第194話 仕事を減らすための仕事 7歳 晩冬
「ちょっと飽きてきた…」
「そうだなあ」
父ちゃんと2人で仕事するのは楽しいけど、ずっとハンドルをぐるぐる回していると背中と腕の筋肉が痛くなってくる。
そこで。大麦の選別が終わったら空いた樽をたくさん渡す、という約束で木工職人を拝み倒して、もう1台の風選機を作ってもらえることになった。
そして新しい風選機が届くまでは休憩期間とする。
これまでの作業で出た余った藁クズは家畜の寝床に敷いてあげたら、馬も牛もすごく喜んでた。吸湿性が凄いからね。寝床が乾いて快適なんだろう。
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数日後、新しい風選機が届いたので、母ちゃんとエリン姉も動員する。
一家で風選機の労働だ。
「これを回すだけで藁屑が取り除けるの?本当に不思議ねえ」
「お母さん、早く大麦を入れて!」
「はいはい」
母ちゃんとエリン姉のチームは、作業初日だからまだまだ元気。
特に母ちゃんは風選機の仕組みが不思議で仕方ないらしい。
「本当に便利ねえ。この大麦で作ったら大麦酒も味が良くなりそう」
「そうだな」
父ちゃんが深く頷いた。
家庭で作る大麦酒は、どうしても藁屑が混入しちゃうからね。
特製大麦酒の評価が高い理由の一つは、そうした藁屑を頑張って取り除いている点にもある。風選機が一般化すれば、酒造りの人たちも大いに手間が省けるだろう。
僕は家族が一緒に働けて嬉しいけれど、来年は水車動力に出来たらいいなあ。
大した馬力が要るわけでもないし、製粉に使っている動力をちょっとだけもらって、2回、3回と繰り返し風選するのも良いかもしれない。
藁クズの混入率は、さらに下がるだろう。
「ねえ父ちゃん、これを使えば豆の風選も出来そうだよね。そら豆とか、えんどう豆とか」
「そうだな」
このあたりでは、豆は大麦に次いで食されている。
保存も効くしカロリーも高い貴重な食料源だ。
普通に豆を収穫すると、茎とか豆のさやの殻が混入するんだよね。
大麦よりも豆は粒が大きいから、ざるにあけて大まかに屑を飛ばしてから目視で豆だけを選別するんだけど、風選ができたら楽になる。
それに茎や殻が原因で腐ったり虫が湧くことも減るから、保存性も上がりそうだ。
もっと小さな実の分別にも力を発揮しそうなんだよね。麻の実とか、蕎麦とか。
このあたりには蕎麦は生えてないみたいだけど、応用範囲は広そう。
「もっと村で広めたらいいのに。きっと役立つよ」
「そうだな。だが村長婦人にも、いろいろとお考えがあるんだろう」
そうかなあ。仕事が爆発的に増えそうなのを嫌がっているだけな気もするけど。
僕は父ちゃんにうなずきつつ、風選機のハンドルを回し続けた。
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「終わった…?」
「まあ。これで最後?」
倉庫に積み上げられた膨大な量の大麦を風選するという作業。
村中の男手が総出で1周間はかかりそうな量だ。
それが、たった3日で終わった。
「…すごいわねえ、この機械」
「そうだな…あっけないほどだ。サウナ一巡りぐらいはかかると思ったが…」
あまりにもあっけなく仕事が終わったので、父ちゃんも母ちゃんもビックリしてた。
これが機械化による効率化のパワーってやつだよ!
「終わりました!」
「え?…本当に?」
シグリズ様に倉庫に積まれた大麦の樽の風選が全て終わった、と報告したらめちゃくちゃ驚いてた。
「あいた余分の樽を木工職人のところに持っていくので、郎党を貸してください!」
「え、ええ。それは構いませんが…」
そうして大麦が入っていた空の樽を30個ばかり、約束通り木工職人の工房に持っていったら親方も、ものすごい驚いてた。
「これは…?本当に樽を持ってくるとは…。魔術で作った樽じゃねえだろうな?」
「いやだなあ。焼印を見てよ。ちゃんと、この工房で作った樽でしょ?」
「そうなんだが…いやしかし…」
やはり効率化で驚かせるのは気持ちいい。
あの原始的な風選機が成し遂げたことは、それぐらい凄いことなんだ。、
だって操作に不慣れな4人の女子供を含む素人がたった3日間の労働で、逞しい大人の男15人が1週間分の仕事を行った上に、樽30個分の余分な富を生んだわけだからね。さし引きで、15かける7の105人日労働から4かける3の12人日で、93人日分の労働も節約した計算になる。
大した付加価値を生んだと言えるんじゃないかな。
ただ効率が良すぎるのも事実なので、村には共同保有の形で3台ぐらいあれば十分かもしれない。
「これを大農場を抱える地域に持ち込んだら、たしかに壊滅的な影響があるかも…」
実際に風選機を動かしてみて実感できた。
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「それじゃあ、配分の方はお願いします」
「はい。お任せください」
風選機で分別された、すごい量の藁屑は大麦の倉庫の前に積み上げて、必要な人に取りに来てもらうことにした。
僕たちが大麦の保管倉庫の中でずっと作業をしていたことは村の噂で知られているし、大麦を密かに自分たち一家のものにしていた、なんて思われたくないからね。
成果を公開するのは大事です。
ただ、藁屑を1人がすごい量を持っていかれるのも困るので、一応は郎党の人に見張りをしてもらった。
シグリズ様が心配するのもわかるけれど、来年開港する大麦倉庫には風選機を1台備えつけて置きたいよなあ。
持ち込まれた大麦の樽を一つ倉庫に運んで、その場で藁屑の混入の割合を測って価格を決定したいんだ。
あまり風選機を見せない形で、なんとか実現できないかなあ。
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「さあて。ちょっと本気を出そうかな」
大きな黒板を前に、僕は貝殻棒を握る。
シグヴァルド様には、受け身でいると振り回されるばかりだからね。
こちらで先手を打って仕事を投げることにした。
今からやろうとしていることは、クナトルレイク予選大会開催の運営マニュアルの作成だ。
よく考えてみると、この村ではすっかり定番になった感のある4チームによる宿泊込みのリーグ戦の開催は、他地域では誰もやったことがないはずなんだよね。
だから、こちらから開催運営のマニュアルを作って渡してしまおう。
それが結果的に、僕たちの仕事を軽減することにつながる…はずだ。
「まずは運営の流れ…と。
大会日程の告知、到着時の手続き。名簿の作成と管理。宿泊所の整備と飲食物の用意。特に大麦酒の量を余分に。警備員と治療者と薬草師の用意を。
それと競技場の整備。道具の管理。審判員と警備員の配置…」
子どもクナトルレイクの大会で2回とも中心となって開催しているから、大会の手順は全て頭に入っている。
どんな準備をしたらいいか。どんな物資を用意すべきか。人員の体制は。
当日のスケジュール管理から、夜間に気をつけることまで。
「費用の見積もりも書いておくかな。挨拶文は…それぐらいはできるか」
うちの村の経験を元にした手順書を整備する。
「こんな感じかなあ…」
シグリズ様の私室にある大きな黒板に勢いよく開催マニュアルの全体像を書いていたら、それを見ていた2人のお嬢さんたちが驚きに目を丸くしていた。
「この子を扱うのは、本当に難しいのです」
とシグリズ様がため息をついた。




