幕間 ヘイズの誓い
第七部での他の人達の行動を書いていきます。
まずはカーラとヘイズです。
妻が妊娠した、それを知った時の私の心境は複雑だった。
もちろん嬉しくない訳がない。愛する妻との子だ。大切に思わないなどあり得なかった。
でもだからこそ、私はある可能性を恐れていた。そう、きっと誰よりも。
「だから心配し過ぎだって」
「だが、あり得ない話ではないだろう」
私は幼い頃から大量の魔力を抱えており、その副作用の所為で色々と辛い経験をしてきた。未熟な頃はほんの少しの時間、本気を出しただけで体が悲鳴を上げ、その後の数日は地獄のような痛みに苛まれたこともある。死に掛けたことも数回ではない。
そしてもし仮に子供に私の魔力が遺伝してしまった場合、同じようなことが起こり得ることもなくはないのだ。
「例えそうでもあんたがいるじゃないか。その為の研究だってずっと続けてきたんだし、少しは自信を持ちなよ。まあ、気持ちは分かるけどさ」
「正直に言えば、子供については万全の状態と言える。魔力を私以上に有していようと副作用を抑える方法は幾つも用意した。……私が恐れているのはもう一つの方だよ、カーラ」
子供が大量の魔力を有していた場合の母体への影響。これについてはほとんどわかっていることはないに等しい。そもそもそんな症例を見ることなど滅多にないのだし、調べるにしても理論だけでは限界があるのだ。
これで私の母が健康体なら安心できるのだが、最悪な事に母は亡くなっている。しかもそれは私を生んですぐのことだったらしい。
それは流り病の為だったと聞いているが、もしかしたら私という存在をその身に宿し、そして産み落としたからかもしれない。大量の魔力を浴びれば人は体調を崩すこともあるし、中には死に至る場合も存在する。
それと似たようなことが私の母に起こっていたとしたら。お腹にいた私が母の体を大量の魔力で汚染してしまったとしたら。
それがもし妻の身にも起こったとしたら。そう考えて私は恐怖していたのだ。
「その時もあんたがきっと助けてくれるさ。万が一、それが無理でもアタシはこの子を産むよ」
「……もし仮に魔力による汚染が母体に及ぶとしたら、子を産み落とした後では手遅れだ。その前に手を打たないと手遅れになる可能性もあるんだぞ」
「それでもさ。そもそも、子供の為に親が命を懸けるなんて当たり前のことだろう?」
私とてわかっている。この話し合いは妻の方が正しいと。
どんなに可能性を上げたところでそれはあくまで可能性に過ぎない。起こり得ない事も十分に考えられるのだ。いや、むしろ何も起きない可能性の方が高いのだろう。
だと言うのに私は躊躇いを消す事が出来ないのだ。妻を失うかもしれない、それが途轍もなく恐ろしくて仕方がなかった。
Aランクの冒険者として化物と呼ばれていても実際には身内の死に怯えるただの臆病者。それが私だった。
自らの命が懸っているかもしれないというのに平然としている妻と比べたらなんと情けない事だろう。これではどちらが強いのかわかったものではない。
「大丈夫、きっとなんとかなるさ。それにどうしようもなくなってもあんたが助けてくれるんだろう?」
「……ああ、そうだな。その時は必ず、必ず助けて見せるよ」
そう言いながら私はその身にもう一つの命を宿した妻を固く、けれど優しく抱きしめる。何があろうと決して彼女を失いはしないという誓いを胸に。
(そう、例え禁忌とされているあいつの力を借りることになろうとも)
そうして私は嫌な予感を振り切った。この先に何が待っているかも知らずに。
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