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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ
第13章:トールステイン大王伝記 日進月異編

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211/240

第211話 予選大会の前と試合と後のこと 8歳 春

 残雪を残すフィヨルドの青い海を、一隻の長船が春風を帆に満々と孕み、切り上がった船首が穏やかな波を切り裂いて行く。

 舷側に並んだ男達が呼吸を合わせ、重い櫂を一斉に引き水面を強く掻いた。

 翌日の朝、シグヴァルド様は来たときと同じように長船に乗って帰っていった。

 

 突然やって来たと思ったら、あっという間に去っていく。嵐のような人だ。

 北方の陰謀を一人で切り回しているような人だからね。とにかく多忙なんだろう。

 ただ去り際に「実に良い話が聞けた」と、非常に嬉しそうだったのが気になる。


 それって、小民会の仕組みのことですよね?

 聞かれて答えた陰謀紛いの話のことじゃないと思いたい。


「まあ。兄のことですから上手くやるでしょう」


 とは、一緒に長船を見送りに来たシグリズ様の言葉。

 付き従う2人のお嬢さんたちは、顔の良い陰謀家が去っていくのが残念そう。

 あの人、顔は良いけどお腹の中は真っ黒ですよ?

 そして既婚者だし。


 僕としては、とりあえず予選会場となる村を決定すること、会場の担当者を期日を決めて派遣してくれることは約束してもらえたのが安心材料。

 肝心の北方21星の大結束への参加希望者の絞り込みについても、頑張って対応してくれるとのこと。

 小民会制度がうまく機能すれば、実務的には大変なことにはならない気もするけれど、原則はしっかり守ってほしい。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「そうか。予選の担当者が来るなら、いろいろと準備しないとね」


 クナトルレイク大会の予選を行う担当者を迎えるなら、宿泊や食事の手配も必要だし、何をどう伝えたら最も良く伝わるか、というレクチャーのカリキュラムも考えないといけない。


 そしてクナトルレイクのことなら、父ちゃんに相談するのが一番だ。


「ねえ父ちゃん。クナトルレイクの予選のことを一緒に考えてほしいんだけど…」


 父ちゃんは毎日のように審判を教えたり、村の施設の建設に従事したりと忙しそうにしているんだけど、クナトルレイクの話題となると目がないんだ。


「どうしたトール。何か困っていることがあるのか?」


 と、家から仕事に出ようとしているところなのに立ち止まってくれた。


「うん。ちょっと歩きながらでいいから、相談に乗ってほしいんだ」

「そうか。じゃあ競技場まで一緒に行くか」


 僕が父ちゃんと一緒に歩きだそうとすると、ムニが置いていくな!と抗議した。


「むに!むに!」

「ああ、ムニ。冬の間にすっかり出不精というか、デブになったなあ」


 肩に止まったムニがずっしりと重い。春は鳥の繁殖期のはずなんだけれど、まだまだ幼いせいかそういう兆しは一切ない。

 そして人がいるところへ行けば、おやつが貰えると学習している。


「じゃあ行くか」

「うん!」


 僕は父ちゃんと一緒に歩きはじめる。

 父ちゃんの歩幅は僕の倍ぐらいあるので、加減して合わせてくれているのが分かる。

 春になり、家の周囲に植えている三つ葉のシロツメクサが、雪解け後の地面を緑色の絨毯のように覆い始めている。

 僕は天然の緑の絨毯を靴の裏に感じながら、父ちゃんを見上げた。


「クナトルレイクの大会を村でやることになってるでしょ?だけどシグリズ様の兄様のシグヴァルド様が言ってたんだけど、すごくたくさんの村が参加したい、って言い出していて、この村じゃとても開催できないぐらい規模が大きくなりそうなんだ」


「そうか…クナトルレイクは北方の男たちの生き様そのものだからな。大きな大会となれば、全ての村の男達が集うのも無理はないな」


 父ちゃん?いやあの、僕はそこまでクナトルレイクに生き様を賭けたりはしていないんだけど…。


「それで北方21星の大結束の数も増えそうだ、とか言っててね。シグヴァルド様の方で、他の大きな村にも競技場を建てて予選をすることになったんだ。4チームで全チームがあたるようにして、一番の成績を修めたチームだけが、うちの村で行う本大会に進める方式になったの」


「それで審判を派遣する、という話だった。そこまでは聞いている」


 さすが父ちゃん。クナトルレイクに関することについては、実に記憶力と勘がいい。


「それで予選会場を行う村の人達は、初めてのことだから運営がわからないだろう、ってシグヴァルド様が仰ってて、うちの村に勉強に来ることになったの」


「ほう。子どもクナトルレイク大会のときの視察団のようなものか」


 実際に村に来て運営を学ぶ、という前例があるので父ちゃんはすぐに分かってくれた。


「うん。だけど視察じゃなくて、今度は実際に運営する人たちだから真剣味が違うと思うんだ。細かいこと、例えば競技場の観客席は何段の丸太を積み重ねるとか、得点を表示するための黒板の大きさはどのくらいにするとか、まで現場を見ていくことになると思う」


「なるほど。それは確かに、来て見てもらわないと難しいことだな」


 それで、ここからが父ちゃんにお願いする点なのだ。


「それで父ちゃんに相談なんだけど、予選の担当者達が来たら最初にクナトルレイクの試合を最初から最後まで見せて上げたらどうかな、と思うんだけど」


 最初から最後までというのは、選手団が司会に呼ばれ、入場して、戦歌を交換するところから、試合を行い、審判に従い、試合後に勝利チームが戦歌を一緒に歌うところまでの、一連の流れを全部だ。


「たぶん、うちの村のチーム以外は、盾の神話の模様とか、統一された色とか、戦歌とか、チームの名前もちゃんと決まってないと思うんだよね。それじゃあ、観客の人たちも見てて面白くないと思うんだけど…父ちゃんはどう思う?」


「うちの村では、赤の羽のフギンは、赤い色の盾とフギンの紋章を身に着けて、フギンの戦歌を歌っているな。たしかに、今となってはあれがないと寂しいな」


 いわゆるチーム・アイデンティティーというやつだね。

 チーム名、チームカラー、チームエンブレム、チームチャントの4要素。

 スポーツの試合は、ただの競技じゃなくて物語の表現でもあるから、観衆にも物語が伝わるように、どこのどんな来歴のチームが、どういう戦い方をするのか事前に情報があった方が盛り上がれると思うんだよね。


「でもね、口で説明されても見たことない人にはわからないと思う。だから、父ちゃんたちには、派手に演出された試合を見せてあげて欲しいの」


「ほほう」


 父ちゃんの目がギラリと光った、ように見えた。


「いいだろう!他所から来た者たちに、派手なクナトルレイクの試合を見せてやればいいんだな!任せておけ!」


 ドンと拳で胸を叩いた父ちゃんの姿は、実に頼もしい。

 これでクナトルレイクの試合は父ちゃんに任せても大丈夫そうだ。


◯ ◯ ◯ ◯ ◯

 

 競技場に着いたので、僕は父ちゃんと手を振って分かれた。

 試合のことは任せることができたから、僕は試合の前後のことを考えようかな。


 試合後。つまり試合結果のことは、きっとみんな知りたがるよね。

 そうすると予選の試合結果を流すメディアが要るなあ。


 羊皮紙で数字を伝えてもいいけれど、北方社会では試合経過と合わせて結果を歌で伝えるほうが受けがいい気がする。ニュースの実況とかのイメージで、無味乾燥な結果だけじゃなく展開とかも知りたいよね。


 待てよ、それなら試合前から盛り上げられるように、どんな対戦なのかを伝える歌があってもいいんじゃないかな。煽りPVみたいに事前に対戦情報とか見どころが分かるといいよね。


 予選参加する選手やチーム情報とか、大会後の結果を一覧化した羊皮紙の冊子があったら嬉しいよね。飛ぶように売れるんじゃなかろうか。

 大会グッズ、いろいろ準備しておきたいぞ。


 ああ、クナトルレイク大会のことを考えるのは楽しいなあ。

 大会の準備は忙しくなりそうだけど、みんなが喜んでくれそうだもの。


 陰惨な戦争の陰謀を考えるのなんて、やっぱり僕には向いてない。

 そちらはシグヴァルド様に任せるよ。


 僕は春の香りを運んでくる風につられて空を見上げる。

 冬の間、常に低く垂れ込めていた灰色の雲は去り、どこまでも青い空が広がっていた。

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― 新着の感想 ―
もうシグリズ様達に、死ぬ直前までボコられれば良いのでは? 中身はいい大人なのですから、周囲の人の気持ちを考えることや仕事の詰め込み過ぎは毒にしかならないことを学びましょう。
また仕事を増やしている…グリグリされるぞ
石碑なんかにその年の優勝したチームの名が残ってそう
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