幕間 院長のその後
私が働いていた孤児院はここ最近で何度も様変わりを果たすこととなった。
高位の冒険者であるオズワルドと名乗った鎧姿の彼とその一行によってボロボロだった建物は修繕されることでまずは一回。
その後直ぐに私や孤児院の子供達だけでなく街の人の多くまで体がモンスターのように変質する異常事態の騒ぎによって孤児院が半焼。これにより孤児院は元々よりもひどい状態に逆戻り。
だがそれで終わりではなかった。なんと焼けてしまった建物をまたしても彼という人物は無償で修繕してくれたのだ。
しかもやられたらやり返す、と冗談交じりに言って前よりも遥かに頑丈そうな建物に。入口の付近に二つの鎧の騎士鎧の銅像らしきものがあるのを見た時はどこの貴族のお屋敷なのかと思ったほどだ。
施療院から戻った私と子供達がそれを見てどれほど驚き、そして感謝したことか。それは言葉では言い表せないほどだ。彼にはそんなことをする必要なんて欠片もなかったというのに、私達の為に私財を使ってくれたのだから。
しかもこれは後で聞いた話だが暴走した私や子供達、それに街の人達がこうして無事でいられるのも彼のおかげらしい。詳しいことは機密で言えないらしいが、フォロクスと名乗った騎士様がこっそりと教えてくれたのだ。
そうして私達はまともな住処を得ることが出来た。健康で、もう誰にも忌み嫌われることのない体にという夢にまで見た状態で。これが神の導き以外の何があるというのだろう。
あの人が神の使いだと言われても今の私は信じられる。それくらいに私も子供達もあの方に感謝していた。
特に子供達にとってあの人は英雄のような憧れの存在となったくらいに。中にはいつかこの恩返しをするという子も出てきたくらいなのだ。
そうして私達は健康な人の体であの方達がこの街を去って数日後の今日も眠りについていた。隙間風が入ってくることのない暖かな部屋でぐっすりと。
「……ん?」
それに気が付いたのは本当に偶然だった。
眠りが浅くなっていたのか音が聞こえたのだ。
「裏手の方かしら……?」
聞き間違いかと思って耳を澄ますと確かにまた何かが聞こえた。人の話声のようなものが。
(まさか強盗?)
例の騒動の影響で騎士の人達は仕事が増えており、見回りを強化してもどうしても見回りが甘くなっているという噂話は聞いたことがあった。そしてそれを狙った強盗などがいるという噂も。
(まさかそれがここにも?)
ただの金品を狙った泥棒ならこのまま子供達には何もしない可能性が高い。
だけどここにあるものなんて対して価値のない物ばかりだしお金なんて少ししかないから、それに腹を立てて何かしてこないとも限らない。
迷った末に私は子供達を起こさないようにゆっくりと立ち上がると、壁に耳を当てて聞き耳を立てる。
そうして向こうの様子を伺うと確かに男の声で話しているのが聞こえる。そして明らかにその声は子供達のものではない。
ということは単独犯ではないということだろうか。
(とにかく今の内に騎士様達に連絡を)
何かあった時の為の緊急事態を知らせる為の魔道具は騎士様達から預かっている。あの騒ぎを起こした奴らがまた何かして来た時の為に。
幸いその魔道具はこの部屋に置いてあったので私はそれを起動させる。
これですこしすれば騎士様達がここに来てくれるはず。それまで鍵をかけてこの部屋に立てこもればいい。
オズワルドさんの話では幾つかの部屋は並の攻撃では壊れない要塞仕様にしてあり防犯機能も万全とのことで、この寝室もその一つなのだから。
そう思って寝ている子供達を見た私の顔から血の気がサッと引いた。
窓から入る月明かりに照らされてスヤスヤと眠っている子達。だけどその数が足りなかったのだ。
(い、いないのは……グロリアにアマーリエの二人!)
バクバクと脈打つ心臓とそれに伴って動揺しそうになる頭を必死に回して私は考える。アマーリエは年長組で面倒見のいい真面目な子だしグロリアも同じだ。
少なくともやんちゃな男の子ならともかくあの二人が夜中にこっそり起きて遊びに行くことはありえない。
そう考えながら部屋の中をもう一度見て回るがやはりいない。となれば、
(そうか、トイレに行ったのね!)
一人で行けないグロリアにアマーリエが付き添った。でもそれなら最悪だ。
何故ならトイレがあるのは建物の裏手の方。話声は男のものだったことから考えてあの二人の声を私が勘違いした可能性もあり得ない。
その考えが正しいことを証明するように悲鳴が上がる。それを聞いた何人かの子供達が起きだしてきた。
「あなた達は鍵をかけて部屋に籠っていなさい! すぐに騎士様がやって来てくれるから!」
年長の子にそれだけ告げると私は部屋を飛び出す。そして足音がするのも構わずにその悲鳴がした部屋へと走った。
そうして扉を開けた私の目に入ってきたのは、
「……え?」
理解不能の光景だった。
まずグロリアとアマーリエは確かにそこにいた。ただし怪我もない状態で見るからにぴんぴんしており、それどころかグロリアに至ってはそこに居る全身鎧の人物に肩車をされていたのだ。それも実に楽しそうな笑顔で。
「あ、先生だー」
そして私の顔を見るとグロリアはその鎧の人物に優しく地面に降ろされて私の方に掛けてくる。その鎧にはどこか見覚えがある気がした。
「オズワルド……さん?」
全身鎧の姿だった為にそう思ったが私はすぐに違うと分かる。何故なら鎧の形が微妙に違うし、そもそも月明かりで照らされたその鎧の色が黒ではなく銀色だったから。
「彼の縁者ではあるが彼ではないよ。まあ、私の事はクロとでも呼ぶといい。それと真夜中にお騒がせして失礼した。これでもあなた方を起さずに事を終えるつもりだったんだが」
そこで気付いたが部屋の隅に何人かの男達が重なって倒れていた。全員が意識を失っているのかピクリともしない。
「そいつらはここに忍び込もうとした賊だよ。見ての通り無力化してあるから気にする必要はない。ああ、子供達には指一本触れさせていないからその点に関しては安心していい」
確かにグロリアにもアマーリエにも見た感じ傷がないようだし、そもそも賊がいるというこの場で怖がってすらいない。それどころか安心し切っているようですらあった。
それほどまでにこのクロという人物を信頼しているというのだろうか。オズワルドさんの知り合いだとしてもやけに信用するのが早い気がするが。
「本当ならこんな所まで侵入させるつもりも正体を見られるつもりもなかったんだが、感知機能に不具合があったようだ。後でこの体の創造主に直させるとしよう。どうせそろばんやら教科書も作らされるんだしそのついでとして」
そこで彼は顔を外の方へと向けて大きな溜め息を吐く。
「どうやら詳しい説明をしている時間はなくなってしまったみたいだから、それについてはまた今度ということにしよう。それまで私の事は黙っていて貰えると助かる」
そんな事を彼が呟いた時だった。バタバタという足音と共に騎士様達が現れたのは。
「大丈夫ですか!?」
「あ、はい、この方が……え?」
騎士様達の方に気を取られて目を離したのはほんの一瞬だけだった。だというのにそこにいたはずの人物は消えていたのだ。だがその代わりにその場に残っていたものがある。
(これは……門の前にある騎士像?)
それを見て私はクロという人物の外見をどこで見たことが有ったのか思い出した、そう、あの騎士像にそっくりだったのだ。
(まさかあの像が動いたっていうの……?)
普通ならあり得ない。でもオズワルドさんならあるいはとも思ってしまう。
そんな風に戸惑う私を騎士象がクスリと動かずに笑った気がしたのはきっと気のせいではないのだろう。
次からは第八部 ナキリ編の予定です。
それと新作も書き始めたので宜しければそちらもお願いします。




