7:何故君がここにいる!?
毎度閲覧等ありがとうございます。
今回少し説明が多めです。
「つ、ついた~。」
ようやっと頂上に着いた俺はそう言うと、師匠が作ったと言う広場に置かれた切り株の1つに腰を下ろした。
「け、結構。きつい…」
「つ、疲れ、ましたわ~。」
そう言いながらクリス達2人も、着いた瞬間にその場に座り込んだ。
「うーん、やはり瞬発力は付いてきたが、持久力はまだまだだな。これからはジョギンクも加えていくべきか…」
俺達の様子を見た師匠が、思案顔で不穏な事を呟いているのを俺は聞き逃さなかった。
おいこら糞ジジィ。さらっと今後のメニュー追加すんな。
流石に慣れない山道を3時間も歩けば誰だってバテるから。
アンタを基準に考えるんじゃない。
というかアンタ俺達を何にする気だ。このままこの人ほっとくと、俺達はマッチョにされる気がするぞ。
マッチョな貴族とか俺から見たらただのバカか脳筋にしか見えないから。てかマッチョな貴族ってなんだ。何を言ってるんだ俺は。
…いかん。疲れてるな俺。
そんな俺達の様子に師匠はよし、と何か決めたように呟いた。
「とりあえず、一旦休憩がてら昼食にしよう。」
「「「さんせぇ~!」」」
俺達は師匠の最高の提案に、3人揃って手を上げて喜んだ。
「落ち着いたら演習始めるからな。」
「「「鬼~。」」」
「昼食やらんぞ。」
「「「すいませんでした。」」」
優しいかと思いきや、喜んで損した気分だ。
この師匠、やはり鬼である。
そうして、なるべくゆっくり昼食を摂る事にした俺達は、食事を摂るため地面にレジャーシート替りの大きな布を広げた。
幸いにも最近晴れ続きだった為、敷いた布は俺達を土の汚れなどから守ってくれる役割りを十分に成してくれた。
もし前日雨とかだったら俺達の尻は可哀想な程冷えきっていた事だろうと、前世では約100円で購入できた文明の一端を懐かしんだ。
けれどそんな少し浮かんだ哀愁も、ウチの料理人に用意して貰った弁当であるバスケットを開くと思わず吹っ飛んでしまった。
その中身は、レタスやハム、玉子などが挟んであるサンドイッチや。今朝焼いたであろうクロワッサンやバケット。それに付けるためのジャムやバターが入れられていた。
「うおーー!めっちゃ美味そう!!」
ゆっくり食べると決めたが、あまりにも美味そうな見た目と疲労感の合わさった空腹感に俺は思わずすぐにかぶりついた。
あ、ちゃんと使用人に頼んで用意してもらったお絞りで手は綺麗にしてからだ。
「もう、義兄さんてば、食事前の挨拶してないじゃないか。」
「ふふ、まぁまぁクリス。今日は特別ですわ。」
う、うんま~っ!!と心の中で叫びながら舌鼓を打つ俺に続き、俺の様子に少し呆れていた他の3人もそれぞれ昼食を口にした。
「おー!美味いなぁ!」
「卵フワフワで美味しいですわぁ。」
「ハムも少し焼き目が付けてあって、カリカリだね。」
「ふぁ~紅茶うめぇ~!美味いしか言えねー!」
そうやって美味しいモグモグタイムを楽しんでいた俺は、見渡す限りの緑色の中からふとあるものに目が止まった。
「んん、なは、ひひょー、むぐむぐ…んぐっ…あれってこの国の王城だよな?」
そう言う俺が指差す先には、この国の色とされている水色に彩られた大きな城が建っていた。
「ん?あぁ、そうだな。懐かしいもんだ。ちーっと昔には、あそこの騎士として毎日通いつめていたのにな。」
「そっか、師匠って水の国の騎士団に居たんだよな。じゃあさ、この国の王子様って会ったことあるのか?」
俺は何となく今まで気になっていた事を聞いてみた。
恐らく国王には騎士団長としても謁見するだろうが、その息子である王子とは会う機会ってあるのだろうかと思っていたのだ。
「いっぺんだけな。王子が産まれた時に、御披露目の儀があったからそれで会う、というより見たことがあるな。」
「普段は会えねーの?」
「…うーん…実はな。ここだけの話だが、この国の王子様はどうやら『事情持ち』でな。王宮でも数えられるだけの人間しか会ったことねぇのさ。」
「へぇー…」
『事情』…俺はその事情とやらに心当たりがある。
それはおそらく、小説通りであれば王子が持って産まれた強力な魔力の事かもしれない。
水の国の王子、ランス・レインウォーター。
彼は若くして即位したこの国の王の初めて産まれた王子、つまり第一王子である事から次期国王として周りから期待されていた。
実は次期国王になるには、年功序列の他にも魔力の有無が1つの条件になるとされている。
歴代には無論、様々な要因から魔力の無い王も居たのだが、『魔力ある王が継いだ代は必ずその国は栄える』と言い伝えられているからだった。
実際魔力のある王と無い王の代を文献を含めて比べても、作物の豊穣だったり子供の出生率が高くなったりと何かしらの繁栄がみられているとの事だった。
そんな王子が4歳になった時、ついに魔力の発現がみられた。
しかしそれは、皆が望んだ未来の繁栄の象徴とは言い難かった。
王子は魔力が発現した際に、その魔力で身の回りの物や植物などを全て氷付けにしてしまったのだ。
その事態についてこの世界で魔法の専門家とされている魔術師達の見解では、恐らく生まれ持った強力な魔力をうまくコントロール出来ないが為の暴走であるとの事だった。
そんな見解を聞いた者達は、王子のその力の暴走を怖れその者達の進言によりランス王子は、魔力が安定するか学園に入学するまでという制約で王城の一室に隔離して育てられる事になった。
この世界では、魔力は発現は大抵10歳までに起こり、本格的な魔力の成長は13~18歳の間に行われるとされている。
13歳までは発現はしていても、魔力の成長は大した成長を見ること無いらしい。
恐らく身体的にも第二次成長期にあたる事も関係しているのだろう。
そして13歳頃から成長し始めた魔力は、18歳以降は成長が止まり完全に安定するような仕組みになっている。
その為この世界では魔力の発現が起こると、必ず魔法の家庭教師等がつけられ本格的な成長し出すまでに、基礎的なコントロール力を付けるように定められている。
しかしそれ自体難しいとされたランス王子は、どうにか魔法の専門機関でもある魔法学院に入学するまでは、なるべく内密に王子の力を抑えて過ごさせようという話だった。
そしてうまくいけば、学園卒業の18歳には魔力の安定した王子が無事戻ってくるという算段だった。
そんなランス王子が15歳になりようやく魔法学園に入学するのだが、当の本人にはその思惑はもちろん伝わることはなく、体の良い『厄介払い』されたという解釈違いが起きてしまった。
長らく隔離されていたが為、誰かと深く接する事無く1人寂しく過ごした幼少期の経験により、王子は容易に他人に対して心を開かなくなっていたので当然の結果とも言える気がする。
更に最悪な事に、後に産まれていた弟達の存在から自身より弟達の方を後継者にと考えているのだろうとランス王子は捉えてしまった。
俺からしてみればそんな王子が、魔力をうまくコントロール出来る様になったとしてもマトモな国王として務まるのかは疑問な所だ。
そんな王子の裏事情を思い出していた俺だったが、そんな一部の者しか知らない事情を公爵家一族とは言え俺みたいな幼い子供が知っているのはおかしいだろうと思い、これ以上師匠の話を深く聞き込まない事にした。
そんな風にいくらか雑談をしながら休憩を終えると、師匠に促され俺達は演習を始めることになった。
「まぁ今日は山登りで疲れているだろうからな。簡単なので許してやろう。」
「有り難き幸せ…」
「これから作り出す土人形を全部倒したら今日は終わりな。」
そう言いながら師匠は地面に手を当て詠唱すると、自身の魔力を使って高さ1M程の土人形を作り上げた。
その数合計100体程。
「やっぱ鬼ぃ!!」
「ギルバートノルマ10体追加~。」
「やめてぇえええ!!」
「師匠さま本当に過激になられましたね…」
「いや、あれが本性なんじゃない?」
「そこ2人も無駄口叩くなら追加~。」
「「えぇえええ…」」
そんな師匠の扱きを受けながら、俺達は自身の持てる限りの力で土人形を倒して行くのだった。
っていうか、「庭が荒れる」ってこう言う意味かよ!!
そうこう言いながらも、約2時間くらいかけて俺達は師匠の土人形達をただの土塊に変えた。
もうその頃には皆ゼーゼーと肩で息をし、体力は限界が来ていた。
「もう…疲れた…」
「このまま山降りるとか無理ですわ…」
「師匠…キツいです…」
「いや~。スマンスマン。お前らがあまりにも頑張るから少し楽しくなって、ついもう少しだけ追加しちまった。」
楽しんでんじゃねーよ!てかやっぱ追加してたのか!!一生懸命過ぎて分からなかったわ!!
「悪かったよ。とりあえずの回復はしてやるから、許せ許せ。」
そう言いながら、師匠は服の内ポケットから一つの石を取り出した。
そのキラキラと虹色に光る水晶のカケラのようなものは、『妖精石』と呼ばれるもので、いわば魔力の塊のようなものだ。
この妖精石は小説にも書かれていて、ヒロインのサラが自身の魔力を封じる為にアクセサリーとして所持していた。
本来は採掘にて手に入れる事が出来るが、主な採掘国は土の国であり他の国ではなかなか採掘が困難とされている。
妖精石には『純度』というものがあり、より高い純度程効力が高くなってくる。
『純度』は1~5の段階に分かれており、数字が多い程に純度が高いとされている。
純度1から順に白、青、黄色、赤、虹色となっており、一般的な物は『純度1』か『純度2』とされているが、師匠が持っているのは『純度5』であるため小さくても魔力が高く、何度かは回復が可能なものだ。
無論その分高価であるが、師匠は父さんから『学習教材』として支給されているので俺達の修行中は遠慮無く使ってくる。金持ち万歳。けど多少手加減はして欲しい。
また妖精石のサイズも様々であり、今師匠の持っている指先サイズや手の平サイズ、もっと大きい物では建物ぐらいのもあるとの噂だ。
そして使い方は多種多様であり、師匠が言うような体力の回復を願えば回復し、傷の治療も擦り傷程度なら大抵の妖精石なら手の平サイズでいけてしまう。
骨折とかのレベルになると大抵の妖精石では難しく、もっと高純度か大きなサイズが必要になってくるらしい。
医者要らずのように聞こえるが、残念ながら病気や呪い(原因不明の体調不良等)に対しては残念ながら効かないらしい。
しかし魔力が尽きた際には魔力回復、増強などなど行えるかなり万能性に優れたスーパーストーンである。
そしてそんな石を持ちながら師匠がボソボソと詠唱を始めた。
『我が名ザック・クロスリーの名の元に。この者達に癒しを与え給え。』
詠唱後輝きを増した妖精石を俺達の額にコツン、コツンと軽く当てると、先程の疲れが少しだけ回復した。
「おー、回復回復~。」
「相変わらず凄い力ですわ…」
「さて…そろそろ山を降りないと暗くなっちまうな。撤収だ!!」
「「「イエッサー!!」」」
師匠の声かけに、俺達は一斉に帰る支度を始める。
すると近くの草むらでガササッ…と微かに物音が聞こえた。
「ん…?師匠!なんかあそこで物音が聞こえた!」
「何…?兎じゃないか?前見た時には特に何も居なかったが…」
「……熊…とか、居ないよね…?」
「ひっ…こ、怖いこと言わないでください、バカクリス…」
「ご、ごめん…」
クリス達は、恐怖のあまりお互いに体を寄せ合う。
すると、いきなりガサッ!!と一際大きな音が聞こえる。
「「ひゃあ!!」」
叫び声を上げた2人は、そのまま師匠の背後に隠れるように引っ付いた。
「落ち着け2人供…ギルバートも早くこっちに来い!」
「お、おぉ…」
少しビビった俺だが、とりあえず師匠の指示に従いそちらへ向い駆け寄った。
「…ん?」
すると、その進行方向の草影の間から小さな焦げ茶色の布か何かが動いて居るのが見えた。
一瞬だけ人の顔の様な物が見えたので、恐らく子供ではないかと検討をつける。
「師匠!あっちに誰か居る!!」
「は?誰かって誰だ?」
「いや、分からんけど…あ!お、おい!そっち行くなよ!危ないぞ!」
その人影は、俺の止める言葉が聞こえていないのかそのまま走って行ってしまった。
「おいってば!待てってーー!!」
「あ!コラ!ギルバート…!」
俺はとにかくあの子を止めなくてはと思い、走ってその子を追いかける。
それを師匠が止めようとするが、クリス達に抱きつかれていた為にうまく止める事が出来なかった。
「ギルバート!!」
「義兄さん!」
「義兄さま!!」
遠くで俺を呼ぶ声が聞こえたが、俺は「あの子連れてすぐ戻る!!」と叫ぶと、その子を追いかけることに集中するのだった。
そんな師匠達の後ろでは、草むらから今の状況を全く理解していない、可愛らしい野うさぎが首を傾げて様子を伺っていた。
「ま、待てって…ば!!」
俺はその子をしばらく追いかけるが、幸いにもこちらの方が足が早い様で思ったより早く追い付く事が出来た。
ふっ、鍛え方が違うのだよ。
その子の足を止める為に俺は、ローブの帽子部分を引っ張り自分の方に引き寄せた。
すると「うぇ!!」という悲鳴と共にその子が後に転けたことで、やっと動きを止めた。
「もう!止まれって言ったろ!ここはどんな動物がいるか分からないんだから、あんまり奥に行くんじゃねーよ!」
俺がその子供に注意すると、その子は「あ、ううう…」と呻きながらガクガクと震えていた。
あれ?怖がらせたか?と焦った俺は、一旦ローブから手を離す事にした。
「わ、悪い…あ!別に、苛めようとかしてないからな!危ないから、早く止めたくて…」
「ち、ちが…は、早く、ボクからはなれて…」
「へ?」
そう子供が告げると、その子の周囲からパキパキと音が聞こえだした。
何事かと思いその音の方を注視すると、その子の周りだけ草が凍っていた。
「え!草が…凍ってる!?」
「あ…!触っちゃ…だめ…」
驚きのあまり何も考えぬまま草に触れようとした俺に、今度はその子が静止の声をかけてきた。
「それ…触ると、て、手が痛くなる…から、触っちゃ…だめ…」
手が痛くなる、もしかして凍傷になるのだろうかと思い、俺は伸ばしたその手をすぐ引っ込めた。
そして、改めてその子供の顔へ視線を移すと俺は思わず目を見開いた。
ウェーブのかかった綺麗で長い水色の髪を後ろで1つに束ね、俺を見るその瞳は長い前髪で隠れて見えづらくはあるがその色はアメジストの様な綺麗な紫色をしていた。
しかし何かを怖れている様子の瞳からは今にも涙が溢れ落ちそうだった。
そして、そんな今にも泣きそうなその子供の顔に、俺はどこか見覚えがあった。
「まさか…ら、ランス・レインウォーター…王子!?」
その名を口にした瞬間、その子はビクッと肩を震わせた。
まさに今日話題になっていたその『氷の王子様』は、小説で見た挿し絵より幼く、いずれ付くであろうその二つ名の様な冷たい容貌とはかけ離れている気がした。




