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04_ファンには意外に受け入れられた

 あの後、投稿される前に動画は確認のために送られていたが、非常にクオリティの高いものに仕上っていた。

 どのような物でも俺は許可を出すつもりだったが、一流のVTuberが行う編集の素晴らしさを実感する出来栄えだった。



【ドッキリ】最初のパパに沢山恩返ししてみた【コラボ】


 そう題された動画の一番最初は、ミコトといろんな意見を出しながらアバターを作り、一万人を達成したらリア友とバラそうと笑い合う。

 そんなある日の出来事の再現。


 動画の時間経過に合わせて漫画のコマが進んでいくような、漫画形式の紙芝居。

 音声は俺とミコトが収録したものを使用して、動画の視聴者にも、二人にはこんなことがあったのだと伝わるものになっていた。

 この動画の素材は3Dモデルと同じく、ずっと前からプロに依頼していたらしい。


 その後の動画の流れは、俺がどういう活動をしてるかの紹介。

 約束を守ってくれたお友達に、沢山贈り物をしたいこと。

 チャンネル登録者の数字を見せて、早速連れてくる! 連れて来た!

 何ていう、時間経過を飛ばした小ボケを挟む。


 そこからは、一万人のお祝いに俺をVR空間に招待して……。

 テンポの悪くならないように、間を調整して楽しいものに仕上げ、状況に合わせた効果音やバリエーション豊かで愉快なテロップ。


 俺が新しい体を贈られた瞬間は、ドッキリ映像のように軽快な音声が流れた。


 そして、胃が痛いという俺の呟きをオチにした後。

 最後のエンドカードには、ミコトの声で五月五日の周年配信、遊びに来てねという告知事項。


 短くも丁寧に。 そして何度も細かくクスリと笑える部分を仕込んだ動画。

 ドッキリは燃えやすいけれど、他人を傷つけるものでも馬鹿にする者でもなく。 ただ贈られたものの価値が高すぎていっぱいいっぱいになっている俺の姿は、傍から見たら気兼ねなく笑えるものだろう。



 そんなこの動画は四月二十九日、視聴する人が多い祝日の朝に公開された。

 登録者の多いミコトの投稿動画ということもあり、初日で二十五万再生。

 ミコトと仲の良いインフルエンサーたちが次々とおすすめポストをしたこともあり、気付けば七十万再生を記録していた。



 この動画の広告収入は一体いくらになるのだろう。

 事前準備に、俺の体に、VR機器に、序盤パートでの動画素材。

 どれだけ動画が伸びたところで、使用した金額を思えばプラスになることは絶対にないだろう。

 それどころか、登録者が違い過ぎる俺との絡みは、登録者が減る可能性すらある行為だ。



「たまには伸びとか何も気にせず、自分の好きに振舞うのも大事だと思わない?」



 俺の言葉にそう笑って言うミコトに、何も返せなくなる。

 俺は、その考えを持てていただろうか。

 ミコトが楽しめる場所に送り出すためとはいえ、最初は俺も同じように好きなことを周囲に届けようとしていたはずだ。



 自分の好きなテーマから選んで、動画や配信を何度も行った。

 平均の同時接続者が三十人を超えても、別のテーマで行った配信では三人しか来ないことも出てきた。

 そして、それらは需要がないと切り捨てた。

 約束を果たすためには、伸びないものに使っているリソースが無かったから。



 俺は本当に好きなものを追えていたんだろうか。

 VTuber活動を楽しめていたんだろうか。




***




 五月一日の本日。

 五月五日に行う周年配信に向けて、俺はミコトの部屋で打ち合わせをしていた。

 と言っても、殆ど最終確認のようなものだったけれど。


 当然ながら、俺にはこのような大きなイベントの経験はない。

 同じく本が好きなVtuberと小さな雑談コラボは複数あったが、それだけだ。


 だから、周年については事前にミコトが企画していたものにそのまま乗って、周年配信の注目度があるうちの五月九日、土曜日の夜に俺の3Dお披露目もするということになった。


 ミコトが計画していた周年配信は、ゲストを呼んで、ミコトについてのクイズ大会。

 クイズならリスナーも参加してるかのように解くことができるし、ミコトに縁のある人を呼んでにぎやかにすることもできる。


 今回の参加者は俺のほかに、Live2Dを担当したイラストレーター兼Live2Dモデラ―の二次色パパ。

 それに、3Dを担当している平野律ママである。

 全員がミコトの親であり、クイズで争うという異色の配信だ。


 俺が一万人を達成してから、周年である五月五日までは二週間程度しかなかった。

 だというのに、ゲストとして参加してくれるか声をかければ、快くOKしてくれたらしい。



「丁度スケジュールが開いてたらしいんだよね。もし埋まってたら、五月五日は先にキミの3Dお披露目をしていたかも」

「一番最初の配信が3Dお披露目なのは、緊張しすぎるから助かったよ……」



 まだ慣れていないフルトラッキングで、ミコトのリスナーが大量に入ってくる配信。 自分のチャンネルなのにアウェーというその状況を想像してげんなりする。



「……にしても、批判も炎上も少なかったな。 俺のチャンネルならともかく、アイドルみたいに可愛さを全開にしてるミコトのファンは、結構怒る人も多いと思ってたけど」



 俺の炎上は免れないと思っていたのだが、結局、俺の動画を荒らそうとしたアカウントは三つ程度しかなかった。

 コメントの通知を見た瞬間、すぐに『このユーザーをチャンネルに表示しない』を選んだからリスナーとケンカになる前に対処を終えられた。


 それをミコトに話してみると、多分そのくらいだろうなとは思っていたよ、と答えが返ってきた。



「今回の場合、キミがボクの最初の親だということが一番大きい。 動画でもそのことを強調しておいたけど、キミが居なかったらそもそもリスナーはボクと会えてないからね。 しょうがないと思う人が多かったはずだよ」

「なるほど……」



 アイドルが男と会っていた! と話題になったが、実はそれが兄や親だったときのような感じだろうか。

 現実の肉親とは少し違うが……、ファンにとっても、それだけ推しの体を作った人という存在は大きいのだろう。



「それにボクは定期的にユニコーンの角へし折ってるからね、好きな人いるからボクに恋しても報われないぞーって」

「しかし、それで何とかなるのか?」

「うーん、正直微妙かなー。 これに関しては本気にしてないリスナーの方が多そう。 ……勿論最近だと恋愛許容派の人が増えたけどね。 ほら、アイドルや声優の結婚も昔よりは祝福されるでしょ?」

「ああ、確かに……。 俺達が学生の時はめちゃくちゃ燃えてたのにな」



 今じゃあまり考えられないが、殺害予告すらあったほどだ。

 ……いや、今でも少数ながら存在はするのか? 忙しさにかまけて、世間のことに疎くなってきていることを実感する。



「あと、同性同士だと男女問わずユニコーンは静かだね。 本気でそういう関係じゃないと思うのか、他の強い声にかき消されるのかまではわからないけど」



 別に男同士だろうが女同士だろうが、恋人には違いないだろうにね。

 なんてミコトは複雑そうに笑う。

 俺は確かにな。と返した後、もう一つの疑問を口にした。



「3Dモデルとか機器が送られるの、嫉妬されるかもって思ってたんだけど……それに関しては一件くらいだったんだよな」

「ああ、そこ? コメントでも、キャットフードを大量に入れられて固まる猫とか、いきなり規模の違う配信に放り込まれるのがお労しいってコメントで、嫉妬はあまりなかったよ。 ……もしかしたら、贈り物の規模や種類が違うから羨ましいとも思わなかったのかもね」



 ミコトが投降した動画で炎上したときの対策として、炎上について軽く調べていたのだが、高級時計を買っても炎上しなかったのに、冷凍庫一杯にハーゲンダッツを詰めたら炎上した。 なんてものを見た。

 自分と住む世界が違いすぎる場合、特に嫉妬などは思い浮かばないのかもしれない。


 考えてみれば、自分自身のアバターを本気で欲しがる人は、世の中に一体どれぐらいいるのだろう。



「それにね、コメントを見てたら、思ってたより古参ファンの間では『知ってた』って評価も多かったみたい。 だからボクが君を呼んだことも、キミに贈り物をすることも、古参程自然に受け入れたんじゃないかな?」

「……あぁ、やっぱりか」

「……キミは気付いてたんだ。 うん。 ボクは公表したことなかったけど、考えてみたら同日デビューで、似たタッチ、同じ和系のVTuber。 何か繋がりがあると思う方が自然だったんだね」



 ミコトはそういって、リスナーの考えを分析した。



「……流石に気付く。一年目は五千人集まったのに、二年目に増えた登録者は四百人だ。活動はほとんど変わってないのにそれなら、原因は活動以外にある。 ……まぁ、決定的だったのはすっかり忘れてたスポンサーシップだけどな。 ……三年目でようやく二人目が加入して、あぁそうか、最初に見てくれてた人達はミコトのついでだったんだって気付いたよ」

「……ごめん」



 そのスポンサーシップに入った第一号は、目の前にいるミコトだ。

 だけど、一万人でバラすという約束から、ミコトは配信でも動画でもコメントを書きこめない。その分、月に一度会うときにあの動画面白かったよと話してくれたけど。


 そんなミコトが、俺の虚構の登録者数について謝罪する。



「謝らないでくれ、どんな形でも人が増えるのは良いことなんだ。 ミコトを期待して登録した人の中にも、もしかしたら配信を見ようってなってくれた人がいるかもしれない。 それで本を好きになってくれた人がいたかもしれない」



 登録者数が増えることに、何も悪いことなんてない。

 人の目にふえる機会が増えれば、俺が好きだったものをテーマにした動画を見てくれる人も増える。



 ミコトの配信に出れば注目度も上がり、またさらに登録者は増えるだろう。

 ミコトのチャンネルで動画が公開されてから、俺のチャンネルは周年配信の準備のために少しお休みしますと投稿して活動を停止している。

 だというのに、俺のチャンネル登録者は四倍の四万人に増えたのだから。



 だけど……。

 最初の一年で増えた数がミコトからの流入なら。

 そして八年で得たファンの数が、たった一本の動画で全部塗り替えられるようなものであるなら。


 俺の八年は、一体何だったんだろうな。



 そんな思いは流石に言葉に出せないが、天井を見上げて深く息を吐いた。

 ミコトはそんな俺を見ながら、言葉を紡ぐ。



「……でもね、カクシ君。 今回燃えなかったのは、キミが八年しっかりと活動していて、配信アーカイブだけじゃなく動画も数百本投稿されていることもボクは大きいと思ってる。 まともで分別のある人なら、その努力を否定はしない。 やろうとしても真似できないし、自分だって頑張った何かを否定されたくないから」



 そんな慰めに、俺は言葉を返す。



「でも再生数は全部合わせても、ミコトの一番再生された動画に及ばない」

「それがどうかした? 再生数は確かに、目に見える評価だよ。 だけど、それなら投稿数は目に見える頑張りだよ」



 ミコトは俺の自分を卑下する言葉を否定し、ちゃんと価値があるという。


 だけど、本当にそうなのだろうか……。

 鳴かず飛ばず。 一番伸びた動画でも二万再生で、一番伸びなかったものなら三百再生の物だってある。

 どれだって同じくらいの熱量で作ったもの。

 それでも、その投稿の数を、リスナーは評価してくれるんだろうか。

 ……その過程は、完成品の面白さに何の影響も与えないのに。



「頑張ったことで得られるのは、再生数という結果じゃないよ。 その過程の方で得られるんだ」



 何も言えずにいる俺に、ミコトはそう声をかけてくる。



「確かに頑張ったからって皆が面白い動画を作れるわけじゃない。 でも面白い動画を目指したから、キミは昔よりも絵は上手くなったし、声の出し方も良くなった。 少しずつでも登録者は増えたし、応援してくれる人も付いた。 ……そう考えられないかな?」

「……そうかもな。 ありがとう、慰めてくれて」

「慰めで言ってるんじゃないよ。これはボクがずっと思ってること」



 まだその言葉を受け止め切れてない俺に、ミコトは自分でもあまり伸びてなかった動画を苦笑しながら振り返る。



「ボクだって伸びなかった動画は一杯ある。 面白いと思ってくれるかな、何万再生行くだろう。 そう思って沢山時間をかけて編集したのに思ったより再生数が伸びなかったり、実写だからって燃えたり。 期待した結果が得られないって辛いよね」



 あいつら、『ホントに男なんですか、証拠出して』とか言う割に、実写で手とか映したら燃やすんだよ。 とミコトは呆れたように笑った。



「……でも、頑張っても結果が伴わないからって、ボクの姿を映してテロップを入れるだけの動画にしたり、事前準備が少なくていい配信だけの活動にしていたら、ボクは絶対ここまで伸びてないよ」


「面白いものを作ろうと頑張って、背伸びして創意工夫した視点や技術、それがどこかで花開いたんだと思う。 ……だからね。 八年でいろんなものを得てきたキミは、きっとこれから伸びるんだと思うよ」



 ミコトは俺の目をまっすぐに見てそう伝えると、柔らかく微笑んだ。



「キミがそんな気持ちになってるのはきっと、ボクとの約束を守ろうとして疲れてしまったから。 ……気付いてる? この間おめでとうって言ったとき、キミは全然喜んでなかったし、これまでのことを楽しかったとも言わなかったんだよ」



 そう言われてふと思い返す。 深く考えずに口を突いて出た言葉なんて、何を言って、何を言ってなかったかなんて覚えていない。 だけど今確かに八年を振り返っても、楽しかったという感想は出てこないだろう。



「……そうかもな。 必死で、いつからか楽しさを感じる暇が無かった」

「だからね。 まずは、一緒に周年配信を楽しもう? ……大丈夫。 VTuber活動は、ちゃんと楽しいものなんだって思い出させてあげるから」


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― 新着の感想 ―
再生数は目に見える評価。投稿数は目に見える頑張り。これすごくいい言葉。 ミコトさんがカクシさんの心を引っ張り上げてくれるかな。
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