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男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


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20/54

20話~えっ?うそ…。落とした?~

「おはよーございます!」


 繁華街に行った翌日。俺は少し早めに出社する。

 月曜日だからね。土日に出社していなかった分、色々と業務が溜まっている筈。俺達は休みでも、俺達が相手する工場やエネルギーセンターなんかは24時間稼働している。だから、休んだ分の業務が溜まるのだ。

 俺は早速、溜まっていたメールの処理から始める。

 

「おはようございま~す」


 半分ほど処理が終わり、そろそろ始業時間という頃に、少し眠そうな声が聞こえた。

 松本君だ。


「おっす、まっちゃん。昨日はちゃんと帰れたか?」

「ええ。何とか。でも昼間に寝てしまったんで、夜にお目目パッチリでした」


 ああ、それで眠そうなのか。

 昨日はあの後、俺が運転して帰った。暫くドライブをしている内に松本君も回復したが…それまでずっと寝ていたからな。夜に寝れないのも分かる。


「昨日はありがとうございました、先輩」

「いやいや。俺こそ助かったよ」


 本当に、彼には助けられっぱなしだ。

 繁華街でのことは、正直ショックな事ばかりだった。異常な値段に異常な熱気。あまりにも非常識な日常が広がっていて、恐怖すら感じた。

 でもよく考えたら、あれがこの世界の常識なんだよな。少数派の俺が非常識ってことになり、こんなことを表立って言ったら異常者だと思われてしまう。

 そんな俺を、松本君はバカにすることもなく丁寧に教えてくれる。それがどれ程有難い事か。


「君には色々と教わっているからね。毎回、車まで出してもらっちゃってるし。何かお返ししたいとこだけど」

「お返しなんて、とんでもない。僕はもう十分に貰っちゃってます」


 そう言いながら、松本君が背負っていたカバンを下ろし、中から1通の封筒を取り出した。

 おっ。


「適性試験の結果だな?どうだった?」

 

 俺も今朝、同じのがポストに入ってたから分かるよ。


「僕はC判定でした」

「…しー?」

「そうです」


 松本君曰く、判定は合否ではなくA~Dでランク分けをされるらしい。Dだと不合格。Aだと文句なしの合格と。そして、Cと言うのは…。


「1か月間の研修に耐えれば、局員に成れるっていう判定です」

「おおっ。凄いじゃないか」


 俺はそう言って拍手を送りながらも、不安が頭を過る。


「まっちゃんはそれを…受けるのか?」

「受けません。今はこっちの方が楽しいので」


 ほぉ。そうか。

 俺は安堵した。


「それに、1か月も無給なのは辛いですし」


 …無給なのか、研修。

 流石、奉仕第一の世界だ。


「僕より、先輩はどうなんです?絶対、A判定だったでしょ?」

「えっ?いや、俺のに判定は書かれてなかったよ」


 俺も封筒を取り出して、確認する。そこには再試験の日程と、知らない人のサインが書かれた紙だけ。松本君みたいな判定と言う文言はない。

 きっと、途中退室で評価が付かなかったんだ。


 …あれ?でもそれだと、なんで松本君は評価されてるんだ?

 悩む俺の前で、松本君が紙を見つめる。


「先輩。こんなの僕、初めて見ましたよ。サインもほら、長官さんの直筆みたいですし…何かあるんじゃないですか?」

「無いだろ?再試験だぞ?」


 俺は紙をヒラヒラ振る。

 丁度その時、始業開始の合図が鳴る。

 俺は話を終わらせて、仕事に掛かる。そうして忙しくしていると、やっぱり俺の居場所はここなんだよなぁと思えて来る。

 そんな最中、


「おっ、鈴木さんか」


 電話が来る。

 きっと向こうも案件が大量に舞い込んでいるんだろうなと思いながら、俺は机の上を薙ぎ払う。


「こんにちは、鈴木さん。黒川です」

『…こんにちは。黒川さん』


 うん?なんか、ちょっと元気が無い?月曜日だから、テンションが低いのか?

 心配になったが、彼女からすぐに質問が飛んできたので、俺は仕事に集中する。


「…ってことで、話を聞く限りではポンプの中でキャビテーション(圧力変動や温度変化などで振動が発生し、ポンプの能力が落ちる現象)が起きているんだと思う。ポンプに流入している水温を測ってみたら良いよ」

『なるほど。キャビテーション…ですね。勉強になります』


 そうしてアドバイスしている内に、鈴木さんの様子もいつも通りになって来た。

 前向きだし、ちょいちょい笑ってくれる。俺の思い過ごしだったのか?

 そう思ったけど、


「さて、今ので最後だったっけ?」

『えっと…そう、ですね…』


 煮え切らない態度の鈴木さん。

 珍しい。いつもなら『はいっ!ありがとうございました!』って元気に去って行くのに、今日の彼女は歯切れが悪い。

 声に、力がない。何かを悩んでいる様子。

 やっぱり、何かあったんじゃないか?


「鈴木さん、大丈夫かい?まだ何かあるなら言ってくれ。俺の方はまだ時間あるし」

『いえ。大丈夫です。今ので全部、終わりました』


 うん。やっぱり何かある気がする。でも、ここで踏み込み過ぎるのもどうかと思う。俺は男で彼女は女性。踏み込んで欲しくないラインがあるのかも。

 だから、


「そうか。もしまた何かあったら、相談してね?何でも聞くからさ」


 取り敢えず俺は、受け入れる姿勢を明確に示した。

 

『はいっ。ありがとうございます。また、お願いします』


 そう言い残し、鈴木さんは電話を切る。

 う~ん。心配だ。心配だが、今の俺にはどうすることも出来ない。


「ならば、何時でも相談に乗れるようにしておこう」


 その為には、机の端に追いやったこいつらを片付けねば。


「さぁ、やるぞ!」


 俺はまた、ひたすらタスクをこなすマシーンになった。


〈◆〉


「…はぁ」


 電話を切ると、自然とため息が零れてしまった。

 ついつい彼の優しさに甘んじて、変な相談事をしそうになっていた。

 仕事とは関係ない事まで黒川さんに頼ろうとするなんて…何を考えているのかしら、私。


「さっ、仕事しなくちゃ」


 気を取り直して、私は工場に電話を掛けようとする。

 でも、その時、


「「キャハハハッ!」」


 笑い声を上げながら、先輩達が通り過ぎた。彼女達を目で追うと、ふと目が合う。2人して何かコソコソと話しながらこちらを見て、また笑い声を上げている。

 

 まただ。また、笑われてしまった。

 今日はずっと、周りの様子がおかしかった。

 出勤時にエレベーターに乗ろうとしたら、含み笑いを浮かべながら閉じられてしまったし。デスクにたどり着いたら、机の上が勝手に片付けられていて、まだ使う資料がゴミ箱の中に放り込まれていた。

 それは回収出来たから良かったけど、もしも無くなっていたら大変だ。また一から資料を作る羽目になっただろうから。

 何かの間違いかとも思ったけれど、先輩達の様子は明らかに悪意があった。きっとこれは、イジメだわ。


「はぁ…」


 意味が分からない。こんなことして、何のメリットがあるの?学生時代もされたことはあるけれど、社会人にまでなってやる事?

 どうせ私が室長になって、部長に褒められているのが気に食わないんでしょうけど、それで足を引っ張るなんて子供がすることだわ。

 私達はお金を貰って、慰問会を免除までされて仕事をしているんだから、精一杯会社の為に働くのが筋なんじゃないの?


「あ~ダメ、ダメ。こんなことにイライラしてるなんて勿体ないわ。仕事しなきゃ」


 そう。気にしちゃダメ。気にしたら、余計に喜ばせてしまう。イジメをする人なんて、そんな奴ばかりなんだから。

 そんな人達なんて気にせずに、仕事をしましょう。


「鈴木さ~ん」


 電話を掛けようとしたら、声を掛けられてしまった。

 鮫島さんだ。


「忙しそうだねぇ?大丈夫?」

「ええ。ありがとう。大丈夫よ。色々と業務が溜まっているだけだから」

「そうなんだぁ。やっぱり室長って大変なんだねぇ。私じゃ無理だよぉ~」


 私を気遣うような言葉を吐く彼女だけど、油断できない。彼女の笑顔は、何かを企んでいる顔だから。

 何をする気なの?


「忙しそうな鈴木さんに、私からプレゼント。コーヒー淹れて来てあげたよ?」

「…それは、ありがとう」


 デスクに置かれたコーヒーを見て、私は笑顔を貼り付けてお礼を言う。でも、ちらりと見たコーヒーの水面には、何か小さなゴミのようなものが浮かんでいる。

 これは…普通のコーヒーじゃないわ。雑巾の絞り汁でも入れたんじゃない?


「…後で頂くわ」

「うんうん。しっかり味わってねぇ」


 鮫島さんは嬉しそうに頷いて、足取り軽く自分のデスクに戻っていく。

 …後でこっそり、捨てないと。

 私はコーヒーを机の端に移動させて、スマホを握り直す。今度こそ電話を掛けよう…としたんだけど。


「あれ?」


 手元に置いていたメモ用紙が、無くなっていた。あれに、黒川さんのアドバイスを走り書きしていたのに。


「えっ?うそ…。落とした?」


 机の周りも、足元も、カバンの中も探したけれど、見つからない。

 一体、何処に?


「ぶちょ〜」


 もう一度デスクの上を探していると、向こうの島で鮫島さんの声が聞こえた。


「この前言ってた、ポンプの故障?あれってキャビ…えっと…キャビ、テーションってのが悪さしてるみたいですよぉ〜?」


 えっ?それって…。

 私が顔を上げると、部長の前で得意げに微笑む鮫島さんの姿があった。

 部長が首を傾げる。


「その案件は確か、鈴木さんにお願いしていたと思うけど?」

「鈴木さん、忙しそうだったからお手伝いしてるんですよぉ。ほら、彼女の室って、彼女"独りだけ"じゃないですか?だから、私が代わりに調べてあげたんです」


 悪びれもなく嘘をつく鮫島さん。

 でも、そんなの私しか分からないから、部長は「そうだったのね。良く調べてくれたわ」と彼女を労う。

 鮫島さんは嬉しそうにスキップをして、自分の席に帰って行った。

 そこに、私は突撃する。


「鮫島さん」

「あっ、鈴木さ〜ん。どうしたの?」


 白々しく笑みを向けてくる彼女。でも、目の奥ではギラギラと怪しい光が灯っている。


「…メモを返してくれないかしら?」

「メモってなぁに?あっ、もしかしてこれの事?」


 鮫島さんがポケットから、見慣れた紙を取り出す。そこには、同じく見慣れた文字が踊っている。

 間違いない。私のだ。


「そう、それよ」

「これ、鈴木さんのだったんだね。落ちてたから、拾ってあげたんだよ?感謝してよね」

「…ええ、ありがとう」


 私は絞り出す様に、感謝の言葉を吐く。

 本当は、怒りたかった。人の物を勝手に盗っておいて何を言ってるの?って言ってやりたかった。

 でも、そんな事をしても無駄だ。きっとこう言う人は、泣き真似でもして悲劇のヒロインを気取るから。そして、私を悪役にする。

 だから私は、何も言わずに引き下がった。


「ふぅ…」


 デスクに着いて、胸のモヤモヤを吐き出す。でも全然、心が晴れない。

 メモ用紙が無事だったんだから、取り敢えず良かったじゃない。本当に無くしていたら、黒川さんにまで迷惑が掛かっちゃうところだったわ。

 そう思うと、ちょっとだけ安心する。最悪の事態にはならなかったと安堵する。


 それでも、


「てかさぁ。ウザくない?”独り”で頑張っちゃってさ」

「わかるぅ~。私がヒロインでございって感じでさ。お高く止まってるよねぇ」


 周囲の声が、私の心を削って来る。それが私に向けられたものなのかも分からないのに、勝手にぶつかって傷付いて行く。

 なんだか、この会社で私”独り”が空回りしているみたい。

 鮫島さん達は適当に仕事して、適当にサボって、好きなことをしているのに楽しそうで…。

 私…何やってるんだろう…?


 知らずに、手が止まっていた。

 こんなんじゃダメだと自分を叱咤しても、スマホの通話マークを押す気力が湧かない。自然と、彼のページで止まってしまう。

 ダメよ、美夜子。これは完全にプライベートなことなんだから。そんなことまで黒川さんに頼っていたら、彼に迷惑だわ。

 そう思っても、指が動かない。そこから、動きたくない。

 そうしていると、


 ピリリリッ。

 電話が鳴った。


 一瞬、彼から掛かって来たのかと錯覚したけれど、そうじゃなかった。画面には、以前お世話になった局長さんの名前が表示されていた。


「はい。鈴木です」


 使命感から出た電話。でも若干、期待もしていた。

 これで案件を頂けたら、また黒川さんに電話出来る。そしたら…。

 そしたらって、何を考えているのよ?美夜子。


「はい。はい。分かりました。少し持ち帰って検討させてください」


 (よこしま)な事を考えたのに、神様は微笑んでくれた。私では解けない問題がもたらされ、彼に頼る他なくなった。


「ふぅ~。良い?業務だけよ?業務だけ」


 私は自分に念を入れて、元々表示していた彼の番号を呼び出す。

 コールが、鳴った。

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― 新着の感想 ―
オランダとかなんかの実験で男性だけ、女性だけで無人島に住んだらどうなるかって言うのを思い出しました。
女のイジメはほんと陰湿だよねぇ〜
女性社会特有の醜さがよく描けていますね、作者様は女子校出身者でしょうか? これ、救いの手がDQNだと真面目な子の底辺落ちENDなんですよね・・ 唯一のチートが「女性耐性」の黒川さん、この問題を如何に解…
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