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Rain Drop  作者: 深蔭
4/7

一歩手前

まだ気づかれていないというのは精神的緊張を伴う。



例えば、昔からよく知りあった仲の友人であればすぐに話しかけられるし、余計な気を背負わなくていい。顔を合わせたことのある程度の間柄ならば、よそよそしくて当たり前。

けれど歩と彼は互いを知ってはいるものの、よく知っているとまで言える部類ではない。それこそ常日頃顔を合わせてはいたけれど、互いの近況を報告しあったり、ふざけあったりするような仲ではない。一方的に歩が彼を探し回って、意識して、中途半端にセット扱いされていた、超微妙な関係に過ぎなかった。


ここで思わぬ積極性を発揮して、

「よっ、ゆーほ。元気にしてたか」

などという親しみを込めた挨拶をできるような性格とは正反対の歩は、

『関わるとろくなことにならないんだから、気づかれないようにしておこう』

と、密かに決心を固めた。


決心したものの、懐かしさなのか物珍しさなのか、昔と変わらず講義をだるそうに受ける彼の後姿を観察するのは、この時から歩のマイブームのなった。


意識してしまえば見つけるのは簡単だった。同じ授業、毎時間座席を変えるような学生は少ない。彼も同じ席をキープしているようだった。

歩は彼の後ろ姿が見える、しかし本人から気づかれない距離を保っていた。ちょうど3列後ろを陣取り、暇さえあれば彼の姿を目で追った。

通常は自分のパソコンを広げ、熱心に打ち込んでいるときもあれば、頬杖をついて頭髪の心もとない教官を眺めているときもあった。よく観察してみれば、歩同様、彼も特に講義に関心を持っているわけではなく、内職時間として、活用しているように見受けられた。それは少しだけ歩の共感を買ったけれど、興味関心以上の何かには至らなかった。

ただ少しだけ、昔のよしみで、昔のクラスメイトが現在何をしているのかが気になった、ということだったのだろう。歩は、そういうことにした。



が、しかし、マイブームは突如として強制終了を通告されたのである。当の本人の発言により。




「気づいてないとでも思った?」

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