨な物語の果てに存在する能力。ウォルデンバーグ家が学院を管轄することになった要因でもある。
元は単純な結界魔法の延長に近いものであったらしいが、カミーユの幼少期の体験が元となり、あの様な形になっているとか。
今度詳しく説明してもらおう。人生に疲れた時にあの空間で暮らすためにも。
「で、どうするんだい、シズちゃん。今更人間の一人や二人増えたって、爺やの泣き言が一つや二つ増えるくらいだ」
「折角だし、お言葉に甘えさせてもらうよ」
宿泊先ゲットである。
「ところで、襲われるほうと襲うほうどっちが好み?」
「―――あぁ、なぜ君が男なのだろう」




