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08_3Dお披露目スクショタイム

「……えー、はい。 気を取り直して! スクショターイム!!」

「今回はカクシ君に色んなポーズを取ってもらえることになってるよ!」

「需要のあるポーズというのがどんなのかわからなくて……ミコトに考えてもらいました」

「最初はボクとカクシ君でそれぞれポーズの案を出して、アンケートで選んでもらおうとしたんだけどね。 ホントにカクシ君がポーズを思いつかないんだもん」



 タイムアウトを使用した気まずさをごまかすために、最初の挨拶でも行わなかったくらいにテンションを上げて宣言する。


 スクショとはスクリーンショット。

 ファンが保存したりSNSで共有したりするために、喜んでもらえるようなポーズをとって行う写真撮影のようなものをこれから行う。



 最初に指示された、イスに座り足を組むとかは簡単だった。

 他には3Dデータの本を持ってみたり、唐笠や扇子などの小道具も使って撮影をした。 少し気恥ずかしさも有ったがその程度は問題ない。


 だが要求は次第に過激になっていき、手でハートマークをしてみたり、投げキッスをしてみたり。 ……普段まったくやらないことを沢山行って行く毎にドンドン精神的疲労がたまっていく……。



「もう無理……! 恥ずかしい……!」



 ついに限界を迎え、イスの手すりに寄りかかって崩れてしまった。

 せっかくモデルに追加したんだから、と言われて断れなかったけど、ハートマークとか投げキッスは絶対俺のキャラじゃないって!



>コメント:三十代男性の羞恥プレイ

>コメント:大丈夫! 可愛いよ!

>コメント:全部やってくれるの嬉しい

>コメント:指にトラッキング機能がないのに、指ハートを頑張ってる姿はお笑いだったぜ



「いやー、まさか全部やってくれるなんてね。 何件か断られると思ってたよ」

「……みんなは態々時間作って見に来てくれてるんですから、流石にそんなことできませんよ」

「うんうん。 どんなものでも、頑張ってる姿はカッコいいよ。 全然恥ずかしくなんてないんだから」



 えらいえらい。 とミコトが軽く背伸びして頭を撫でてくる。 労われているのはいいが、かなり気恥ずかしい。 同い年に頭を撫でられる経験はそうそうないだろう。

 そんな様子を見て書きこまれていくコメントに、ミコトが反応した。



>コメント:いいなー、羨ましい

>コメント:あれ? カクシさんめちゃ身長高くない?

>コメント:ミコちゃんって女性Vと並んだら背が高い方だよね



「あ、気付いた? ボクは身長一六八cm。男の子の中だと若干低いくらいだね」

「私は一八六cmですね」

「カクシ君、自販機ぐらいの大きさなんだよー。 まぁ実際には土台があるから、自販機の方がもう少し高いんだけど」

「あんまり背が高くて良かったと思ったことないですけどね。 背が違いすぎると相手の声とか聞きづらくなるし」

「家具も合うのが中々ないって言ってたよね」

「布団は足が出るし、イスは足が余るし、机もキッチンも低いし、靴も服もサイズが無かったりするし……」

「ボクはほぼ平均だからそれで悩んだことないなぁ」



>コメント:身長への文句いっぱい出てくるじゃん

>コメント:愚痴言ってるカクシさん始めて見た

>コメント:なんか生活大変そう

>コメント:高身長の悩みって大変そうね



「最近は電動昇降デスクとかもあって、結構マシになりましたけどね。 ……ってそうじゃなかった、スクショタイムの続きでしたね」

「そうだね、恥ずかしさも収まっただろうし。 今度は二人で出来るポーズ。 そうだなぁ……お姫様抱っこ、やってみよっか」

「……他に何かなかったんですか?」



 何か二人で出来るポーズと言われて、代案が思いつかない俺が言うのも良くないが、流石にそれは燃えたりしないだろうか。



「他に壁ドンと顎クイがあるけどどっちがいい?」

「お姫様抱っこにしましょう。 学生の時割とやってますし」



>コメント:やったの!?

>コメント:詳しく!!



「詳しくと言っても、そんな珍しいものじゃないよ? 男子は割と重量挙げのノリで抱えるからね」

「力がある人は腕に人をぶら下げたりとか、そういう遊びが割とあるんですよ……っと」



 話しながら片手でミコトの肩を抱き、もう片方の腕で足を支えて抱きかかえる。 コントローラーを持ったまま行うので少々やりづらいが、ミコトくらいの体重なら全く問題はない。



>コメント:男同士のノリってよくわかんないわ

>コメント:うわー、軽々持てるんだ

>コメント:ミコちゃんが軽いのか、カクシさんの力が強いのか



「ちなみにボクの体重はー、ひ・み……」

「五十六、いや五十五kgくらいか?」

「なんでいうのー!?」



>コメント:合ってるんだ

>コメント:以外と重……いや軽いのかな?

>質感上がるので情報助かる

>コメント:Wikiに追記しておこう



 コメントでミコトが軽いのか、というのをみて何となく持っている重さを口に出してしまった。 ウッカリ体重を漏らしてしまったことを悔やむ。



「いやまぁ体重くらい別にいいけどね、BMIは標準の範囲って元々言ってたから、ある程度予想が付く範囲でしょう」

「ごめん……」

「よしよし、そんなに気にしないの。 本気で怒ってるわけじゃないから」



 この位置だと頭撫でやすいね、なんて言いながら俺の頭を撫でるミコト。



「……あ、でも気にするならちょっと恥ずかしい思いをしてもらおうかな」



 友達にリスナーの前で頭を撫でられる30代男性。 そんな恥ずかしい思いをすでにして居るのだがまだ続きがあるらしい。

 そういうと、ミコトは手元のコントローラーを操作してカメラの映像を切り替えた。



「よし、これでボクの視界がリスナーと共有されたね。 ……どう? リスナーの皆。 これが御姫様抱っこをされる側の景色だよ。 結構顔が近くてドキドキしちゃうよね」



>コメント:ガチ恋距離じゃん

>コメント:顔近!

>コメント:変わって!!!



「あはは、変わってだってー。 流石にそれはちょっと難しいけど……これでどうかな?」



 ミコトがそういって再度コントローラーを操作すると、カメラはミコトを抱きかかえている姿を少し離れたところから移すものへと変わった。

 そして、ミコトの姿は蛍光グリーン一色の明るいものになった。



「これでボクを切り抜いて、自分とか好きなキャラを当てはめれるよ。 試してみてね?」

「それはいいんですが、まぶしくて目に痛い……」



 グリーンバック透過用の色ってなんでこんなに明るいんだろう。

 ミコトの方を見れば陰影すらもわからない、シルエットだけの明るい姿で視界のすべてがほぼその一色で埋まってしまう。



「ふふふ、ボクがキラキラ輝いてるのなんていつものことでしょ?」

「物理的な輝きは始めてですよ! それに、表情が見える普段の方が輝いてるでしょう」



 そういって返せばミコトは一瞬停止した後、モデルをグリーンバック状態から通常の姿に戻して、言うじゃん。 と楽しそうに笑った。



>コメント:は???

>コメント:イチャつかないで!!



「イチャつかないで、ですか。 ……確かに私のリスナーは大丈夫だろうけど、こんな風に距離が近いとミコトのリスナーはあんま良い思いしないかもしれませんね」



 指定されたポーズとはいえ、流石に配慮があまり足りてなかっただろう。 俺はそのまましゃがみ込むと、ミコトを床に降ろした。



>コメント:は?カミカクにもガチ恋勢はいるんだが?(脳破壊

>コメント:扱いがお姫様じゃん

>コメント:丁寧すぎる

>コメント:ミコ推し勢、絶賛脳が破壊されてます

>コメント:最初にモデルを作ったママなら、まぁしゃあないかって思ってるけど複雑



「えーっと……うん! 色んなポーズも撮り終えましたし、この辺りでスクショタイムは終わりにしますね!」



 コメントには様々な意見が流れていく。

 ガチ恋勢や脳が破壊された人たちは、距離が近かったことについてあまり面白くない感情を持っているのだろう。


 だが扱いがお姫様とかのコメントはそういう扱いをしたのを喜んでいるのか、ダメだったのか、どう思っているのかわからない。

 俺はどう行動するのが正解だったのだろう。


 そんな俺の悩みを見たのか、ミコトが後を引き継いで挨拶を行っていく。



「はーい! 今日は皆きてくれてありがとね! 時間的にもちょうどいいし、そろそろお開きにしようかな? 他に見たかったポーズとかあったら、次回に検討させてもらうから、スクショと一緒に呟いてくれると嬉しいなー!」



>コメント:りょ!

>コメント:配信の感想タグ無いんだけど



「あちゃー、カクシ君。 お披露目の時くらい感想タグを設定しておかなきゃ。 ……うーん、それじゃ、カミカク3Dで呟いてくれるかな?」



>コメント:はーい

>コメント:わかりました!!

>コメント:ちょっと過激なのとか書いときます!



「常識の範囲で、節度は守るんだよ?」

「……私も、流石に度が過ぎたのは実行できませんからね?」



 流石にゲストであるミコトに全ての進行を任せるわけにもいかず、考えるのを辞めて終わりの挨拶に戻る。



「今日は始めましてのリスナーさんが多く来てくださって、ありがとうございます」



>コメント:普段の同接の50倍ぐらいいるよ。

>コメント:にぎやかなのはいいことだけど、ちょっと寂しいかも

>コメント:全員のコメント読めなくなっちゃってるしね



 コメントを見れば、やはり古参のファンは大きく変化した状況に戸惑いが大きいようだ。



「すいません、突然の変化でこれまでずっと応援してくれた皆さんには戸惑ってると思います。 配信や動画の頻度も少し変わってしまうかもしれません」



>コメント:でもこれからも応援してます!

>コメント:後方古参面しながらみてるよ

>コメント:一番古参面してるのが、これまでの全部ぶっ壊して隣に立ってるんだけどな



「ボクもみんなの居場所を突然変えちゃったのは悪かったと思ってる。本当にごめんね。それでも、一緒にデビューした友達と一緒に配信したかったんだ」



>コメント:正直複雑だけど、推しに良い生活してもらいたいから、伸びて嬉しい気持ちもあるからOK

>コメント:個人的には段階的に少しずつ伸びていくのを一緒に楽しみたかったな

>コメント:仕事しながら動画とか、体壊さないか心配だったしいいよ!

>コメント:俺達しかしらなかったお気に入りの店がテレビで紹介された気分



 メンバーや昔から来ている人の物だけを注視して眺めれば、コメントは肯定的な物と否定的な物が半々と言ったところだろうか。そして、否定的な矛先は主にミコトの方に向いている。


 確かにこのチャンネルの環境を大きく変えたのはミコトだ。

 俺自身、一瞬で増えてしまった登録者の数に自分の八年間に意味があったのか悩んだ。

 まだ全てを飲み込めているわけでは無いが、それでもミコトに非は全くない。



「あの動画は撮影にも協力しています。 一緒に配信をすることに了承したのも、動画の投稿に許可を出したのも私です。 ……だからこそ、新しく来た人も、昔から見てくれてる人も、両方楽しんでもらえるように頑張りたいと思っています。 ……だから、これからも応援してくれると嬉しいです」



 言いたいことは全て伝えた。


 今後のことはもう、あるがままに受け入れるしかない。

 例え雰囲気が変わることで去っていくファンが出たとしても……。



「それじゃ、皆さん。また会いましょう!」

「チャンネル登録、高評価もよろしくね!」

「おやすみなさい」



 俺はそういいながらリスナーに手を振って、コントローラーを操作して配信を終了する。

 コメントには「お疲れ様でした」が一気に流れていく。





 しばらくすると後に残ったのは、コメントが静止した静かな空間だけ。

 コメントに音なんてものはないが、流れが止まると何故か本当に静かになったように錯覚してしまう。


 俺はHMDも外さずに、ポーズをとるときに使ったイスに深く座ってため息を吐いた。



「……わかってたことだけど。 やっぱり、結構批判は多かったな。 ミコトと一緒に配信してることも、ミコトの動画で一気に伸びたことも」



 他人の目なんて関係ない。 そう笑い飛ばせるほど俺は強くない。


 強そうに見える体の大きさはただの生まれつきだし、筋肉があるのも仕事の休憩時間に軽い運動をしてたらついた程度だ。

 他人が喧嘩してるところだって、文字で争っているところだって俺は見たくない。 嫌なことばかり思い出してしまうから。



 そうやって深く落ち込んでいる俺の肩を、隣に立ったミコトが叩く。



「カクシ君。 人の心はコントロールできないよ? ある程度は他人の声を気にしない心を持たないとね。 何やっても燃える時は燃えるんだから」



 それは……、確かにそうだろう。 ミコトはデビューしてから、わけの分からないことで燃えてることが何度も有った。

 それに、学校でも社会でも、人と関われば本当にいろんな考えの人がいて、それらを完全にコントロールすることなど不可能だとわかる。



「……だけど。 お前に酷いことを言ってたのは俺のリスナーなんだよ。 ……俺は、前から配信に遊びに来てくれてた人が、友達を悪く言う所は見たくなかったな……」



 批判も、荒れた空気も、強い言葉も苦手だ。

 言われるのも言うのも嫌で……、そんな言葉を友人が掛けられていたり、リスナーが友人に言っているのを見たことのショックが大きかった。


 だが俺の言葉を聞いて、一番強い口調で非難されていたのにミコトはなんでもないことかのように笑う。



「確かに言葉は強かったけど、突然の変化に不満を持つ人が出るなら当然だよ。 ……それにほら、一番新しいコメントを見てごらん」



 ミコトの言葉に、未だに装着したままだったHMDの画面上に写る最後のコメントに視線を送ると、そこにはお疲れさまではない別の文字。



>コメント:言いすぎてしまってすみませんでした



 その最後の文字のアカウント名は、ミコトに強い言葉を送り続けていたリスナーのもの。

 配信は配信ソフトを停止させれば停止する。 しかし、ブラウザ上でYoutubeの配信終了を押さない限り、配信枠は生きており、コメントも打ち込める。

 配信を終えた疲れから、まだブラウザ上で終了ボタンを押していなかったため書き込めたようだ。



「大丈夫、キミのリスナーはマナーがいい子ばかりだよ。 ただ今日は感情の整理に時間がかかっただけでね。 だから、キミもリスナーを許してあげてね」

「……あぁ、わかった」



 まだ思う所は少しあるが、言われていた当人がそういうのであれば、俺からはもう何も言うことは出来ない。

 少しだけ気が楽になった心で、ミコトに礼を言う。



「……ありがとう」

「どういたしまして」



 HMDを取り外して現実に戻ると、俺は配信ボタンを停止した。

 ミコトはそんな俺に背後から声をかける。



「ボクがした初めての記念配信は、誕生日にただ初配信や自己紹介を見ながらケーキを食べるものだったけど……。 これまでの人生で経験したことがないくらい多くの人に祝われて、あの時からずっと、君と一緒に祝われる場に立ちたいと思ってた。周年配信と、3Dお披露目でその夢が叶っちゃったな」



 まぁ、ボクのやり方がまずかったから、ちょっとだけお祝いムードは少なめだったかもしれないけどね。と苦笑する。



「……じゃあ、満足したか?」



 ミコトが動画の中で言った、配信で遊びたいという言葉。

 それには回数の指定はなく、満足したのならコラボ配信はここで終わっても十分だろう。

 ハッキリ言って、俺と関わってもミコトのチャンネルにはプラスになる面は殆どない、むしろ俺に時間を割くことでチャンネルの成長は鈍化する。



「満足? 何を言ってるのさ」



 俺の言葉に、何を言っているのかわからない。という表情をするミコト。



「夢は叶えて終わりじゃない、次の夢へのスタートラインだよ。 君と一緒に祝われることが叶ったなら、次はキミと配信で遊ぶことを当たり前にしなきゃ」



 俺とミコトが配信することに、ミコト側のメリットはない。

 だがそれでも、ミコトにとっては俺と配信することを辞めるつもりはないようで。



「それが終わればまた次に叶えたいことを見つける。 そうして自分を楽しませて、それを見てくれたファンが喜べば、また自分も楽しくなれる。 それが一番いいことでしょ? ……だからとりあえず次は、キミの魅力を生かせるコラボ配信の企画を考えないとね」



 今日までの準備も苦労も、今日起きた失敗もなんでもないことかのように笑って、また次へ続く道を見据える。

 初めて会った時と変わらない。……いや、そのときよりも楽しそうに、その時よりも強く輝くその姿。



「……本当にミコトは、俺が会った全ての人の中で一番かっこいいよ」



 始めてあったあの時、自分の好きを全力で楽しむ姿にあこがれた。

 だが今では彼はもっと成長して、自分の好きを楽しみ、それで周りを楽しませている。



 だが対して自分はどうだろうか。

 ただの足手まといになってるのではないか。



 ミコトが一緒に配信をしたいと言ってくれているのはうれしい。

 だけど、足手まといにはなりたくない。



 なら出来ることは、またこれまで通りコンテンツを生み出していくこと。

 少しずつでも積み上げて、以前より少しマシな自分になる。


 そうしていけばきっと、今よりはミコトの足手まといにはならないだろうから。


 そう決意する俺に、どうしたの? なんて聞いてくる尊敬する人。



「おかげで新しい動画を作りたくなったよ。今日はありがとう」



 そう伝えて、玄関まで見送りに来た彼にお休みと挨拶すると俺は帰路についた。

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― 新着の感想 ―
カクシさん、やっぱりミコトさんのこと大好きだな? 普段の方が輝いてるだなんて、普通は素面でサラッと出るセリフじゃないですよ。 これがガチ恋勢を生む振る舞いか。そういうとこやぞ。 それにしてもミコトさ…
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