エピローグ
翌日、オレ達はメルクリウスを出発しようとしていた。もうこの街でやることはないからだ。
そして今は準備を終えて孤児院の門の前で院長や子供達と別れの挨拶していた。
「本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
そう言う院長は修道服を着てはいたものの、その頭部は露出していた。
そしてそこにあったはずのものが今はなくなっている。他の子供達も同様に、赤い石によって異常をきたしていた症状はすべてなくなっていた。
その所為だろうか、皆の表情が更に輝いて見えた。
急な変化に周りは怪しむかもしれないがゴーム男爵がどうにかすると約束してくれたので、これからは前よりマシな扱いになるはずだ。それだけでも頑張って良かったと思えるというものだ。
行かないでと泣いてしまう子達をなだめながら、また来ること約束していると、そこに奴が現れた。
「行くのか」
「フォルクス。なんだ、わざわざ見送りに来てくれたのか」
「主の代理だがな」
例の二人の部下を引き連れたフォルクスはオレの傍まで来ると、
「色々と世話になった。感謝する」
そう言って頭を下げて礼を言ってきた。
「礼を言うのはまだ早いだろ。まだすべてが片付いた訳じゃない」
「……そうだな。王都でまた会うことになるだろうし、その時に借りは返すとしよう。この装備を使いこなして、な」
例の社交界にゴーム男爵もその娘も出る。そして当然護衛としてこいつらも付いていくのだ。
オレ達もフラクションを潰すために動くだろうし、いずれそこで再会することは簡単に予想が付くというものだろう。
その後も女騎士が化物と言った事を謝ってきたりオレが前に気絶させたことを謝り返したりして、やがてその時がやってきた。
「それじゃあ、またな」
手を振ってくるみんなを見ながらオレ達を乗せた馬車は門を出て、先へと進んでいく。
目指すはメスト伯爵領だ。そこで今回の一件を報告した後は王都にいってフラクションを潰すことになる。
アイリスについてはメスト伯爵に報告した時にどうするかを決めることにしてある。
このまま放置することはできないが、かと言って勝手に連れて行っては誘拐になってしまう。魔王の危険性なども説明した上で対処方法を決めてもらうしかないだろう。
「大丈夫ですかね?」
「何がだ?」
ミラが後ろを振り返りながらそう言っていたのでオレは問い返す。
オレには見えなくなったが、きっとミラのその目にはまだメルクリウスの街が見えているのだろう。
「フォルクスさん達が王都に出向けば、その分あの街の守りが甘くなりますよね。ただでさえあんなことがあって街の人は混乱しているでしょうし、その隙を突く奴らが現れないといいんですけど」
フラクション以外にも悪人はいる。そう言った奴らがこの騒ぎの混乱乗じて何か仕掛ける可能性は確かにあり得た。
「まあ、大丈夫だろ。騎士はフォルクス達だけじゃないし、一応保険は掛けてあるしな」
あいつがあれをどれぐらいの期間で完成させられるかはわからないが、最悪まったくできなくとも大丈夫なように手は打ってある。
そう、新しく手に入れた固有スキルによって。あれさえあれば万が一もないはずだ。
そうして進んでいると、
「……そういや忘れてたな」
「ええ、彼らのことを完全に失念していましたね」
アイリスが同意するように、いつの間にか周囲から取り囲むように何者かが近づいてきていた。その動きからして明らかに狙いはオレ達だ。
恐らくはフラクションに関わっていた弱小貴族共の刺客だろう。メルクリウスで思わぬ足止めを食らったせいで、奴らが刺客を送り込む十分な時間を与えてしまったようだ。
もっとも。そのどれもが盗賊紛いの奴らで明らかにオレ達に挑むには力不足だったけれど。それが遠くからでもわかってしまう時点で話にならないと言える。
「どうするにゃ?」
それは戦うか否かではなく、生かして捕えるか始末するかの問いだ。
「可能な限り生かして捕えてくれ。ないとは思うが、貴重な情報を得られないとも限らないし」
「了解にゃ」
返事をしたネイは馬車から飛び降りるとあっという間に敵に向かって走って行った。そのすぐ背後にはゴラムも付いて行っている。
オレも加勢しようと立ち上がろうとしたのだが、
「オズさんは馬車をお願いします。今回は私達に任せてください」
ミラのその言葉通り残った女性の三人も弓や剣を手に持って戦う準備を終えていた。アジトに襲撃した時も楽勝だったらしいし、勘を鈍らせないようにしたいようだ。
「それじゃあ頼む」
たまにはのんびり待っているのも悪くない。そう考えたオレはミラ達にすべてを任せることにした。敵にミラ達が不覚を取るような強者はいないようだし。
ネイ達ほどではないが、かなりの速度で走って敵へと向かっていくミラ達を見ながらオレは止まった馬車の中で一人きりとなった。
いや、正確には二人っきりか。
「メルクリウスを出てしばらくになるし、もう姿を隠さなくても大丈夫じゃないのか?」
「ええ、そのようですね」
その声と同時に姿を隠していた肉屋がその隠形を解く。
「それにしてもミラ嬢達は強くなられましたね。正直、出会った頃はここまでの力を持つことになるとは想像もしていませんでしたよ」
視線の先ではミラやチャットだけでなく、アイリスも盗賊らしき奴らを叩きのめしているのが見える。
もはやその一方的な戦いは蹂躙と言っていいのかもしれない。数では圧倒的に不利のはずなのに形勢はその真逆だった。
やはりと言うべきか、オレの出る幕はないようだ。
「そうそう、五郎殿から連絡が入りまして例の物が一応は完成したそうですよ。もっとも試作品で性能に関してはまだまだ。しっかりと機能するかどうかもこれから確認していくそうですが」
「それにしても早いな。たった一日で作り上げるとは、流石は転移者ってところか」
仲間の中であの場にいたゴラム以外では、肉屋だけに五郎と会わせてある。連絡を取る上でもこいつと契約を結んでおいてもらったほうが楽だからだ。
それになにより、オレが手に入れた材料などを送るのも簡単だし。あいつには色々と作ってもらう予定なのだ。
完成した作品の受け渡しも肉屋がいれば距離が離れていようが一瞬で済む。その力を使わない手はないだろう。
ちなみにオレが五郎に払う対価は究極の嫁を作り出すための材料提供だ。
ミスリルはともかく、竜の牙とかまで使う時点でどんな嫁を作り出すのかと思ったが、まああいつのことだから悪用はしないだろう……たぶん。
「でも、その仕事の早さならもっといけるな」
「……白骨が言えた立場ではないかもしれませんが、オズ殿も人使いが荒いですね」
「何を言ってるんだよ。まだまだ抑え目で頼んでるつもりだぜ」
少なくともオレが人間だった頃と比べればまだまだ甘い。激甘と言っていいだろう。
もっとも自称ニートのあいつのことだから、オレよりストレス耐性は低いことは容易に予想がつく。なので、少しは考えないといけないだろう。
「とりあえず一式揃えてこっちに送るように伝えてくれ。どんなもんか確認したい」
「承りました」
オレは結果として強大な力を手に入れてはいるものの、決して戦いの天才などではない。むしろそういった荒事に関しては経験も一年に満たないし、どちらかと言えば苦手な部類に入るのではないだろうか個人的には思っている。
まあ、それを聞いたミラ達には全力で否定されたこともあるのでそうじゃない可能性もあるのだけれど。
でも、そんなオレだからこそ力を過信することなくできることがある。
「数は力なり。まったくもってその通りだな」
送られてきた件の物を見ながらオレはそう呟く。
目の前にあるのはオレによく似た黒色の騎士鎧。そしてそれは当然ながらただの鎧ではなかった。
これが後にオレ達が『黒の騎士団』と呼ばれることになる、その始まりだった。
これにて第七部は一先ず終了となります。
それと次の第八部に行く前に幾つかの話を挟む予定です。




