100話(最終回)~大丈夫かな?女の子なんて~
※今日は2話連続投稿です。こちらは2話目です。ご注意下さい※
「いやぁ、面白いくらいに吹っ飛んだな」
「吹っ飛ばす前に止まってくれ!」
カンナさんが運転する車の中で、俺は堪らずツッコむ。でも、それを受け取った彼女は楽しそうに笑う。
「仕方ねぇだろ?1週間ぶりの再会なんだからよ」
…そう言われてしまうと、俺は何も言い返せなくなってしまう。
「ケンゴも体鍛えて、あたしくらい受け止められるようになるんだぞ?」
…君を受け止めるって、ボディビルダーくらい必要な気がするんだが?
「それより、どうだったよ?久しぶりの区外は」
「そうだね。色々と変わった部分は多かったけど、やっぱり一番変わってたのは男性達の意識かな」
女性に見られるかも?って意識が、彼らの美意識を変えていた。身なりを整え、清潔にして。
でも、以前のような過度の物ではなかった。まだ「女性の為に」って考え方は根強く残ってはいるものの、それで身を削るのは違うと思い始めてくれた。
少しずつ、歪な価値観が正されているのを感じた。
それを聞いて、カンナさんはハンドルを握りながら「なるほどなぁ」と笑みを浮かべる。
「なら、ハルナが小学生になっても安心だな」
「うん?小学生?」
「ああ。だって、ほら、区外に社会科見学するだろ?」
「えっ?」
驚いて聞いてみると、どうも小学生の課外授業で区外に出て勉強するらしい。本当に短時間で、準特区の中だけらしいのだが、それでも男性と接触する機会はあるとのこと。
「そうやって、あたしらの方も意識が変わって行くんだろうな。男の俳優とかも、ミュージカルで入区したりするじゃん?」
「まぁ、それは喜ばしいことだけど…」
俺は一抹の不安を抱いた。
ハルナは活発で可愛いから、悪い男に騙されたりしないだろうか?大抵の男は耐性がないけど、徐々に松本君や鞍瀬さんレベルの耐性を獲得した奴も出てきているみたいだし…。
「おっ。噂をすれば、日本のトップアイドル様だぞ」
「あっ!オトハ様だ!」
後部座席でハルナがはしゃぐ。チャイルドシートがギシギシ悲鳴を上げていた。
頼むから、もう壊さないでくれよ?
「ねぇ、見て!パパ。じょおー様だよ!」
「ああ、本当だね」
ハルナが指し示す方を見ると、そこにはビルの壁に巨大モニターが設置されており、その中でオトハ様が記者団に囲まれていた。後ろには東京タワーが聳え立ち…あれ?違うな。東京タワーじゃないぞ?これ、エッフェル塔だ。
「すげぇよな、乙葉の奴。今度はパリのファッションショーだってよ」
なんと。今度はパリ特区にまで行っているのか。デザイナーも始めたとか聞いたけど、体は持つのか?
彼女の心配をしていると、後ろのギシギシ音が激しくなる。
「ママ、オトハ様とお友達?」
「おう。あの足元の犬を散歩させたことあるぞ」
「わぁー!あたしもワンちゃん欲しい!」
ああ…。なんかまた、ハルナが恐ろしい事言ってる…。
「あとな。あの2人とも飲んだことあるぞ?」
2人と言って、カンナさんは画面をチラ見する。そこには、オトハ様を守ろうと両手を広げるアコちゃんと、その彼女も守ろうと必死な表情の松本君が居た。
よう、まっちゃん。元気そうで安心したよ。
「よぉ~し。そろそろ病院着くぞぉ」
カンナさんがそう言った途端、後ろのギシギシ音が止んだ。
俺も、緊張で肩が張る。前を見ると、大きな白い建物が見えた。
そして、直ぐに車は病院の駐車場に着く。3人で中に入り、受付を済ませて病棟へ。永遠に続くのではと思える程長い廊下を歩き、目的の病室を目指す。
でも、その途中。ナースステーション目の前のソファーで、小さな男の子が座っている姿が目に入った。
「橙夜」
「っ!」
俺の零した声に、男の子は伏せていた顔をバッと上げて、駆け寄って来た。そして、屈んだ俺の胸の中に飛び込んで来た。
「どうした?トウヤ。こんな所で。お母さんの所に居るんじゃなかったのか?」
「…寝てる」
トウヤは一言だけ呟き、俺のワイシャツを掴む手に力を入れる。
なるほど。寂しかったのか。なら、カンナさん達と一緒に来たら良かったのに。
俺はトウヤを抱きかかえ、ステーションで手続きをする。そして、4人で病室へと向かった。
「あっ、お帰りなさい。ケンゴさん」
そうして病室に入ると、ちょっと疲れた顔のミヤコさんが出迎えてくれた。ベッドをリクライニングさせて、背もたれにしている。
途端に、腕の中の息子が暴れ出したので、床に降ろす。そうすると、トウヤは脱兎のごとくミヤコさんの元へ。
あっ、やばっ!
「ママー!」
「おっと、あぶねぇ」
俺が走り出すより早く、カンナさんがトウヤの首根っこを捕まえてくれた。そしてそのまま、抱きかかえる。
「おい。気を付けろよ、トウヤ。ママは大変なんだから」
大変と言って、カンナさんがミヤコさんを見る。すると彼女は弱々しく笑い、その大きく膨らんだお腹を摩った。
それを見て、トウヤが口を尖らせる。
「つまんない」
不貞腐れるトウヤに、カンナさんが「よぉ〜しっ」と特大の笑顔を浮かべる。
「なら、あたしと外で遊ぶぞ。何が良い?鬼ごっこか?」
「あたし!プロレスしたい!」
「よぉ〜し、良いぞ。またお前ら、投げ飛ばしてやる」
いや、そりゃ止めてくれ。下手に落ちたら大変だぞ?
俺も彼女の背について行こうとすると、カンナさんに止められる。ミヤコさんに付いていろと椅子を指さす。
「1週間ぶりだろ?」
「ああ」
気を使ってくれたのか。有難い。
カンナさん達を見送って、俺は病室に戻る。丸椅子を掴んで、ミヤコさんのベッド横に座った。
「体調はどうだい?」
「大丈夫。随分と落ち着いて来たわ。偶に蹴られて、びっくりしちゃうけど」
ミヤコさんが小さく笑い、お腹を摩る。
良かった。出張中に産まれたらどうしようかと心配していたけど、間に合ったみたいだな。
俺は小さく息を吐き出し、緊張を解く。
「それは随分と活発な子だね。また男の子かな?」
「女の子ですって。この前、お医者さんから言われたの」
むっ。女の子か。
俺が再び緊張を覚える前で、ミヤコさんが「ねぇ」と話しかけて来る。
「名前はどうする?」
「うん。そうだね。女の子だから、今度は美を付けたいと思ってる。例えば…美来とか、恵美とか」
考えながらそう提案すると、ミヤコさんがトウヤみたいに口を尖らせる。
うん?どしたの?
「もう、ケンゴさん。次はケンゴさんの名前から取るって約束だったじゃないですか」
ああ、そう言う事ね。
俺は安心し、両手を上げる。
「いや、だってさ。女の子の名前に、慶も吾も可哀想じゃないか?」
無理に俺の名前で縛って、将来シワシワネームだってこの子が泣いたら堪らない。
俺が「そうだろ?」と同意を求めると、ミヤコさんは口元を緩めて得意げに微笑む。
「なら、美慶はどうかしら?」
「おぉ〜」
ミノリ。いい響きだ。きっと、ずっと考えていてくれたんだね。
俺は椅子をベッドに近づけて、彼女のお腹に語りかける。
「ミノリ。君の名前は、ミノリに決定したよ」
俺がそう言うと、ミヤコさんが「あっ」と声を漏らす。
「動いた」
「ホント?」
「ええ。触ってみて」
許可を貰ったので、俺は優しく彼女のお腹に手を置く。すると、トントンと命の鼓動が伝わって来た。
おおっ。
「本当だ」
「ね?きっと、名前が気に入ったのよ」
そうだろうな。
俺はミヤコさんのお腹を摩る。でもその内、再び不安が頭をよぎる。
ついそれを、彼女に零していた。
「大丈夫かな?女の子なんて。こんな厳しい世界で」
女性人口が回復しているとは言え、まだまだ女性は希少な存在。肩身の狭い思いをしないだろうか?
「大丈夫よ」
顔を伏せていると、ミヤコさんの力強い声がする。顔を上げると、明るい彼女の笑顔があった。
「私達なんて、もっと厳しい世界を生き抜いて来たじゃない」
「そう、だな」
確かに、厳しい世界だった。
男女比100:1とか言う狂った世界で、男達はスクリーン越しの女性に大興奮。女性は女性で崩れ行く日常に無頓着で、いつ世界が崩壊してもおかしくはなかった。
でも、俺達は生き抜いた。あの狂った世界も少しずつ良くなってきて、安心できる場所が増えてきた。
「それに、何かあってもまた、ケンゴさんが私達を守ってくれるでしょ?あの時みたいに」
「ああ、勿論」
俺が頷くと、ミヤコさんが安心した様子で微笑んだ。そして、窓の外を見る。
つられて、俺も見る。目まぐるしく変わる、特区の様子が見えた。そしてその奥には、特区と外を隔てる壁が。
でも、その壁は、不思議といつもより低く見える気がした。
終わりましたね。
まだHg-Xの影響で、崩れかけた場所もありますけど…。
「時間の問題だな。それが修復されるのも」
はい。
私達は、彼らの明るい明日を信じて、次の世界を覗きに行くとしましょう。
「次は何処だ?また現代日本か」
はい。でも…黒戸さんの姿がありませんよ?何処でしょうか?
「あの、黒いのではないか?」
…えっ?
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