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8_保護者飲酒配信

 翌朝目が覚めるとソファーに横になっており、頭の下には枕、身体には布団が掛けられていた。

 おそらくミコトがしてくれたのだろう。

 幸い、話に聞くような記憶が飛ぶような飲酒にも、二日酔いにもなっていなくて助かった。



 顔を洗って身支度を済ませると、ミコトが起きてくる時間に出来上がるように朝食を準備していく。

 お互い相手には楽をして欲しい、自分の作る料理を食べて欲しいという気持ちがあるからか、食事の準備は先に起きた方がすることになっている。 ほぼ同時だった場合は協力する仕組みだ。

 と言っても、いつもは俺とミコトの起床時間に大きな差はないから、協力して作ることの方が多いのだが。



 今日の朝食のメニューはホットサンド。 手軽にできるため、一人暮らしで定期的に作っていたものだ。

 まずひき肉に熱を通し、食パンに野菜を乗せる。 そのあとは先程の肉を乗せて、マスタードと自作したソースをかけてパンで挟み、プレスする。

 そして更にもう一種、ハムエッグサンドを用意した。


 ホットサンドは見た目こそ小さいが、パンが圧縮されているだけに思ったよりもお腹に溜まる。

 ミコトにはひき肉サンドとハムエッグサンドを半分ずつでちょうどいいだろう。

 俺はミコトの倍食べるので、もう一枚分ホットサンドを用意した。



「……おはよぉ、今日は負けちゃったかぁ……」



 少し眠そうに目をこすりながら、もこもこしたパジャマ姿のミコトがリビングへとやってきた。 Live2D衣装でも似たものがあったが、現実の方でもとても似合っててかわいらしい。

 普段よりもミコトは眠そうだ。 あの枕や布団もミコトが用意してくれたものだろうし、それで少し寝るのが遅くなったのだろうか?



「おはよう、朝食はもうすぐできるから顔洗っておいで」

「うん……」



 スリッパのぱたぱたと言う音がリビングから離れていくのを聞きながら、皿にサンドイッチと、サラダを盛りつけてテーブルへと運ぶ。

 それに眠気覚ましのコーヒーを用意して、ミコトがやってくるのを待ってから二人して食事を取った。



「このひき肉サンド美味しいね。 マスタードがいいアクセントになってる」

「手軽に作れるんだけど、気に入ってもらえたならよかったよ」



 朝食を食べながら話すのは、昨日のお酒の事。

 俺が思っていたよりもアルコール耐性が低かったため、チューハイ二本ぐらいにした方がいい、とミコトに言われた。 俺もそれが良いと思う。

 味覚的にも体質的にも、幸い親のようにお酒にハマるということは無さそうで、このような機会以外で殆ど飲むことは無いだろう。



 俺はそう考えながら、平野先生と二次色先生それぞれに飲酒配信に参加する旨を伝えた。




***




 後日のこと。

 平野先生から宅配便が届いた。


 宛名は俺の名前で、ミコトと一緒に中身を確認してみると、一番最初に飛び込んできたのは、折れないように袋に包まれた紙カクシの成人向け同人誌。


 付箋には『データだけじゃなく紙も送りますね!サイン入りです!』と貼られている。

 内容は以前読ませてもらっており、脅迫された俺が様々な衣装で辱められる話だった。



「ミコト、読んでみる?」

「持ってるから大丈夫」



 とアッサリ返されたので、俺のファンアートやファンレターをしまってある耐火金庫の中に保管することにした。 内容的に酷い目に合ってるのは俺なのだが、これも思いのこもったファンアート。 気持ちは複雑だがちゃんと嬉しいものだ。



 だが、次に飛び込んできたものは常軌を逸しており……。



「う、うわぁ……あの人ネジ吹っ飛んでるなぁ……」



 長い付き合いでミコトのこんな表情を見るのは初めて、と思うぐらいにドン引きの表情をしていた。

 それもそのはず……新品未開封のそれは、()()()()()()()()だったのだから。


 手紙には『哺乳瓶のモデルも作ってるので、それで一緒に地獄の哺乳瓶飲酒配信しませんか』と書いてある。



「布教するとき一番有効なのって、言葉を尽くしてオススメするとかじゃなく、品物をそのまま贈りつけるのがいいらしいよ」

「確かに、買うからやりませんか? だと絶対に断ってるな、俺は……」



 だが有無を言わせず送られてきたこれを見ると、一度くらいは使ってあげないと可哀そうか? と言う気になってくる。

 きっと俺はチョロいのだろう。



「これにミルク入れて、ボクがキミに授乳してあげようか?」

「頼むから辞めてくれ……まだキスもしてないのに倒錯したくない……」



 おそらく、哺乳瓶で飲むという初めての経験を奪いたい独占欲からだろう。 割と本気の目で提案してくるミコトにそう返した。




***




 夜二十一時、約束した時間に【哺乳瓶】睦実ミコトのパパママ恋人の家族飲み会【地獄の飲酒雑談】と銘打たれた配信を開始する。

 配信は俺のチャンネルで、タイトルは平野先生の提案である。



 哺乳瓶にチューハイを入れて飲むというあまりにも地獄すぎる光景だが、家族飲み会という言葉がちょっと嬉しかった。


 配信画面には真ん中に俺と、左に作業服を着たモデルの平野先生。 右側には露出多めでセクシーなスタイルの二次色先生が並ぶ。

 この二人の姿を見るのもほぼ半年ぶりで、ミコトの八周年配信以来だ。



「どうも、本を紹介するVtuber紙カクシです。 睦実ミコトの恋人です」

「3Dモデラーの平野律です、ご依頼募集中。 ワタシは睦実ミコトと紙カクシのママです!」

「イラストレーターの二次色です。 僕の方はちょっと今キャパオーバーで依頼は停止中! 睦実ミコトと紙カクシのパパですよ」



 少し前に、二次色先生にはLive2Dの体を作成していただいた。 誕生日配信用にキービジュアル的な立ち絵を作ってもらっていたが、そこから発展した形だ。


 だが、俺のパパとママと改めて自己紹介されたその言葉に少し心が浮ついて、両手で触れて緩んだ頬を確認した。 どうやら俺は、俺と話をしてくれる両親が出来て嬉しいらしい。



>コメント:カミカクのチャンネルに二人が出演するの初めてじゃない?

>コメント:平野ママは以前からコメ欄に居たけどね

>コメント:全員哺乳瓶持ってるのヤバすぎるんだけど

>コメント:どうせ犯人は平野先生



 俺のリスナーは俺に色々させたがる平野先生の姿を見ているため、この配信内容になった犯人にすぐに思い至っている。



「あっちゃー……やっぱバレちゃいましたか!」

「そりゃバレるでしょう……流石にこんなことする人滅多にいませんよ」

「えー……Youtube上には哺乳瓶飲酒してる人達結構いたのに」

「え! いたんですか!?」



平野先生の言葉に思わず反応してしまう。


>コメント:七年位前に見たよ

>コメント:俺は二年前かなぁ

>コメント:大丈夫?みんな疲れてない……?

>コメント:日本の闇だ


 リスナー達も、見たことがあるという人とそれに対して怯える人達で別れてしまった。



「ちなみに今回、哺乳瓶はカクシさんにワタシが宅配便で送りました。 じゃないと多分哺乳瓶飲酒してくれないと思ったので」

「どうしてそこまでして哺乳瓶使わせたいんですか……。 私を辱めるのが趣味なんですか……?」

「うん!!!!」



 元気よく即答する平野先生に何も言えなくなる。



>コメント:カミカクも凄い人がママになったなぁ

>コメント:腕はホントにすごいんだけどね、この前企業勢のモデル担当してたし

>コメント:凄い人(二重の意味)



「別に構わないんですが、なんで僕には贈られてないんですか……? 僕もこの配信に参加するのかなり躊躇しましたよ?」

「え、二次色先生はお子さんいらっしゃるから、あるだろうなーって思って」

「いや流石に買いましたよ!? 親が自分の使ってた哺乳瓶で酒飲んでたって知ったら、思春期の娘に縁切られますよ!?」

「あはは! ごめーん! 確かにワタシも父親がそれしてたら嫌かもー!」

「地獄のレベル、二次色先生だけ二段階くらい上ですね……」

「ホントだよ……」



 二次色先生の疲れたような呟きの後に、それぞれが哺乳瓶にお酒を注いでいく。 全員3Dモデルでの飲酒のため、何をしているのかがわかりやすい。


 瓶にお酒を注ぎ、哺乳瓶の蓋を閉める。

 俺と平野先生がそこで止まったのに対し、二次色先生だけは更にそこから哺乳瓶を振り始めた。


「わわわ! 二次パパなにしてんの!?」

「え……? あ! しまったつい昔の癖で!」



>コメント:あぁ、乳児用ミルクってそういや振って混ぜるよね

>コメント:哺乳瓶としては一番正しいやり方なんだけどなぁ……

>コメント:ホントにパパなんだ

>コメント:この中で一番女性のカッコなんだけどな、脳がバグるわ

>コメント:まて、哺乳瓶を振るのは男女どちらでもおかしくないのでは?

>コメント:本格的にみんな脳がバグってて草



「あちゃー……まぁ、日本酒だからまだ良いかな? 振って飲む、みたいなやり方も昔言われてはいたからね」

「へぇ、そんな飲み方あるんですか」

「カクシさんは今日何飲まれるんですか? ちなみにワタシはビールです」

「私はマスカットのチューハイですね、アルコール低めの奴です。 どうも、アルコールに弱いようで」



 今回選んだのはマスカットの、アルコール度数三%とかなり低めのものを選んだ。 これなら二杯で眠ってしまうことは無いだろう。

 その後、企画立案者である平野先生の号令の元、乾杯してそれぞれが飲み始める。



「チューハイ、ビール、日本酒。 ふふふ、見事にバラバラですね」

「もう今じゃ全員最初にビールって時代でもないですからね、最初から好きなの飲めるのは助かります」

「仕事でも飲めないと言えば無理強いされることも無いですしね。 私、会社で一度も飲んでませんし」



>コメント:うん? カミカクの年齢なら新人の頃にギリ飲まされそうだけど

>コメント:そこは会社の風土に寄るんじゃない?

>コメント:いや、身長百八六のマッチョに無理強いできるか? 俺は無理。



「あ、私がお酒を無理強いされなかったのって体格の所為ですか」

「可能性はあるかもですねー。 私はカクシさんより若いですが新人の時、結構飲まされましたよ」

「良くないことだけどねぇ……」



 今まで大きな体格で得なことなんて無いと思っていたが、案外この見た目が自分を守ってくれてたのかと思うと、もう少しこの体も愛してあげようと思えた。 ……いや、苦労の方が多いのは変わらないのだけど。



 そう思いながら、哺乳瓶を上に掲げ、吸いだすように飲む。

 画面をちらりと見れば全員がそのようにしており、思わず笑ってしまう。



>コメント:成人の貴重な哺乳瓶使用シーン

>コメント:貴重すぎるし地獄すぎる

>コメント:というか飲めるの?



「……ぷはっ。 一応少しずつ出てくるので飲めますが……かなり飲みづらいです!」

「ビールですが、上に上げたり下ろしたりがなんか振ってる感じになるのか、若干炭酸が抜けてる気がしますね! 苦いアルコールって感じです!」

「こちら日本酒、アルコールが気化してるのか、普段と味わいが違います。 ……えー普段の方がおいしいです」



 平野先生の言葉に、試しに哺乳瓶の口を上に向けた状態で咥えて吸ってみる。 すると確かに、喉が熱くなるような空気が口の中に入った。



「うわ! ホントだ、なんか中にアルコールが充満してる感じがします」



>コメント:シンナー吸引みたいな?

>コメント:気化したアルコール吸うのはあまり良くないかも

>コメント:酔いやすいって言うね



「あちゃー……! まぁどうせ一発ネタだったので、ここからは蓋を外して飲みましょうか。 十分楽しめましたし」

「買ってもらってなんですが、良いんですかホントにこの一瞬だけの使用で」

「問題ないない! 一瞬のきらめきにお金を使ってみたいのよ、ワタシは。 もし勿体ないと思うなら、ミコト君にでもそれで授乳してあげて。 それで後で感想聞かせて」

「いや……流石に私はもうしばらく真っ当なお付き合いをしたいので、まだその方面はする気が無いです……」



 そう言って平野先生の提案をお断りしながら、哺乳瓶を開けてチューハイを飲む。 本当にマスカットのジュースのような感じで飲みやすい。



>コメント:まだ?

>コメント:いつかやるの??



「揚げ足を取らないで下さいよ。 多分しません……たぶん」

「けどカクシさん推しに弱そうだから、ミコト君がやってって本気で言ってきたらやるでしょ?」

「……………………やる、かも」



 思わず想像してしまったが、ミコトの頼みなら大抵のことは聞いてあげたい。

 ただそれはそれとして、するとしてももう少し関係性が進んでからだ。



「いいなー、ワタシもカクシさんにしてもらいたいなー……して欲しいなー」

「しません。 まぁ、ミコトの許可が出たらしますよ。 バーチャルで」



 熟考して答えた俺に、平野さんは甘えた声でねだって来たため、バッサリと拒否して置く。



「チッ、お酒に酔ってたら行けると思ったのに」

「浮気と取られそうなことは酔ってても絶対しませんからね」



 そう話しながら、お酒を口に運ぶ。 哺乳瓶を外してペースが上がってしまったのか、もう一本目が空になっていた。



>コメント:年下のママに哺乳瓶で授乳するのは浮気になるのか?

>コメント:なんか文面が倒錯的すぎて怖いわ

>コメント:でもVR空間だと授乳はありふれたコンテンツだから



 ……こんな配信をしておいて何だけど、今の世の中はどうなってるんだろうか。

 コメントを見ながら、酒で鈍くなった頭でそんなことを思った。

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― 新着の感想 ―
うわあ。乾いた笑いが出ます。うわあ。 なんで哺乳瓶という発想が出るんですか。うわあ。 平野ママ、登場すると一気に持っていきますね。 序盤がふんわりとした朝の穏やかな流れだったのに、準備の段階からイロ…
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