表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢、ダンジョン配信で聖女より稼いでざまぁする  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/15

第10話「第20層、視聴者200万の壁」


 第20層。二度目のボス階層。


 広い空間の中央に、それは立っていた。


 黒曜石の蟷螂。全身が黒い鉱石のような外殻に覆われた巨大な蟷螂だ。岩甲蟲を超える体躯。二本の鎌腕が、闇の中で鈍い光を放っていた。


 見た瞬間にわかった。第10層の岩甲蟲とは格が違う。


 記録珠の視聴者数が急上昇していた。130万、150万、170万。


「第20層ボス、黒曜石の蟷螂です」


 声を出したのは、自分を落ち着かせるためだった。


 蟷螂がこちらを認識した。三角形の頭部が、ゆっくりと旋回する。複眼が光った。


 来る。


 鎌腕が振り下ろされた。


 横に跳んだ。鎌が地面に突き刺さり、岩盤が砕けた。衝撃波だけで身体が持っていかれそうになる。


 火球を撃った。蟷螂の胸部に命中。だが、黒曜石の外殻に弾かれた。岩甲蟲と同じだ。表面からでは通じない。


 違うのは、こいつの方が速いこと。


 二撃目の鎌腕が横薙ぎに振られた。しゃがんで避ける。風圧で耳が痛い。


 三撃目。上からの叩きつけ。転がって避ける。着地した場所の岩盤が粉砕された。


 速い。硬い。重い。三拍子揃った最悪の相手。


 だが、観察はできている。


 鎌腕を振るうとき、胸部の外殻がわずかに開く。関節の構造上、腕を大きく振ると胸部に隙間ができるのだ。


 そこだ。


 問題は距離。隙間は鎌腕の付け根のすぐ横。つまり、鎌の射程内に入らなければ狙えない。


 火球では無理。飛び道具では隙間に入らない。


 火の刃の出番だった。


 右手に魔力を集中させた。掌から薄い炎が伸びる。十秒。十秒だけ維持できれば、一撃分の距離は稼げる。


 蟷螂が四度目の鎌を振り上げた。


 私は、その懐に飛び込んだ。


『また突っ込んだ!!』

『この人正面突撃しか知らないの!?』


 コメントが叫んでいるのが視界の端に映った。


 鎌が振り下ろされる。だが、懐に入った私には当たらない。鎌の軌道は外側に向かう。内側は死角だ。


 胸部の隙間が、目の前にあった。


 火の刃を突き立てた。


 刃が外殻の隙間に滑り込み、内部に食い込んだ。蟷螂の全身が痙攣した。甲高い悲鳴が空間に響く。


 だが、倒れない。


 火の刃が消えた。十秒の限界。魔力が足りない。


 蟷螂が暴れた。鎌腕がでたらめに振り回される。懐から弾き飛ばされ、地面を三回転がった。


 背中を岩盤にぶつけた。息が詰まる。痛みで視界が明滅した。


 立て。立て。


 蟷螂が体勢を立て直そうとしている。胸部からは煙が出ている。火の刃は効いた。だが、致命傷には至っていない。


 魔力の残量を確認する。火球は二発分。火の刃はもう維持できない。記録珠の稼働を止めれば、あと一発分は絞り出せる。


 配信を止める?


 200万人が見ている。今この瞬間を。


 ――止めない。


 もう一つ、手がある。


 蓄魔石のピアスに触れた。温かい石。半日かけて溜めた魔力が詰まっている。


 フィオナが言っていた。「一気に放出すれば火球三発分」。


 切り札だ。使い所は今しかない。


 右手に火球を練りながら、左手でピアスに触れる。蓄魔石から魔力を引き出す。


 二つの魔力が合流した。右手の火球が、通常の倍以上に膨れ上がった。熱で空気が歪む。


 蟷螂が突進してくる。


 私は、全力で投げた。


 火球が蟷螂の胸部に命中した。


 今度は弾かれなかった。先ほどの火の刃で傷ついた隙間から、炎が内部に侵入した。


 黒曜石の外殻が、内側から赤く光った。亀裂が走る。蟷螂が悲鳴を上げた。全身から煙が噴き出す。


 外殻が砕けた。


 蟷螂が崩れ落ちた。黒い破片が散らばり、地面に転がった。


 静寂。


 膝から力が抜けた。座り込んだ。全身が震えている。


 記録珠の画面を見た。


 視聴者数、200万。


 金文字が画面を埋め尽くしていた。


『黒鉄の騎士より:圧巻。これが、お前の実力だ。』 ―― 5金貨

『名も無き商人より:王都の店が全部足を止めて見てた。全員拍手してる。』 ―― 3金貨

『深淵を覗く者より:第20層単独撃破。歴史に刻まれるべき偉業だ。』 ―― 5金貨


 200万。


 エレノアと同じ数字に、並んだ。


「……ありがとう、ございます」


 声が掠れていた。


「第20層ボス、撃破しました。皆様の応援が、ここまで連れてきてくれました」


 ぼろぼろだった。背中は打撲で痛い。右手は魔力の酷使で痺れている。左腕の痣は袖の下で脈打っている。


 でも、笑った。


「これからも、配信は続けます。まだまだ、先がありますから」


 記録珠の光が、薄くなっていた。魔力の残滓だけで、かろうじて灯っている。


「それでは、また次の配信で」


 光が消えた。


 真っ暗な第20層で、私は一人で座っていた。


 達成感があった。疲労があった。そして、小さな不安があった。


 200万に並んだ。ここから先は、追う側ではなく追われる側にもなる。


 エレノアが黙っているとは思えない。


 さて、と。


 まずは、地上に帰ろう。セリナが待っている。グレンがいる。フィオナがいる。


 立ち上がった。足元がふらついた。壁に手をついて、一歩ずつ歩いた。


 第20層の出口に向かいながら、ふと思った。


 ここまで来た。婚約破棄から38日。たった38日で、聖女と並んだ。


 でも、まだ終わりじゃない。


 並んだだけじゃ、意味がない。


 超えないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ