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金木犀を知らない私達  作者: 砂山 海


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その5

 三年生になると、みんな背も伸び切り大人びた顔立ちになっていた。一年生と見比べればその差は一目瞭然で、逆にあんなに幼い感じだったのかとすら思えてしまう。

 普段から会っている心寧や詩織はあまり感じないものの、一年生の時の画像を見返すとハッキリと成長しているのがわかる。あどけなさが無くなり、垢抜けて綺麗になりつつあった。

 特に心寧は顕著で、目鼻立ちはもちろんスタイルも良くなり、何と言うか色っぽささえ感じる時がある。

「あと一年かー、早いもんだね」

 お昼休み、私達はお弁当を食べ終えると詩織がそうこぼした。まだ四月だけど、私も同じ事を考えてしまう。そして振り返れば、色んな思い出はあるけれど何かを成し遂げたかと言われればそういう思い出はあまりない。

「そうだね。でも三年間同じクラスでいられて良かったよ」

「心寧の言う通りだよ。しっかし、長い長いと思ってた学生生活もあとちょっとかー」

 私は頬杖をつくと、詩織が顔を寄せてきた。

「うん? 和葉は心寧と北大目指すんでしょ?」

「それはそうなんだけどさぁ、難しいよね。諦めてるわけじゃないけどさ」

「でも和葉、一年の時から比べてすごい伸びてるんだから大丈夫だよ」

 心寧の励ましはいつだって嬉しいけど、同時にプレッシャーもかかる。前回の学年順位は五十七位。少しずつ上げてきているとはいえ、まだ合格圏内には程遠い。

「詩織はそういえば、卒業後はどうするの?」

「私は一応、大学に行くよ。まぁ、入れればいいから二人ほど頑張らないでほどほどにやるけどね」

 心寧や詩織以外の友達も、おおむね進路は大学というのが多い。私もそうしたいけど、学力と同じく金銭問題が立ちはだかる。一応そのためにバイト代は貯めているものの、まだまだ足りない。

「そっかー」

 この三人でいられるのも、あと一年。そう考えると寂しさが胸を締め付ける。まだ春になったばかりだと言うのに。

「まぁ、やれるだけやってみるしかないか」

 大きく伸びをしながらそう言うと、目の端で心寧が微笑んでいるのが映った。大人びた、余裕のある微笑み。うなずけば髪の毛が少し流れた。

 どんどん綺麗になっていく心寧に対し、私はどうなのだろうか。最近はそれを強く考えてしまう事が多くなってきている……。


 心寧と同じ北大に行く。そのため私はこれまで以上に勉強に精を出したからか、中間考査、一学期の期末考査では順位を少し伸ばして四十二位まで上がった。けれどまだまだ射程圏内には入れていない。

 だから夏休みは今までと違って単発のバイトを入れず、勉強に専念した。

 このままだとみんな勉強しているから、同じようにやっても伸びないどころか落ちていく。それに運動部の人達も部活が終わり、本格的に受験勉強モードとなる。あの人達は体力と集中力が凄いから、本気を出したらすぐに追い抜かれるだろう。

 遊ぶ時間も削り、睡眠時間も削って私はひたすら机に向かった。エアコンの無い蒸し暑い自分の部屋は扇風機を回しても、窓を開けても辛い日々。

 高校三年にもなって何も成し遂げていないけど、この結果がそれに繋がるかもしれない。

 そうなった時、きっと私は自分に自信が持てるだろう。北大に入れれば、胸張って心寧の隣に立てるかもしれない。

 ぽたりと汗がノートの片隅に落ちる。安くない参考書だって何冊も買ったし、問題集も十数冊は繰り返し解いた。とても塾や家庭教師の世話にはなれない以上、こうして自力で頑張るしかない。

 ただひたすら、目標に向かって。その先に求めている光があると信じて。

 そうして夏休みが明け、二学期の中間考査では十七位に入る事が出来た。張り出された掲示板を見て私は自分でもちょっと信じられず呆然と立っていると、心寧が抱き着いてくる。その衝撃とふわり漂う彼女の匂いに私は我に返った。

「すごい、メッチャ凄いよ和葉」

 まるで自分の事のように心寧は私の手をつかみ、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。普段は満足しない私も、この時ばかりは胸にむず痒い熱さを感じながら自然と笑っていた。

「いやぁ、頑張った甲斐があったよ。バイトが無い日は十時間以上勉強していたからさ」

「えー、すごい。ねぇ、このまま行けば一緒に受かるんじゃないかな? 私、和葉と一緒に進学したいんだ。って、まださすがに気が早いか」

 自分で言っておいて恥ずかしそうに笑う心寧に、私は救われた。そうだよ、私は心寧ともっと一緒にいたいから、大学生になりたいんだよ。だからそう思って笑ってくれるだけで、努力が報われるんだ。

 けれど私はその一方で、悲しい不安を抱えていた。

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