75話〜またトラックが上って来るぞ?〜
粗大ごみを捨てに来たはいいものの、問題が山積みであった。
その一つを解消するべく、俺は誘導灯を振る作業員に話しかける。
「お姉さん。もしもその制約がなくなったら、粗砕ゴミを捨てるサポートをしてもらう事は可能ですか?」
「ん~?そーだね~。毎回は嫌だけど、偶にならいいよぉ。早くして欲しい時とかもあるしぃ」
ふむふむ。そうか。それなら…。
「済みませんが、お姉さん。所長をお呼び頂けませんか?いらっしゃらなかったら、副所長でも」
「しょちょ~?」
「はい。少々ご相談したことがありまして」
俺が頼み込むと、お姉さんは「いいよ~?」と気の抜けた様子のままにスマホで電話を掛ける。
その間に、俺はソワソワしている2人の元に。
「さて、じゃあ俺達は、その人の荷下ろしを手伝ってあげようか」
「えっ?しちゃっても良いんですか?」
「責任がどうの言ってたじゃねぇか」
「それは、工場側と搬入者の間の話ね。俺達は同じ利用者だから」
とは言え。
「お婆さん。荷下ろしをお手伝いしましょうか?」
「あら?良いの?じゃあ、お願いね。終わったら教えてちょうだい」
さっきまでの弱弱しい演技を捨てて、運転席に戻ろうとするお婆さん。
それを、俺は止める。
「おばあさんも一緒に作業してください。あと、もしも荷下ろしで車を傷つけても、一切の責任は負いかねますので」
「えっ?」
「ご承知いただけないなら、我々もお手伝い出来ません」
「…分かったよ」
不貞腐れるお婆さん。
やはり、最初から全部やらせる気で来ていたな。居るんだよな。こういう他力本願な奴。
「次からは、積み込みを手伝われた方も一緒に連れて来て下さいね?」
そうでなければ、積み込むことも出来ない。
そう思って念を押すと、お婆さんは「ふんっ」と、尊大な態度で返事した。
全く…。こういう人が居るから、受け入れ基準も上げなくちゃいけなくなるんだ。
「黒川さん。誰かいらっしゃいましたよ?」
お婆さんの荷物を丁度降ろし終える頃、太った女性が「フー、フー」言いながらこちらへ駆け寄って来た。お姉さん達と同じ作業着。きっと所長だろう。
その人は俺達の前まで来ると、大きな目をカッと見開いて、自分の胸をドンドンッと叩いた。
「どうも、所長の西内です。お話は全部自分が聞きますんで、従業員に直接クレーム言うんはやめて下さい」
クレームって…。
一方的に決めつけられ、俺は相談しようとした言葉を飲み込んでしまう。
そこに、鈴木さんが前に進み出る。
「違うんです。少しお話をさせて頂きたくて…」
「良いですよ。聞こうじゃないですか」
だめだ。所長さんは俺達をクレーマーだと思って、完全に警戒態勢になっている。
こう言う時は…。
「西内所長。今日は一般の搬入が多く、皆さんも大変苦労されている事と思います。我々はその負荷を、少しでも減らせればと思っています」
セールストーク。相手に寄り添う姿勢を見せ、解決策をチラつかせる。
ちょっと腹黒いかもだが、効果的だ。
俺の目論見は、当たる。所長は少しだけ目の圧を下げてくれた。
「負荷を減らす?まさか、君らが手伝うとか言い出したりしませんよね?安全教育も受けてない一般人に、そんなことさせられませんよ?」
「勿論。直接手を出そうって意味ではありません。ただ、ちょっとアイディアをご提供出来たらと」
「アイディア?」
所長が聞く姿勢になったので、俺は頭の中の知識を披露する。すると…。
「まぁ…確かに、それならちょっとは…」
所長は苦い顔をした。
でも、
「効果はあるかもしれないけど…でもね、今からは無理よ。私も含め、今日は手の空いている所員がいませんから」
「そこは、我々が実施します。所長にはただ、ご許可を頂ければと」
「君達が?」
所長がポカンとしている前に、鈴木さんが進み出る。「私、こういう者です」と名刺を渡す。
途端、所長の圧が無くなる。
「あぁ!ごめんなさい。JIEさんだったのね。道理でお詳しい訳だ」
知っている名前で安心したみたい。もしかしたら、ここもうちの製品が入っているのかも。
「分かりました。けど、申し訳ないね。従業員でもない、メーカーさんにご協力頂いちゃって」
「いえ。お気になさらないでください。私達が手伝いたいって思っただけですので」
「そうです。これくらいの事でしたら、安全教育を受けていない我々でも出来ますので」
鈴木さんに続いて俺も頷くと、所長は「いやぁ、助かります」とホッとした笑みを浮かべた。
そうして、俺達は早速準備に入る。所長から許可を貰い、プラットホームの控室を貸してもらい、そこで作業をする。所長が持ってきてくれた大量のA3用紙と極太の油性ペンを目の前に、さてどうするかと構想を練る。
「もしよければ、私が書きましょうか?小さい頃、書道を習っていたので」
「そいつは助かるよ、鈴木さん」
字は得意じゃないからな、俺。凄く助かる。
そうして鈴木さんが書いてくれた物を、俺が並べて繋ぎ合わせ、空いた部分に佐川さんが色付けしてくれた。
そうすると、1枚の大きな看板が出来上がった。
「よし、良いね。次は計量棟用のも作っていこうか」
俺達は次々と、看板やチラシを作っていった。部屋にコピー機もあったので、そちらも使わせてもらって増版した。本当はパソコンで作った方が簡単だったけど、この部屋にあるパソコンは使えない。社内情報があるらしく、所長から許可が下りなかったからだ。
それでも十分だった。準備を終えた我々は、再び所長に来てもらって、確認をしてもらった。
「おおっ!良いね。素晴らしい出来だ!」
所長は大喜びで、早速看板を設置してくれた。
俺達も手伝おうとしたけれど、混在作業になるからと、そこは止められた。
徹底しているな、所長。もしかして建築関係の人?
「どうかな?こんなもんで」
脚立に登った所長が、こちらに声をかける。彼女の頭上には、我々が作った看板が掲げられていた。
〈荷降ろしはセルフでお願いします。作業員は手伝えません〜混在作業禁止〜〉
看板には、そう書かれていた。
これで、所員も断りやすくなるだろう。一般客も、そう言うものかと認識出来る。
ただ、どうしても体力が厳しい人等は、車から降ろした後は手伝ってもいい事になった。作業を棲み分け出来れば、混在作業にならない。
それを所長に明文化して貰い、受け入れのお姉さんにだけ渡しておく。
「うっし。じゃあ他の看板を置いてくるか」
「そうだな」
俺と佐川さんは、他の看板を持って外に出る。それを、計量棟の前や来る途中の道端に設置して、車から見える様に調整する。
〈小さなゴミは袋に入れて下さい〉〈長物は纏めて縛って〉〈産業廃棄物お断り!企業様は区役所へ〉
うん。これなら、計量棟に来る前に準備出来るだろう。そしたら、計量も少しは楽になる。
そう思って車の中を覗くと、慌ててゴソゴソし始める人が多数。中には窓を開けて「ちょっと!これ、どうすりゃいいの?」と聞いてくる人もいた。
やっぱり、事前に何も調べず、ただゴミ捨てに来た人も多いみたいだ。
そう言う人には、鈴木さんが作ってくれたチラシを渡す。簡単な説明と、〈詳しくは区のホームページへ〉と書かれた紙だ。
それを受け取ると、大抵の人は顔を引っ込めて作業に戻った。
そうそう。計量棟に着くまでに、捨てる準備を進めて下さいね。
「3人とも、ありがとう!めっちゃ楽になったって、所員みんなが感謝しているよ」
一通り車の流れが落ち着いたのを見守った後、計量棟まで帰ってくると所長が待っていた。そこで、彼女から感謝の言葉を頂いた。
「ほんとね、毎年この時期は辛かったんだよ。初めて来るお客さんは何も分かってないし、常連さんは待たされたって怒鳴るし。あげくに、渋滞が伸び過ぎて公道まで潰しちゃうから、周辺住民からもクレームの嵐だった」
朝来た時は、行列が下の道路まではみ出していたからね。そりゃクレームも来るだろう。
大変でしたねと所長に同情していると、彼女は「でも」と表情を明るくした。
「それがどうだい?今年は煩わしいクレームが殆どなかった!変な質問も減って、プラットホームの清掃時間も出来た。ほんと、君達のお陰だよ。これ、良かったら貰ってくれない?ちょっとした、感謝の気持ちって事でさ」
所長はそう言って、俺達に大きな紙袋を渡してくる。チラリと見ると、中にはミカンや乾麺の蕎麦などがパンパンに入っていた。
それを見て、鈴木さんが慌てる。
「そんなっ!こんなに頂けませんっ」
「いいの、いいの!貰ってちょうだい。本当なら、コンサル料渡さないといけないレベルだけど、そうすると色々問題になっちゃうからさ。せめてもの気持ちってことで」
「えっと…分かり、ました」
渋々受け取る鈴木さんを見て、所長さんもニッコリだ。
その彼女の後ろに、受付のお姉さんが立つ。
「ねぇ、お兄さん。ここで働かない?」
「えっ!?」
俺が驚くと、お姉さんはニヤっと笑みを浮かべる。
「所長も良いと思いません?彼が居たから、違法業者も撃退できた訳だし。私、彼と一緒に働きたいなぁ」
「末包さん。そりゃ無理だよ。だって、男の人だよ?」
「別に良くない?男だって、めっちゃ有能なんだから」
そう言って、こちらに流し目を向けて来るお姉さん。
うっ。そんな目で見ないでくれ。
「ダメです!」
眩しい眼差しに弱っていると、鈴木さんの背がそれを遮る。
「黒川さんは私の室員なんですから、引き抜きはダメです」
「ふ~ん。黒川って言うんだ、お兄さん」
強いな、お姉さん。鈴木さんの睨みつけるが全然効いていない。
鈴木さんもそう思ったのか、俺の腕を引っ張って「もう行きましょう!」と車へ誘う。
「皆さん!ありがと~!」
車を発進させる時、バックミラーに手を振る西内所長の姿が見えた。俺も窓を開けて、手を振り返す。彼女は俺達の車が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。
「良い人達だったな」
「何処がですか」
俺の呟きに、鈴木さんが頬を膨らませる。
いや、所長の事だよ?決して、受付のお姉さんの事じゃないよ?
「おっ。またトラックが上って来るぞ?」
鈴木さんの誤解を解こうとしていると、後部座席の佐川さんが指をさす。見ると、反対車線を同じ型のトラックが3台上って来る所だった。
「これがアレか?産廃を持ってくる違法業者か?」
「さて、どうだろうね…」
通り過ぎる車体に書かれていたのは〈白峰バイオケミカル〉の文字。何処かの企業っぽいが、産廃許可業者とは思えない名前だ。
でも、本当に違法業者だろうか?こんな受け入れ時間ギリギリだと、一般の車に紛れて入ることも出来ない。3台も一緒に来れば、業者であることは一目瞭然だし…。
何か、気になるな。
そう思って暫くサイドミラーを見ていたが、トラックが工場から出て来る様子は無かった。
受け入れ拒否されなかった。なら、許可業者だったのかな?
そう思って、俺は視線を切った。




