第三十四章 至魔の呪印
『レベルが22に上がりました
規定レベルに達したため「血液操作」「血液生成」を獲得しました
また、この種族におけるレベル獲得スキルは完了しました
条件を満たしたため「諦めない者」「戦う者」「思考する者」を獲得しました
ケルベロス及びゲオルギウス(分身体)を倒したことにより能力の一部を簒奪しました
「業火の魔眼」「魔力装甲展開可能化」「炎熱耐性」を獲得しました
上位スキル「炎熱耐性」を獲得したため下位スキル「微炎熱耐性」は自動的に上書きされます』
「黒閃」は前と同じように攻撃が届いたところまでのすべてを消滅させていた。ただゲオルギウスが思った以上に粘ったのか、あいつが立っていた位置で消滅の痕跡は止まっている。そのおかげと言うべきか、既に誰もいないとは言え観客席などに被害が出なかったのは不幸中の幸いだろう。
それにしても久々にこのアナウンスを聞いた気がする。強くなったせいなのか数体倒したくらいじゃレベルアップしなくなってきたが、やはり名付きは規格外らしい。一気にここまでレベルが上がるとは。
「終わったか」
力が手に入る感覚があるし間違いない。ゲオルギウスは死んだのだ。
量が多いせいか徐々にだが、確かに力が流れ込んでくる。これが何よりの証明だった。
「ミラ、チャット。終わったよ」
オレがそう言うと二人はその場に座り込んでしまう。特にミラなんて額に汗を滲ませるようにして息を切らしていた。
「さすがに、限界、です」
「私ももう動けないわ。オズ、おんぶして~」
「ガキかお前は」
そう言うオレも魔力を「黒閃」でかなり消費したし、体力気力も限界とまで言わないが結構キツイ。出来ることならこの場でしばらく休んでしまいたかったが、そういう訳にもいかなかった
「姿を見られるわけにはいかないし、休むのはこの場から離れてからにしよう。ほら、辛いのはわかるが頑張れって」
ミラは大きく一息を吐くと立ち上がる。無理しているのは丸わかりだが、オレが運ぶことはできない。その姿を誰かに見られたら絶対問題になるに決まっている。
それにオレ達が名付きを倒したことを知られない為にも早くこの場から離れなければ。
「ほらチャット、ミラだって無理して頑張ってるんだから我儘言うな」
「えー、いや!」
チャットはそう言うと絶対立ち上がらないと示すかのようにその場で仰向けに寝っころがった。
(こいつ、お仕置きが必要だな)
触手を拳状に変化させてその頭に拳骨を落とそうとしたところで、チャットの様子がおかしいことに気付いた。
茫然とした様子で視線が上空へと向かっている。目を見開いて驚いているようだし、明らかにまともじゃない。
その視線を追うようにオレとミラが視線を上げていくと、
「う、嘘だろ?」
先程ゲオルギウスがいた場所の遥か上空、そこに白い鎧が浮いていた。倉庫の時と同じく半身だけの鎧が。
ただし、その姿は満身創痍と言っていい。全体がひび割れて今にも全壊しそうだ。
「どんだけしぶといんだよ……」
あれだけの攻撃が直撃してなお死んでないというのだろうか。
「いえいえ、完全にしてやられましたよ。私の死は確定、もうじき完全に消滅します。今は残された魂のすべてがあなたに取り込まれるまでの僅かばかりの猶予にすぎません」
そう発言すると同時にボロボロと鎧の欠片が地面に落ちてくる。確かに体を維持することも出来ないようだし、今にも消えてしまいそうだった。
オレの中に力が流れ込めば込むほどに、ゲオルギウスの体は崩れていく。どうやら名付きだからか魂の量が多すぎるせいで一度に力を簒奪しきれないらしいが、致命傷には変わりないようだ。
「さすがオズワルドです。我が宿敵らしくすばらしい実力でした。私の完敗です」
「それを言うだけじゃないだろ?」
こいつはそんな殊勝な奴じゃない。動けるなら最後に絶対何か仕掛けてくるはずだ。
「さすがオズワルド、わかっていますね。置き土産を一つだけ残しておきます。どうぞ受け取ってください」
「きゃあ!」
そのゲオルギウスの言葉が終わるとミラとチャットの足元に白い魔方陣のようなものが展開された。
「ミラ! チャット!」
無闇に魔方陣内に入ったら何が起こるかわからない、なんて言ってられない。すぐさま魔方陣の中にいる二人に助け出そうと触手を伸ばしたが弾かれた。
ミラ達も逃げようとするが見えない壁にぶつかったかのようにその魔方陣の外に出ることは出来ないでいた。チャットが空に逃げても結果は同じでその範囲から逃れられない。
「ゲオルギウス! てめぇ!」
陣を破壊しようと闇を込めて攻撃しても弾かれる。「黒閃」なら破壊できるかもしれないが、そうなったらミラ達ごと吹き飛ばしてしまうからそれは使えなかった。
「「きゃああああああ!」」
魔方陣が怪しく光ると同時に二人の悲鳴が響く。
陣を壊すのが無理だとわかった時点で、すぐさまゲオルギウスの止めを刺しにかかる。術者を殺してもこれが解ける確証をなかったが残された手はそれしかない。
だがオレが動き出す前に魔方陣はそのすべての効果を発揮し終えてしまった。
魔方陣は出現した時と同じような唐突さで消えるとミラとチャットの体はグラリと傾く。そのまま見ているわけにもいかず、攻撃を中断して倒れそうになる二人の体を支えて、オレはゲオルギウスを睨み付けた。
「お前、二人に何しやがった……!」
「これ以上は何もできないので安心してください」
またしても怒りに支配されかけているオレの問いかけにゲオルギウスは笑いながら答える。
「彼女達に与えたのは至魔の呪印、私の奥の手の一つですよ」
「至魔の呪印、だと?」
呪印の言葉通り二人の足に刺青のような何かが刻み込まれていた。
「ええ。時が経てば彼女たちはモンスターとなるのです。その呪印が体全体に行き渡った時にね」
「何……だと?」
「どうせ後で調べられるでしょうから前もって言っておきますが、これは私の本体を殺して力の元であるゲオルギウスの力を消滅させる以外に解呪する方法はありませんよ」
こいつ、最後の最後にとんでもないもの残しやがった。
モンスターになるというどうしたって見過ごすことの出来ないもの。何としてでも解呪しなくてはならない。
「わかっているとは思いますが、彼女達はいわば人質です。助けたくば、あなたは私を殺しに来るしかない」
「……何が狙いだ?」
見捨てるなんて選択肢がない以上、オレはゲオルギウスの狙い通りになるとわかっていても乗るしかない。問題はこいつの狙いだ。
「宿敵との戦い勝利すること、そこに変わりはありませんよ。分身体でも勝てると高を括っていたのですが、保険を用意しておいて正解でした」
「これが保険だと?」
「本当は観客の中からでも適当な奴を見繕うつもりでしたがね。オズワルドであるあなたは、人を見捨てられない。万が一、分身体で敗れたとしても、こうすれば必ずあなたは責任を感じて我が本体のところに行く。いえ、行かざるを得ない。大切な仲間であれば尚更にね」
「……」
オレは沈黙を持って肯定を示すしかできなかった。その間にもゲオルギウスの体は崩壊していく。
「ここでの戦いはここまでのようです。続きを楽しみにしていますよ、オズワルド」
「失せろ」
効かないとわかっていたが怒りのままに剣を振り下ろすと、あっけなく鎧は砕け散る。死にかけではスキル無効化も使えないという訳か。
完全にしてやられた形だった。
ゲオルギウスは勝とうが負けようが最初からどちらでもよかったのだ。あいつにしてみたら勝てば宿敵にして邪魔者を排除できるし、負けても本体でもう一度戦えばいい。もしかしたら、負けて再度戦えることを喜んでいたのかもしれない。最後の言葉にはそんな節すら感じられた。
これでオレは本体の元へ乗り込む以外に選択肢はない。例えそれが罠だとわかりきっていても。
これが敗北と言わずしてなんだというのだ。どこが勝利だというのだ。
気絶した二人は今のところ苦しんでいる様子もなく眠るようだった。このまま放置すればいずれモンスターと化すなんて信じられないくらい安らかに。
「……殺してやる」
何があろうと、どんな手を使ってでも必ずミラ達をモンスターなんかにはさせない。絶対に助ける。
覚醒して自分を失おうが、相打ちになろうが、絶対に。
こうしてオレは転生してから初めての完敗を味わわされることとなったのだった。
もしかしたら初めての完敗ってところで疑問を思う方もいるかもしれので一応補足します。
確かにグーラの時にも一度負けたといえなくもないですが、死にかけながらも逃げ切ったので敗北ではあっても完敗ではないとしています。
今回は完全に相手の掌の上で遊ばれていた上でのこれですので、完敗と表記しました。




