99話~黒川先輩ですか?~
※急遽、2話連続投稿が決まりました。こちらは1話目※
「おはようございまーす」
久しぶりに出社すると、相変わらずの仲間達が俺に手を上げ「おう」「おはよ」と挨拶を返してくれる。
いつも通り。だけどちょっと印象が変わっている。白髪が増えたとかもあるんだけど、顎の辺りがスッキリしている。
これは…。
「おいっす」
見回していると、ニカッとくしゃくしゃな笑顔と共に岩本先輩がやってきた。
俺は頭を下げる。
「ご無沙汰しています。岩本”室長”」
「おう、黒川。元気そうじゃねえか。向こうの生活はどうよ?」
「肩身が狭いですよ。やっぱりこっちの方が俺には合ってます」
「しゃらくせえ。特級入区者が何言ってやがる」
岩本室長が肩を震わせて笑うので、俺も釣られて笑みを零す。すると、彼は手に持っていたスマホの画面をこちらに向けた。
「それよりお前、これ見たか?今朝の会見。総理がすげぇこと発表してるぞ?」
「すげぇこと?」
俺は気になり、室長の横に並ぶ。彼が動画を再生すると、画面の向こうで美女が壇上で胸を張っている姿が映し出された。
女性キャスターの声で、解説が流れる。
『医療改革スタートから6年目となる今朝、川咲総理が医療改革の途中経過について説明を行いました。改革実施5年の成果を強調し、好調な支持率の堅持を狙ったものと思われます』
女性キャスターに続き、総理の声が表に出る。
『本日、医療改革5年間の結果が報告されました。報告書によると、昨年度の女児出生率は22%と、5か年計画の目標であった20%を超える成果となりました。加えて、日本国女性の総人口においても165万6300人余りと、当初目標であった150万人を大きく超える成果であります。これは偏に、国民の皆様からのご理解とご協力があっての事と存じております』
川咲総理が淡々と、でも口元は嬉しそうにヒク付かせながらこちらを見る。
テロップには、〈改革10年目は女児出生率44%、女性人口300万人達成か〉という文字が流れている。
44%…バグを使わない出生率が48~49%だから、ほぼほぼ自然出生だ。
ただHg-Xを使っていないだけで、支持率が堅持出来るなんてズルい…って思ってしまうが、彼女達も苦労しているらしい。外国からの圧力がかなり凄いって話だから。
日本は経済も好調だからね。苦戦している国からしたら羨ましいのだろう。
これは是非とも、アドバイザーとして派遣された鞍瀬特別顧問と、彼の秘書となった一星秘書官に期待だな。この前はアメリカの特区を立て直したから、次は中国特区に行っているみたいだし。
「いやぁ~。日本の未来は明るいな。なぁ?」
「そう…ですねぇ」
妙に笑顔が輝いている室長に、俺はつい引き気味に頷いていた。
何だろう?いつもより圧が強いぞ?この人。
もしかして…。
「何かありました?岩本さん」
「おっ?分かっちゃう?」
室長は嬉しそうに何かを差し出してきた。
えっと…手紙?
「実はな、特区の女性と文通しててよ。ほら、俺らって女性とのやり取りが多いだろ?そこでちょいと縁があってな」
室長の言う通りだった。オフィスは妙に明るく、遠くからは女性の声が聞こえる気がした。
なるほどな。
「道理で皆さん、オシャレになったと思いました」
「おうよ。ちゃんと毎週、スバル様の講習会に出てるからな。女性へのマナーはバッチリだ」
岩本室長が親指を上げる。
自信満々だな。
俺は他の部署にも顔を出して、みんなに挨拶をする。既に杉森支社長も星里部長も引退された後だったので、彼らに直接挨拶出来なかったのは心残りだ。
そして、
「まっちゃん…」
一番世話になった彼の席には、知らない青年が座っていた。
彼の席は、この会社の何処にもない。もう会社の名簿にも名前は載っていなかった。
仕方がない事だけど、やはり寂しい。
「あの、済みません。黒川先輩ですか?」
そこの席を見ていたら、座っていた青年から話しかけられてしまった。
俺はぎこちない動作で頷く。
「ああ、そうだけど?」
「うわぁ、やっぱり!自分、宮原って言います。あの出来たら、握手して貰えませんか?」
「あ、握手?」
彼の圧に押される形で、俺は後輩と握手する。
それだけで、宮原君は大興奮だ。
「ありがとうございます!俺、黒川さんに憧れてこの会社入ったんす。松戸ゲートでの戦い、すげぇ痺れたっす」
ああ、あれを見たのね。
「俺も黒川さんみたいに、本社への栄転を目指して頑張ります!」
「いや、俺なんか…」
俺は恥ずかしくて、つい否定の言葉を吐きそうになった。
でも、止める。俺を憧れてくれた青年に、それは違うだろうと思い直す。
「俺を目標にしてくれるのは有り難いけどね、宮原君。先ずはしっかりと、自分の仕事に向き合ってくれ。”俺達の仕事は、現場第一だ”。それを忘れるな」
あの日、俺が本社に移動するとなった時、杉森支社長から貰った言葉だ。それを、彼に渡す。
この会社を担う、新たな世代に託す。
「はいっ!ありがとうございますっ!」
宮原君は、しっかりと受け取ってくれた。
それから幾つかの会議を終えた俺は、また特区への帰路に着く。嘗ての仲間達に別れを告げ、外に出た。
そこには、新たな区外の姿があった。
街の看板には女性がポーズを取っているものが幾つも張り出され、テレビからは女性のニュースキャスターが原稿を読み上げる声が聞こえてくる。道行く男性達の姿も見違えた。腹がへっこみ、無精髭も剃られてスッキリだ。背筋も伸びて、スバル様の講座が効いているのが一目で分かる。
分かるけど…ちょっと効き過ぎだな。彼女のコーデと同じ、王子様コスに身を包むおっさんが何人かいる。
是非とも一度、鏡を見て欲しいものだ。
「よーし。休憩終わりだ、お前ら。一旦集合!午後のミーティングだ」
ゲートの前まで戻ってくると、作業着姿の男性達が集まっていた。その制服は、何処かで見たことのある物だった。
髪を銀色に染め上げて青少年が、集合を掛けたおじさんに駆け寄る。
「すんません、上出さん。ここで集まって駄弁るより俺、早く働きたいんですけど?」
社会人になりたてっぽい若者に、周りのベテランっぽい男性達はヤレヤレと首を振る。
その中の1人が彼に近づき、手袋を外した。
「俺も昔、お前と同じことを言っていたんだ。そんで、この薬指と小指を失ったんだよ」
「ひっ…!」
欠けた指を見て、銀髪青少年は顔を青くする。
そこに、笑顔の上出さんが近づく。
「良いか?坊主。現場で一番に優先すべきは女性じゃねえ。安全だ。分かるか?」
「はっ、はい。親方」
素直に頷く青少年を見て、上出さんは満足そうな顔を上げる。
その時、俺と視線が合う。
彼は少し目を見開き、頬を引き上げる。そして、直ぐに背を見せた。
「よしっ。先ずはテーブルミーティングを始めるぞ。ご安全に!」
「「「ご安全に!」」」
息が合った彼らの様子に、俺も満足してゲートの中へと入る。
そこでは、空港さながらのX線装置が設置されており、入区する者をくまなく検査し、針一本通さない厳重警備が敷かれていた。
特級入区証を持っている俺ですら、30分近く待たされる始末。でも、昔に比べたら随分とスピーディーになった。あの時はケツ穴まで見られそうになったからな。
「貴様ら!そんなんでどうする!?入区したくないのか!」
俺が昔を懐かしみながら検問を越えると、そんな怒鳴り声が聞こえた。見ると、ゲートを潜ってすぐの広場で、管理局員達が一般人をイジメていた。
…いや、イジメじゃない。彼らは適応試験をパスした人達だ。入区の資格を得て、いよいよ入区の一歩を踏み出したところ。そこで…踏み出した途端にぶっ倒れていた。彼らの目の前には、呆れ顔の女性管理局員が。
う~ん。何度も見かける風景だけど、やっぱり最初はみんな青天井になるんだな。
まるで部活の一部分を見ている気で入区初心者達を眺めていると、その中に見知った顔を見つけた。嬉しくて、そいつに手を振ってしまう。
「おーい!鷲塚。何やってんだ?一般人に混じって」
「ばっ!?しぃ!しぃ~!!」
一生懸命にジェスチャーをする鷲塚。
…なんか、見たことある風景だな。もしかしてお前、鞍瀬元局長の真似をしてるのか?一般人に混じって、彼らを足拭きマットにしようとしてるの?
長官になったからって、そんなところまで引き継がなくて良いと思うけどな。
鷲塚に怒られる前に、俺はその場から退散する。
区外から搬入されるトラックを横目に歩いていると、大きな駐車場にたどり着く。そこで、キョロキョロとしていると。
「パパー!」
弾丸のような速さで、黒髪の幼女が突っ込んできた。
俺は彼女を受け止めきれず、お腹に思いっきり頭突きを喰らって倒されてしまう。
ぐはっ!
「パパ―?大丈夫?」
アスファルトの上に転がった俺を、その実行犯がしれっと心配する。
だが、俺は怒ることが出来ない。
仕方がない。血の繋がった愛娘だからな。
「ああ。大丈夫だよ、春那。鍛えているからね」
俺は彼女の頭を撫でながら、立ち上がる。
「それで?ハルちゃんの母さんはどうしたんだ?」
「ママはね、あっちー!」
ハルナが指さす方を見ると、
「ケンゴー!」
同じように突っ込んでくる、女傑が1人。
待て、待て待て!
「お前は止まってくれ!カンナ―!」
俺は絶叫した。
ええっと、済みません。書き切れなかったので、残りは明日に…。
「もう最後であろう?ならば、今日中に投稿するのだ」
今日中!?
「皆も待って居られん。19時に投稿だ」
60分後!?
…最後だからって、なんて無茶ぶりを…。




