さよなら
押し寄せるきらきらを、茫然とルティは見あげる。
「ルティ、今日もかわいいね♡」
「荷物を持とう、ルティ」
「予習してきた? よかったら、これ」
王子とか、騎士団長の息子とか、宰相の息子とかのきらきら男が、ルティに群がるようになりました……
……え、ごめん、全然うれしくないんだけど──!
皆が見てるのはカティであって、ルティではない。
誰もほんとうは、ルティなんて欲しくない。
カティがいなくなったから、同じ顔の代替品で我慢するだけ。
「ルティ、かわいいなあ」
「学園で一番だよな」
「ココ王国で一番じゃないか?」
「ルティ! 席をとっておいたよ!」
皆が、ちやほやしてくれる。
やさしくしてくれる。
ほめてくれる。
いなくなってしまったカティの代わりに。
ものすごく、ものすごく、うれしくない。
『カティ!』って皆に逢うたびに糾弾されたり、抱きつかれそうになって『ルティです』って返して無関係を貫けた日々が、なつかしい……!
ああ、カティ!
帰ってきてくれ──!
願ったらだめなことを願ってしまいそうで、困る。
……ちょっと、泣いちゃいそうです。
疲弊するルティの癒しは、トトだ。
『ああもうはやく伴侶になりたい──! 『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』とか言いたい──!』
叫びたいけど、うざいとか重いとか思われたくないので、うるうるの目で見あげることしかできない。
「ルティ、どうしたの!」
わたわたしてくれるトトに、ほっとする。
トトだけは、変わらない。
カティがいるときも、いないときも。
誰もがカティしか見なかったときも、誰もがカティの代替品を求めるようになったときも、ずっと。
いつだって、トトだけはルティをちゃんと見てくれる。
「トト、だいすき」
ぎゅう
ぶあつい胸に顔をうずめたら、たくましい腕が、抱きしめてくれる。
息がくるしいほど抱きしめられるたび、あまいめまいと、とろけるしあわせに満たされる。
「トト」
あまえた声で名を呼んで、トトの背に腕をまわす前に、そっとたくましい身体が離れた。
「ルティ」
せつなげに、くるしげに、かすれたトトの声がルティを呼ぶ。
鍛錬に鍛錬を重ねて分厚くなった掌が、ルティの頬をざらりと撫でた。
「……ルティのしあわせを、祈ってる」
「…………え……?」
それはまるで、ルティがトトとしあわせになるのではなく、誰か別の人としあわせになることを祈るような……
「さよなら、ルティ」
かすれたささやきを後に、きびすを返したトトが駆けだした。
「待って、トト──!」
懸命に走って追いかけたルティだが──トトの爆速に追いつけるはずがなかった。
ぜえぜえ肩で息をしながらトトの家に行ったルティを、トトのおかあさん(男)がりりしい眉で迎えてくれた。
「おお、ルティちゃんか、いらっしゃい! トトは辺境警備に抜擢されてな、さっき赴任するって出かけたとこだよ。トロテ王国側の国境警備なら左遷だが、ドディア帝国側だ、すっごい昇進なんだって!
コタ王子殿下のご指名らしいぞ」
高い鼻をさらに高くして、トトの母は誇らしそうに胸を張る。
「ルティちゃんも、コタ王子殿下と伴侶になるんだって? おめでとう。
他国の王にまで色目を使いそうなカティちゃんより王配に向いてるよ、絶対!」
「え、いや、コタ殿下は第二王子で、大変優秀な王太子殿下がいらっしゃるので王にはなれない……って、何ですか、それ──!」
ルティが知らない間に、とんでもなく酷いことになってる……!




