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男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


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17/54

17話~ちょっと緊張しちゃうよ~

「あ”ぁ~~…」


 飲み会の翌日。

 思った通り、酒が残った。

 残ったと言うより、まだ分解しきれていないと言った方が正しい。昨日は結局3軒もハシゴして、帰って来たのは深夜2時。泥の様に眠ったけれど、出社までの時間が短すぎた。お陰で、出社した今でも体が重い。


「おいっす、黒川。今日も頑張れよ」

「管理官殿、お疲れ様っす!」


 俺は頭痛に悩まされているというのに、営業部はとても元気だ。昨日のネタを早速使い、俺を揶揄(からか)ってきた。

 昨日あいつら、一升瓶をラッパ飲みしていた筈なのに…なんてタフな体をしているんだろう。

 異世界人って、俺と体のつくりが違うのか?と、ちょっと恐ろしい想像をしていると、会社携帯が可愛らしい音を奏でる。


 鈴木さんだ。

 彼女の着信音だけ、すぐ分かる様に変えておいたんだ。

 …これくらいは許して欲しい。


「おはようございます、鈴木さん。黒川です」

『あっ、黒川さん。おはようございます。またちょっとお聞きしたいことが…』

「ドンとこいですよ、鈴木さん」


 本当に彼女の声は効くな。まどろみの中だった頭脳が、一気にフル回転し始めたよ。


『うふふ。ありがとうございます。あの、相談の前に、ちょっと聞いて欲しいことがあるんですけど…』

「ええ、良いですよ。何でしょうか?」


 何だろうか?相談じゃないってことは、鈴木さん個人の事だよな?

 まさか、プライベートな事か!?


『実はですね。私、新しい室の室長を任されちゃったんです。ソリューションサービスっていう、みんなのお悩みを解決する為の室らしいんですよ』

「おおっ。それは凄い」


 本当に凄い事だ。室長ってことは、係長とかよりも上だよな?鈴木さん、俺よりも若いのに凄い出世だ。

 …凄い事なんだから、落ち込むんじゃないぞ?プライベートが云々ってのは、俺が勝手に抱いた妄想だろ?


「でも室ってことは、他の人も居るんですか?もしかして、鈴木さん以外からも相談が来たり…」

『いえ。室は今の所、私1人なんです』

「ああ、そうなんですね。良かったぁ」


 俺はつい、安堵の息を吐いていた。

 それに、鈴木さんが驚く。


『えっ?良かったんですか?黒川さん、他の女性ともお話できた方が嬉しいのでは…?』

「とんでもない!他の女性となんて、話したくありません」


 また罵詈雑言を投げつけられるなんて、まっぴらごめんだ!


『うふふ。そうなんですね』


 子供っぽいとでも思われたのか、鈴木さんに笑われてしまった。

 でも、仕方ないじゃないか。支社長は羨ましいって言うけれど、俺のハートはガラスなんだよ。


『でしたら早速、相談に乗って欲しくて…とある工場での配管詰まりなんですけど…』


 気持ちを入れ替え、俺は彼女の相談事に集中する。

 相変わらず、彼女の話はしっかりと纏められていて分かり易く、事前に細かい所まで調べているのが分かった。

 お陰で、口頭だけでも何となく現場の様子が分かって来た。


「鈴木さん。そいつはね、固化しやすい油まで排水に流しているのが原因だと思うよ。油が付いた入れ物を洗う時は、ウエスなんかで一度ふき取ってからの方が良い。あと、同じところが毎回詰まるなら、配管の形状を変えるべきだね。S字になってたり、配管径が細くなる部分は特に詰まり易いから、その部分の配管を作り直すことをお勧めするよ」

『油をウエスで…配管を作り直す…ありがとうございます!黒川さん。現場に伝えます!』


 うんうん。頑張ってくれよ、可愛い室長さん。

 そんな風に、最初の質問を難なくクリアした俺は、ちょっと調子に乗って考えていた。

 でも、次の質問で躓いてしまった。


「う~~ん…謎の泡が出て、水路を塞いでいると」

『そうなんです。今までにない事らしくて…』


 話を聞いただけでは、何が何だか分からない。

 どうするべきかと悩んでいると、鈴木さんが控えめに発言する。


『あの…もしお電話で分かり難かったら…またWEB会議しませんか?』

「えっ?ああ、そうだね。出来るならそうしたいけど…」


 でもあれって、色々と申請が必要だろ?社長の許可も必要だし。

 そう聞くと、鈴木さんは「ふふふ」と自信ありげに笑った。


『実は私、社長から特別に許可を貰いました。私の判断で、黒川さんとコミュニケーションを取っていいと』

「おおっ」


 頼もしい。


『関係各所への連絡も、私が話を付けます』

「おおっ!」


 そいつは本当に有難い。女性側から言ってくれた方が、局も警察も簡単に承諾してくれるだろうし。


 そう思った俺の予想は、正しかった。

 鈴木さんは直ぐにWEB会議の許可を取り付けてくれて、その日の昼一に会議が実現した。


『こんにちは、黒川さん』

「こんにちは、鈴木さん。許可を取ってくれてありがとう」


 防音室で、俺は画面越しの彼女に手を上げる。

 画面に映る俺は、まぁ何とか見れるレベルまで回復している。会議までに何とか顔を作ろうと、色々頑張ったからな。昼休みに蒸しタオルを顔に掛けて寝ていたら、部のみんなに心配されちまったけど…。

 松本君なんて、手を合わせていたからな。


『これくらい、私に任せて下さい。今日は黒川さん、お1人なんですよね?』

「ああ。そうなんだ。煩わしいのが居ないから、気楽に話せるよ」


 俺は肩を回してアピールする。すると、鈴木さんが『ふふっ』と笑ってくれる。

 本当に可愛らしい子だ。


「ああ、でも。鈴木さん可愛いから、2人きりだとちょっと緊張しちゃうよ」

『えっ?』

「あっ」


 驚く彼女を見て、俺は失言だった事に気付く。

 でもそれは、遅過ぎる気付き。

 

「済みません!俺、変な事を口走ってしまって…」


 幾ら彼女が顔見知りだからって、年頃の娘さん相手になんてことを言ってんだ、俺。男女比1:1の世界でも、セクハラで訴えられるレベルだぞ?

 これは流石に不味い。こんなオッサンに言われて、怖がらせてしまったかも。取り返しのつかないことをしたと、俺は反省した。

 のだが…。


『いえ、全然。大丈夫、ですよ』


 鈴木さんはそう言ってくれた。言ってくれはしたが、頬を染めて俯いてしまっている。

 優しい鈴木さんだから、口では許してくれているんだと思う。でも、感情は付いて来ていないみたいだ。


『そ、それより、会議しましょう。私、あの後色々と調べたんです』


 恥ずかしさを紛らわす為か、彼女はいつもより半オクターブ高い声で話を進める。

 そうだな。失敗してしまった分、仕事で取り戻さないと。

 気持ちと気合を入れ直して、彼女の役に立つんだ!


 〈◆〉


『ってことで、こいつは水温が上がったことが原因で、スカムが発生しているんだと思うよ』


 工場のデータを見せただけで、黒川さんは直ぐに原因を見つけてくれた。

 更に、


『急に水温が上がっているから、何処かの弁から蒸気とかが漏れているのかも。各弁の漏れチェックもした方が良いよ』


 原因の原因まで考えてくれた。

 本当に有難いし、凄いなって思う。私では全然気付けなかったのに、やっぱり黒川さんは違うなって感心する。


「ありがとうございます!黒川さん。早速、所長さんに聞いてみますね」

『ああ、よく言っておいて欲しい』


 彼はそう言って、小さく微笑む。

 それを見ると急に、私は気恥ずかしくなって視線を逸らしてしまった。

 何でだろう?さっきも「可愛い」って言われて、とても嬉しい筈なのに、お礼が言えなかった。胸が苦しくなって、つい俯いてしまった。

 

「それでは、今日は以上にしたいと思います。く、黒川さん。また…宜しくお願いしますっ」

『うん。また宜しくね』


 彼はそう言って、会議室から退出した。

 そうすると今度は、今度はマイナスの感情が生まれる。悲しいとか、寂しいとか、心臓の締め付けが無くなった途端に、そんな感情が膨らんでいった。

 この感情は何かしら?今まで、感じた事ないわ。

 あっ、もしかして…黒川さんが居なくなって不安を感じているの?

 ダメよ、美夜子。ここからは私の仕事でしょ?そりゃ彼は頼りになるけど、何でもかんでも黒川さんに頼ろうとしてはダメ。私は、この案件を任された室長なんだから。


 私は気持ちを入れ替えて、工場に連絡する。彼から貰った知識をフル活用して、工場側と意見交換を行った。

 すると、向こうも何か心当たりがあるのか、『ちょっと調べてみるわ。ありがと』と言葉短く電話を切る。そしてすぐに折り返しの電話が来て、上手くいったと感謝の言葉を頂いた。

 良かった、ちゃんと問題が解決して。

 安心と同時に、やる気が湧いて来る。誰かの為になっていると実感できて、何だか仕事が楽しくなってきた。


「鈴木さん」


 そうして、仕事に前向きになっていると、部長に呼び止められる。


「早速、お手柄だったみたいね。この調子で、頑張ってちょうだいよ。鈴木室長」


 いつもは小言ばかりの部長まで、純粋に私を褒めてくれた。

 それを見て、周りからも黄色い声が漏れる。1年目2年目の後輩達が、私にキラキラした目を向けて来る。なんだかそれが、余計に心を浮つかせる。

 ああ、凄い達成感だわ。認められるって、こんなに嬉しい事だったのね。これも、黒川さんのお陰だわ。今度電話した時に、しっかりとお礼を言わないと。

 順調に滑り出した新業務に、私は満足していた。

 

 だから、周囲の様子をあまり見ていなかった。キラキラした目の中に埋もれた、怪しい光に気付くことが出来なかった。

 鋭く険しい、彼女のその表情にも。

…何か、不穏な雰囲気に。


「次回が楽しみであるな」


ええっと、次回は、その…黒川さんと松本君のお話で。


「このタイミングでお預けだと?Sだな、お前」


私ではありません!

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