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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ
第13章:トールステイン大王伝記 日進月異編

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206/240

第206話 戦争の準備は大変だ 8歳 春

 さて。村のことは、あらかた見回って理解してもらったと思う。

 シグヴァルド様には、いろいろと事情を聞かねばならない。

 

 そもそも、なぜ今の時期に単独で村まで来たのか。

 今、村の外の情勢はどうなっているのか。

 それからクナトルレイク大会に参加する村はいくつあるのか。

 聞きたいこと、確認したいことはいくらでもあるんだけど。


「兄様。まずは村の方で歓迎の宴席を設けさせていただきます」

「そうだな。ありがたく参加させていただこう」


 シグリズ様の言うには長屋敷の方で、村として歓迎の宴を開くという。


 そりゃそうだよね。公式の歓迎を放り出して村中を見て回っているシグヴァルド様の行動の方が変なのだ。

 村長さんや村の有力者達も参加する宴席には、僕も貴族の一員として末席に加えてもらえることになった。


 お酒は全然飲めないけど…。

 父ちゃんも、飲みすぎないといいなあ。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 その夜、長屋式には村の有力者達が集まり、北方21星の大結束の有力者を迎える宴席が催された。

 食卓には、鉄板で香ばしく焼かれた冷燻の鰊や鱈に加えて、特別に潰された家畜の肉や、焼き立ての贅沢大麦パンが山のように積まれた。そしてもちろん、特製大麦酒も大樽が幾つも運び込まれた。

 贅沢に灯された多くの蝋燭の明かりは白い壁に反射して、昼間のように宴の席を赤々と照らし、饗宴を色鮮やかに浮き立たせる。


「北方21星の大結束、北方一の知恵者であらせられるシグヴァルド殿のために!」

「北方一の知恵者のために!」

「シグヴァルド殿のために!」


 ところが宴が始まってみれば特製大麦酒の樽が醸造所から引き出されたのがよほど嬉しかったのか、村の尊い身分の男たちは歓迎の言葉を口実に真っ先に杯を重ねてしまって、とても話を聞くどころではない感じ。


「北方21星の大結束のために!」

「北方一の将軍のために!」

「クナトルレイクのために!」


 ああ、父ちゃんもすっかり出来上がってしまっている。

 これはちょっと今夜は真面目な話し合いは無理かもしれないな…。


 僕は会議は諦めて、テーブルに乗せられた料理の方を片付けることにした。

 せっかく用意された食事だもの。ちゃんと食べてあげないと。


「うーん。塩を使いすぎ。これなら母ちゃんの料理の方が美味しいなあ…」


 手元の皿にとった冷燻の鰊は塩抜きをせず白大根や玉ねぎやニンニクと一緒に焼いて塩と脂を吸わせているみたいで、僕の好みからすると少し塩っぱい。

 北方の男たちは戦士で肉体労働者だから、そういう味が好まれるんだろうけどね。

 僕はもうちょっと優しい感じの母ちゃんの味付け方が好みだ。


「さすがに小さなフギンくんも、お酒はまだ飲めないようだね」

「トールです。お酒は大きくなってから飲みます。それよりシグヴァルド様こそ、宴の主役が僕の相手なんかしていて良いんですか?」


 僕がテーブルの端で料理をつまんでいたら、シグヴァルド様が隣に座った。

 特製大麦酒を飲んだのか、少しだけ顔が赤く吐く息もお酒くさい。


「まあ、挨拶もして義理は果たしたさ。それよりもトールくんとお話がしたくてね」

「そうですか」


 たしかに村長さんや村の有力者達は、杯を干して酒を飲むことに夢中になっていて、宴の目的も忘れ去ってそう。

 特製大麦酒の樽の周囲に集まって、注がれては音頭を取って乾杯し、飲み干しては樽のところで補充する、ということをずっとやってる。

 田舎のおじさん達が、飲む口実を作っては飲み会をやってるノリだ。


「僕も村の外のことを教えてほしいんです。今、いったいどうなっているんでしょう?王は戦を始めそうなんですか?」


 僕としては何よりも村の安全が気になる。王とトーレル卿が正気に立ち返って、北方21星の大結束を揃って攻撃し始めたら目も当てられない。

 とにかく、外の情報が欲しいんだ。


「そうだな…まずはそこから語ったほうが良いか。喜び給え。君の策は見事に効いている。王もトーレル卿も、冬の間に爆発的に広まった噂に右往左往しているぞ。灰色の狼と番犬のサーガに歌われるように互いに疑心暗鬼になり、誰が味方で誰が敵かわからなくなっているようだ」


 僕の策、というのは語弊があると思うな…。

 僕はただ父ちゃんを戦争に行かせたくないから一生懸命に考えて聞かれたことに答えただけで、大喜びで陰謀に積極的に火をつけてガソリンを撒いて回ったのはシグヴァルド様でしょうに。


「王とトーレル卿の不仲はいよいよ極まり、いつ両者の間で戦が始まってもおかしくない情勢だ。今年の夏は小競り合いの出兵があるかもしれないな」

「それでも小競り合いなんですね」


 互いに総力を結集した大戦争にはならないらしい。

 僕の思惑が外れた、という顔を見てシグヴァルド様は、ふうむ、と形の良い顎に薄く生えている髭を撫でた。


大戦おおいくさというのは、なかなか簡単には出来ないものだよ。なにしろ準備が大変だからね」

「それはわかります」


 誰も死なない擬似戦争であるところの小規模な子どもクナトルレイク大会の準備でさえ、もの凄く大変だったのだ。

 その何倍、何十倍もの荒くれ者の大人たちが遠征して戦争するための準備がどれほど大変なことになるかなど、考えたくもない。


「まず大前提として、王もトーレル卿の直接抱えている兵は少ない。常雇いの兵士は富を産まないし費用もかかる」

「はい」


 それもわかる。常備軍なんて近代国家が成立するまでは不可能な精度だったからね。村を襲ったトーレル卿の部下のアルンビョルンの襲撃も、不足する給金を自主的に稼ぐための小遣い稼ぎだったのだろう。


「そこで王もトーレル卿も、今年の夏は募兵を行うだろう」

「へえ。どうやって兵を募集するんです?」


 兵を募る仕組みには興味がある。文書主義ではないから、募兵官のような人が村々を回るのかな。どうせ口約束ばかりで約束の銀貨を払ったりしないだろうし、村の人には騙されないように注意しておかないと。


「王やトーレル卿、自らが少数の部下と各地の民会に出席して説いて回るのさ!そこで民会の出席者に対して戦の正当性や、勝利した後の利益配分、被った損失に対する補償などを主張するんだ」

「…ものすごく手間と時間がかかりますね」


 なんと民主的で非効率なことだろうか。文書もないし官僚機構も存在しないから、王やトーレル卿が自ら説得して回らないと駄目なのか。


 僕は、王自らが説得して回り出兵を要請する方式の、幾つかの致命的な欠点に気がついた。


「そんなやり方だと、あまり多くの村を回れそうにありませんね」

「そうだな。だから主要な民会の幾つかを回って支持を取り付けることになる」

「それでも、とても今年の夏の出兵は無理そうですね」


 例え王が民会を説得したところで、民会の方でもまた揉めるだろう。

 その場では賛成しても、後で反対に回ることもあり得る。

 文書とか契約で拘束しているわけじゃなさそうだし。


「それに利益の配分とか言っても、それは勝ったらの話ですよね?負けたら利益もないし損害も保証されませんよね?」


「だから王もトーレル卿も、自分がいかに勝ち目があるかを主張するわけさ。正当性というのは、要するに神々が味方についているので勝てる、ということの言い換えだよ。

 村人の方だって愚かじゃない。勝ち目が薄いと思えば戦に参加はしないし、戦に参加するならは準備金も要求する。王もトーレル卿も、戦の前にまずは金を稼いで、準備金の支払いに充てないとならないだろう」


 世知辛いねえ。戦争は金がかかる。戦争の準備にも金がかかる。

 だから戦争のために金を稼がないといけない。

 戦争なんてやめたらいいのに。


「今年の夏は、戦争の支持をとりつけて、戦争準備のお金を稼ぐだけで終わりそう。戦争は来年から、ということですね」

「そうだね。それも全て上手く運べばの話だ」


 なるほど。僕の隣に座って楽しそうに杯を干している顔の良い男が、戦争の準備もさんざん邪魔をする、ということか。


 怖いねえ。


 真面目に戦争を準備しようとしている王様とトーレル卿が少し気の毒になってきた。

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― 新着の感想 ―
力任せの敵勢力を知恵で手玉に取る計略のシーンだけど、長い歴史で見ると今まで育まれてきた『乱暴で古い文化』が崩れ始めるシーンに見えて哀愁を感じますね
村を襲って戦費を稼ぐ算団かな? 返り討ちにしてしまえ
少なくともこれでトールたちの村が襲撃されるリスクはなくなったのか
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