表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/7

6話~はぁ…またですか…~

「先輩!先輩!」


 社長と不思議な面談をした翌日。

 ちょっと早めに出社してパソコンをカタカタ叩いていた俺に、後輩の松本君が嬉しそうに駆け寄って来た。俺は手を止めて「昨日の事だろ?」と問いかけると、彼は少し驚いた表情で見返してきた。


「良く分かりましたね」

「今朝からその話題で持ち切りだからな」


 その話題とは、俺が社長と面談した話…ではなく、俺が辞退した昨日の慰問の事についてだ。

 随分と楽しかったのか、朝のオフィスのあちこちで卑猥な笑いが巻き起こっていた。しかも最悪な事に、その話題を俺に向かって投げかけて来るのだ。

 俺だけ会場に行かなかったからね。彼らからしたら、土産話を投げつける格好の標的に見えたみたいだ。お陰で、予定よりタスクが遅れてしまった。

 今度みんなが休む時は、俺も有給取って家でゆっくりしてよう…。そう思えるくらい。


「それで?まっちゃんは何を興奮していたんだ?」

「そうでした。ちょっと聞いてくださいよ。実は僕、昨日の慰問会で質問が出来たんです」

「おおっ。凄いじゃないか」


 オトハ様の時は、足をプルプルさせて耐えるので精一杯だったのに。


「僕も成長したんです」

「そうかぁ、成長か。それで?どんな質問をしたんだ?」

「先輩を見習って、慰問会を開いていただいたお礼を述べました」

「おおっ、良いね。さぞかし相手の女性は、君に好印象だったんじゃないか?」


 奇声を発するか、単調な質問をする人ばかりだったからね。この人は気遣いが出来る人だって、感心されたことだろう。

 そう期待して聞いてみたが、松本君は静かに首を振る。

 えっ?

 

「分かりません。お礼を言ってる途中で、気を失ったんで」

「失ったんかい!」


 ついツッコんでしまったが、それでも十分な成長だ。次は、最後まで質問できると良いね。


「おーい。黒川」


 そうして松本君と雑談していると、支社長に呼ばれた。手招きする彼の元に急ぐと、そのまま支社長室へと招かれてしまった。


「昨日の面談の件だがな、社長から連絡があったぞ。お前のことを、大層お褒め下さっているよ」


 パソコン画面を見ながら、嬉しそうに俺を見上げる支社長。

 彼が喜んでくれるのは、俺も嬉しいのだが…昨日の面談に、褒める要素があっただろうか?どちらかと言うと、睨まれたり不満を抱かせてしまった気がする。オトハ様の慰問会に行きたい!なんて、子供じみた要望を言っちゃったし…。

 何かの間違いじゃないですか?と支社長に視線を落としていると、彼の顔が再びこちらを向く。その瞳が、キラリと光った。


「それでな、黒川。お前に任せたい案件があるんだ」

「えっ?案件、ですか?」


 なんだ?話の流れからして、あの面談を受けたから発生したタスクって事だよな?余計に意味が分からんぞ?

 だって、仕事の話なんて殆どしていないし、そもそも社長から直で仕事を振られるなんて今までにない事だ。


「一体、どんな内容です?」

「なに、そんな身構えなくても良い。何時もお前がしていることだからな」

「俺がしていること?」

「ああ、そうだ。お前が何時もしていること。つまり…質問対応だ」



 社長から振られた仕事と言うのは、お得意様からのカスタマーサポートとの事。うちの卸した製品について、幾つか知りたいことがあるらしい。

 確かに俺の業務の中には、そう言った機器の説明だとか、トラブルに対する相談なども含まれている。ただそれは、見知った相手が殆どだ。今回みたいに、相手の顔も現場の状況も知らないパターンは初めての事。

 なので、どんな状況でもアドバイスが出来るようにと、過去資料のファイルを手元に置いて準備はした。けれど…。

 初めての相手。しかもそれは、あの社長と関りがある人間。

 さて、どう転ぶか。


 そうして、相手方が来社されるのを待っていると、俺の社用スマホに着信が入る。表示されている名前は〈支社長〉の3文字。


「はい。黒川です」

『く、黒川。つ…繋ぐ、ぞ?』

「えっ?どうしたんです?支社長」


 繋ぐという言葉よりも、俺は苦しそうな支社長の声が気になってしまった。

 いつも毅然(きぜん)としている彼に、何があったんだ?


 だが、支社長は俺の問いには答えず、乱暴に受話器を置いてしまう。そして、再び電話口に耳を付けると、向こうから誰かの息遣いが聞こえた。

 これは…転送されたんだ。俺は今、支社長が繋いだ相手と対峙している。その相手とは、きっと社長の顧客だろう。

 なんだ、直接来社するのかと思ったら、電話での対応だったのか。そう言えば、支社長もカスタマーサポートと言っていたし、最初からその予定だったのかも。

 そう思う事で平静を取り戻し、俺はいつも通りお客様に声を掛ける。


「お待たせしました。JIES、製品管理部の黒川です」

『はぁ…またですか…』


 うん?この声色は…女性か。

 ああ、なるほど。社長の顧客と言うのは、特区の人間なのか。もしかして、俺がオトハ様と会話したと聞いて、それなら女性客も行けるんじゃないか?と思われたのかも。

 そう言う事なら、社長との面談でこの仕事を任された意味も少しは分かる…のだが、いきなり溜息を吐かれるなんて思わなかった。

 これは、かなり厄介な客かもなと、俺は背筋を伸ばす。


「どうぞ、ご用件をお伺いいたします」

『えっ?』


 さて、どんな罵詈雑言が飛び出してくるかと身構えていると、次に届いたのは戸惑いの声。

 そして、相手の女性はしどろもどろながらに名乗る。


『あ、あの…私、JIEの鈴木美夜子(みやこ)と申しますけど…』


 うん?JIE?

 なんだ、うちの親会社じゃないか。もしかして、うちとも交流の深い人なのかな?だから、彼女の名前を知らない俺に戸惑っているのかも。

 済まないが俺、入社してまだ8年目なんだ。許してくれ。


「失礼しました、鈴木様。何分若輩者で。私でお手伝い出来る事でしたら、何なりと仰ってください」

『あぁ…はい。あの、そちらから頂いた製品で、エラー表示が出ていてですね。それで…』

「それは、ご不便をおかけして申し訳ございません。失礼ですが、その製品名を教えて頂けますか?可能でしたら、製品番号も頂けると助かります」

『はい。ええっと…製品名は、FUD-2000Xという機械でして。番号は…何処にあるのかしら?』


 電話の向こう側で、ガサゴソと探している音がする。その音を聞きながら、俺も手元の製品リストのファイルをパラパラと捲っていく。

 ちょっと待てよ。FUD…FUD…あった。こいつか。


「鈴木様。そのシリーズでしたら、機器の取っ手部分にシルバーのシールが貼られていると思います。そこに書かれていませんか?」

『シール…あっ、ありましたっ。ええっと、番号は…96E77の…』


 たどたどしくも、何とか番号を見つけてくれた鈴木さん。

 そこまで来たらこっちの物だ。顧客リストにその番号をぶち込んで、顧客情報を引き出して対応する。

 顧客の情報と言っても、彼女の個人情報ではない。この製品が何処で使われているのか、概要を知れるだけだ。

 それでも、十分に役に立つ。機器がどのような使われ方をして、どんな不具合を起こしているのかも何となく分かるし。

 

 ただ、今回はそこまでの情報は必要なかった。彼女が悩んでいた問題は、ただ機器の設定を間違えていただけだったから。

 だから、正しい設定方法を教えるだけで、問題はすぐに解決してしまった。


『あっ、エラーが直りました!』


 それでも、電話の向こう側ではとても嬉しそうな声が上がった。それだけで、不思議とこちらも達成感を感じてしまう。


「解決したようで良かったです。他に何か、ご不明な点はありませんか?」

『えっ?まだ良いのですか?』


 そりゃな。その問題が解決したから「はい、さよなら」なんてしたら、後でクレームが来るもの。

 当たり前の事だと思いながらも、俺は平静を装って大きく頷く。

 

「はい。もし私でお力に成れるのでしたら、仰ってください」

『では是非!ずっと謎だったこの、同期収集機能について教えて欲しいんですけど…』


 そこから20分くらいかけて、俺は製品の操作説明をする。

 今日初めて使う製品なのか、彼女は説明書を読めば分かる事ばかり聞いて来る。なので、資料を手元で構えていた俺は肩透かしだ。この為に集めたファイルも、最初に製品を探すだけで放置され、俺の頭の中の知識だけで対応できてしまった。

 

 拍子抜け。

 でも、その方が良い。最初にため息を吐かれた時はヤバい客と思ったが、こうして会話してみると、とても素直で良い子だった。よくよく思えば、この世界に来て初めて、女性と楽しくおしゃべりした気がする。社長の時は、色々と緊張していたし。

 おっと、イカン。彼女はお客様。しかも、社長のお得意様だ。気を引き締めろ。

 そう思って、丸まり始めた背筋を正したのだが、


『ありがとうございます!凄く助かりました!』

「いえいえ。また何かあれば、お声掛けください」


 鈴木さんの可愛らしい反応に、ついデレデレしてしまう。

 イカンな。完全にエロ親父になってる。こりゃ、他の男らの事を言えんぞ?

 

『しっ、失礼いたしますっ!』


 慌てて電話を切る鈴木さん。

 流石にデレデレし過ぎたか?でも、何とか社長から言い渡された案件は終了した。

 あの社長直々だったから、どんなヤバい仕事かと身構えてしまったが、蓋を開ければ良客で、そしてなんと楽な内容だろうか。 

 これはもしかして、社長案件はボーナスゲームだったりするのか?特区の案件なら、きっと相手は女性ばかりだろうし。


 おっと、イカン。また腑抜けてしまった。

 今回の鈴木様は、機器を触り始めたばかりの人だったから楽だったんだ。もっと使いこなしている人達だったら、難解なトラブルや無理難題を言いつけて来るだろう。それに対応する為にも、もっと精進せねば。


「って、俺。また社長から案件を頂ける気でいたな」


 特区の人と関わるなんて、早々ない事だ。だからみんな、慰問会なんて魔境に通っている訳だし。

 今日みたいな幸運は、もう起きないだろう。一時の夢を見せてもらったんだ。


「さっ、気持ちを切り替えていこうか」


 俺は自分の業務に取り掛かるのだった。

イノセスメモ:

・鈴木美夜子…JIE(黒川の親会社)社員。溜め息スタートであったが、話してみると素直?乙葉よりは、接しやすい女性…なのか?


次は裏側。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
全体として、本来は当たり前でなんとも常識的な顧客サービス対応のお話でしたが、100倍人口の男性からの 対面はおろか遠隔サービスすら満足に充足されない有様では、女性としての出生も思いのほか不便そう ><…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ