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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ
第8章:トールステイン大王伝記 黄金の黎明戦争の章

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第128話 それって国ができてませんか? 7歳 夏

「|北方21星の大結束《The Great Binding of the 21 Northern Stars》…うん、これは素晴らしい響きだ…うん。実にいい」


 自画自賛、というか。

 自分の思いつきに酔ってしきりに頷いていたかと思えば


「これは皆に一刻も早く知らせなければ!」


 とシグヴァルド様が足早に去って行き僕達は取り残される。

 気がつけば、杭と縄の航路図が描かれた斜面の下には、村中から人が続々と集まりつつある。


「おい、あれは一体何だ?」

「なんでも、俺達の村の位置を表す海の地図だって話だ」

「地図?海の地図ってなんだ?」

「世界を表してるんだってよ!」


 20を超す村々から来た戦士達の中には、自分の村と周辺の海しか知らない者が多い。

 航海士でなければ、互いの村の位置関係は曖昧だろう。訪れたことのない村や海など想像することも難しかったに違いない。

 まして、遠い村々と助け合うことなど、これまで考えたこともなかっただろう。


 そう。これまでは。


「おい、俺の村はあそこか?」

「すると、ここの村があそこなのか?おい、誰か村の名前と位置を教えてくれよ」


 地図が見えるように示されれば、自分の村の位置が気になり、他の村の位置も気になってくる。


「でもよ、北の果てにも行こうと思えば行けるんだな」

「そうだな。南の果てにも行ける。村がわかればな。意外と近いぞ」


 世界の形が見えれば、世界の果てがどうなっているのだろう?という疑問が生まれてくるのも、その場所に行ってみたくなるのも当然の帰結である。


 世界の形にはその種の力がある。

 細々とした知識はなくとも、戦士達は本能から懸命に世界の形を理解しよう、と斜面の航路図を見つめていた。


 ふと、何かに気づいた戦士の一人が声を上げる。


「おい村長達だ」

「本当だ。何が始まるんだ?」


 宿泊所から出てきた21の村の村長たちが列になり、ぞろぞろと航路図の斜面に登っていく。

 彼らは下から見上げる戦士達の視線を気にすることなく航路図の上に散らばり、離れて立つ。


「いったい何だ…?」

「いや待て!あれは自分の村の場所に立ってるんじゃないか?」


 シグヴァルド様の差配で、村長たちが自分の村の場所の杭に立っている。

 それで戦士たちにも、航路図と自分の村の位置関係が初めて伝わった。


「あそこが俺達の村か!」

「俺の村は北だな。あんなに北なのか…寒いはずだ」


 がやがやと声をあげる戦士達の前に、シグヴァルド様が立つ。

 彼は大きく右腕を掲げて注目を集め、群衆が静まるのを待って演説を始めた。


「聞け!北方の勇ましき戦士たちよ!

 今日という日は、我らが歴史に刻まれるべき祝祭の日である!


 なぜか?

 それは、我らが北方の民としての誇りを取り戻した日として、永遠に英雄譚へ記されるからだ!

 そして、ここに集いし諸君ら一人一人が、不滅の英雄として物語にその名を刻む、永遠の命を約束された日だからだ!」


 激烈な呼びかけの後、うって変わって静かに、論理的に、言葉が人々に染み込むように話を続ける。


「諸君も知っての通り、我らは長きにわたり、暴虐なる王の気まぐれな重税と、徴税吏の横暴に甘んじてきた。


 王は言った。我が元に集え、と!

 土地を、財を、そして兵を出せと!

 己の権勢を飾るための飾りに、我らになれというのだ!


 敢えて問う。あのような私欲にまみれた王に従い、我らに未来はあるか!?

 ――否だ! 断じて、無い!」


「そうだ!王には従えねえ!」

「くたばれ暴王!」

「王は俺達の敵だ!」


 戦士達も共感の叫びで応えた。

 王様、嫌われてるねえ。


 ひとしきり戦士達に叫びを上げさせた後、シグヴァルド様は言葉を続けた。


「我らはこれまで、結束を欠いていた。その事実は認めよう。

 王の暴政に抗うには団結が必要だと知りながら、己の武勇のみを過信し、個々の村で挑んでは、数に頼る王の軍勢に敗北を喫してきた。


 だが、それも昨日までの話だ!」


 シグヴァルド様は大きな身振りで、背後の村長たちが立つ航路図を指す。


「この輝く星を見よ! 我らは同じ海、同じ空の下に生きる同胞ではないか!

 我ら北方民は、今この時、真の結束を果たす!

 暗闇に沈むこの北の大地を照らすのは、他でもない、我ら自身だ!

 我らこそが星である!


 我ら21の村々は、これより「北方21星の大結束」を名乗る!


 北方21星の大結束に、栄光あれ!

 我らが団結に、勝利の祝福を!

 北方21星の大結束に勝利を!」


「「北方21星の大結束に勝利を!!」」


 1000人以上の男達叫び声を上げると、個々の言葉の意味は失われ、もはや耳を聾する波のようにしか聞こえない。


「諸君は、北方21星の大結束の中核をなす戦士である!

 我らは暴虐の王を怖れない!

 我らは友を増やし、共に豊かになる道を選ぶ!

 我らは北方の夜を照らす21の星である!」


 歓声は、もはや音圧の暴力であった。

 1000人を超える聴衆の戦士達は興奮し、斧や盾を振り上げ、雄叫びを上げた。

 もしも今彼らの前に立ちはだかる軍勢があれば、5倍の敵を前にしても怯むことなく突撃し粉砕すること間違いなし、という程に士気が高揚していた。


 そんな大興奮の戦士集団の最前列に、ムニを肩に乗せた僕は居心地悪気に、ぽつんと立ちすくんでいるわけでして。


 あのー…うシグヴァルド様?

 ただの共同債権の協定のはずが、反王政の地域国家が誕生していませんか?

 建前とか偽装とかを気にしていた村長さん達も、興奮して拳を振り上げてるし…。


 ま、まあ政治は大人に任せたから、僕は関係ないね。

 関係ないったら関係ない。


 僕は群衆が演説の興奮から冷めるまで、ひたすら小さく身を縮め、嵐が過ぎ去るのを待つのだった。


 ◯ ◯ ◯ ◯


 そうして嵐の音から耳を塞ぎ現実から目を背けていても、実務というか仕事は僕に降ってくるわけで。

 具体的には、北方21星の大結束の航路図の複製の依頼が殺到した。


「あの航路図を写し取りたい!ぜひ村の斜面にも同じように飾りたいのだ!」

「携帯用の小さな航路図が欲しい!航路図があれば交易が盛んになることは間違いなしだ!ぜひ譲ってくれ!」


 どの村からの申し出も、まことに切実であり最もな要望なのでして断ることなど思いも寄らない。


「トール?でみますよね?」


 押し寄せる人波を華麗に捌き続けているシグヴァルド様が、ちらりとこちらを見ながら無茶振りをしてくる。

 なんだか村長婦人と似たような動きをする人だなあ。


「できますよ。どのくらいの大きさがいいですか?」


 まあ。今回の無茶振りには応えられるんですけどね。


 ・小サイズ:羊皮紙の大きさ

 ・中サイズ:旗の大きさ

 ・大サイズ:帆の大きさ


 さしあたりは、この3つパターンがあればいいかな。


「じゃあ一緒に複製をしましょうか。希望する人はついて来て下さい」


 僕は航路図の複製希望者達を引き連れて斜面に向かう。

 本日2回めのアクティビティの時間だ。


「複製には、このエル巻き尺を使います。1人1つ持って下さい」


 最初にエル巻き尺を一人一人に配布する。

 これさえあればサイズを変えた複製は簡単なんだよね。


「まずは、わかりやすく半分の大きさの複製からやりましょうか。大サイズになりますが、たぶん帆に象るサイズとしてちょうどよいはずです」


 僕は斜面の航路図の左側の少し外れた場所に1本の杭を打ち込んだ。


「ここを起点としますね」


 僕は起点の杭にエル巻き尺の端を引っ掛けると、航路図の杭まで引っ張って歩いた。


「起点の杭から航路図の杭に一本ずつエル巻き尺で測ります。

 起点と航路図の特定の縄を結び、長さを半分を測ります。

 長さ半分の場所に新しく杭を打ちます」


 航路図の特定の杭までエル巻き尺を測ったら、折り返してちょうど半分の位置に新しく杭を打ち込む。


「これを21回繰り返します。

 すると半分の大きさの航路図ができあがります。

 では一緒にやってみましょうか?」


 全員がエル巻き尺を持っているので、10人ぐらいで作業をすると、あっという間に新しい杭が打ち込まれた。


「はい、できましたね?これが半分サイズの航路図です」


 たったそれだけの作業で、斜面の航路図の左側には、今の作業だけで半分サイズの航路図の杭の位置が、ほぼ正確に写し取られていた。


「おお。たしかにできあがているぞ」

「いやしかし、何でだ?」


 首を捻っている男達に向けて、僕はもう一回、複製を作りましょうと呼びかける。

 こういう作業は、習うより慣れろ、だ。


「今度は、小さいものも作りましょうか」


 今度は航路図の下側に複製を作る。

 小サイズの羊皮紙サイズの複製だ。


 同じように起点となる1点の杭を打ち込み、縄を伸ばし結ぶ。

 小さな図にするので、杭ではなく細い棒を使う。


「ここから杭までの長さを10としますよね?

 10分の1の長さに新しく棒を打ち込みます。

 すると10分の1の図が写し取れます」


 これも大人数で作業したのですぐに終わり、航路図の下に羊皮紙サイズの小さな航路図が写し取られた。

 首をひねる男達に、僕は原理を説明する。


「これは建築模型を拡大して建設する方法と原理は同じです。ただ、逆に使っただけなのです」


 僕の説明に、何人か建築に造詣のある男達から声が上がった。


「ああ。たしかに!家を大きくする方法を、小さくする方法に使ったのか!」

「言われてみれば確かに簡単だ…しかしよく思いつくものだなあ」


 羊皮紙サイズの航路図ができれば、写し取れば運搬は用意になる。

 北方社会に瞬く間に広まっていくことだろう。


「もしも村に帰ってから拡大した図版が欲しくなったら、同じことを逆にやればいいのですよ。これをこうして…」


 羊皮紙サイズの航路図を表す細い棒の頭を水平にして貝殻粉つけて羊皮紙を押し付ければ、下書きの出来上がり。


「正確に作るには厳密に水平をとって板で作ったほうがいいんですけどね」


 僕が貝殻粉の白い跡がついた棒の跡の残る羊皮紙を示してみせると、見学の男達からも感心の声が上がる。


「おお、こんなに簡単に航路図の複製ができるとは」

「この場所にインクと羊皮紙を持ってこさせればいいな」


 せっかくの機会なので、僕は航路図複製の参加者たちに呼びかける。


「それと、この航路図はあくまで概念図なので、実務用には航海士の人には、航路の注意事項を聞き出してメモしないといけません。

 ルーン文字の書ける人達で手分けして聞き取りをしましょう。

 文字が書ける人、手伝ってくれますよね。

 北方社会の航海士の人達が一同に介している、こんな絶好の機会はそうそうないわけですから」


 僕の呼びかけで、男達は航海士に聞き取りをするために散らばっていく。


「それにしても、この航路図というやつは凄いぞ」

「そうだ!交易路がこれほどハッキリしていれば互いの交流は進むだろう」

「どの村をどのように経由すればどこに行けるかが、これほどハッキリわかるとは

 まさしく世界だ。北方世界がここにある」


 航海士を交えた航路の聞き取りは、男達をさらに興奮させた。

 まさに世界が眼の前で広がってくのだものね。


「そうです。でも、世界はもっと広くなりますよ。仲間を増やしましょう。

 旗に輝く星が増えれば増えるほど、僕達はもっと大きく強くなれます」


 一同は大きくうなずいた


「じゃ、帆柱に飾る旗を作りますか。布と糸をください」

「なに?」


 怪訝な顔で渡された布を断ち、僕のチート縫い物能力でちくちくちくっと、見たままの航路図をすごい速さで旗を縫い上げた。


「なんだ、あれ…?」

「全く測ることなく旗も星も縫い上げたぞ…?」

「魔術かなにかか?」


 なんか周囲の大人達が引いてた。

 魔術じゃありません。チートです。


 ◯ ◯ ◯


 20を超える長船の艦隊が、村を順々に離れていく。

 航路図と旗と名前を手に入れた北方21星の代表達も戦士達を連れて去っていく。


 僕はムニを肩に載せ母ちゃんとエリン姉と一緒に、長船に乗りこむ父ちゃんを見送る。

 父ちゃん、帰ってきたばかりなのに…。


 村の守りに必要な若者と長船1隻を残して、アルンビョルンの村から債権を取り立てる最初の共同事業実施ために全艦隊は出立した。


 民会で賠償の判決は出たけれど、取り立て執行は自力救済なんだよねえ。

 警察なんかいないので、被害者に武力がないと借金も返してもらえない世の中なのである。

 武力で差し押さえが実行できる共同債権の枠組みは、その点だけをとっても非常に画期的なのだ。


 足早な出立の理由を問われた船長たちは「これ以上、長く村に滞在しては、女狩人たちに我らの戦士がますます減らされてしまうのでな」とおどけてみせた。


 8章 終わり


 明日は大王伝記の回です。

 

 それと皆様の応援のおかげをもちまして、カクヨムの歴史・時代・伝記ジャンルで「累計」1位を取ることが出来ました!深く感謝を申し上げます。


 というわけで、記念感謝SSを書きました(書いています)ので、午後1時ごろにカクヨム限定サポーター向けに投稿する予定です。

 執筆速度によっては少し後ろにズレるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
日々の楽しみです。
やりたくもない王に担がれて外堀埋められてアイデアを搾り取られてぐりぐりされて後の大王ってこれもう傀儡だろ……。 後世に知られたら解釈不一致と尊厳破壊待ったなし。 俺の大王はこんなことしない! さすが…
異教徒のような戯言云う陛下=北方の征服王=トールステイン 「水晶の転がるよう」と称えられる美しい声と見事な黄金の髪を誇る婚約者(未登場? 大柄で経験豊富な精鋭戦士達、その数は数千人以上(今は千人ほど …
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