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09_日本神話ゲームを一緒にやってみる

 リスナーには自分のことを話した方がいいと言う。

 だが俺には他人に話せる思い出は殆どない。



 どうしたって周りが気を使ってしまうから、中学生になってからは自分のことは話さず、ただ自分の好きなことを話題にしたり、相手の話を聞くことに徹した。



 大学でもそれは変わらなかったが、ある時ミコトが自分の家族について話し始めた。


 可愛いものが好きなのを認めてくれる両親や兄。

 ドールハウスのオモチャを一緒に選んだ妹。

 遠くに住んでいるけど定期的に合う祖父母。



 キミの家族は? と言われたとき、何を言っていいかわからず黙っていたが、教えて教えてとミコトにせがまれ、両親は十七のときに亡くなり、その遺産を大学の学費にしていると伝えた。



 しばらく固まった後に、ごめんと謝られてしまった。



 俺は別に親が死んだことは気にしていないのだけど。

 やはり答える話題を間違えたのかもしれない。



 VTuberになる前にもっとたくさんの人に話して、どこまで言っていいのか学んでおけばよかった。

 そんなことを思ってももうどうにもならない。



 ちょっとした後悔の想い出。




***




 日時は3Dお披露目から数日が経った、五月十四日の木曜日の午前七時五十分。

 メッセージの送り主はミコトであり、どうも朝の配信中に送信したようだ。



『お仕事行ってらっしゃい! 予定通り、夜の七時半にボクの家に来てね!』



 お披露目が終わった翌日に、ミコトからは次のコラボの誘いが届いた。

 企画は日本神話を舞台にしたゲームをミコトがプレイし、その隣でシナリオの元ネタを解説するという役割のコラボ配信らしい。


 ゲーム配信は俺もいくつかやったことはあるが、単純にゲームが下手でリアクションも面白いものも取れなかったため、同接は三から四人程度だった。

 だがそんな俺でも、隣で元ネタを解説するというのであれば役割は持てる。

 俺は即日、了承の返事を返していた。



 届いたメッセージを読んで、もう当日になったのか、と呟く。



 机の隣には動画の資料となる書籍が平積みされ、すぐそばにある蓋つきのごみ箱にはスーパーで買った弁当の箱や紙コップが詰まっている。



 3D配信の後、足手まといにならないようにと決意を新たに進みだした。


 配信の雰囲気が変わってしまったことを嘆くリスナーに、変わらない部分も有ると証明し、楽しんでもらうためにも、以前のような動画を作って投稿した。


 ショート動画は以前のように一から書籍紹介を作るのではなく、配信の切り抜きを週三本投稿する形にした。 普段の配信に加えてコラボ配信が追加されたため、時間を捻出できなくなったからだ。

 元々、ショート動画は視聴回数こそ多いもののあまり登録にはつながらなかった。 ショートを見て、ちゃんとした長尺動画を見て、そこでようやく登録に繋がるという形式だったため規模の縮小はいい機会だろう。



 仕事をして帰宅して、原稿を作り、絵を描いて、動画を作り、時に配信をして……忙しさに曜日間隔も失われていく。


 才能の有無にかかわらず時間だけは全員に平等で、有限のリソースだ。



 その時間を捻出しようとすれば当然、実生活の方にしわ寄せが行く。

 洗い物の時間を減らすために、飲み物は紙コップに。

 調理の時間を減らすために、食事は仕事帰りに買った弁当に。



 VTuberという、リスナーにキラキラと楽しい部分だけを見せて楽しませる活動なのに、本気で行動すれば全くキラキラせず、生活が崩れていくのは何故なんだろう。



 俺はそんな考えを自嘲して笑うと、軽く伸びをして職場へと向かった。




***




 仕事を終え、軽くシャワーを浴びてからミコトの家へ向かうと、配信内容を再確認して配信を開始する。


 この配信形式なら画面共有と通話でも問題ないのだが、今回は実際に同じ部屋で行うオフコラボの形式だ。

 VR機器は使用せず、3Dの体をフェイストラッキングで読み込んで配信に使用している。



 軽快な音楽と共に流れる配信待機用のOPが流れ終えると、配信ソフトでゲーム画面を映すシーンに切り替えて挨拶を開始する。



「やっほー! 睦実ミコトだよー! みんないらっしゃい! 今日は何年か前に発売されたゲーム、ヤマトタケルをプレイしていくよ!」

「こんばんは、本や物語を紹介するVTuber、紙カクシです。 普段は本や物語を紹介する活動をしています。 今回は解説役として呼ばれました」



 今回配信画面はゲーム画面を大きく表示し、両サイドに俺とミコトのグラフィックを配置する配信レイアウトになっている。

 コメント欄も画面には表示していない。



「このゲーム、裏で操作方法の確認だけは行ったけど、ネタバレも踏んでないし完全に初見! ……なので、今回ボクはコメントを見ないのでよろしく!」



>コメント:え!?

>コメント:寂しい……

>コメント:なら動画じゃダメだったのか



 コメントの方でも困惑や寂しい、という声が多い。 予めミコトから意図は聞いてはいたのだが、リスナーにも周知するため、あえてミコトに問いかける。



「コメントの方でも結構寂しいって声が多いですが、いいんですか?」

「だってゲーム配信ってさー、"あ!"とか"そこは!"とか、"今の覚えておいてね"とか、うんざりするのがいーっぱい来るんだもん。 ストーリーのあるゲームなんて、発売日最速プレイとか以外はコメント見ながらやってらんないよ!」



 ミコトは昔からゲームが好きだ。

 俺がゲームに触れることになったのも学生の時にミコトから貰ったゲームがきっかけだし、それだけにネタバレコメントが嫌いなのだろう。



「ゲーム配信ってボクを知らないけどそのゲームが好き、って人が結構見に来るんだけど、流石にそういう初見の人にマナーを徹底するなんて無理だからね。 だからもうストーリー系のゲームではコメントを見ない! 聞かない!」

「そういうことならわかりました。 私もこのゲームは初見ですが……まぁ私がネタバレを喰らうのは仕方ないですね。 問題が無さそうなコメントをたまに拾ってミコトに伝えましょう」

「助かるよー。 ネタバレ除けのためとはいえ、反応見れないのは寂しいからね」



>コメント:そういうことなら仕方ないですね

>コメント:ネタバレは悪!!

>コメント:ネタバレする人はホントにいっぱいいるからなぁ……こっちは初見の反応を見たいのに



 コメントの反応としては、概ね良好だろうか。

 というより、大多数の人はネタバレや指示などは行わない。 ただそれでも数件いるだけで面白さを損なうのがネタバレである以上、本当に嫌ならこうするほかないというのも理解できる。



「よし! それじゃ早速やっていこうか! ゲームスタート!」



 その言葉と共に、タイトルからゲーム画面に切り替わる。

 世界観設定などよりも先に、実際にマップを歩き回って操作方法を自然に教えるところから始まるようだ。

 ミコトの操作する、古墳時代風の衣装を着た主人公が周囲を走り回り、手にした剣で草を刈ったり、食べ物を集めている。



 そうこうしているうちに、主人公オウスノミコトは父親に呼び出され、熊襲にいる兄弟を討ち果たせ、と命じられた。 この討伐対象が最初のボスなのだろう。

 フルボイスではないため、ミコトがセリフを読み上げる。



「『酷いです父上……私は父上の言うとおりにしただけなのに、家を出ていかせるつもりに違いありません……』……これさぁ、カクシ君のヤマトタケル紙芝居でも、乱暴ものだったオウスはクマソタケルの討伐を任されました、ってなってたよね。 何をやったの?」

「あー…………私の紙芝居動画、配信とは違ってメイン視聴者が子供とそれを見守る親なんですよね。 なのでちょっとお茶を濁してるというか……」



 一瞬ネタバレにならないか、と頭をよぎったが、この一件に関しては過去話。 とくに明かしても問題ないだろうと思い直して話すことにする。



「古事記と日本書記で多少差異はあるのですが、お父さんがオウス君に、お兄ちゃんが一緒にご飯を食べないから言って聞かせて。 って言うんですよ」

「あー、反抗期だ。 そんなときあったなぁー」

「……そして、そう言われたオグナ君はトイレでお兄ちゃんを待ち伏せると、両手両足を素手でちぎってバラバラにして捨てたたんです」

「は?」



>コメント:ヒェッ

>コメント:なにそれ

>コメント:素手!?



「わからせてきてっていわれたので、わからせました! ……とオウスはいうものだから、多分お父さんは怖くなったんでしょうね。 南の方、今でいう熊本や鹿児島の当たりにいる悪漢討伐に派遣することにした。 死んでも構わないし、任務を果たせたらそれでよし。 ……そんな流れです」

「えぇ……そんな話だったんだ。 お兄ちゃんを殺すの躊躇わないとか、ちょっとサイコ気味なのかな」

「古代の英雄譚はそういう部分が多いですね。 暴力が強くないと、英雄にはなれませんから」



 現代から見たら恐怖するような人格は、大昔の物語ではよくある事だ。

 日本に限らず世界各国、時代が古くなればなるほど誘拐や略奪、暴力に躊躇いが無くなる。



「うーん……確かにオウス君。このゲームだと拳で生木をへし折ってるもんね」

「そのくらい強いということ…………。 いや、せめてその辺の石で石器とか作りませんか?」

「あ、蹴りで岩も砕けた」

「このくらい強くないと英雄にはなれないんですねー」



 感嘆というべきか、呆れというべきか……。

 実際、ヤマトタケルは蒜、つまり野生のネギで鹿の神を討伐し、素手で人体を引きちぎるキャラクターだ。

 このくらいは出来る、のかもしれない。


 ミコトの操作するキャラクターは道中に現れる賊や獣の姿をした神々を、特に苦戦することも無くアッサリと倒して進んでいく。



「神って動物なんだね。 そういえばキミの紙芝居でもイノシシとか鹿だった気がする」

「そうですね。 山や森といった自然に対する信仰は古くからあるのですが、その領域で目に見えて動き、こちらに害をなすのは動物たちですから。 神や神の使いとして畏れの対象になったのでしょうね」

「子供の時山登りででっかいイノシシを見たけど、確かに神様と思うのもわかるかも。 神社とかで祀られてるのは見たことないけど」

「一応あるんですが、確かに狐や狼、猿に比べればマイナーですね。 ……生きて動いていると、不思議なことに恐怖で実体以上に大きく見えます。 ですが居住区が増えて、人の武器が強くなって、脅威度が低くなるうちにどんどんその畏れも減っていった……ということかもしれません。 あくまで私の考えですが」



>コメント:あるんだイノシシの神社

>コメント:半分家畜みたいな扱いになっちゃったのかもね。なじみすぎるとありがたみが無いし



 そんな話をしながらミコトがイノシシの敵を打ち倒していると、何かを思い出したように口を開いた。



「そういえばカクシ君、初期のころはイノシシの皮で羊皮紙とか作ってたよね」

「また古い動画を出してきますね、活動半年くらいまでですよ、それやってたの……」



>コメント:マ?

>コメント:そんなことしてたの?

>コメント:どうやって手に入れたんだ



「皮の入手方法ですか? お仕事で知り合った猟師さんに狩りの時同行させてもらって、イノシシを担いで運ぶ代わりに捨てる毛皮を貰ったんですよ。 後はそれを加工しました」



 銃や運搬する車によって格段に楽になったとはいえ、仕留めた獲物を荷台に積むまでの労力は今もある。 イノシシを捕らえる罠の位置によっては、軽トラックの荷台に詰むのも大変になってくる。

 俺があった猟師さんは普段は自分で担いで荷台に乗せていたようだが、それを手伝ってくれるならと快く毛皮を譲ってくれた。



「私の名前、紙ですからね。 初期は和紙や巻物、野草からパピルスを作ったり、粘土版に文字を刻んだり、羊皮紙を作ったりしてました」

「あれも結構面白かったと思うんだけどなぁ……。 その方面では伸びなかったの?」



>コメント:聞いてると面白そうなんだけどな

>コメント:興味はあるよ



「面白そう、ですか……。 ただホントにビックリするほど伸びなかったですね。 動画の製作時間も費用も凄く掛かるんですが、数百再生位で……。 たぶん一番時間をかけたのが羊皮紙でしたが、それでその方面での動画は出さなくなっちゃいました」



>コメント:世知辛い

>コメント:時間かけて伸びなかったらそりゃ他の動画にいくよね



「もしキミが今作るなら、もっと面白い動画に出来ると思うよ」

「そうでしょうか」

「うん、多分ね。 作る側と見る側でニーズが違うからさ。 ……紙を作るノウハウとしてだと、全部丁寧に見せた方がいい。 だからあの動画もかなり長めだったんでしょ?」

「ええまぁ……。 なるべく短くしましたが、二十分か、それ以上はありましたね」



 溶液に浸して、毛皮から毛や肉と油を剥いで、乾かして、磨いて……その後木枠を作って固定。 大体二週間くらいか。

 乾燥などは流石に「乾燥!」の一言で済ませているが、その他の部分は溶液の作り方から何まで全て詳細に動画に入れていた。


 だが、ミコトはそれがダメなのだという。



「制作者は頑張った部分を動画に残しておきたいけど、大多数の視聴者は真似したいんじゃなくて、自分の知らない世界を見たいだけ。 だから地味で大変な部分はどんどんカットしてダイジェストに。 後は紙を作って完成じゃなくて、最後に実際に何か書いてみる。 こんな感じにしたら、魅せるポイントもできるし、かなり短く収まらないかな?」



 ……確かに、それなら十分以内に収まるだろう。

 作る過程は三分で収めることだって出来るかもしれない。



「キミなら、羊皮紙に書き写すとカッコいい文面とか色々思いつくでしょ? ペンも古い時代の奴にしてみるとか、それとイノシシと羊皮紙の二分割サムネにしたら注目度もありそうだし……。 あ、実際に製本してみるまで含めればその羊皮紙一つでいくつか動画も作れそうだよね」



 ミコトは敵を倒して進みながら、次々と案を出して笑う。



「……ミコトは本当にすごいですね」



 そんな姿を見て、俺はそう返すのが精いっぱいだった。

 今朝だって出社前ギリギリまで動画を作り、これまで通り日曜の朝には投稿できるように進めていた。

 その動画の内容だって、どの話がいいか。 面白くするにはどこを削って、どこを残すか。 正解を模索して頭を酷使する。


 だけど、ミコトはただの雑談中の思い付きで、俺が昔作ってた動画の改善案をあっさり出してくるのだ。



>コメント:才能の暴力

>コメント:しっかり考えて作った紙カクシより、片手間にゲームしてるミコちゃんの方が面白そうなの出すんだね

>コメント:数字って残酷すぎるな



 コメントの率直な言葉に少しダメージを受けるが、読み上げずに目をそらす。

 ミコトはそんな様子には気付かずに、話を続けた。



「ジャンルは違っても、リスナーに面白い動画を届けるというところはボクも同じだもん。 動画の改善点だって昔は気付けなかったかもだけど、キミだって視聴者の反応をアナリティクスで見てたでしょ? だったらもし、もう一度作ろうってなったときにはこのくらい気付けたんじゃないかな」

「……買い被りですよ」



 確かに需要には気付けたかもしれないが、実際に作れたかどうかは別だ。

 かけた労力や時間は面白さや再生数に寄与しない。 それは俺の持論でもあるが、だからと言って、かけた時間をあっさりと切り捨てられない。

 撮影に二週間かけた内容を、三分で収めるほどの大鉈を振るう勇気が出ない。 どうしても、勿体ないと思ってしまう。



 わかり切っていたことだが、差を目の前で見せつけられている気がして、少し心が痛くなった。

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有限のリソースの使い道は全人類共通の悩み。Vtuberも日々を戦ってらっしゃる。敬礼。 解説役のカクシさん、物語を紹介してきた八年間の経験が活きてますね。 ミコトさんも会話の中でカクシさんの過去動画…
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