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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ
第8章:トールステイン大王伝記 黄金の黎明戦争の章

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第127話 北方連合の萌芽 7歳 夏

 ・21の村による協定を結んだ集団をなんと名づけるか

 ・21の村の集団の旗をどのようなデザインにするか

 ・21の村の交易を盛んにする航路図をどのように作るか


 この3つの問題を、たった一つのアイディアで解決できるかもしれない。

 |たった一つの冴えたやりかた《The Only Neat Thing to Do》、というやつだ。


「全部の村から1人ずつ航海士を集めてもらえませんか」


 とシグヴァルド様にお願いをする。


「何か思いついたようだね」

「はい。たぶん」

「また思いついたのですか…?いえ、思いつくのは良いことですが」


 シグヴァルド様は瞳を面白そうに輝かせているというのに、なぜかシグリズ様(村長婦人)は形の良い眉をしかめるという、兄妹の美形が正反対の反応を見せる。


「あとは、杭と縄と…村のエル巻き尺がたくさん要りますね。長屋敷に在庫がたくさんあるはずです」

「村の郎党に用意させましょう」


 村の大工仕事で普及させようと思って、長屋敷の奴隷の人にエル巻き尺を量産してもらっておいたのが、ここに来て役立つとはね。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 長屋敷の裏、フィヨルドの斜面になっている牧草地に、21の村から集められた航海士の人達に集まってもらった。


 北方社会で航海士と言えば、熟練の船乗りで社会的地位も高く尊敬されているし、相応にプライドも高い。


 そうした人々を言葉で説得するのには骨が折れる。

 そこで僕は、まずは体を動かし形を体感してもらうことから始めようと思う。


「お集まり頂きありがとうございます。今から少しの間だけ、協力をお願いします。

 ところで、皆さんの中で最も多く経験を積んで航路を多く知っておられる方は、どなたでしょうか?」


 肩に烏を乗せた奇妙な子供の呼びかけに、熟練の航海士達はひとしきり「誰だ?」「やっぱりあれじゃねえか」などと内輪で相談をした後、一人の老人の航海士を推薦してきた。


「フォス・ビュ村のストルクじゃ。小僧は儂らのような年寄りどもを集めて一体何をさせようと言うんかね?」

「トールです!そうですね。僕は皆さんのお力を借りて、皆で仲良しになりたいと思っています!」

「仲良しか。それはええのう」


 なんか頭を撫でられた。

 考えてみれば7歳の子供なんて、熟練の航海士から見れば孫みたい年齢だものなあ。

 小賢しげなことを言い立てたところで可愛いだけか。


 僕は少しだけ肩の力を抜いて、説得モードからお願いするモードへと態度を変えた。


「では。お願いがあるのです。この中で最も近い村と、村までの方向と日数を教えてください」

「ふうむ…」


 航海士のストルク爺さんは、白い髭をなでつつ背後の航海士達を振り返る。


「ダル・エンかのう。北のやや西寄りに2日といったところじゃな」

「なるほど!2日ですね。1、2…。ダル・エンの方は、この場所に縄を持って立って下さい。動かないでくださいね!」

「お、おう」


 ストルク爺さんに指名されたダル・エンの航海士は、斜面の上方を北と見做した場所のやや西よりに2日単位とされた縄を持って立った。


「ストルクさん。次に近い村はどこでしょう?」

「南のフルフナじゃな。南のやや東寄り。3日といったところかのう」

「1、2、3…。フルフナの方は?」

「おう。いるぞ」


 フルフナの航海士にはストルク爺さんから見て、斜面のやや下の右の方に縄を持って立ってもらう。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 僕が村の長屋式の斜面で航海士の人達を集めて怪しげな縄を使った儀式を行っている、という噂はすぐに村中に広まった。


 裁判の間、集まった戦士の人達は暇にしているから、格好の娯楽として物見遊山気分で集まってくる。


 もともと村全体から見えやすい場所で行うことも僕の目的の一つであるから、目論見通りである、とは言える。


「おい。あれが何をしているかわかるか?」

「わからん。何かの魔術か?」

「縄を張っているように見えるな。何かを建てるんじゃないか?」

「あんな斜面にか?雪が降ったら崩れちまうぞ!」


 などと活動自体を評しているうちは良かったのだけれど。


「なんで子供が指揮をしてるんだ?」

「あれは村のフギンと呼ばれている子供らしい。何でもアルンビョルンの奴めを口から雷を発して追い払ったとか」

「裁判で大人顔負けの演説をしていた、あの子供か!」


 だんだん僕の噂が多く聞こえるようになってきた。

 だから口から雷なんか出さないって。

 うーんやりにくい…。


「ストルクさん、ありがとうございます。次はダル・エンの方にお聞きします。残りの村で、あなたの村から最も近い村はどこでしょう?名前と航海の日数と、だいたいの方向を教えてください」

「よし来た!だいたい、なにがやりたいか、解ってきたぜ」


 1人の航海士から最寄りの3つの村までの距離と方向を聞き出し、エル巻き尺の縄で距離を測って、だいたいの方向の位置に立ってもらう。

 3つの村の航海士に、また3つの村について同じことをしてもらえば、13の村々の位置と航路の距離が定まってくる。

 ここまでくれば、活動に参加している航海士たちにはもちろんのこと、斜面を下から見上げている面々にも朧気に全体像が見えてくる。


「おい、あれ…」

「なんか形ができてきてねえか?」

「そうだな…星の並びか?」


 僕は粛々と、残りの村の航海士たちにも同じ用に他の村までの距離と方向を聞き、縄の長さを巻き尺で測り、立ち位置を調整してもらう。


「互いの縄を緩めないよう、ぴんと張って下さーい!動かないでくださいね!今、足元に杭を打ち込みますから!」


 村の郎党の人達に手伝ってもらい、立ち位置が確定したところから、航海士の足元に大きな杭を打ち込んで村の名前をルーン文字で書き込み、エル巻き尺の縄を太い縄に置き換えていく作業を行っていく。


 それから、さほど時間がかからないうちに、集団に参加した21の村の全ての位置と相互の距離を示す、ノード&エッジ(村と航路)式の北方の模式図が斜面に出来上がることになった。


「ふう。こんなものかな?」


 あくまで、このノード&エッジの航路図は概念図に過ぎないもので、航海の実務に使用するならば航路間の注意事項、例えば季節による風向きとか岩礁の位置とか目立つ岬とかを聞き出して詳細を書き込まないとならないけれど、とにかくも最初の全体像を掴むための基礎はできたと思う。


「トール、これは…いったい…?」

「ああ。シグヴァルド様。これが、僕達の海です!」

「これが、我々の海…か?」

「杭は港。縄は航路。港と航路が増えれば増えるほど、僕達の海は大きくなります!」


 航海士達の手配をしてくれたシグヴァルド様に、出来上がった航路図の報告をした。


 航海士達は、下から見上げた方がよく全体が見えるわい、などと言って斜面を降りていってしまったので、一人残された僕が報告をする羽目になってしまったけれど。


 どれだけ熟練の航海士であっても21の村全てに行き来したことはなく、また近隣の航路についても頭の中にしかなかったものであったから、ひょっとすると村の斜面に杭と縄で示された巨大な航路図は、北方社会の人々が初めて目にする定量的な世界地図、という世界観そのものであったのかもしれない。


 もっとも、当時の僕はといえば。そんな北方の人々の事情には全く考えは及ばなかったので、縄の部分にシロツメクサを植えたら、村全体でも目立つよなあ、などと能天気に考えていたりしたのだけれど。


「それでですね、シグヴァルド様。この航路図を、そのまま旗のデザインにしたら格好良いと思うんですよ。僕達の村、僕達の海。僕達の連帯。それらを示す良いデザインだとは思いませんか?」


 発想の元ネタはアメリカ合衆国の最初の13州の旗の故事にちなんで。

 後から集団に加わる村が増えていったらエッジとノードを増やしていけば良いし。

 拡張性のあるデザインだと思うんだよね。


「我々の、旗…」

「そうです。帆柱に小さな旗を掲げるのか、帆に描くのかは決めないといけませんが、あれを僕達の旗にしましょうよ。

 僕達は力によって他者を従わせるんじゃありません。互いと結び合うことで大きく、強く、豊かになっていくんです。

 僕達の集団の理想を示していると思いませんか…シグヴァルド様?」


 僕は、いつになくぼうっとして言葉の少ないシグヴァルド様の顔を見上げた。

 大丈夫かな?ちょっと働き過ぎじゃないかな。


「トール!これは…!?」

「兄様!」


 父ちゃんとシグリズ様が、僕とシグヴァルド様がいるところまで斜面を登ってきた。

 他の人達は、斜面の杭と縄の全体像をよく見ようとして、斜面の下の方に集まり、指さして見上げては、何かを熱く語り合っているようだ。


 少しして普段の様子を取り戻したシグヴァルド様は、ため息と無言で左右に首を振り、妹へ語りかけた。


「シグリズ…」

「はい。兄様?」


 そして、兄妹揃って酷いことを言うのだ。


「私も貴女が小さなフギンにぐりぐりというやつをやってみたくなる気持ちがわかるようになりましたよ」

「でしょう?」


 満面の笑みを浮かべて、シグリズ様は両手をわきわきとさせて大きく頷く。

 僕は父ちゃんの後ろに隠れると、さっと両手でこめかみを隠した。


「それで?どのように呼ぶかの考えもあるのでしょう?」


 シグリズ様に聞かれて、僕はこめかみを両手で隠したまま答える。


「北方21村の紐帯、はどうでしょう?結び合って強くなる感じがありませんか?」

「なるほど。しかし少しロマンが足りない気がします」

「そうですか?」


 あいにくロマン方面のセンスはないのだ。


「そうですね…|北方21星の大結束《The Great Binding of the 21 Northern Stars》ならばどうでしょう?」

「詩的ですね!」

「勇ましく神話的だ!」


 シグヴァルド様の翻案で、協定集団の名前は決まる。

 さすがに宮廷詩人。言語のセンスが違う。法話者でしたっけ?


 |北方21星の大結束《The Great Binding of the 21 Northern Stars》

 これが、後の北方連合王国の誕生である。


 後世に西欧社会を激震させることなる巨大北方国家は、ごくささやかな村々の共同防衛協定として始まった。

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― 新着の感想 ―
この杭の場所が後の聖地となるわけですね
普通なら地図は機密として隠すところだけれど、すでに襲撃されているし、加勢した村の所在も知られている。 よっしゃ俺達は逃げも隠れもしないぞ、なんならこれが地図だ、来るなら来い! 返り討ちにして賠償払わせ…
デスストだ……!
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