10:初めての共同作業です
毎度閲覧等ありがとうございます。
俺は王子を連れて、なるべく洞穴の奥に下がると一旦巨大梟を怯ませる為、ヤツの顔に目掛けて水球を投げつけた。
激しく動く為なかなか当たらなかったが、なんとか3回目で目元に当てる事に成功した。
目元に当たった水球は、俺が指定した通り目に張り付く事で、うまくヤツの視界を奪うことが出来たようだった。
『ギイイイイ!!ギイイイ!!』
いきなり周りが見えなくなったヤツは、怒った様子で叫び声を上げながらその場で暴れ始めた。
そして目に張り付いた水をどうにか取り除こうと、一旦洞穴から少し首を引っ込ませた。
もっと下がればこのまま逃げ出せるかとも思ったが、残念ながらヤツは逃げることなくの場に踞り、良く回るその首を使って顔を自らの体に擦り付け、張り付いた水を取り除こうと藻掻いていた。
やはり、ヤツを物理的に退かさないとうまく逃げられそうにはなかった。
「…ランス。ちょっといいか?」
「…え?あ、う、うん。なに?」
涙を浮かべ、震えながらもその一部始終を見守っていた王子は、いきなり俺に話し掛けられビクッとしながらも返事をしてくれた。
「このままだと、流石に俺達アイツの餌にされるかもしれないから、どうにかしようとは思うんだけど…今から俺の言うことに協力してくれないか?」
「え?な、何するの?」
『餌』の単語にさらに怯えた様子が見られたが、聞き返してくれた事からなんとか協力はしてくれそうだ。
「ちょっと耳貸して。」
そう言うと、素直に耳を傾けてくれた王子に、俺は思い付いた作戦を伝えた。
その作戦を聞いた王子は、真っ青な顔をしながらパクパクと口を開閉させた。
「そそそそそんな事…う、うまく出来る気しな…」
「でも、このままだと、俺達の行く末はアイツの胃袋の中だ。」
俺は神妙な顔を浮かべながら、穴の外で叫びながら藻掻いている巨大梟を指差して言うと、王子は「ひっ…」と小さく悲鳴をあげた。
そして巨大梟から視線を外す為か、ローブを握りしめながら深くフードを被ってしまった。
「だーいじょうぶだって!俺の作戦通りなら、ほぼ上手くいく確証あるから!」
「ほぼって…うぅ…ほ、ホントに大丈夫かなぁ…」
「いく!っていうか、これはランスが居ないと出来ない作戦だから!」
「…ボクが…?」
顔の上半分が隠れてしまった王子の顔を見るため、俺は頭を撫でるようにしてフードを少しだけかき上げた。
「さっきも見ただろ?こんなに高度な魔法が使えるくらい、ランスの魔法は凄いんだから。もっと自信持つべきだって!」
俺は足元に生えた氷の花を示して、自分の確信を熱弁した。
王子は驚いた表情で、涙で潤んだ紫色の瞳を目一杯開けた。
おおぅ…そんなに可愛らしい顔して見つめられると、お兄さんちょっと緊張するな。
俺はこんな状況だというのに、美少年に至近距離で見つめられるという事にどうにも照れてしまった。
「…わかった。…ボク、やってみる。ううん!やってみたい!」
しばらく考え込んでいた王子はついに決心した様で、俺の手をギュッと握りしめながら目を輝かせそう返した。
「よっし!ならまず……して、……を……でな…」
やる気を出した王子に満足した俺は、一通り作戦に必要な事を王子に伝え、何をどうすべきかという流れを細かく説明した。
『ギイイイイイイイ!!』
すると漸く水が取れたのか、ヤツは再度洞穴の中に目掛けて激しく突っ込んで来た。
その衝撃で、入り口の壁が崩れ落ちてヒビが入り、このままではいつ入り込んでくるか分からない様な状況だった。
「よし!やるぞランス!!」
「う、うん!」
俺はすぐに王子の両手を取り握りしめると、お互い向き合った状態で目を閉じ魔法を発動すべく集中する。
するとすぐに、繋ぎ合った手から熱いものが流れ混んでくるのが感じられ、俺の身体中を駆け巡り始めた。
「(熱っちい…!さっきとは比べ物になんねぇ…!けど、とにかく集中集中…)」
俺は先程と比べ物にならない程の熱さに、思わず手を離しそうになるが、なんとか耐えて発動に集中した。
そして頭の中で、先程立てた作戦内容をイメージしていると、お互いに魔力が上手く循環されだしたのか、俺達の周りに渦を巻く様にポコポコと細かい水が発生し始めていた。
その状況に、俺は魔法の発動条件が整った事を感じた。
「…ランス…いくぞ…」
俺の言葉にこくん、と王子は目を閉じたまま頷いた。
そして俺達は、互いのタイミングを合わせる為に決めた『ある言葉』を言おうと息を吸い込んだ。
『ギイイイイ!!ギイイイイ!!』
それと同時に激しい叫び声と、ついに限界を超え始めた壁がピキピキという音を立て崩れていくのが聞こえた。
どうやらヤツは自身の体を捩じ込む事で穴が広がると察した様で、更に勢いをつけて暴れていた。
そんな緊迫した状況でも、俺達は妙に頭が冴えており、魔力を共有した影響からか互いに考えることを感じとることが出来た。
そして互いに狼狽える事もなく、冷静にその"言葉"を口にし始めた。
『我等に宿りし水の力よ。』
『ギイイイイ!!』
詠唱を打ち消すような咆哮が、洞穴内に響き渡る。
そしてヤツはいよいよ中に突入しようと、今度は勢いをつけるために一旦数歩後ろに下がり始めた。
しかし俺達は、それに構うことなく詠唱を続ける。
『我等に仇為す者を砕く拳となり、全てを薙ぎ倒せ。』
俺達の周りに渦巻いていた水は、その言葉の通りに一ヶ所に集まり、その形はまるで大きな人の手の様な形態へと変化した。
『ギイイイイイイイイイイ!!』
そしてついに、梟は勢いよく洞穴の中へと目掛けて突進して来た。
「「(今だ!!)」」
俺達は、同時に目を見開くと互いに繋いでいない方の手をヤツに向かって翳した。
「「喰らえ!!」」
その言葉と同時に、水の手は大きな拳の形に変形した。
「「チェエエストォオオオオ!!!」」
ドゴオオオオオオン!!!
『ギイイイイイイイッッッ!!!??、』
作り出した巨大な水の拳は、タイミング良く突っ込んできたヤツの顔面にクリーンヒットした。
そしてそのまま洞穴を抉りながら、凄い勢いで飛び出し空高く飛んでいくと、徐々に拳の形が崩れ最後には爆散した。
そしてその爆散した後には、勢いよくザーーッとにわか雨の様な水飛沫が辺り一面に降り注いだ。
その雨は暫く降り続き数分程でやっと落ち着いた。
漸く物音が聞こえなくなった頃に、俺達は外の様子を伺うため洞穴からそっと顔を覗かせてみた。
見渡した所、ヤツは先程の飛ばされた勢いのまま近くの木にぶつかった様で、その木の側でピクピクと痙攣を起こしながら仰向けで倒れていた。
「…死んじゃった?」
「…わかんね。けど動いてるし、生きてるっぽい…かな?」
俺は足元に転がっている手の平サイズの石を拾うと、試しにヤツに投げつけてみた。
石はヤツの腹に当たったようで、『グエッ』という声が聞こえ、どうやら生きてはいるようだと確認がとれた。
「完全に気絶してるっぽいな。」
「みたいだね…」
そう言いながら、お互いに顔を見合わせると、俺達はハァーーーッと大きな溜息をつきながら、その場に座り込んだ。
足元は水に塗れた土でドロドロだったが、それに構えない程、体から強い倦怠感を感じたのだ。
「やっべー…体きっちぃー…」
「この…魔法…結構疲れるね…集中力も…かなり使うし…」
「だなぁ…けど、やったな。」
俺はニヤッと王子に笑いかけると、王子も嬉しそうな顔でにひっと笑った。
お、初めて笑った。可愛い笑顔だ。
そう思いながらも、上手くいった満足感と疲れによる妙なハイテンションから、俺達は互いに辺りに響き渡る程の笑い声をあげたのだった。
ひとしきり笑った後、ずっとこの場で座っている訳にもいかないので、どうにか重い腰を上げ立ち上がった。
周りは日がほぼ落ちて薄暗くなっており、このままではすぐ夜になってしまうだろうと思えた。
「まっずいなぁ…ここがどこだか分からないし…このまま夜に動き回るのは流石に危険だし…」
更に今、俺達は魔法の反動で普段ほど満足に動くことが出来ない。
このまま野性動物に襲われれば一溜まりもないだろう。
「うーん…とりあえず。このまま野宿するか…」
「…ここで過ごすの?」
「んー、出来ればそうしたいけど、洞穴ぶっ壊れたし。どこか良い場所探さないとな…まぁ幸いにも、食糧はそこに転がってるし…」
俺は目の前に転がっている『食糧』と称した巨大梟に、腕捲くりをしながら近寄った。
「!!??った、食べるの!?それ!?」
王子は梟に近寄る俺の服の裾を慌てて掴むと、真っ青な顔で引き止めてきた。
「や、だって他にないじゃん、食べれそうなもの。大丈夫、捌き方は師匠に聞いたことあるし…」
「き、聞いたことあるってことは、したことはないの!?いや、そうじゃなくて…流石に、可哀相だし…」
王子は、涙を浮かべながらシュンッと音がしそうな様子で項垂れた。
あー、優しい子だなぁこの子…
この子があのツンドラ一匹狼になるとは思えねーわ…
「うーん、じゃあどうする?暗い中じゃ木の実とか見つけづらいし…」
「うう…」
困った顔をしながら本気で王子は悩んでいる様子だ。
まぁ冷静に考えて、今刃物持っていないし、お互い水属性なので火も出せない。
つまり例えどうにかコイツを捌けたとしても、現状火種が無い状態では焼いて食う事も出来ないのだ。
流石にこのまま生肉をかじる訳にもいかない。
王子の死因、食中毒とかシャレにならんし。
火起しのやり方は一応は学んでいるが、先程の魔法のせいで辺り一帯水浸しなので木が湿気ってしまい、上手く火が起こせる気がしない。
案外野宿って難しいものだな、と俺は思わず溜め息をついた。
そして今度から、こんな状況になった際どうすればいいか、師匠にサバイバルの指導もしてもらうか、と考えているとふと、嫌な事が頭に浮かんだ。
…この状況、師匠絶対怒るだろうなぁ…
すぐ戻るって言った癖に、勝手に動いた結果こんな事に感激の王子を巻き込む様な状況になった訳だし。
…あーあ、考えたくねぇなぁ。
そう考え出すと、何だか気が重くなってきた。
「…とりあえず、近くに何か使えそうなものないか探すか。」
「…そ、だね。」
俺は気持ちを切り替えるべく、何か使えそうなものを探そうと周りを見渡した。
すると、何故だか辺りの様子に何か妙な違和感を感じた。
「あれ?」
「?何…?」
「…アイツ…どこいった?」
どうやら違和感の正体は、先程の巨大梟だった。
何故か、先程までそこに転がっていた巨大梟の姿が全く見当たらないのだ。
俺はまさかヤツが起きてしまったのかと思い、周りをキョロキョロと見渡した。
「あ、ねぇ…あそこ…」
すると、王子が何か見つけたらしく、駆け足で先程までヤツが転がっていた方へ近寄っていった。
「お、おい…危な…」
「これ…」
王子に続き、そこに近寄るとしゃがみこんだ王子がそれを指差した。
指差す先を覗き込むと、そこには巨大…ではなく、どちらかと言えば小さめな梟がひっくり返っていた。
「…?こんなヤツ居たっけ?さっきの騒ぎに巻き込まれたのか…?」
「…あのさ…もしかして…この子、さっきの、鳥さんなんじゃない…?」
「…は?」
え?このちんちくりんな梟がさっきのヤツ?
そんなバカな。
けど確かにさっきの梟と同じ色の体毛をしてる気がする。
あ、でも。そういやこの世界の魔獣って魔法が使えるんだっけ?
体が大きくなる魔法とか使えるタイプなのかもしれない。
そう考えながらこの梟を眺めていると、視界の端で何か光った気がした。
「ん?…なんだ?」
気になって光の元に視線を移すと、やはり何かが光っている様だった。
近寄ると、そこには何やら生臭い赤黒い土の中に、手の平より大きな七色に光る石が落ちていた。
「あ!これ、妖精石じゃん!しかも純度高いやつ!」
俺は思わずその妖精石を手に取った…のだが。
「うわ!なんじゃこりゃっ!?めっちゃベタベタするっ!キモッ!」
思わず拾った妖精石には、赤黒い物と何か透明な粘性のあるベタベタしたものがついており、妙に酸っぱい臭いもしていた。
……これ、もしかして…アイツが吐いたもんじゃね?
って事はこの赤黒いのは…
ま さ か …
さっき食ってたウサギか!!ウエエエッッッキッッッモ!!!
俺は気持ち悪さに耐えながら、詠唱を素早く行ない妖精石の力で魔力を回復させ、すぐに水槽のようなもの作り出してその中に妖精石を突っ込んだ。
そしてその中でバシャバシャと手が擦りきれるほど強い力で洗った。
「あ~…これ絶対匂い取れねーやつだわ…なんで手で取っちゃったかなぁ…俺…」
半泣きでゴシゴシと手を洗う俺だったが、そうこうしていると遠くから何か人の声が聞こえてきた。
「ぉーぃ…」
「んぁ…?何だ?なんか、声聞こえね?」
「…あ、あっちから…」
王子は、着ていたローブで梟を包みながら(優しい)、声の方向に視線を向けていた。
そこには、何かの光を照らしながらこちらに向かってくる人影が見えた。
「おーい!!ギルバート!!居るかーー!?」
聞き覚えのある声と呼ばれた自分の名前に、よく目を凝らしてその人影を見ると、それはどうやら妖精石に灯りを灯し辺りを見渡している師匠だと気づいた。
「うげっ!師匠!?」
「!その声ギルバートだな!?今すぐそっち行くから待ってろこんっの糞ガキ!」
俺達の存在を認めた師匠はそう言うと、本当にもの凄い勢いでこちらに向かってきた。
「このっ…馬鹿野郎!!」
「ぐえっ!」
ゴンッと鈍い音を立てて頭を殴られた。
「この…!勝手に動きやがって…本当にお前は…」
「本気で殴んなよ!馬鹿になるだろ!」
「もう手遅れだ大馬鹿もんが!!それに、本気で殴ってたら、お前の頭は無くなってるわ!」
「ヒェッ…」
恐ろしい言葉に引きながらも殴られた頭を撫でていると、師匠の後ろにぞろぞろと甲冑を身に纏った集団が見えてきた。
…え?何この人たち?知らない人ばっかなんだけど。
「あ…うちの…騎士団の人達だ…」
俺が首を傾けていると、王子がボソッと呟いた。
「え!?水の国の騎士団!?まさか師匠が呼んだのか!?」
「違ぇーよ!何かコイツらも王子を探してるだかでたまたま鉢合わせて…っておい、ギルバート…その子、ってまさか…」
「お察しの通り王子様です。」
「王子ーー!!ご無事で何よりです!!」
王子の姿を認めた騎士団の何人かが、王子の無事を喜びながらいきなりその場き崩れ落ち泣き出した。
王子は、いきなり大の大人に泣かれるという、妙な状況にどうすればいいのかとオロオロしている。
「何なんだこれは…もう怒り通り越して訳が分からんぞ…」
「うーん、俺も分からん。」
「はー…とりあえず。無事で良かった…」
師匠はポンと俺の頭に手を当てるとワシワシと撫でてくれた。
…撫でてくれるのは嬉しいんだけど…そこタンコブだよ師匠…超痛い。
すると、騎士団の人達はどうにか落ち着いたのか、王子を連れて引き上げようと声を掛け合っているのが聞こえた。
オロオロしていた王子だったが、何かに気づいたようにいきなりクルリと向き直ると、こちらに駆け足で近寄ってきた。
「…あのね、えっと…君、ギルバート…って言うんだっけ…?」
…あ、そういえば俺、名前伝えてなかったっけ。
ここまで来て、まさかの自己紹介をしていない状況に気づいた。
なんか色々あって忘れてた。
なんだかもうずっと一緒に居た気がするが、王子は俺の名前すら知らなかったんだな。
…よく付いて来てくれたな…王子。
一歩間違えば不審者かつ人攫いになっていたかもしれない状況に、俺はもう少し冷静に行動しようと内心反省した。
「申し訳ありませんランス様。自己紹介が遅れました。お…僕の名前はギルバート・オルコットと言います。」
俺は今更ながら、王子に深く頭を下げ自己紹介を行った。
「…ランスで良いよ…ねぇ、君のこと…ギルバートって呼んでいい?」
「へ?あ、はい。お好きにどうぞ?」
「ギルバート…色々ありがとう、ね。」
にこっと笑う王子に、思わず俺はキュンとした。
あー、笑顔なかなか馴れない…可愛い…
「…また。すぐ会いたい。会える?」
「え?うーん、どうですかね?俺…いや、僕は…」
「…敬語。」
どうにか敬語を使おうとする俺に、王子はムスッとした顔を向ける。
「あー、うん、俺はいつでも…」
王子の様子に俺は敬語を使う事を諦め、砕けた話し方に戻した。
そして王子が望めばいつでも会えると返そうと思ったのだが、よく考えてみると王子は常時魔力暴走状態なので周りが許さない気がした。
どうやら今は、先程魔力を使いきったお陰か暴走はしていないが、また回復すればどうなるか分からない。
それが無ければ別に何の問題も無さそうだけど…とまで考えて、俺は一つの可能性に思い当たった。
「あの…唐突で申し訳ないんだけど、これ持って帰ってみてくれないか?」
そう言いながら、俺は先程見つけた大きな妖精石を水槽から取り出して王子に渡した。
「…なにこれ、くさい…」
「我慢してくれ…で、申し訳ないんだけど、これ王城お抱えの魔術師の人とかに渡してみてくれないか?」
「??…いい、けど…何で?」
「うーん…そうだな…あ、そうだ。ランス、ちょっと耳貸して。」
「??」
そうすると、俺は王子に伝えたいことを耳打ちした。
するとやはり、かなり驚いた様子であたふたとしだしたようだが、内容に納得はしてくれた様子で落ち着くと頷いてくれた。
そんな王子に少し待っていてくれと伝えると、俺は師匠に近寄り耳打ちでとある事を相談してみる。
最初は渋い顔をしていた師匠だったが、こちらもどうにか納得はしてくれた様で、どうにか助言を貰うと再度王子に近寄り確認を取る。
「よっし、ランス、いくぞ?」
「う、うん!」
王子からの了承を得た俺は、妖精石を握った王子の手を取り、ある程度の魔力を回復させた。
そして目的の為、改めて王子と詠唱を行いだした。
『我が名、ギルバート・オルコット。』
『我が名、ランス・レインウォーター。』
『我等の名の元に。彼の溢れし大いなる力、抑え給え。』
その言葉を唱えると、妖精石から虹色の光が溢れだし、王子を包み込んだ。
「う、わ…!」
「ら、ランス王子…!?」
いきなりの出来事に王子や騎士団の人達は慌てたようだが、師匠が制してくれたお陰で大事にはならなかった。
そしてすぐに光は収まり、騎士団の人達は王子の元に近寄ると体調を気遣った。
「王子!お怪我は…!?」
「う、うん、全然平気…上手くいった、の…?」
オロオロしながら俺に問いかけてきた王子に、俺は笑顔で「おう」と答えると、王子はホッとした表情になった。
正直に言うと内容的には確認のしようがないのだが、うまく魔法が発動した感覚はあったので恐らく上手くいったであろうと自分でも不思議なくらい確信が持てた。
一方で状況の掴めていない騎士団の人達は、心配そうに王子の方を見たり、説明を求めるように師匠へ視線を泳がせていた。
「あー、すみませんいきなりで。その、一時的だけど、ランス王子の力の暴走を止めるようにしてみたんです。」
「へ?」
キョトンとした騎士団の人達に向けて、俺は理由を説明する。
「実は…ここで純度5の妖精石を見つけたんです。それで、これだけの大きさなら俺達の力を合わせてみれば、約1週間くらいは王子の力を抑えられると思って、勝手ながら出来る範囲の封印を施させて貰いました。けど、完全に力を押さえるにはもっと正式な儀式を行わないといけません。なので、出来れば王城の専属魔術師の方にしっかりと封印を掛けて貰い、王子の力を抑えて貰えればと思うんですけど。」
説明する俺の言葉を聞きながら、ポカンとしていたその場全員がとりあえず納得はしてくれた様で、ざわついて居たその場はなんとか落ち着くことができた。
そして落ち着いた事で、王子の力が抑えられるという可能性を徐々に理解し始めた騎士団の人達は、次第に各々感激と祝いの声を上げ出した。
中には感激のあまりか、王子の手を強く握りしめ涙しながら直接祝いの言葉をかけだす者も居た。
王子はそんな状況に、最初はとにかく驚いていた様だが、その顔はとても嬉しそうであり素直にその反応を受け取っているように見えた。
これだけ自分の事を心配したり喜んでくれる人達が居る事を知れば、小説の様に自分が誰からも想われていない等と勘違いする事はきっと無いだろうと、唯一王子の将来を知っている俺は1人安心するのだった。
補足:ギルバート達の入っていた洞穴の形状は、イメージとしては瓢箪に近い形をイメージしています。
分かりづらくてすいません。
読んでくださる方々、なかなか早く更新が出来ずすみません。
今後も遅筆更新となりますが、気長にお付きあい下さると幸いです。




