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男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


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19/55

19話〜兄ちゃんは何回目なんだ?〜

「ここが、試験会場です」


 そう言って松本君が指さすのは、さっきまで俺達が見上げていた特区の壁だった。その壁に沿うように建てられた建物群の一部を目指し、そこで長々と出来ている行列に並んだ。

 この列を作っている人みんな、受験者らしい。


「凄い人数だな」

「適性試験は35歳までなら無条件で受けられますからね。みんな、ダメ元で1度は受けに来るんです」

「まるで自衛隊だな」


 あっちは32歳までだけどさ。


「因みに僕は、これで5回目です」

「ベテランだねぇ」

「いえいえ。凄い人は、毎月受けに来る人もいるらしいですよ?」


 そんな局員になりたいの?俺なら、頼まれても嫌だけど。

 そう思って周囲を見るも、誰もがやる気に満ちている。「やってやる」「今度こそ」と、難関校の受験生みたいに意気込んでいる人もいた。


「おら、お前ら!気合い入れろ!」

「「「うっす!!」」」


 突然、大声が響く。

 見ると、ツナギ姿のおっちゃん達が、工具を両手に壁へと向かっていた。

 あれは…工事業者か。特区案件を任された人達みたい。


「働くぞ、お前ら!」

「「おっす!!」」

「女性の皆様の為に!」

「「「女性の為に!!」」」


 …凄い気合いだ。目が血走ってる。

 異様な光景に、俺は自然と引いてしまう。だが、周りの受験生は目を輝かせる。


「良いよなぁ、あいつら。俺も、女性の為に仕事したいぜ」

「この試験落ちたら、小林組を受けようかな?」


 どうやら、大手ゼネコンも人気らしい。JIES(うち)も特区案件を受注したら、応募が増えるだろうか?

 …いや、こんな「女性の為に!」なんて言っている奴と一緒に、仕事出来る気がしないな。


「これより本日の試験を開始する!」


 時間が経ち、管理局員が受験生を誘導し始める。みんなは一気に緊張した面持ちとなり、一言も喋らなくなった。何時もはノホホンとしている松本君でさえ、キリリとした顔で前の人に続く。

 俺も彼の背に付いて行きながら、前を見る。巨大だった特区の壁は、最早てっぺんが見えなくなっている。

 その壁に呑み込まれる様に、俺達は施設の中へと入っていった。


「前からここまでは、左へ進め。残りはこっちだ」


 中に入ると、無機質な通路が続いており、2手に別れて案内される。

 俺達の組は大体20人くらいか?後ろを見ると、結構な歳のおじさんもいる。35歳までって聞いたけど、何か特例があるんだろうか?


「ここで待機しろ」


 そうして通されたのは、だだっ広い部屋。家具等は一切なく、中央にパイプ椅子が並べられているだけだった。


「こちらの命令以外で動くな。動けば、失格とする」


 局員は一方的に告げると、部屋から出て行く。それでもみんな取り乱す様子はなく、ただ粛々と椅子に座る。

 慣れているな。初心者は俺だけか。

 俺も松本君に習って、彼の隣に座る。すると、俺の隣にドカッと勢い良く誰かが座った。

 後ろに居たおっさんだ。


「なんだよ、兄ちゃん」


 つい彼に視線を向けていると、おっさんが俺を睨みつけて来た。


「いえ。なんでも…」

「あぁ?緊張してんのか?まだまだ青いな」


 おっさんはガハハと笑って、俺の肩をバシバシ叩く。

 体を使う職業なのか、かなり力が強い。ガテン系?


「俺はもう35回以上受けてるベテランでよ。もうあと少しの所まで来てるって、局員様からはそう思われている訳よ。ガハハハッ!」


 おっさんは一方的に喋り続け、勝手に笑う。

 こんなにお喋りだから、35回も落ちてるんじゃないか?


「兄ちゃんは何回目なんだ?」

「僕は、今回が初めてです」

「おいおい、その歳でルーキーかよ」


 おっさんがしこたま笑ってくる。

 うるさいなぁ。別にこっちは、局員になるつもりはないんだよ。

 俺がおっさんを煩わしく思っていると、彼は隣の人に話しかける。その人も、それなりに歳を食ってる細身の優男だ。


「あんたは何回目なんだ?」

「…さてな。少なくとも、100は下らんだろうよ」


 うわっ。上には上がいた。

 更なるベテラン出現に驚いていると、ガテン系おっさんが「ふんっ」と鼻で笑う。


「そんなに受けて受かねぇなら、あんた才能ねぇんだよ」


 …目クソ鼻クソを笑うって言葉、知ってる?


 随分とハズレ席を引いてしまったと落ち込んでいると、急に部屋の照明が落ちた。驚いたが、隣のおっさんが「始まったな」と呟いたので、察する事が出来た。

 ありがとう。目クソおじさん。


 彼に感謝していると、部屋の壁にふっと、影が生まれる。

 いや、影じゃない。これは女性だ。女性の上半身が投影されているんだ。黒髪でまぁまぁ綺麗な人だけど…肩幅が広いな。スポーツ選手か?

 

 オトハ様とも鈴木さんとも違うタイプの女性に、俺はついつい見入っていた。

 いや、俺だけじゃない。周囲からも「うっ」と小さく声を漏らし、唾を飲み込む音がここまで聞こえた。

 そして、


『あぁん?喋れって、何を喋りゃ良いんだよ?』


 女性のちょっとハスキーな声が部屋の中に響く。すると、パイプ椅子がガタつく音がそこら中で聞こえた。中にはもう、椅子から崩れ落ちる人も出始めている様だった。


「ぐっ…うっ…女神…女神様だぁ」


 俺の隣でも、目クソおじさんが前かがみになって耐えている。

 止めてよ?俺の隣で、変な事するなよ?

 俺が祈っている間にも、女性の声は続く。


『ったく、めんどくせぇな。これ、あれだろ?男に聞かせるって奴だろ?なんで警官のあたしが、そんな慰問官の真似事をしなくちゃいけねぇんだよ?』


 不満タラタラな女性。

 そんなちょっとガサツな彼女の態度でも、他の人達には刺激が強過ぎる様子。また1人、椅子から転げ落ちる音がする。

 そして、


「うん?何の匂いだ?」


 花の様な、何処かで嗅いだ覚えのある匂いが漂ってきた。

 真っ暗だから分からないが、部屋の後ろから来ている気がする。何か装置でもあるのか?


「こっ、これは…お化粧の匂い!」


 松本君が過剰反応し、必死な形相で心臓を押さえる。


「大丈夫か?まっちゃん」

「なっ、何とか」


 俺の左隣は、頑張って耐えている様子。

 では右隣はと言うと…。

 既に床とキスをしていた。


「大丈夫ですか?目クソさん」

「だ…レが…目く、そ…」


 まだ声は出せるみたい。流石はベテラン。

 しかし、そのベテランおっさんの背中に、足が乗る。

 細身のおじ様だ。


「足置きに丁度良いな」


 …さっきは平気そうに見えたけど、随分と怒りを溜めていたご様子で。


『あぁん?自己紹介しろだと?なんで見ず知らずの男共相手に、個人情報開示しねぇといけねぇんだよ?アイアンクローかけっぞ?』


 女性がキレ散らかす。

 それでも、ハスキーな声でよく喋り、加えて周囲からの匂い攻撃が合わさって、大半の人が沈んでしまう。

 松本君も、パイプ椅子からケツが半分はみ出してる。


「危ないぞ、まっちゃん」

「はぁ、はぁ、す、みませ…」


 彼を支えるも、随分と苦しそうだ。


「おい」


 そうして彼を介抱していると、おじ様が話しかけてくる。


「人の試験に手を出すとは何事だ?貴様も失格になるぞ?」


 鋭い視線を送ってくるおじ様。優雅に足を組み直し、目クソおじさんを足ふきマットにしている。その姿は、まだまだ余裕そうに見えた。

 これが、百戦錬磨の貫禄なのか。こんな彼ですら100回も落ちるのが適性試験。なんて狭き門なのだろう、管理局員とは。


『なに?自己紹介はもう良いから、笑顔で手を振れだと?それで最後なんだろうな?それやったら今夜、焼肉奢って貰うかんな?』


 不貞腐れ気味だった女性は一転、こちらに無邪気な笑みを向けて来た。


『おーい。お前らぁー。無事に死んでるかぁ?変な事してたら、逮捕しちゃうぞ?』

「うっ」「あっ」


 女性の銃を撃つフリを見て、何とか意識を保っていた人達も沈む。松本君も「ふぅ〜」と満足そうな吐息を吐いて、脱力した。

 俺は慌てて彼を抱きとめて、肩を貸す。そのまま、会場の出口へと向かう。

 すると、


「おい」


 また、おじ様が話しかけてきた。


「何処へ行く?試験はまだ終わっていないぞ?」

「ええ。そうなんですけど…友達を放ってはいられませんので」

「友達だと?他者の為に、自らの人生を棒に振る気か?この部屋から一歩でも出れば、耐えた努力が水泡(すいほう)に帰すのだぞ?」


 そう言って、おじ様は小馬鹿にした表情で笑う。なんとバカな奴と、そう言われている気がした。

 ふんっ。構うもんか。


「友を見捨ててまで、管理局員に成りたくないんでね。おじ様はきっと、良い局員になれると思いますよ」


 平気で人を足蹴にするアンタなら、入ってもすぐに馴染むと思うぜ?

 そんな皮肉を込めた捨て台詞を置いて、俺は会場を後にする。その背に、「ふっ」とおじ様の皮肉めいた笑いが追いかける。


「あくまで人の為に進むか。その細き道、何処まで続くか見ものだな」

 

 楽しそうに呟かれたその言葉は、不思議と俺の頭の中に残った。


 〈◆〉


 青年達が出て行った扉から、すぐさま局員が入って来る。

 それを見て、私は立ち上がる。私に向って敬礼してくる局員の前へと進み出る。

 そして、


「おっ、お疲れ様でした!鞍瀬長かブッ!」


 責任者である彼の顔を、思いきり殴りつけた。

 床に倒れ、訳が分からないと言う顔を返す彼に、私は壁を指さす。先ほどまで女性が映っていた場所を。


「あの映像はなんだ?何故、巡査である佐川様が慰問官の真似事をされている?」

「そ、それは…動画の作成は我々ではなく、特区の方で…」

「女性の責任にするつもりか?」


 私が冷たく聞き返すと、「滅相もございません!」と慌てて首を振る責任者。

 

「全ては、私の、私の責任で…」

「当然だ。貴様が確認を怠ったが故に、佐川様に要らぬご心労をお掛けしたのだ」

「はっ!申し訳ございません!」

「直ぐに事態を収拾しろ。出来なければ、明日から貴様の席はない物と思え」

「は…はっ!」


 逃げるように駆けだした彼の背を見送り、私も部屋から出る。そこで、小さくため息を吐く。

 全く、最近の若い奴らは貧弱な者ばかりだ。彼が映像をチェックしなかったのも、どうせ見れば自制が出来ぬと思っての事だろう。局員ともあろう者が、何とも情けない。風の噂では、愚息も失態を犯したと聞く。

 本当に、嘆かわしい。


 通路に出て、先を進む。既にそこに、先ほどの青年の姿は無くなっていた。

 若い局員は確かに質が落ちた。だがアレは、若いが見どころのある男であった。局員への道よりも友を優先し、佐川様の過剰な行動を目にしても平然と立ち、且つ友に肩を貸す余裕を見せた。

 強靭な耐性。私以上の逸材。


「実に惜しい…いや、欲しい存在だ」

 

 私の勘が、そう告げている。

 彼をここで見過ごさば、我々はいずれ、大きな代償を払わねばならなくなると。

「また厄介な奴が出てきたな」


なんか、ですね…。


イノセスメモ:

・佐川??…警察官。体格の良い、ガサツな女性?

・鞍瀬長官…??

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― 新着の感想 ―
ソロソロガチのゲイが出てきそう…てか男ばっかの空間なら涌きそうなもんだけど
杉森支社長に100回おじ様…本来、重鎮ポジであろう男性の威厳を女性耐性関連で容赦なく削りに来る作品w この世界のゼネコン大丈夫か?「俺は女性の皆様を見守る礎になる!」とか言って人柱とか発生してそう@…
つまりこの鞍瀬長官が 鼻クソおじさんって事に・・・ (´・ω・)
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