第三十三章 全力での短期決戦
オレの狙いは先手必勝だった。疲労度や持久力のことを考えれば長期戦はこちらが不利。ミラ達の体力があって援護してもらえる内に勝負を決めるのが最善だ。
ただし相手もそう簡単にはやられてくれないが。
ゲオルギウスは前に飛び出したオレではなく、離れるように移動したチャットとミラに向けて発火能力を使った。
背後からの熱を感じて、つい振り返ろうとするが、
「私達は大丈夫ですから敵に集中してください!」
「ミラの事は私が守るから安心して!」
その声で踏みとどまった。確かによそ見をしていて勝てる相手ではない。
それにチャットの移動速度ならあの炎に捕まることはないだろう。仲間の心配のしすぎで隙を作ってオレがやられたら、結局あの二人も同じ運命を辿ることになる。今は二人を信じて戦うしかないのだ。
そう自分に言いかせて、そのまま止まることなくゲオルギウスに接近する。
「いいですね。先程よりも甘さが消えましたか」
「その程度じゃ、あの二人はやられないってだけだよ」
互いに減らず口を叩き合いながら接近して、ほぼ同時に攻撃を放つ。
オレは触手を双剣に変えての打ち込み。ゲオルギウスは装甲で覆われた左半身での突撃。
弱点の右半身は影になっているので攻撃が届かない。それどころかこのままではスキルを無効化されて圧死する。
互いに接近したせいか左右に避けている暇はないし、後退するのはもっと無理。止まった時点でタイムアップ、ゲオルギウスの巨体に押し潰されるのがオチだ。
残る方法は上か下か。オレが選択したのは当然、
「これで隙だらけだ!」
「それはこちらのセリフですよ!」
上空に跳躍だった。これで隠れていた弱点も視界に移り射程範囲だ。
下にへばり付いて回避しようにも、足で踏みつぶされる可能性が高い。ただ空中に浮いてしまうと身動きが取れなくなるのはわかっていたので。
「チャット!」
「わかってるわ! マジックシールド・キューブ!」
身動きできないオレに迫るゲオルギウスの爪の一撃。それを跳躍先に出現した立方体状のマジックシールドを足場にして再度跳躍することで躱す。
二度の跳躍で完全にゲオルギウスを飛び越えた。見えるのは装甲に覆われていない右半身。
「そこだ!」
すぐさま双剣でその体を斬り裂く。突き刺すと抜けなくなった時に窮地に陥りかねないのでこれでいい。闇は込めているし、与えるダメージは少なくないはずだ。
「まだだ!」
「遅い!」
更に追撃をしようとするが、ゲオルギウスの瞳がまたしても光る。この発火能力、使用回数や溜めの時間がほとんどないし、連発も可能と厄介この上ない。
すぐさまその場から離れる。ただし、後方ではなく前方に。
「甘い!」
ゲオルギウスはオレのその行動も予想していたのか素早く爪を振りかぶる。不意を突こうとしたが失敗したらしい。だが問題はない。
「甘いのはそっちだよ!」
飛来した矢がゲオルギウスの地面に付いている右足の関節を正確に射抜く。その矢はある理由で刺さることもダメージを与えることもなかったが、衝撃でバランスを崩すことには成功していた。わかりやすく言えば膝カックンの要領だ。
バランスが崩れたことによって僅かに遅れた爪による攻撃。それで十分だった。
「くらいやがれ!」
剥き出しの右足に対して全力の大剣で斬りこむ。体の大きさに比例して足もデカいので斬り飛ばすまではいかなかったが、半分ほどが切断して足を上げればプラプラと宙で揺れるようにすることに成功した。
足の一本を失ったに等しいし、これで機動力はなくなるはず。踏ん張り辛くなったからその他の攻撃にも影響があるだろう。
「まったく、厄介な連携ですよ」
「ミラ達を狙うにしてもオレを倒さない事には無理だぞ」
生半可な遠距離攻撃ではチャットを捕えることなどできない。それは当然、一緒に行動しているミラも同じである。
接近しようと隙を見せればオレがそこを突くのはこいつもわかっているだろうし、ゲオルギウスの選択肢は最初にオレを倒すこと以外にないのだ。
「一旦離れて頂きましょうか」
ゲオルギウスの三つ首すべての瞳に輝きが灯ると、オレと相手の間にある地面のすべてが赤く発光する。
これには近づくことはできないので下がるしかなかった。火炎の傍にいると移動できる方向が限られてくる。そこを狙い撃ちされるのは不味かった。
「ミラ、チャット。ナイスアシストだ」
宙に浮いたチャットとそれの手を掴んで同じ状態のミラは一旦オレの傍にやって来た。もちろん固まると狙い撃ちにされるので多少の距離は取ってはいたが。
「でもやっぱりこれだと、まったくダメージは与えられないみたいです」
矢を失ったミラが放った矢は落ちていたものを拾ったわけではない。チャットが魔法で作り出したものなのだ。
「マジックシールド・シェイプアロー!」
器用に半透明な障壁を矢の形に変えていくチャット。流石に簡単な形の物を作るよりも時間が掛かるが、だとしてもお釣りがくるものを生み出している。
惜しむらくはその矢にはほとんど攻撃力がないことだろうか。障壁で作った矢は先を尖らせても突き刺さることは決してないし、壁状にしてそのまま相手にぶつけて押し潰そうとしても、その対象を守るかのように柔らかくなってしまい攻撃能力は皆無。
衝撃を与えられるなら、威力を強めれば多少のダメージもあるかと思えばそれもなし。どんなに強力な衝撃でも、それで相手を傷つけることはなかった。
一体、どういう性質なのかと少々文句をつけたくもなったが、魔法なんて神秘はそんなものなのだろう。不満を言ったところでどうにもできないし、そういうものと納得するしかなかった。
ただ、それは障壁として実体があるのも事実なのでそれなりの速度で当てれば衝撃だけはそこそこなものになる。まあ、これを使うなら相手を殺さない為とかじゃない限り普通の矢を使った方いいことは否定できない。次弾の装填にも時間がかかるし使いどころが難しい代物だろう。
だが、こうして弾切れの時などには大変使えるのもまた事実。
この街に来てから何度も依頼を受けてモンスターと戦っておいて本当に良かった。その過程で攻撃能力がないチャットにどうにか自衛の手段を持たせようと試行錯誤した中で生み出されたものだし、これが無かったら今のミラの援護はなかっただろうから、人生何がどう転ぶかわからないものである。
「出来たわ」
出来上がった矢をミラに渡すところをゲオルギウスはしっかりと見ていた。
「なるほど、障壁の形を矢に変えたのですか。弾切れだと思っていた相手からの攻撃に意表を突かれてしまいましたよ。ですが、わかってしまえばどうということはない」
斬り裂いたはずの足の怪我は煙を立てて再生し始めていた。オレが離れた後、攻撃せずにじっとしていたのは回復に専念する為だったのか。
やはり長期戦は不利だ。どうにかして一撃で相手を屠る以外に方法はない。そして、それが出来るとすれば「黒閃」以外にないだろう。
相手の傷が治る前にやるしかない。動き回れるようになったら溜める時間を与えてはくれないだろうし警戒されるであろうことから、次も同じように動きを封じられるとは思えなかった。
やるなら今しかない。
「少しでいい。時間を稼げるか?」
この問いかけに二人は、
「もちろんです」
「任せといて!」
一瞬の迷いもなく頷いてくれた。
だったら後は信じるだけだ。
オレは残った魔力をすべて練りこみ、溜め始める。
「させませんよ!」
ゲオルギウスはそれを見逃すわけがなくその瞳が輝く、その前に、
「マジックシールド・キャッスルウォール!」
闘技場をこちらとゲオルギウス側に二分するようにして展開された障壁がその攻撃を防ぎ切った。
「この障壁が展開している間はどちら側からでも、そしてどんな攻撃も通さないわよ」
その言葉の通りに障壁ギリギリのところで炎が立ち上っているが、そこから舞い上がる火の粉すらその線を超えることは出来ないでいた。
見たところを発火する能力すら遮断する障壁。攻撃以外の魔法の腕は本当に凄い。一流と言っても差し支えないだろう。
「ならば、直接壊すまでですよ!」
まだ繋がりきっていない足を無理矢理動かしゲオルギウスは障壁へ向かって突進してきた。いくら強力な魔法でもあいつの無効化能力の前には消されるしかない。
こちらからの攻撃も通らないとなると見ているしかない訳で、あっという間に障壁の間近まできたゲオルギウスは止まることなく装甲で覆われた爪を振り降ろす。
その攻撃が当たる瞬間チャットは、
「キャンセル! からのロック!」
自ら障壁を解いてその障壁の残滓を使って怪我している足を拘束しにかかる。そして、そのまま流れるような動作ですぐさま次の魔法を発動した。
「マジックブースト!」
その力が掛けられたのはオレではなくミラだ。効果は対象にした相手の魔力の増大と使用する魔法の強化。
既に残り少ない魔力を絞り切り完成していたミラの奥の手はこれで強化される。
そして、障壁がなくなった時点で手の出せない状況は失われていた。
「風精霊の矢!」
放たれた矢には相手を傷つける攻撃力はない。けれど衝撃は与えられる。
拘束のせいで動きが鈍ったところで矢はその胸の位置に着弾した。そして踏ん張ろうとするゲオルギウスの体を嘲笑うかのよう易々と吹き飛ばす。巨体が宙に舞い、その背中から地面に叩き付けられる。
これで相手が傷ついていないのは百も承知。でもこれで時間は稼げた。
二人はそれを察知してオレの前から飛びのく。ゲオルギウスの気付いて逃げようとするがもう遅い。
「これはおまけよ。マジックブースト!」
ダメ押しとばかりに掛けられた魔法で強化されたそれをオレは容赦なく放つ。
「黒閃!」
放たれた黒い閃光は力の奔流となってゲオルギウスに断末魔の声を上げることも許さずにその体を飲み込んでいった。
これだけ長い間戦っておいてどこが短期決戦だよ、と自分で思ってしましました。(笑)
……笑えない。




