表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢、ダンジョン配信で聖女より稼いでざまぁする  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/15

第11話「揺らぐ聖女、暴かれる嘘」


 異変は、ギルドの酒場で耳にした。


「聖女の配信、なんか変じゃなかったか?」


 カウンター越しに聞こえた冒険者の声。隣の席の男が応じた。


「あー、昨日のやつ。癒しの魔法でけが人治すシーンだろ。あれ、傷の位置が途中で変わってなかった?」


「だよな? 右腕だったのに、次の場面で左腕にテープ巻いてた。おかしいだろ」


 私は黙ってスープを啜りながら、耳を傾けていた。


 エレノアの配信に不自然な点がある。それを視聴者が気づき始めている。


 興味深い話だった。けれど、今の私には関係ない。私の戦場はダンジョンで、エレノアの配信の問題はエレノア自身の問題だ。


 そう思っていた。ヒューゴが現れるまでは。


「やあ、リゼットさん。林檎の調子はどう?」


 いつの間にか隣に座っていた。気配がなかった。情報屋という職業は、存在感を消す技術も含むらしい。


「ヒューゴさん。証拠は見つかりましたか」


「おや、覚えててくれたんだ。嬉しいな」


「答えてください」


「せっかちだね。――半分」


 ヒューゴがカウンターに肘をつき、声を落とした。


「聖女の配信は、一部が事前に撮影された映像を混ぜてる。生配信に見せかけてるけど、実際は編集済みの場面が挿入されてるんだ」


「それは――不正ではありませんか。魔導配信は生中継が前提のはず」


「その通り。記録珠の仕様上、魔力を流し続けている間はリアルタイム配信しかできない。つまり、事前録画を混ぜるには記録珠を一度止めて、別の記録珠に録画しておいた映像を流し込む必要がある」


「記録珠を二つ使っている?」


「そう。で、その技術を持ってるのは相当な腕の魔導具技師。聖女の周辺に、そういう人物がいる」


 フィオナと同じレベルの技師が、エレノアの裏にもいるということ。


「証拠は?」


「僕が持ってるのは状況証拠だけ。配信映像の不自然な切り替わりのタイムスタンプと、聖女の侍女が魔導具工房に出入りしていた目撃情報。決定打にはならない」


「それで半分、と」


「うん。でもね、面白いことに――僕だけじゃなくて、もう一人調べてる人がいるんだよ」


「誰です」


「アルベルト・グラン・ヴェステリア」


 宰相の息子。社交界で何度か会ったことがある。眼鏡をかけた、冷静で理知的な男性。会話は事務的で、感情をほとんど表に出さない人だった。


「彼が、なぜ」


「宰相家は国の運営に関わる。聖女の配信は国策の一部だからね。不正があるなら、国の信用に関わる。アルベルトさんは、配信の視聴データを分析してるみたいだよ」


 アルベルトが動いている。ヒューゴとは別ルートで。


「……私に何を求めているのですか。ヒューゴさん」


「求める? 何も。情報を渡してるだけだよ。使うかどうかはあなた次第」


「無料で?」


「前に言ったでしょ、確証が取れたら有料って。今は確証がないから無料。ほら、お得」


 飄々とした笑顔だった。この男の本心は読めない。でも、情報自体は筋が通っている。


 ヒューゴが立ち上がった。


「あ、もう一つだけ。あなたの装備に細工された件、覚えてる?」


「革紐のことですか」


「あれの実行犯、ギルドの下働きの一人だった。夜間清掃で装備置き場に出入りする権限を持ってた人間でね。管理官の鍵じゃなく、清掃用の合鍵で入ったみたいだよ。金を受け取って革紐を切った。金の出所は……まあ、想像に任せるよ」


 ヒューゴは手を振って去っていった。


 残された私は、冷めたスープを見つめていた。


 聖女の配信が不正。装備の妨害工作。噂の流布。


 全てが一つに繋がろうとしている。


 でも、確証がない。確証のない状態で動くのは危険だ。


 前世の仕事でも、裏付けのない情報で動いて痛い目を見たことがある。


 借家に戻ると、セリナが帳簿をつけていた。


「お姉様、おかえり。今日の収支、まとめたよ」


「ありがとう。セリナ、一つ聞いていい?」


「なに?」


「もし、誰かの不正を知ったとして。でも証拠が不十分だったら、あなたならどうする?」


 セリナが首を傾げた。


「証拠が足りないなら、集めるでしょ。集まるまで待つ」


「待つ間に、相手が先に動いてきたら?」


「そしたら、受けて立つ。お姉様はいつもそうしてるじゃない」


 単純な答えだった。でも、正しかった。


 証拠が揃うまで待つ。その間、私がすべきことはダンジョンに潜り、配信を続けること。


 エレノアの不正は、いずれ表に出る。ヒューゴが動いている。アルベルトも動いている。


 私の仕事は、正面からぶつかることだ。裏工作は性に合わない。


「セリナ。明日から第21層以降に挑む。配信も続ける」


「うん。あたしは帳簿と買い出しと情報収集、全部やるよ」


「頼もしいわね」


「お姉様の妹だもん」


 セリナが笑った。


 窓の外に、月が出ていた。


 ここまで来た。200万人の視聴者。エレノアと並んだ。


 次は、超える。


 正々堂々、ダンジョンの深層で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ