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男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


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50/54

50話~あら?悪くない手だと思うけど?~

「以上が、今回の報告となります」


 社長室に、ハキハキとした声が響く。それを発する彼女の表情も、とても生き生きとしたものになっていた。

 私は大きく頷く。


「大変結構です。鈴木さん。今回もよく、窮地を救ってくれました。ああ…勿論、黒川さんの力があるのは分かっていますよ」

「黒川さんだけでなく、今回はカンナ…ええっと、警察である佐川さんのお力もあったんです」

「そうですか」


 何故、監視役の警察官が協力してくれたのかは謎だったけれど、私はただ静かに頷くだけにする。彼女に良い影響を与えてくれるのなら、警官でも局員でも関係ないと思った。

 とはいえ、あまり警戒心を解き過ぎるのも問題ね。彼女達は監視する側であり、国と直接結びついているから。

 冷徹な国家の犬なのだから。


「では、失礼します」


 一連の報告を終えた鈴木さんが退出する。その背中は真っ直ぐ伸びていて、小柄な彼女が大きく見えた。

 報告書には順調に終わった様に書かれているけれど…欄外で何かあったのかもしれないわね。若いって良いわ。

 

 少々の寂しさを覚えながらも、私は電話を掛ける。どうせ向こうも掛けようとしているだろうから、今回はこちらから先に仕掛ける事にする。出来ればペースも握りたいところだけど…果たして。

 私は気を引き締めながら、電話に出た向こうの秘書に要件を伝える。そして、その電話は直ぐに区長へと繋げられた。


『こんにちは、進藤社長』

「川咲区長。お忙しい所、申し訳ございません」

『良いのよ。ちょうど、貴女と話したいと思っていたところだったから』


 ええ。そうでしょうね。

 

『今回も見事な手際だったそうね?本当に助かったわ』


 さて報告をと思った矢先、川咲様が柔らかい声でそれを遮る。

 機嫌が良いのかしら?

 いいえ。そんな訳無い。今回の件は、職員の知識不足が招いたこと。それをこの人が何とも思っていないとは思えないわ。

 そう身構えた私の判断は、正しかった。


『貴女達が解決してくれなかったら、きっとあの工場は操業停止になっていたわ。そんなことになったら、近隣地区へごみの転送を願い出なければなくなっていた。中央区や港区の人達に、頭を下げることになっていたわ。そんな情けないこと、考えられない』


 川咲様の声が震える。それが恐怖からなのか、怒りからなのか…。

 区長は顔の職業。名前が穢れれば地位も危うくなる。特に、川咲様と港区の金本様の間柄は良好とは言えない。そう言うこともあって、彼女は感情的になっているのだと思う。

 本当に、時間内に解決出来て良かったわ。

 安堵する私であったが、向こう側からは感情的な声が続く。


『情けない。本当に情けないわ。聞けば、工場側の操業ミスが原因だったって言うじゃない?本当にレベルが低くて頭が痛くなる。ゴミ処理場といい、下水処理場といい。職員全員、クビにしてやりたいくらいよっ』

「川咲様。それは流石に」

『…ええ。分かっているわ』


 川咲様は、ため息と共に呟く。


『職員を切ったところで、次の担い手が居ないのが現状。その椅子を埋めるので精いっぱいなのは分かっている。早瀬所長だって、それに苦しんでバカげたことをしでかしたんだし、切ったところで良い人材が入って来る訳ではない。それは十分に分かっているわ』


 それでも、口に出さないとやっていられないと言う事か。

 

『いっそのこと、職員に男を招きたいくらいよ。今回も活躍した黒川と、その会社の人間を全員入区させたいくらいだわ』

「それはまた、随分と大胆な構想ですわ」


 私は冗談だろうと思って、軽く返す。

 でもそれを、川咲様は笑って返さなかった。


『あら?悪くない手だと思うけど?彼らの有能性は黒川で実証済みだし、彼らであれば安全に操業してくれるでしょう。大量の男を区に入れる事よりも、インフラを全滅させる方が余程危険だと思うのは、私だけかしら?』

「それは、無理です。黒川が特別なだけであって、彼以外の男ではマトモに立っていることすら出来ません。そもそも、そんな事を管理局が許すとは思えません。もっと言えば政府が…」

『分かっているわ』


 私が焦って説得しようとすると、川咲様はあっさりと引いた。

 そして、


『貴女が言った様に、黒川は特別。他の男共では出来なかった事が、今は出来るようになった。そうよね?』


 ああ、そういう事ね。私はまんまと、言質を取られてしまったんだわ。

 してやられた事に気付き、私は自然と低い声が出ていた。


「川咲様。黒川を、どうされるおつもりです?」

『彼を囲いなさい。特区の中に住まわせて、この区の未熟な部分を修正させなさい。社員達に、彼の知識を吸収させるのです』

「それは…いくら川咲様のご命令でも難しいかと。入区させるだけでも苦労しましたし、何より女性だけの世界に男独りと言うのは、彼に大きな負担を強いる事になります」

『なら、好いている者達で周りを固めなさい』

「すっ、えっ?」


 予想外の一言に、私は言葉を詰まらせる。

 川咲様の、明るくなった声が聞こえる。


『鈴木美夜子。それに佐川環那。この2人と黒川が、随分と親しい雰囲気だと聞いているわよ?2人が黒川を支えるのなら、黒川も特区に馴染めるし、もしかしたら恋?なる状態に発展するかもしれないわよ?』

「それは…」


 つまり。彼女達で釣れと言われているのか?

 確かに黒川の様子を見るに、彼女達の為なら飲む可能性もある。

 でも、


「川咲様。問題はそれだけではありません。黒川は外の知識を駆使して、トラブルを解決しています。下手に囲ってしまうと、その情報からも遠ざける事になるかと。今のスタイルが一番、区にとっても利益になると思いますわ」

『…そう。でも、首輪はしっかりと付けなさい。黒川は代用が効かない貴重な人材。他国にでも盗られたら大損よ?』


 区長は冷たく言い放ち、電話を切る。

 何とかなった。そう安堵する一方、この程度では区長が納得していないのも理解している。彼女の事だ。何かアクションを起こして来るのは目に見えている。

 どんな手段に出てくるか…。


「今まで以上に注意が必要だわ」


 〈◆〉


 イベント盛りだくさんの特区出張だったが、何とか無事に終了して、俺は区外(ホーム)へ帰って来た。

 相変わらず汗臭く、タバコ臭くて厳しい環境だけど、なんだかんだ戻って来たって感じがする。何より、オフィスに入ってもネズミ扱いされないのが嬉しい。


「おはようございます!」


 なので、胸を張って挨拶をする。

 すると…。


「うぉ!来たぞ!黒川だ!」

「囲め!囲め!」


 うぇっ!?

 なんだ!?ここでもネズミ扱いなのか!?

 わらわらと迫って来るみんなを見て、俺は慌てる。逃げようと振り返ると、既に退路を係長達が断っていた。

 その係長が、ニンマリと笑みを浮かべる。


「聞いたぞ、黒川。お前、特区に出張行ってたんだって?」

「えっ!?」


 なんで、それを?

 

「先輩、先輩」


 俺が呆けていると、群衆の中から松本君の顔が。

 どういうことだ?


「鈴木様から僕達に、お土産が届きまして」

「みっ、土産?」


 驚く俺に、松本君が空箱を見せつける。そこには〈黒川さんの後輩さんへ〉と綺麗な字で宛先が書かれていた。その差出人が、千代田区の鈴木美夜子さん…。

 あ”っ。

 そういや俺、前回の帰り際に、土産を買う話を彼女達にしてしまった。鈴木さんはそれを覚えていて、態々松本君へお土産を贈ってくれたみたいだ。そして、それをみんなが見つけてしまい、この状況に…。

 俺は両手を上げる。


「降参、降参だ」

「よぉ~し。良い判断だ、黒川。今夜はトコトン、特区の話を聞かせてもらうぞ?なぁ、みんな!」

「「っしゃぁああ!」」


 うん?それだけで良いの?

 もっと、こう、お前だけズルいだとか、俺も特区出張に連れていけとかって…。

 ……ああ、入区出来ても、病院送りになるから意味がないのか。

 それなら、バレてもそこまで痛手ではな…。


「いやぁ、楽しみだな。3日分の話だから、今夜は徹夜かぁ」


 前言撤回。

 やっぱ、みんなにバレたのは痛すぎる!

 


 肩を落としながらも、俺は淡々と業務をこなす。以前なら、出張帰りはデスク上にタンマリと書類が積み上がっていた。でも今は、数枚の請求書が申し訳程度に乗っているだけ。

 これも、社が特区専門になってくれたからだ。

 有難い。


 そうやってセルフケアを行っていると、電話が掛かってくる。優しい音色で、自然と彼女の笑みが思い浮かんだ。


「もしもし、鈴木さん?黒川です」


 俺はつい、何時ものノリで電話に出ていた。

 でも、周りは違う。鈴木と言うワードに反応し、ガタリッ!と席を立つ者や、こちらを見詰める人が多数出没。

 おお、そうだった。みんな、鈴木さん=特区の女性って把握済みだったわ。


『済みません、黒川さん。昨日の今日で』

「いえいえ。(小声)助かりますよ、鈴木さん。案件ですよね?今すぐ行った方がいいんですよね?」


 席を立つと同時に、俺は彼女に期待の籠った声を掛ける。そのまま、防音室へと向かう。

 部屋の扉を閉める時、多くの目が俺を見ていた。オフィスの半数くらいが注目していたと思う。

 みんな鈴木さんの声を聞きたいんだろうけど…聞いたって、直ぐに失神するだろ?松本君以外は意味が無いぞ?


『ええっと、そうですね。直ぐに来ていただけると助かります。前回ほどの窮地ではないみたいなんですけど、区長が急かしているみたいで』


 ああ、客先がごねているパターンか。それもまた、緊急事態だ。


「分かりました。準備して、明日の朝にはそちらに行けるかと」

『すみません。助かります』


 鈴木さんと電話を終えて、俺は再び入区の準備をする。

 部長と支社長に出発の旨を伝えて、松本君に車を出してもらう。一度家に帰って、旅行セットをひっつかんでそのまま特区の壁へ。

 初回時は緊張した入区も、段々と手慣れたものになって来た。

 なので、


「そんな話は聞いていない!帰れ!」


 久しぶりに聞いた局員のこのセリフに、俺は肩を落とすだけだった。

 ああ、またこのパターンか。面倒くさい。


「長官さんからのお達しはありませんでしたか?一度、上司の方にご確認願えませんか?」


 でないと、きっと殴られますよ?

 俺の助言に、しかし、局員は大きく首を振る。ニヤリと、嫌らしい笑みを浮かべた。


「俺が第5ゲート(ここ)の責任者だ。だから、通知のないお前を通すことはない。大人しく帰れ!」


 …えっ?

 初めてのパターンに、俺の心がザワついた。

またお役所仕事を。

殴られて終わりですよ?


「……」

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― 新着の感想 ―
>他国にでも盗られたら大損よ?  ということは、”特区”って東京もしくは日本だけじゃなく、世界中にあるということなのですかねぇ? >「いやぁ、楽しみだな。3日分の話だから、今夜は徹夜かぁ」  て…
まあ帰るしかないし そう言われたって鈴木さんや社長に連絡するしかないよね そしてコイツは良くてクビだよね なんなら女性の期限を損ねたって もっと酷いことになる可能性もあるよね (´・ω・)
うん、帰ればいいというか引くしかない、その上で鈴木さんにその旨伝える以外の選択肢はないので結果的にこの局員がどういう処分喰らおうがそれは黒川が気に病む話ではないのだ
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