chap2-4
やれやれ、と黒猫がため息をついた。
「君には情緒ってものが足りないね。ゲームに勝利するために相手を殺すなんて無粋極まるよ」
「ここで重要なのは相手を殺す力があること、殺しても誰にも文句を言わせないこと。ゲームをする相手を選びそこなった時点で、そこに粋なんて存在しないんだよ」
「まず、君は証明しなくれはいけない。君がそういった存在であるということをね」
どうぞ、と促す沈黙が降りる。
さて、と僕は少し考える。
「ベータ、僕が幻覚を見るような、普段は存在しない身体に作用する力があれば、それを解除して」
ベータが淡い緑色の光を放つ。が、すぐにそれを収め、困惑気味に身体を揺らす。意志が伝わる。僕の身体に異変はない。
「デルタ、僕の精神に変調をきたす様な外的な力があれば、それを遮断して」
デルタが黒く輝く。が、ベータと同じくそれもすぐに収まってしまう。伝わる意思は、やはり外的な要因は存在しない、ということ。
「なんだい、いわゆる大言壮語、ってヤツかな?」
黒猫が人間のように笑う。
「いや、違うよ。魔法による精神作用ではない。なら、考えられるのは、この世界が実際に存在していて、そこに丸ごと僕が移動した、と考えるべきだ」
「もしかしたら、君の力が、いやそのアーティファクトの力が及ばないのかもしれない」
「これから僕はアルファに命じて、この空間を完全破壊してもらおうと思う」
黒猫の話は聞かず、僕はそう言いきる。
「さて、外に出すなら今のうちだよ」
「なぁに、やってみればいい」
黒猫が退屈そうに欠伸をする。
「そう、なら、大いにやらせてもらう。アルファ、僕が先ほどまでいた世界に戻るために必要なものを全て攻撃し、破壊せよ」
「そんなこと―――」
初めて、黒猫が驚きを表す。僕は軽薄そうに笑う。
アルファが強く、強く赤い輝きを増す。それは夕日の様に眩しく、血のように濃く、咲き乱れる華のように鮮烈。その震えは攻撃を開始していないにも関わらず、街を震わせ、崩していく。虚構の街の、虚構的な終わり方。
「そんな、こんなこと」
呆然と、アルファを見つめる黒猫―――カミーユ。彼に向かって、薄っぺらく僕は言い放つ。
「もう一度いうけど、相手を選びそこなったね」
アルファ、ベータ、デルタに共通していえることである。ベータなら僕の体の情報であったり、デルタであれば外的な刺激にたいする情報であったり。そういった、無限ともいえる膨大な情報がなければ、僕を癒したり守ったりすることなんて出来ない。同じことはアルファにもいえる。
僕にはわからない、あるいは人間には処理できない外的な要因を、アルファになら出来る。
「僕の、僕の世界がっ」
アルファは、この世界に存在するあらゆる情報を摂取し、それを攻撃する。それが、僕の望んだ、僕の描いた、神様の与えた能力。
人間に付与する力には限りがある。最強の力も、最強の頭脳も、全て扱う者によって能力は上下してしまう。ならば、もとから自分に付与するのではなく、モノに付与して、命令という形で扱うのが一番である。
おそらく、このカミーユの世界は相当特殊な能力であると思う。ありきたりな雷や炎の魔法ではない何か。しかし、そういった特殊であったり想像しにくい能力も、僕ではなく、アルファが情報を摂取し、攻撃するのであれば、一切の問題はない。
アルファがその輝きを一つ、落ち着かせる、周囲に伝わる波動が少し落ち着いたが、それでもこの世界は震えている。まさしく人外の、理不尽な、『攻撃』という一個の概念に対して。
「さて、これが所謂、話し合いだ」
「―――なんだって?」
黒猫が、呆然としたまま僕を見つめる。
僕は、ニヤッ、と改心の笑みを浮かべる。
「そう、カミーユ、これはありがちな話だ。いくら内政や軍政に通じる人間がいたって、攻め込まれたときに相手取る人間がいなけりゃ負けだ。いくら頭が良くて資産があっても、愛する妻と子を奪われてしまえば手も足もでない。これはそういうお話。前者なら攻め込まれた時点で、後者なら奪われた時点で、―――現状であれば、君が僕を選んだ時点で、もう詰んでいるんだよ」
だから、そう。
話し合いは、強者にのみ許される。
「それじゃあ、改めて、話し合おう。具体的には、僕がこの世界を出ることについて」




