1 辺境伯視点5
辺境伯からマルグリアたちへの褒賞のお話です。
「まずは、わしの口からはっきり言うべきじゃな。そなたらより受け取った《ハオマ》をはじめとしたもの全てを、わしは王家へと献上した。そなたらも考えたと思う『自分が持っていては危機が及ぶ可能性が高い』とな。わしもな、他の者には言い辛いが領主とはいえ辺境の弱小子爵じゃった。この国だけでも格上の貴族が相当数居る。権力を盾に奪われるだけならまだしも、わしの命や街ごと攻め滅ぼされる可能性すら考えた末の決断じゃよ。王家の物になったとあれば他国からの干渉はともかく、国内は謀略蠢くじのゃろうが一応抑えられるからの。」
「やはり見抜かれておりましたか」
ヴァンタ村長が苦笑交じりに告白してきたわ。まぁ20年来の関係じゃしな、お互いの考えなぞ十分想像できるわ。それに「探索者は己が身の安全が第一、命あっての物種」は探索者共通認識じゃからの。その中心は村長じゃったかの?
「うむ、そしてな、陛下より褒賞として辺境伯の爵位と財貨を頂いてな。その上で薬師殿、そなたの家一体を国の重要地としての守護管理を我が家が任された。」
「そ、それはおめでとうございます。そして先程まで間違ってお呼びしてしまい、大変失礼を・・・」
「良い、まだ我が領ではあまり広まって居らんことじゃろうしの」
「しかし、重要地指定か?なぜ王家が貴族領に介入を?」
「うむ、村全体を王領への編入を打診した上で了承され、再び褒賞として我が領へと下賜されての。そなたの家と井戸を重要地として守る様にとのご下命と、兵力の保持・駐屯許可を得たのじゃ。」
「おいおい、一旦王領に編入した件はともかく村に兵力駐屯か?うちの村にそんな場所は無いぞ?国の重要地守護となりゃ、最低でも正騎士クラスが隊長になるだろうし、そうなりゃ相手はお貴族様だ、対応も考えなきゃならねぇ。人選によっては女子どもの移動もな。」
「仕方なかろう、王命じゃしの。そうでなくても怖すぎて放置はできんよ。」
さすがに村長も焦るかの・・・民に暴虐を振るう貴族も居るのも確かじゃしの。
「俺らを呼んだ理由はそれか!?問題ありそうなのが来そうだってのか!?」
「いや、経費は王家持ちじゃが、人選その他はわしの管轄じゃ。軍の編成権なども合わせて貰って居る。辺境伯としての格に合わせた人数を揃える必要があるがの。」
「なら、ひとまず安心か・・・下手なの寄越さないでくださいよ。」
「いや、村長。そなたを我が家の正騎士とした上で、警備の者や我が領内で従軍経験者を中心に重要地守備隊を編成し、その隊長にしたいのじゃよ。」
「な! 俺がか!?」
流石に驚いておるの。まぁ、かつて戦場で活躍した元Aランク探索者とはいえ今は一介の村長。そこからいきなり正騎士では異例じゃからの。まぁ、前例が無い訳ではないがの・・・
「わしはおぬしらに対し褒賞として、あの時手持ちの金銭の大半を渡しておったがの、正直に対して少なすぎたのでな、後から正式な形でさらに渡すつもりではあったんじゃ。わしが王から受け取るであろう褒賞を参考にしてな。そして、わしは辺境伯へと昇位した。ならば、そなたらへも相応の地位を渡さすべきじゃと考える。」
「いや、いきなりただの村人から正騎士様ってのはなぁ・・・」
「大きな功績をあげた平民が騎士になること自体はあるし、優秀な探索者であれば貴族に仕えることで後に騎士など貴族位に上ることもある。それに元々はじゃ、村長らがあの村へ行ったのは村の警護というわしの依頼を受けてじゃろ?じゃから、その辺をちょっと弄って対外的説明できるようにすれば、村長が正騎士になっても、どこからも問題無いようにできるじゃろ。」
「そんなもんかねぇ・・・」
「警護の兵が派遣されて、村の人口が多少増える程度に考えて大丈夫じゃよ。指揮権は村長にあるし、万が一、従わない様であれば処罰も権限の内じゃよ。」
「分かった、下手なのが派遣されて来るよりはマシだ。
それでは、辺境伯様 正騎士への叙勲、ありがたくお受けいたします。」
ふう、なんとか受けて貰えたの・・・正直、人材がおらんので受けて貰えなかったら、村長が心配する”下手なの”を派遣するしかない状況になるかもしれんかったし、助かったわ。
「いきなり口調変えられると調子が狂うんじゃが・・・まぁ、正式な任命とお披露目は後日じゃ。
そして薬師殿。そなたには我が家のお抱え薬師となり、王国重要地の管理人をやって貰いたい。」
「・・・元の家に戻れとおっしゃるのですか?」
「うむ、元々そなたの住んでいた家じゃしな。錬金術・薬師にとって最高の拠点となる場所。となれば、管理者もそちらに精通した人選が望ましいが、我が家でお抱えの薬師は居るが、わしの元に居て貰わねば困る。他に信用できる薬師で、かつあの村に移り住めるとなれば、今回の件で知ったそなたくらいじゃ。」
「私は娘との二人暮らし。王国重要地の管理なんて、そんな重責・・・」
「警護は村長をはじめ派遣した騎士団が行うから安心されよ。家や井戸の周囲に壁を造るので不審者の侵入も防げるはずじゃ。薬師殿にはただ井戸と家の清掃・維持をお願いしたいのじゃよ。下手に傷でも付けて効果が失われるだけならまだしも、暴走した場合を考えるとのぅ・・・」
「は、はぁ・・・」
まだ、別の懸念でもあるのか、浮かん顔じゃの・・・ああ、そうか、そうじゃな。
「薬師殿もまだ若く美しい女性じゃしな。褒賞とは別に身辺守護の魔法具などを渡そう。派遣された兵士の中に不埒者がおっても対応できるようにな。それと、村長が正騎士位で騎士団長じゃし、薬師殿には我が家お抱え薬師の副長になってもらおうかの。今まで居なかった副長の席をかの地の管理者として派遣する形になれば、周囲への格好もつくしの。お抱え薬師は貴族ではないが、一応我が家では騎士と同等の扱いになっておるし、管理者は言わばわしの代理じゃ、変な真似をする者がおれば仕置きすればよい。」
母娘二人での暮らしで、周囲に男ばかりではの。長が村長とはいえ不安は拭いきれんじゃろ。
「ありがとうございます。そこまで考えてくださるとは・・・
王国重要地管理者の任、お受けいたします。」
「うむ、よろしく頼む。 ああ、そうじゃ、二人には先に言っておいた方が良いかの。詳しいルールは後にするが、塀であの場所の周囲を囲う予定じゃが、中入るのは基本的にそなたら二人になる。わしの同行か、添え状がある場合は許可することとする。」
管理・警護に関してある意味一番重要なことを先に伝えねばの。
「万が一他の貴族やその使いがあの地へ赴く場合は、まずわしのところに来る。わしの添え状か先触れによる伝令が無い場合は偽者として通す必要は無い。王族の場合も同様じゃ。そう、陛下にも確認しておる。」
「なぜでしょう?それに、お忍びという場合も・・・」
まぁ、貴族間の慣例じゃし平民であった二人なら知らんのも無理は無いの。
「まず、陛下にはお話したが《魔力結晶》が生成されることを公表されなかった。危険を冒すか、一部鉱山でしか取れないモノが、安全に採取できる場所で生成されてしまっては、様々な者の欲を刺激しすぎるという判断じゃ。故に知る者は最小限に厳選したい。陛下のご意向でもある」
「なるほど」
「それと、貴族はな、王都へ向かう街道と宿場となる地と、戦時に戦場となった場所以外に立入る際、事前に管理する領主貴族へ連絡・挨拶が無ければ居ないモノとして扱われる。つまり偽者じゃな。例え王族であってもこれと同じじゃ。そして陛下からの勅命などであれば、まずわしの元に来る。わしが管理を託された責任者じゃからな。故にそなたらへ直接命令書などが届くことは無い。」
「分かりました。万が一本物であった場合を考え、直接来た際は、宿屋などへ案内し辺境伯へ確認を取るからと待って貰いましょう。なぁに、向こうの落ち度だ、多少は我慢してもらいましょう。」
「その方が無難かの・・・下手に騒がれても面倒じゃ。
それとじゃ、薬師殿、そなたの夫について確認したいのじゃが・・・・」
わしがそう聞いた途端、薬師殿の雰囲気が一瞬変化した。
なんじゃ?この寒気は!? 何かまずかったかの!???
次でマルグリアさんの旦那さんとかパーティーメンバーとかの話が出ます。




