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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ
第8章:トールステイン大王伝記 黄金の黎明戦争の章

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第123話 賠償額が多すぎる問題の解決法 7歳 夏

 夜の冷たさを残した爽やかな風が、シロツメクサの花の香りを控えめに運んでくる。

 遠くで、子供戦士団が盾を叩き、見回りの戦歌を歌う声が聞こえている。

 僕は、頬に暖かい何かにムニムニとほぐされて目が覚めた。


 ブヒヒン


 馬が板窓から首を目一杯伸ばして、唇で僕の頬を触っている。


「ごめんなあ。昨日の夕方は見回りの散歩に連れて行ってやれなかったな」


 母ちゃんは、干し草をちゃんと食べさせてくれただろうか。

 夏だから周囲に生える牧草に不自由はしていないとは思うけど。

 そろそろ馬にも名前をつけてやりたい。


「起きるか…なんか重いな…うん?」


 ベッドでは隣に寝ている姉が足を載せ、胴体にはベーグル()が乗っかっている。昨日から村は見かけない人が大勢で騒がしいから1人で寝るのは不安だったのかな。

 よしよし、と撫でてやろうと手を伸ばしたら、トン、と腹を蹴って降りていってしまった。猫だなあ。


「エリン姉、起きて。朝の見回り行くよ」

「うーん…あっ。そうね!見回り!あれ?お父さんは?」

「もう起きて出ていったわよ。なんか戦果の報告を聞かなきゃならん、とか言って」


 既に起きていた母ちゃんがエリン姉に答えた。

 父ちゃんは、ちゃんと昨夜は家に帰ってきてたんだね。


 そういえば、父ちゃん達が帰ってきたから今後の馬の見回りはどうしようかな。

 子供戦士団による巡回の停止条件も決めてなかった気がする。


 大人が帰ってきたから子供による見回りの必要性は薄れたけれど、村の大人たちからの評判もいいみたいだし、盾を叩いて歌って歩いて、ときにおやつまで貰える活動は楽しいらしい。続けるかどうかは本人たちに聞いて決めようか。


「あっ!シグリズ様に借りた服と剣!」

「そこに畳んで置いてあるわよ。返してらっしゃい」


 昨夜は、うっかり貴族服と装飾品と黄金の剣の貴族偽装コスプレセットを持って帰ってきちゃったよ。

 見回りついでに、村長婦人へ返却しに行かないと。


「ムニ、でかけるよー」

「ふぎん…」


ムニもなんだか眠そうだ。

ふらふらと飛んで僕の肩に乗り、うつらうつらと寝始めた。


「そういえば、僕達、貴族様になっちゃたんだよねえ…全然実感がわかないや」

「あたしもー」


 そもそも、村の貴族って何してるんだろう?


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 今朝もエリン姉に載せられて馬で村の見回りをする。

 借り物の剣と衣装は落とさぬよう、しっかりと前で抱えている。


「うーん…死屍累々…」


 朝の浜には燻った焚き火と、飲んで食って、そのまま寝転がったらしき男達が杯や牛骨を抱えたままで、そこかしこに大勢が散らばって眠っている。

 遠目で見たら戦場の跡地に見えるんじゃなかろうか。


「あ、父ちゃんだ。何してるんだろう?」


 少し離れたところでは、父ちゃんに艶々とした顔で報告する村の女達と、手を繋がれながら青い顔で頭を抱える男達の列が見えた。


「…忙しそうだから近づくのはやめておこうか」

「そうね」


 母ちゃんが教育に悪いと禁止したから僕たちは見てないんだけど、いつも通りに朝の見回りのをした子供戦士団が、へんな藪から裸の男女が出てきてビックリした!と後で教えてくれた。


 うちの村も、だいぶ人が増えそうだね。

 女狩人たちは、かなりの数の獲物を仕留めたようだ。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「はーい。朝食はこちらで配りまーす!椀を持って並んで―!」


 戦士達への朝食は村から配給される。

 昨夜の祭りの残り物を手際よく仕立て上げた、牛の骨で出汁をとった大麦とカブとニンニクのスープに、戦士達は各自で木の椀を持って並んだ。


「うー…食いすぎて腹が重い」

「酒の飲みすぎて頭がいてえ…牛のスープが胃の腑に染みる…」

「なんだハルドル。顔色が悪いじゃねえか。おめえも飲み過ぎた口か」


 声をかけられて顔を上げた若い戦士には、不思議なことに顔や首筋の各所に小さな赤い痣がついていた。


「やっちまった…牛20頭…」

「あー。そっちの口か。若えなあ。とりあえず船長には報告しとけよ」

「将軍のお膝元だけあって、いい村じゃねえか。この村に婿入りするのは悪くねえかもしれねえぞ」

「けどよう、うちの家じゃ牛20頭も持参金払えねえよ…」


 若い戦士(ハルドル)は、片手でスープの椀を受け取りながら、もう片方の手で頭を抱えるという器用な姿勢で、父母兄妹に何と言い訳をしたものか、と青褪めた顔で胃を痛めていた。


 ◯ ◯ ◯ ◯


「賠償金や持参金が払えない人や村って、多いと思うんですよね」


 僕は貴族セットの返却のために、長屋敷を訪れていた。

 ちょうどシグヴァルド様も同席していたので、相談を持ちかける。

 できれば今日の裁判で民会の判決が決定する前に、あるアイディアについて広く合意を集めておきたかったからだ。


「今回の事件で、僕達の村が得られる賠償額は、牛換算で960頭でしたっけ。それと長船も加える、と…」


 没収する長船3隻分が賠償額に加えられる。


「シグヴァルド様。長船って、牛に換算するといくらぐらいなんですか?」


 シグヴァルド様は、よく整えられた顎髭を撫でつつ世間知らずの子供の質問にも嫌な顔をせず教えてくれた。


「相場では、一隻で900頭。帆だけなら150頭ぐらいの価値がある。実際の取引価格は状態にもよるが、今回は戦で鹵獲した割に櫂や艤装も損傷が少ないから、もう少し高く評価して良いかもしれん」


 すると長船は牛1000頭ぐらいの価値があるのか。

 帆も結構高いなあ。それが3隻分!大変な価値だ。


「長船を失うことは、村には大打撃ですね」

「長船は戦船であり、交易船でもあるからな。そして長船の所有は権威の証でもある。村長一族は責任を問われて交代するかもしれん」


 責任を問われるのは良いけれど、交代は困るなあ。

 前任者の賠償の借金など知らん!とか言い出しそうだ。


「長船を失った村の人達の暮らしはどうなりますか?」

「生活にすぐ困るかと言うと、そうでもない。この村がそうであるように、長船を所有する村では個々の家が中小型の船も所有しているものだ。漁には出られるし近郊との交易はできるだろう」


 遠征は不可能になる、と。


「アングル人やフランク人との遠隔地との交易はできなくなるわけですね」

「そうだな。小舟で大洋を渡るのは無謀だ」


 なんとか生活はできるけれど、余剰の利益を生み出せなくなるのか。

 交易の利益という余剰がないと、農業や漁業が不振な年に生活が詰んでしまうから、今度は一か八かで近郊の略奪に出るよなあ…。

 北方社会の人々の辞書には、座して死を待つ、という単語はないのだ――辞書は持ってないけれど。


「そこで相談なんですけれど、長船は貸し出しましょう。どうせうちの村が持っていても使いきれませんよ」

「なんと。3隻ともか?」

「はい。現状では、2隻分の人員を大民会に出しただけで、女子供だけで村を守る羽目になったので」


 民会の平和の取り決めを過信した結果、村はアルンビョルンのような輩の襲撃を受けることになったのだ。あれは本当に死ぬかと思った。


「ふうむ。それで長船の貸出し対価は?」

「船の1割ではどうでしょう?長船を10年間貸し出します。貸出にあたっては、まず10分の1の対価を最初に払ってもらいます。そして毎年の終わりに1回、10分の1の対価を支払いを10年間継続して支払ってもらうことになります。補修は借り手の責任。喪失しても支払いは続けてもらいます」


 1回分を手付け。ローン10年で10回払い。総額で利率10%。

 ものすごく良心的なリース料金だと思うんだよね。


「ふうむ。しかし長船の借り手は、長船が手に入ればこれ幸いと支払いを途中でやめる可能性リスクがあるのではないか?」

「支払いをやめたら船は没収しますよ。それで、ここからが相談なんですが」


 僕はせいいっぱいの子供らしい笑顔を浮かべた。


「シグヴァルド様の村でも船を貸す事業に参加しませんか?できれば、20村の全てに酸化してもらいたいのです」

「ほう。詳しく聞こうじゃないか」


 身を乗り出すシグヴァルド様とは反対に、シグリズ様には「また変なことを言い始めた」と白い眼で見られている気がした。


 名づけて。皆で貸せば怖くない(共同保険)、へのお誘いである。

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― 新着の感想 ―
なんか教え方がネチネチしてる人がいますが、❌酸化、️⭕️参加です。よろしくお願いします いつも楽しんで読んでいます。素敵な物語をありがとう
酸化した村にも還元するんですね 化学ですね
20村の全てに酸化してもらいたいのです)20 の村によってたかって長船を酸化させられたら船があっという間に劣化しきっちゃ~う。(酸化→参加 誤字報告済み)
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