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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ
第8章:トールステイン大王伝記 黄金の黎明戦争の章

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第124話 皆で貸せば怖くない 皆から借りたら怖い 7歳 夏

 シグヴァルド様と話してから少し後のこと。

 僕は村長婦人に返したはずの貴族艤装を再び身につけ、20村の貴族達の前でプレゼンをすることになっていた。

 黄金の剣まで履いた本格スタイルである。


 場所は、白い壁の宿泊所。

 毛皮を敷き車座になった北方社会の貴族達20人余りの代表者達が座っている。


 ◯ ◯ ◯ ◯


「皆で貸せば怖くない、ということです」


 僕はシグヴァルド様に説明した。

 出資の分散によるリスク分散スキーム。


 つまりは船舶保険の起こりと原理的には同じだね。

 それを賠償で獲得する長船の貸出にも使おう、というわけだ。


「なるほど。よく考えられてる…貸す金額は少額になるが、借り手は多数になる。踏み倒すことは難しくなるな」

「その通りです」


 この枠組みは帳簿の計算上でリスクを低減するだけでなく、実務では、そのまま債権回収にも転用できるのだ。


 具体的には、借り手が「返すのやーめた」と言い出すと、怖い北方の戦士達が斧を持って、多数の長船で駆けつけることになる。ついでの勢いで借り手の村を略奪したりしちゃうかもしれない。


「皆で貸せば怖くない」スキームは、借り手からすれば「皆から借りたから怖い」に裏返るわけだ。

 とても高い返済率が期待できるね。


「面白い…実に興味深い…。シグリズよ、この子(トール)はいつもこんななのかい?」

「そうですよ、まあ時には子供のようにも振る舞いますが」


 村長婦人《シグリズ様》は、半目になってため息をついた。

 ひどい言われようである。


「私の方でも村の者達に簡単に説明しておくから、全体で説明する機会を作ろう。上手くやりたまえ、フギン君」


 シグヴァルド様は、そう言い残すと席を立った。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 というようなやり取りがあって今、僕は新米貴族として20人の貴族達の前に立っている。

 父ちゃんには将軍として、後ろに立ってもらってね。

 僕は将軍の息子であるから子供であっても話を聞いてもらえるのだ。


 多少は酔っ払い老人達が裁判の証言で語った、英雄的なサーガがどう、とかの影響もあるとは思うけれどね。


 けれど、そうした諸々の要素は話を聞いてもらう舞台を整えるまでの話。

 ここからは、僕の頭と舌だけが頼りだ。


「裁判の判決を下す前に、民会の場で発言の機会をいただきありがとうございます。

 今日は皆さんに、大クナトルレイク大会の開催についての提案があります」


 僕の挨拶に、貴族達は意表をつかれた顔をした。


「賠償についての提案ではないのか?」


 という声もあがった。

 シグヴァルド様、ちゃんと根回ししておいてくれたんだね。

 とにかく、意表をついて関心を引くことには成功した。

 プレゼンとしては、良いスタートだ。


「そうです。ですが賠償の使い途を最初に説明させてください。まずは、なんのために、こんな話をするのか」


 プレゼンをするには、まず目的を説明しないといけない。

 どのように?という方法論を僕は好きだけれど、聞き手はそうではない。


 まして、今回のように伝統的ではない手法を説明するのであれば、手法自体は理解できなくとも、プレゼンには共感できるように話を組み立てないといけないのだ。


 最初に放すべきことは、目的の明確化と共有である。

 僕が何を目指し、何のために話しているのかを、理解し共感してもらわないといけない。


「得らる多額の賠償は、北方社会が団結し、永遠の繁栄を得るために使います。

 内輪の争いをなくし、異民族との戦いに勝利するために使います」


 大きな目的があるので、皆さんに協力を求めるのだ、という姿勢を明確にする。

 僕だけが得したいのです、なんて話を悠長に聞いてくれる指導者はいないからね。


「僕達は今回の賠償で大きな利益を得ることになりました。

 ある卑怯な男の邪悪な企みに勝利することができました。

 皆さんの勝利です!

 多くの村が力を合わせたからこその勝利です!」


 貴族達を称賛する僕の言葉に、村の代表者達は頷いた。

 いい感じに話を進められている。


「ですから僕達が得る大きな利益は、皆さんにも共有されるべきと考えます。

 勝利による利益を独占するつもりはありません!」


 代表者達が顔を見合わせて大きく頷いてた。

 うまく乗せられている。


 ここからが、仕組みの説明なのだけれど、なんのために複雑な仕組みを採用しようとするのか、その目的も説明する必要がある。

 難しい話をする際には、目的をブレイク・ダウンして聞き手に理解できるよう、しつこく明確化しないといけない。


「さて。僕は勝利者には寛容が求められる、と考えています。弱さ故の妥協ではありません。強く、勝利したからこその寛容です。


 今回、アルンビョルンという奸智に長けた男により、巻き込まれた多くの村や人々が被害を受けることになりました。


 重い、とても重い賠償を背負うことになりました。

 勝者は豊かになり、敗者は飢える。それが正義かもしれません」


 ここはアルンビョルン一人に責任を押し付ける。

 知っていてい協力した人間も賠償すべき村人にはいるかもしれないが、そこには目を瞑る。


「しかし!もしも全ての賠償を満たすだけの財産を一度に取り上げてしまえば、村は困窮し、女子供も飢えて、獣のように野山をさまよい、名誉なき死を迎えることになるでしょう。

 果たして、それはアスガルドの神々が望む正義に合致するでしょうか?」


一息入れて、疑問が染み込むのを待つ。


 「それは復讐としての正義かもしれませんが、僕は敢えて勝利の寛容を示すべきだと考えます。

 僕は賠償の財産を一時に支払わせ、取り上げるのではなく、10年間の分割で少しずつ自主的に払ってもらうことを望みます。


 10年間の分割であっても、それは重い賠償になるでしょう

 途中で気が変わり、賠償などもうたくさんだ!と言い出すかもしれません

 ですが、村が滅び女子供飢えるよりは、ずっとマシなことです」


 全ての財産を取り上げられるとなれば、自棄になって家を燃やし家畜を殺して逃げるだろうからね。サーガには、そうした物語が幾つもあるし。


 回収できるまでは、賠償額の額面上の数字などには何の意味もない。

 ゆっくりと支払える範囲で返済してもらうほうが、ずっといい。


 とはいえ時間が与えられれば返済を渋るのが人間というものなわけで。


「そこで、皆さんの勝利した力を借りたいのです。

 もしも僕の村だけからの賠償であれば、奴等など大したことはない。踏み倒してしまえ、との誘惑に駆られるかもしれません。

 ですが、もしも皆さん全員からの貸しであれば、どんな村も踏み倒そう、などとは夢にも思わないでしょう。彼らは罪を犯さずに済みます。

 皆さんの力が、正義の保証となるのです。


 ですから、皆さんにも少しずつ、今回の賠償の金額を購入していただきたい。

 正義の実現のため、共同の貸し手となっていただきたいのです。

 20の村々で少しずつ、です」


そして面倒くさいことは何もないよ、とも付け加える。


「面倒くさい細々とした回収は僕らの村が責任を持って行います。

 回収した金額については、皆さんに毎年返金します。

 金額の出入りについても、文書にして羊皮紙でお渡しします。

 手伝っていただける人員がいれば、もちろん受け入れます」


正義も実現できて、面倒くさい実務もない。

ならば協力してもいいかな、という空気が流れたところで結論に移る。


「そして!ここからが本題であり本日の目的に戻ります。

 僕達は、皆さんに出資していただいた賠償金を元に、大クナトルレイク大会を定期的に開催できる競技場を建設します!


 皆さんの村が大クナトルレイク大会に出場される際に、返金も合わせて行います。

 競技場には、市場も併設し商人も呼びますから、交易も行えるようにします。

 宿泊所も増設し、選手たちが快適に長期滞在できるようにします。


 いかがでしょうか?」


 貴族達は大いに満足気に頷き、僕の提案は、賛成20。反対0で可決された。

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― 新着の感想 ―
またサーガで語られそうな提案をしている。 この世界線の現代では、損害保険の元祖はトールスティン大王ということになりそう。
少しずつ近隣へ勢力を拡大するのかと思っていたら、話のスケールが説得力を伴う形で広がり、影響も広くなっていて面白い。テンポよき
まーた面倒な事務処理増やしてる
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