真実の
トトのおかあさんがもたらした衝撃の噂に、ルティの頭が、ぐらんぐらん揺れる。
ルティが酷いことにならないようにと、カティはちゃんと皆とお別れしてから、クヒヤ殿下とトロテ王国へと旅立ってくれた。
「ひとりひとりに、ちゃんと、さよならしてきたからね。だいじょうぶだよ」
笑ってくれたのに。
「さよなら? 聞こえなかったな」
「カティが僕を置いていく訳がないと思ったから」
「お別れごっこだと思った。だって、まさかカティが」
誰もカティのさよならを理解しようともせず
「ルティを残していってくれたから、よかった」
身代わりを求め、さらには、王子の伴侶だなんて──!
ありえない……!
「どういうことですか──!」
ココ王立学園の裏庭で、コタ第二王子殿下を見つけた瞬間、ルティは爆発した。
不敬とか何とかもう知らない──!
憤慨しすぎて涙まで出そうなルティに、コタは微笑んだ。
「ああ、もう耳にしたのかな。
僕とルティが伴侶になることが、正式に決まったよ」
…………………………。
「……本人の了承なくですか」
大地をえぐるルティの声に、コタの笑みが深くなる。
「王子たる僕の伴侶になることを厭う平民など、存在するわけがないだろう」
断定だ。
もちろん、全否定だ──!
「ここにいます──!」
ルティは、目をつりあげる。
「謹んでお断り申しあげます。
僕にはもう、伴侶(予定)がいますので!」
断固拒否を叫んだルティに、いたわしそうにコタは眉をさげた。
「もしかして平民のことかな。彼なら、国境警備の将となる身分を与えたら、よろこんでルティをあきらめてくれたよ」
コタの唇が、弓をえがく。
「きみにとって身分はさほどの意味を持たないのかもしれないが、彼にとっては地位と栄誉と盤石な将来は、きみよりも遥かに大切らしい」
おだやかな声が、これほど耳障りに響くことを、はじめて知った。
──平民が、将軍になる。
それは平民みんなの夢だろう。
平民が、王配になるのと同じように。
身分とか、地位とか、栄誉とか、国が傾けば、いともたやすく瓦解する、人間がつくった、はりぼてだ。
けれど多くの人がそれを求めることを知っている。まるで至高の輝きのように。
……トトも、そうだったのかもしれない。
ルティは、トトにとって、大切なものではなかった。
身分と地位と栄誉と報酬に負けることは、恥ずかしいことかもしれない。
その誘惑に打ち勝ってこそ、真実の愛というのだろう。
──ルティは、負けてしまった。
輝くように見える、はりぼてのまやかしに。
でも、きっと、誰もが勝ち続けることなんて、できない。
老いも不調も不遇も病も怪我も嵐のようにやってきて、王者さえ打ち負かす。
生きてゆくということは、勝ち続けることじゃない。
負けたときに、打ちのめされたときに、這いあがれるかだ。
どんな闇の底にも、絶望の果てにも、ほんのちいさな、ちいさな光を見いだせるかだ。
見えない人は、ゆっくり絶望に浸ってもいい。しずかに終わりを待ってもいい。
ルティは、そういうたちじゃない。
恥ずかしくて、みっともなくて、情けなくても、負けたらまた、立ちあがればいい。
何度でも、向かっていけばいい。
前世であったストーカーみたいになるのは絶対だめだけど。
相手が『迷惑だ』『無理』『止めてくれ』願うまでは、頑張ってもいいんじゃないかな。
だって、身分と地位に負けてしまっても。
それでも、ルティはトトを、愛しているから。




