表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/54

18話~転嫁率って何だ?~

 オトハ様の慰問会やWEB会議など、今週はイベント事でいっぱいだった。鈴木さんの可愛らしい姿を見ることが出来たりと、良い事も沢山あったけど、疲労の溜まる1週間であったのは違いない。

 そんな疲れを吹き飛ばす為にと、日曜日である今日、俺は松本君ととある場所に赴いていた。

 その場所とは…。


「おぉ~!ここが繁華街かぁ~!」


 松本君の車を降りて見回すと、様々な建物が俺達を出迎える。

 美味しそうな匂いを放つ飲食店。奇抜なデザインの服を並べるアパレルショップ。見慣れぬ調度品が溢れる雑貨屋。

 こうして遠目で見ているだけで、心躍るお店ばかりだ。


「まるで、テーマパークに来たみたいだな。テンション上がるわ~」

「テーマパークより、もっと凄いですよ」


 松本君が得意げに胸を張り、先ずは昼飯にしようと街の一角を指さす。そこには、湯気が立ち上る通りが続いていた。

 なんか、横浜の中華街を思い出す。


「へい、らっしゃい!特区御用達の牛鍋だよ!」

「10年間、特区に卸し続けてるサーモンパスタだ!絶品だよ!」

「今、女性の皆様に人気のチーズフォカッチャはいかがかなぁ~!?」


 何を食べようかと踏み入れると、通りのあちこちから威勢の良い声が飛び交った。

 とても活気があるんだけれども…。


「なんかみんな、特区だとか女性の〜って文言ばかりだな」


 それに加えて、看板や見出しの多くも〈特区流通のチーズ使用!〉や〈涼音(すずね)様も食された逸品!!〉なんて言葉で満ちている。

 不思議に思うと、松本君が「そりゃそうですよ」と大きく頷く。


「特区の皆様に選んで貰えたってだけで、味は保証された様なものですからね。だから、これが一番ウケが良いんです」


 つまり、特区との繋がりがそのまま、商品のブランド力に直結していると。

 特区が近いから起こる現象なんだろうけど、思ったよりも強いんだな、特区の影響力って。

 俺は通りの遥か先に聳え立つ、コンクリート調の巨大な壁を見上げる。俺達の住むこちらの世界と、特区と言う未知の世界を隔てる堅牢な城壁が、途切れる事なく彼方まで続いていた。

 この向こう側に鈴木さんが居るのか。そう思うと、何だか少しだけ親近感が湧いて来る。


「先輩、先輩。そこのお店、かなりの有名店ですよ」


 松本君に連れられて、俺は一軒のパン屋へと入る。中は何の変哲もないパン屋だったが、壁には女性から貰ったと言うサインが飾られ、値札の上には〈〇〇様御用達!〉と言う謳い文句が添えられているパンが並んでいた。

 しかも…。


「カレーパンが1個1000円!食パン1斤で3000円だと!?」


 殆どが、目玉の飛び出そうな値段を掲げている。

 昔流行った高級食パンって奴か?

 俺が驚く横で、松本君は「普通ですよ」とカレーパンを買い物カゴの中へと入れる。


「ここら辺はみんな、これくらいになっちゃいます。何せ、特区に卸していますから」

「ブランドか。名前の力ってのは、恐ろしいもんだな」


 俺は周囲を見渡す。ヨレヨレのシャツや汚れた繋ぎを着た男達が、(こぞ)って高級パンを掴み取っていく。そいつらの顔に、値段を気にしている素振りはない。あるのは、女性と同じ物を食べられると言う喜びだけがある様に見えた。

 そう見えた気がしたんだが、


「違いますよ。先輩」


 違うらしい。


「確かに、人気なのは女性が食べているからって理由もありますけど、純粋に特区へ無料で卸しているからってのも大きいんです」

「無料で!?」


 俺は驚きで目を見開いたが、松本君は当然だと頷く。

 この店だけでなく、特区へ卸している物資の殆どは、金銭のやり取りをせずに徴収されるらしい。それ故に、特区へ大量に物資を送っている店は、必然的に値段を上げないと商売にならないのだとか。

 つまり、搾取されているって事じゃないのか?


「そんなんで、よく潰れないな。この店は」

「潰れる訳ありませんよ。特区に卸しているって事は、つまり…」


 松本君が何か言おうとしたが、店の奥で鐘の音が響き、その音に潰されてしまった。音の方を見ると、大きなプレートを机にドンッと置いた店主が、手にしたハンドベルを狂った様に鳴らし続けていた。


「焼きたてのメロンパンだよ!1個5000円!転嫁率は94%だ!」


 ごっ、5000円の、メロンパンだとぉ!?


「「おおっ!」」

「90越えだと!?」「買わせろ!」「俺は10個買うぞ!」


 驚く俺を置いて、周囲の客が店主の元へと殺到する。そして、トレーに置かれていたメロンパンを次々と鷲掴み、代わりに札束を叩き付けて行く。

 1分もせずに、バカ高いメロンパンは無くなってしまった。何の変哲もない、ただのメロンパンなのに。

 バーゲンセールの様な売れ行きに、俺はゆっくりと後輩を振り返る。 


「まっちゃん。転嫁率って何だ?」


 恐らく、その聞き慣れない単語がカギだと思って聞いてみると、松本君は「鋭いですねぇ」とシタリ顔をする。


「特区に卸す事で出る赤字ですけど、それを商品の値段に転嫁している割合の事を転嫁率って呼びます。このカレーパンにも入っていますけど、94%は相当高い数値ですね。それだけ、特区に卸されているって証拠でしょう」

「相当高いって…なんで…?」


 なんでみんな、態々(わざわざ)そんな無駄に高い物に群がるんだ?94%が割り増しって、殆ど寄付みたいなもんじゃないか。

 俺の常識からはあまりに逸脱していて、言葉を失ってしまう。すると、丁度通りかかった2人組の声が聞こえてきた。彼らの目には涙が浮かび、その手には(くだん)のメロンパンが。


「やった。買えたぞ」

「ああ。俺たちの金が、女性の皆様をお支えするんだ」

「女性の役に立てる。こんな嬉しい事は他に無いぜ…」


 2人はメロンパンを大事そうに抱え、世界を隔てる壁の方を暫く見つめていた。

 その2人を指さし、松本君がドヤ顔で頷く。


「ええっとですね、先輩。つまりはこう言う事です」


 要は、女性にお金を貢いでいるのと同じ事らしい。自分達が稼いだお金で、女性の生活を支えている。そんな使命感に似た感情で、彼らは割高な商品を嬉々として購入しているのだとか。


「分からんな。そんなに貢ぎたいのなら、直接好みの女性へ送金すれば良いだろうに」

「それは違法ですよ。捕まっちゃいます」


 捕まるのか?

 いやでも、賄賂みたいになるからダメなのか。それも十分、女性と繋がる手段になってしまってしまう。金銭のイザコザで、事件に発展するなんて元の世界でもあったことだし。

 嫌な事件だったね。


「同じ理由で、お店が転嫁率を変える事も出来ません。あくまで特区に卸した分だけの金額なんで、引き上げて店の利益にしようとしたら、管理局が黙っていませんよ」


 ふむ。だからみんな、転嫁率の高い品物に飛びついているのか。自分達が唯一、女性に奉仕出来る方法だと思って。

 支社長が言っていた「女性の案件はご褒美だ」ってのは、この世界の常識だったんだな…。


「あっ、先輩。ちょっと道を開けてください」


 急に松本君が、俺の袖を引っ張る。

 何かと思って彼に従うと、店の中に誰かが入って来た。白い制服に、見下すような視線。

 管理局員だ。


「なんだよ。冷てぇのばっかじゃん」

「おい!出来たては何処にあるんだよ?」

「へい!こちらでございます!」


 太太(ふてぶて)しい態度の局員の小僧共に、しかし、店の店主は(うやうや)しく(ひざまず)き、プレートに乗せた出来たてのパンを差し出す。

 それを、むんずと掴んでその場で食べ始める局員達。


「ん〜…微妙。あんま辛いの好みじゃねぇんだわ」

「おっ、こいつはイケるぞ。食ってみろよ」

「お前がチーズ好きなだけじゃん」


 局員達は好き勝手言って、一口だけ齧ってトレーに戻したりしている。

 そうして散々食べ散らかした奴らは「次は何処行くべ?」と、金も払わずに店を出て行った。

 

 食い逃げか?

 そう思ったけど、店主に怒った様子はなく、寧ろトレーの上の残されたパンを見て「まだまだか」と食べて貰えなかった事を悔しがっている様子だった。

 何でだろうと思いながらも、俺達は買い物を終わらせて外に出る。すると、まだ局員のガキンチョ共が通りを闊歩していた。


「おら、お前ら!道を開けろ!」

「ウロウロすんなよ。蹴り飛ばすぞ?」


 傍若無人。時代が時代なら、斬り捨てゴメンとかやってそうな奴らだ。

 こりゃ相当嫌われているだろうと思ったが、周囲が彼らに向ける目は熱かった。


「良いよなぁ、局員。格好良いぜ」

「ああ。女性に直接奉仕出来るなんて、羨ましい限りだ」

「俺も局員になって、女性の皆様をお守りしたいよ」


 …女性に奉仕出来るから、局員になりたいと?

 仕事内容とか労働環境とかそんな事よりも、そっちが重要みたいだな、この世界の男にとって。


「まっちゃんも局員になりたいって思った事はあるのか?」

「勿論ありますよ。小学生の時に書いた〈将来の夢〉って作文では、クラスの大半が局員になることでしたから」


 野球選手や公務員を差し置いて、局員が1位なのか。


「でもダメでした。僕には才能が無いって、中学生の時に分かったので」

「才能?学力が低かったのか?」

「違いますよ、先輩。中学生の時にやるでしょ?管理局員適性試験。あれで〈適性無し〉だったんです」


 なんでも、この世界の少年はみんな、中学生になると専用の試験を受けさせられるのだとか。

 松本君が受けた時は、数人が同じ部屋に入れられて、そこで女性の音声を聞かされるのだとか。そこで耐える事が出来れば〈適性有〉と判断されて、局員養成コースへと進む事も出来るらしい。


「そう言えば、岩本係長も言ってたな。局員は女性耐性が必要って」


 それを判断するのが、適性試験って訳だ。


「でも今のまっちゃんなら、受かったかも知れないな。もう社長の声を聞いても、耐えられるようになったんだろ?」

「確かに、そうですね…ちょっと試してみますか?」

「うん?試すって、耐性を?」


 恐る恐る聞くと、松本君は大きく頷く。


「試しに受けてみましょうよ。局員適性試験」


 …えっ?それって、俺も?

 笑顔で提案してくる松本君に、俺は固まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もう実質人類は滅んでる世界だな 生物種として終わってる
転嫁率…w 社会的昆虫の世界と考えれば全然アリで野郎どもも幸せそうな感じだし、激怒する1憶の男たちが 革命とか起こしたら即 DEAD END の大惨事だしで、どうしてこんなになるまで放っておいたんだ大…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ